ごあいさつ
1990年にスタートしたTURNER AWARDは、「若い学生アーティストの第一歩」を応援する公募展として、2021年度の今回、お陰様で32回目を迎えることができました。
コロナ禍はアート制作の現場にも広がり、様々な影響をもたらしております。その中でも、素晴らしい作品を数多くご応募いただきましたことを心より感謝申し上げます。本公募展が学生の皆様にとって、創作のモチベーションの一助となれば幸いです。
今回審査員のO JUN氏(画家)、山口裕美氏(アートプロデューサー)、太田圭氏(筑波大学)3名による審査の結果、菊池 虹さんの「SPECTRUM POPTRAIT9.8-9.10.3」が大賞に選ばれました。
大賞を含む26点の受賞作品は、いずれもアーティストの創作にかける想いを感じていただける力作です。
ターナー色彩は、これからも若き才能の飛躍を願い、TURNER AWARDを通じて、「時代を切り拓く作品」「限りない可能性をもつ作品」「明日の色をつくる作品」と出会えることを楽しみにしております。
最後になりましたが、ご協力並びにご支援をいただきました皆さまに厚く御礼申し上げます。
2022年1月
ターナー色彩株式会社
審査員コメント
撮影:木暮伸也
O JUN(画家)
今年の応募作品全体を見て先ず“お話の絵”が多いなと思った。人や動物がどうしているのか、“私の欲望や誰かの思い”がどうなのかがていねいに描かれていて、タイトルを見ると絵の通りのことが見事に一語で題されている。噛んで含めるようにお話を聴いているように思えた。ともかく絵が何かを伝える方法の“一つ”であることは果たされている、そのことはわかった。わかったけれどそれ以外の方法はどこに?描く傍からこぼれたり、描こうとしたことと全然別な事が現れたり、そんなことが最中に起きませんでしたか?そういう中で気になった絵もいくつかあった。一つは高校生の作品で近所なのかどこかの踏切脇の風景を描いた絵だ。“映え”ないシーンを手前の路面から石垣、電柱、家並み、遠くのかすむ山までそれこそ“ていねいに見える通りに描いている”、にもかかわらず、作者の見ることと描くことの溢れるような静かな興奮が感じられた。絵を描く初発の動機が伝わる絵だと思った。もう一点は大学生の油彩画で、畑に大きな人の影のような形が描かれた風景画。鈍い彩度で雑な筆が気になるがなぜか最後まで気になった。タイトルを見たら「心象風景」とある。しかしこれは心象ではないだろう。作者は絵に描いたのだから。さらに私たち赤の他人まで見ているのであればもはや心象などどこにもないだろう。まぎれもなくイメージ(像)として心身の外に現存している。大賞作品は人のイメージで、でもその形にとらわれない筆触や色彩が画面上で試みられている。画面の四辺でアコーデオンのように折りたたまれているカンバスの意図はわからない(笑)。ただ以前に応募した作品に比べてやや絵が小ぶりになったようにも思えた。
若い人たちの意欲と挑戦を寿ぐと共に絵と絵を描く自分をもっと実験してほしいとの思いを小感に代えたい。-
山口裕美(アートプロデューサー)
歴史あるターナーアワード2021受賞者の皆さん
コロナ禍という人類未曾有の事態の中、集中力を使いならが、応募くださった皆さんにまずは、感謝を申し上げます。コロナ禍により、多くの命を失い、また貴重な展覧会の機会を失いました。その意味では、日本全国のアーティストたちが、無念の気持ちになった1年だったと思います。
さて、大賞受賞の菊地虹さん。おめでとうございます。明るい色使いにセンスを感じました。ただし、私はあなたの可能性については、まだ100%の賛辞を言えません。過去にもターナーアワードに応募したことがあるあなたにとって、ご自分の作品に対して、確固たる自信が見えない部分があるからです。今回の作品では、迷っているからこその、今の全力を見せてくださったように思います。ぜひ、これからも作品を作り続けてください。
未来賞受賞のリ・サンシンさん。あなたの作品はすでに魅力あるものですが、もう少し、大胆な挑戦があっても良いのではないか、と思います。また、佐藤帆乃佳さんのユニークな作品、青木繁の作品へのオマージュを感じた佐藤茉亜莉さんなど秀作が多かったと思います。次の作品に期待しています。
全体的に、前回よりも、個性的な作品が多かった印象です。コロナ禍でも悪いことだけを考えるのではなく、1つでも2つでも良かったことを数えたいとしたら、ターナーアワードの皆さんの力作に出会えたことかもしれません。お会いすることが出来ませんが、また、アート作品のある場所で、皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。 -
太田 圭(筑波大学)
私事ですが、今春、手術入院をしました。以来、2度目の生を受けた感じがして、世の中の見え方も変わった気がします。作品を制作することも鑑賞することも、それらにまつわる喜びも悩みも「生きているからこそ」ということを実感し、感謝しながら審査しました。
そのためでしょうか、山口知咲さんのショッキングピンクのオブジェ作品、《深夜2時 少女の嘆き》(未来賞)からは理屈抜きで「生きる力」をいただきました。既視感を払拭し、いかにオリジナリティを極めていくか、これからが楽しみです。一方、落ち着いたグレーと鮮やかな原色を用いた菊地虹さんのコラージュを取り入れた《SPECTRUM PORTRAIT 9.8―9.10.3》(大賞)の絶妙な配色にはホッとしました。作者の他の作品も見てみたくなりました。木枠からはみ出させたキャンバスを折りたたんで額縁風にしつらえたところはユニークでした。高校生の作品では久次竹地さんの《それは森のように》(高等学校優秀賞)の具象的な作品に注目しました。派手さはありませんが一つ一つのタッチに作者の真剣な眼差しを感じました。観察に基づく描写力はやがて作者の「底力」となることでしょう。そういえば昨年も同校から優秀賞受賞者が出ましたが、その方に限らず、昨年の受賞者や入選者、応募者の方々は今どうしているだろうかと気になりました。
さて、今回の応募作品は、制作のために費やした時間と手数の多少にかかわらず「練られた作品」が多かったように思います。多様な表現による力作揃いでしたが、欲を言えばもっとハラハラする作品も見たかったという印象です。もしかしたらそのようなところにコロナの影響が出たのかもしれません。
一向に終束が見えないコロナ禍において、この状況を理解しつつも、文化芸術活動が不要不急のものとされたことは何とも残念です。しかし私たちは、それらが生きるために必要不可欠なものであることを再確認しました。ウィズコロナ時代だからこそ、それぞれがアートに生き、アートで生き、アートと生きる、「ウィズアート時代」として生き抜こうではありませんか。
コロナとともに気がかりなのはAIです。アートの世界もメディアアートが席捲していますが、生身の人間が行う手仕事や手わざの出番がなくなることはないでしょう。人工知能にはない柔軟な発想力、着眼点、異分野をつなげる創造力を発揮し、プライドを持ってチャレンジしたいものです。皆さんの「いまから」に期待しています。 敬称略、順不同