ターナーアワード2019

ごあいさつ

令和の時代に突入し、これまでの常識や既成概念にとらわれない、可能性に満ち溢れた若手アーティストの活躍の場とした TURNER AWARD も30回目を迎え、今年は「30回記念賞」を設けた記念すべき公募展となりました。

審査員は、山口裕美氏(アートプロデューサー)、O JUN氏(美術家 東京藝術大学教授)、福田利之氏(イラストレーター)、池田敦氏(クリエイティブディレクター)の4名による審査の末、大賞は林菜穂さんの「お天気雨」、30回記念賞には太田あいさんの「lost item」が選ばれました。
入賞・入選の全35点の受賞作品は、東京と京都を巡回し、多くの方々にアーティストたちの創作にかける想いを感じていただけることと存じます。

この先もターナー色彩は新時代へ羽ばたくアーティストの活躍を願い、「時代を切り拓く作品」「限りない可能性を持つ作品」「明日の色をつくる作品」に出会えることを楽しみにしております。

ご協力並びにご支援をいただきました全ての皆さまに、厚く御礼申し上げます。

2020年1月
ターナー色彩 株式会社

審査員コメント

  • 池田敦(クリエイティブディレクター)

    今回のターナーアワードの審査、一次審査から携わらせて頂きました。一次審査の段階では、多様な視点&観点より審査をしてもらいたいと考え、間口を広げ、少しでも可能性を感じる方々の作品を、できる限り二次審査へと残すことにしました。私自身の立場としては、デザイン会社を主軸とした、ギャラリー運営&イベント運営を事業として展開していることもあり、イラストレーション側の視点で、仕事・エンドユーザーをより意識した観点にて今回の審査に向き合いました。
    そんな中、個人的には横澤拓郎さんの一連の作品群は、モチーフ選び含め、画面構成力に一定のセンスを感じました。今後、このテンションや温度感を保ちつつ、社会と上手くコミットさせながら、いかに活動を続けていくのかという部分が一つのハードルであるとともに、とても楽しみな存在です。
    今回の応募作品全体の見解として。大学生の作品からは、技術に裏付けされた一定の作品クオリティは感じるものの、会場に並ぶ数多くの作品の中、飛び抜けて迫ってくるような魅力ある作品は少なかったかなと考えています。一方で、高等学校・専門学校の作品から強いエネルギーを感じました。
    大学生と比べると、やはり描いてきた枚数や時間の兼ね合いもあり、どうしても技術的な部分の未熟さは感じました。一方で、それを超える「描くことへの熱量」「作品への純度」が画面から溢れ、気持ちの乗った魅力的溢れる作品が多かったように感じました。太田あいさん、生方佑樹さん、新山珠羽さんの作品などは、そういった部分を含め、評価を受けるべき作品だと考えています。
    今回のアワードを受けての感想でもあり、私自身多くのイラストレーター・作家さんと関わる中での学びでもあるのですが、自分自身の原点でもある「絵を描きはじめたきっかけ」など、初期衝動により近い感情を改めて見つめ直し、丁寧に扱ってあげることは、想像以上に大切なことなのではないかなと感じています。
    活躍する周りの方々を見渡しても、まず、自分自身が作品にコミットできるテーマ&モチーフを丁寧に掘り下げ、社会の接点・ニーズも意識し、試行錯誤しながらも広い視野でのアプローチで活動を続ける。そんな方々が、順調に歩みを進められているように感じています。
    基本的に技術を磨くことは、もちろん言うまでもなく必須です。
    ただ同様に、絵の中で楽しんだり、遊んだり、苦しんだりetc自分自身の中にある「熱量」や「想い」とも丁寧に向き合って制作してもらえたら嬉しいです。
    描き手の温度が込められた作品・活動は、きっと人の心に深く響き、多くの人たちを動かしていけるのではと考えています。
  • O JUN(美術家 東京藝術大学教授)

