ごあいさつ
1990年にスタートしたTURNER AWARDは、「若い学生アーティストの第一歩」を応援する公募展として、お陰様で33回目を迎えることができました。
今年度もコロナ禍の下、素晴らしい作品を数多くご応募いただきましたことを心より感謝申し上げます。本公募展が学生の皆様にとって、挑戦の場となり、飛躍のきっかけにしていただけますことを願っております。
審査員の太田 圭氏(筑波大学)・O JUN 氏(画家)・山口 裕美氏(アートプロデューサー)3名による審査の結果、水本 了さんの「Cigarette horse」が大賞に選ばれました。
大賞を含む全31点の受賞作品は、東京と京都を巡回いたします。会場にてアーティストの情熱に触れていただけますと幸いです。
ターナー色彩は、これからも若き才能の飛躍を願い、TURNER AWARDを通じて、「時代を切り拓く作品」「限りない可能性をもつ作品」「明日の色をつくる作品」と出会えることを楽しみにしております。
今年度は、弊社製品「アクリルガッシュ」発売40周年の記念として、「アクリルガッシュ40周年賞」を設けました。TURNER AWARD、アクリルガッシュ共に、長い年月、今日まで続けてこられましたのも、多くの皆様のご支援の賜物です。この場をお借りしまして、厚く御礼申し上げます。
2023年1月
ターナー色彩株式会社
審査員コメント
撮影:木暮伸也
O JUN(画家)
今審査はさほど混迷は来さなかった。そういう時は目を射るような作品があるときと、その逆の時だ。今回はあいにく後者だった。全体に平坦な印象をもった。応募数が少し減っていることも影響しているのだろうか。それだけ分母が小さくなるからだ。単純にもっと気負ったり、自信満々だったり、どうだ、この絵がお前たちにわかるか!くらいの思いで臨んでみたらどうか。思い込みや根拠のない自信も描いているうちに鎮められ、心身の揺れ動きがはたらいて絵の方で描いてくれるのだから。高低多少を問わず自身の絵を描く気持ちの起りを大切にしてほしい。
また、ドローイングで応募している人もいた。小さい紙に描かれたイメージやコラージュされたもの…しかしそれを出す場、見える場について考える余裕がほしい。自分の描いたものがどういう場で見え、生きられるのか。描かれた絵の側から見る目をもたなければ絵が哀れだ。コンペでは完成度や技法の高さが平準化されることでそれが表現を矮小化させ批評されることはあっても今回はそこまでの極まりに達していないものがほとんどだった。描かれた事や場所から溢れたりこぼれたりしてほしい。でないとコンペティションの意味も意義もない。友達展で十分だと思う。それでも気になる絵はいくつかあった。それは絵に描かれてあることの外側にイメージされる事や気配を感じさせる作品のことだ。視覚的なインパクトは弱くとも、この人に絵を描かせている理由を考えさせるもの(その理由は結局わからずじまいなのだがそれでいい)も数少ないが散見した。大賞作品は、モティフをスナップが利いた筆勢で表現した絵。私はどちらかといえば同じ筆法で描いた肖像の方が面白かった。正面視で描かれた肖像にこの筆法がそぐわず無理無体をしているが画家の呼気を感じたからだ。この筆法は容易にクセを作りやすいので気をつけてほしい。ぎこちなくてももっと大きな絵を描ける人だ。その他の幾つかに。
「さらさら落ちる」。様々なイメージ一切がとりとめなく収斂と拡散を繰り返す空間での遊動がいい。
「熱帯夜に見る夢」。点、線、面(というより塗)の一見ランダムな描きがスクエアな画面のなかでいかように遊べるか、イメージとフォーマットの関係と操作性がかなり経験されている。
「層」。目にする様態を描き写すのではなく描くほどに見直す筆が触覚的にこちらに訴えてくる。描き手の目に我が目が重なるような体験を誘発する絵。
「好奇心」。蜘蛛の姿を活き活きと見せているのは背景の青の地だ。周到に丹念に塗られている、いや「空間」がつくられている。-
山口裕美(アートプロデューサー)
Turner Award2022大賞を受賞されました水本了さん、おめでとうございます。「Cigarette horse」というタイトルで、馬の蹄のようなものが描かれていたりして、説明を伺わないとわからない部分がありますが、その謎も含めて、興味を惹かれる作品だと感じました。また、絵の具を非常に上手く使っておられることも、私としては評価のポイントでした。
未来賞を受賞された酒井千明さんは、とても魅力的な作品だと思いますが、作品のサイズが小さくて、技法などのインパクトが伝わり切れず、惜しいと感じました。応募作品のサイズ問題は、今後、改革して欲しいポイントでもあります。
また、高等学校優秀賞を受賞された鵜原百花さんですが「前進」というタイトルに表れている、絵の具の迫力、さらに葛藤のようなものが感じられ、決して明るい作品ではないものの、未来を感じました。
応募する皆さんにお伝えしたいのですが、応募作品では「大賞になるにはこの作品でいいのか」をご自分で考えに考えてから、応募していただきたいです。Turner Awardは、賞金に加えて、ターナーギャラリーでの展示という副賞があります。その展示をきっかけにして、次のステップに進むことも出来ると思います。そうしたチャンスをがっちり手にしていただけたら、うれしいです。Turner Awardには、すでに30年以上の歴史があります。絵の具メーカーがアートを学ぶ学生をサポートすることは、当たり前のように感じている方もいるかもしれません。決してそうではありません。プロの画家になっていく中で、ターナー色彩が味方についてくださるなら、百人力ではありませんか。そうした視点も感じて、来年も奮って応募していただきたいです。 -
太田 圭(筑波大学)
ウィズコロナ時代において、応募者の皆さんの学校生活や芸術の活動状況はどうなんだろう、などと思いを巡らしながら応募作品との出会いを楽しみにしていましたが、今回も多様なテーマや表現の作品が集まりました。文字数の関係で全ての入賞・入選作品評は書けませんが、その中から印象的だった作品についてコメントします。
大賞の水本了さんの『Cigarette horse』は、動物とも人間とも見える奇想天外なフォルムで、作者から画題の「謎解き」を問い掛けられたようでした。複数応募された他の作品も独特な「水本ワールド」になっており、今後の展開に大変興味を持ちました。アクリルガッシュ40周年賞の前田栞奈さんの『昇り竜』は、頭部を画面の外に置き、胴体と前足と雲で天を昇る姿を表していますが、鱗の色合いとリズムが効果的でした。U- 35賞の駒澤椋さんの『…』は、親子を襲った殺人事件の顛末のようなストーリーが、左上から右斜め下に向かって白線で「絵解き」のように描かれています。私も喜怒哀楽の感情の極限では言葉を失う体験がありますので、画題の『…』には共感するものがありました。未来賞の井上晴空さんの『今いること』は描写力を評価しました。リアルと非現実をダブルイメージで描いており、赤い飛行機がアクセントとして効いています。専門学校優秀賞の山口芽生さんの『遺却』は、茶色い抽象的な風景かと思いましたが、よく見ると背景には数字が隠されています。そこに何らかのメッセージを込めるとしたら、もう少し読み取れたら良かったかもしれません。入選の倉持希さんの『宝の在処』は、作者の心の世界を「宝物」として位置付け、こちらも耳を澄まし、凝視しないと見えてこない、作者の静謐で深遠な心情を表現しているのではないかと思いました。
応募された皆さんの「今から、ここから」に期待してエールを送ります。 敬称略、順不同