    グランプリを受賞した絵画作品は、広い空間を背景に静物とも風景とも見えるシーンが描かれているが、それが同画面の中に点景の如く描かれている小さな人の見る眺望のようにも、この絵を見る私自身の回想にも思えてくる。大きな描きの身振りに反して“誰が、何を、何処から見ている”がしなやかに組まれていてこの絵は見始めてからの命が長いだろう。30周年記念大賞の作品は、これは何かの祭事のシーンなのか?描かれてあることの全ての印象が強い。 人物、衣裳、火縄銃?のどれもが際どく明瞭に描かれているからだ。明瞭さは描き手の思念を想像させない。まるで「標識」のようで気味が良い。ただ図像の先端部(頭、足、銃の両端)が白地の天地左右に空きを等分に空けている分画面の四辺に囲い込まれやや窮屈か。そこが壊せたら不思議な肖像画か、あるいは“何も指示しない標識”となったかも。
    この二つの絵は対極にあるように思う。そして他の作品はこの両極の間にそれぞれあるように思えた。そのようなまとまりの中に全貌が見えたことが残念に思う。当アワードに集まる作品は具体的なイメージや空想にせよ妄想にせよ意味が読み取れる表現が多い。自室で、街で、学校で、ギャラリーや美術館で私たちの視覚体験として見る事物のイメージは日々膨大にインプリントされている。そんな状況の中からイメージや表面のテクスチャーを程よく掻き混ぜ編集したとしても、今更ながら自他の眼をなぞる程の世界しか描けないだろう。いや、そこから始まってもよいだろう。ただしその絵の隣に描かれなかった絵があることに気づくこと。“私がその形や意味の何を見てどう感じてどのようにか描いたことによってこの絵は描かれ、それと引き換えに「もう一つの絵」が描かれ得なかったのか”を思ってほしい。「個性的」とか「オリジナル」とかに攫われない、どうにも言いようのない、目が点になるような作品を創出してほしい。
  • 福田利之(イラストレーター)

    今回は歴史あるコンペの審査にお声がけいただき、新しい表現に立ち会えるかもしれないというワクワク感から、緊張しつつも喜んで参加させていただきました。
    デジタルや動画全盛の時代に、絵の具を使った一枚の絵や立体で勝負していくことへのリスペクトと、アートもイラストレーションもオブジェも同じ土俵で勝負する学生限定コンペならではの、荒削りであっても見たことのない自由な作品との出会いに期待して審査の日を迎えました。
    立場的にどうしてもイラストレーションとしての素養があるかを考えたり、高校生の場合はどれくらい先生の指導が入った作品なのか見極めることが難しかったり、自分の中での審査基準をフラットにするのが難しかったので、審査中はその瞬間に感じた好みのものを純粋に探そうと、余計なことは考えずとにかく目の前にある作品と向き合わせていただきました。
    最終的には各審査員皆さんの癖が感じられる、さまざまなタイプの作品が残ったような気がします。
    つまりは審査員が違えば、選ばれた作品も随分違ったことでしょう。
    賞を取れた人も入選にとどまった人も、紙一重だったと思います。
    全体的には厳しいことを言うようですが、デジタルや動画にはない絵の具によるアドバンテージを活かしきれた作品は少なく、堅実でまじめで既視感のある作品が多かったのは少し残念でした。
    コンペは今の時代を映す鏡のようなもので、皮肉ではなく、逆に無茶ができない息苦しさこそが現代を生きていく作家の在り方なのでしょうか。
    まじめで普通であることこそアナーキーであるという感覚は10年ぐらい前から感じていたことですが、自分も物作りを生業にする当事者ではあるので自戒の念をこめて言わせていただくと、そろそろその辺りの概念を壊したヒリヒリする作品に出会いたいものです。
    アートであってもイラストレーションであっても、作り手として生きていく上で必要なオリジナリティという大きな扉をほんの少しでもこじ開ける機会としてのコンペであってほしいと願います。
  • 山口裕美(アートプロデューサー)

    まず始めに、ターナー色彩が主催するアワードが30周年を迎えられたことに敬意を表したいと思います。アワードが少なくなってしまった時期を超えて、ターナー色彩が「継続して若いアーティスト達を支援している」ことは、日本の現代アートにとって、とても重要で感謝すべき社会貢献事業であると私は思います。
    今回のアワードの特徴として3つのことが挙げられます。①大学生よりも高校生の作品に魅力的なものが多かったこと。②作品に付けるタイトルはとても重要なのに、あまり考えないで付けたものと思われる作品が多かったこと。③アワード常連となっている方が進歩していること。1つめの高校生の作品が魅力的だったことについては、裏を返せば、大学生の応募者が少ないことがあると思います。卒業・修了制作の時期と重なっていることも理由にあるでしょうが、もう少し応募者が増えて欲しいです。常連の皆さんの進歩については、審査員を担当させていただいている中で、とてもうれしい気持ちになることです。
    大賞受賞者の林菜穂さんは大学生らしい実力を発揮しておられる作品でした。未来賞受賞の内田洸平さんは少しデザイン的ではあるものの、それ以上の何かを感じた作品でした。
    高等学校優秀賞の脇田舜生さんは構図の面白さ、時空を超えたような、あるいは複数の像の重なり等、視点のユニークさがとても魅力的でした。未来賞の生方祐樹さんは色のセンスが優れていると感じました。また、岡田智貴さんは手の込んだ立体で、審査会場でもひと際目立つ作品で力作でした。また入選の中でも上野裕二郎さんはこれからの活躍を期待したいと感じました。
    今回、受賞されなかった皆さんに一言。入賞や受賞は僅差です。応募の時にできるだけ作品を1点に絞るなど、自分の中での作品の批評をしてみてください。アートのある場所でお会いできることを楽しみにしています。
    (以上)