審査員コメント

秋山 孝/イラストレーター・多摩美術大学教授
このデジタル時代において、やはり絵具を使った表現は、存在感と抵抗感のある魅力的な美しさを放っている。それは、これからも不滅な画材として実感せざるを得ない。今回のACRYL AWARD 2002の審査の結果の特徴は、色味のないモノクロームの作品が多いように思われた。大賞を受賞した玉野大介の作品は、モノクロームで画面から不思議なメッセージを読み取り、不安感やシュールリアリスティックな時空間を表現している。ゴールデン賞の大橋恵奈の「道に迷う」もモノクロームの色合いで時代の迷いを暗示するようだし、秋山孝賞の今枝大介の「Dolphin in the Rain」も環境の問題を訴えているように思える。やはり、この作品もモノクロームだ。これは、表現者は、いつの時代においても時代の代弁者としての感性を持っていることが容易に分かる。学生の部大賞の青鹿英之の「リストラ」も時代を反映して、イカのドロリとした、質感を利用し、時代を風刺している。秋山賞の高杉怜衣の「ジュース」の作品も、これは恐ろしいイメージを描いている。すべてが日本のありのままの姿である。表現者の感性は見逃さないのである。見事だと思う。

今井 祝雄/造形作家・成安造形大学教授
数年前の学生の部受賞作品に一見コンピュータで描かれたような手がき作品が注目されたけれど、コンピュータによる手がき風作品も珍しくない今日、そんな分別はあまり意味をもたなくなってきている。今回のアウォードでは、フォトジェニックなタッチで日常の中に夢想的世界を滑り込ませた一般の部大賞の玉野大介「訪問者」、「台所」をはじめ、今日的な題材をアイロニカルに描き込んだ学生の部大賞の青鹿英之「リストラ」や、架空の切手シートを細密に描ききって学生の部で福田美蘭賞を得た大沼真由子「12ヶ月の和菓子」など、直に絵具で描く手ごたえを求める意思がうかがえる作品だ。いっぽう、私の審査員賞とした針金レリーフに描写の影と実際の影の妙を見せる原真吾(一般の部)の「kettlecap」や、大谷有紀(学生の部)の紐や鋲で縁どられた力強い「カタチ01」などは、“もうひとつの手がき”
作品といえるかもしれない。

福田 美蘭画家
今回の審査では、見た瞬間にこれは票を入れようという新鮮なインパクトのある作品は少なかった様に思います。私の審査基準は、作品の意図の明快さと、それが現代に通じる要素を含んでいるか、また素材に絵具を選ぶ必然性があるかということでした。大賞の一般の部、玉野氏の作品は一見シュールでありながら、そこから連想するイメージは現代的な奥行きがあって絵画としての魅力が印象的でした。また、学生の部、青鹿氏の作品は、第一印象が強く、じっと見る程にユーモラスで味わい深い作品でした。福田美蘭賞、一般の部、安瀬氏の作品は描いた建物をプリントして、その上から更に芝生や緑の部分を加筆していて、注意深く見てはじめて気付く、描くと言う行為の見せ方にユニークな視点がありました。学生の部、大沼さんの作品は、一見ほのぼのとした作品ですが、ハガキの裏面に描いたことで、大量に複製される切手という現実と結びつき、それがこの作品の魅力となっています。

前田 常作武蔵野美術大学理事長
今回のコンクールの出品作には時代の反映でしょうか、心理的な象徴の作品を多くみたように思います。学生の部大賞「リストラ」青鹿英之氏の烏賊人間に…明日から職場にはいかない!!苦しみが伝わって来る…ユニークな作品だと思います。一般の部大賞「訪問者」「台所」玉野大介氏の作品はモノクローム的な表現で静かな表情の内にも何か苦しみを訴えてくる作品だと思います。大賞の2点とも造形的に人間心理を“変容”によって一層の力強い表現になっていると思われます。一般の部 前田常作賞の「Bat」「Bunny」三井聡氏には堅牢な構成と独自的色彩を強く感じさせる優作だと思います。また、学生の部 福田美蘭賞「12ヶ月の和菓子」大沼真由子氏の細密な表現力とユニークな発想に魅せられました。学生の部 前田常作賞「untitled」浅田幸路氏の抽象画は丹念な仕事でモノクローム風な画面からほのかな光が発しているような力作であると思います。今野大輔氏、原真吾氏、安瀬英雄氏(一般の部)、高杉怜衣氏、渡邉鉄平氏、峰松宏徳氏(学生の部)にこれからもより一層のすばらしい発想で制作されることを念じて止みません。

楠見 清美術手帖誌編集長
絵画は他の表現メディアに比べて、作者のイメージや思想を瞬時に伝えられる特性をもっています。小説は最後のページまで、映画はラストシーンを見るまでは作品の全体像はわかりません。しかし絵画は色彩やフォルムや構図などすべての要素が一瞬でとらえられます。情報の伝達速度が早い絵画は、まるで一目惚れのような出会いすら可能にするのです。美術手帖賞の川勝江利子さんの「DOUBLE HAPPINESS」はシンプルな形と強烈な色彩、それにタイトルの響きに。峰松宏徳さんの「つぎはとれるよ」は伸びやかな色面の清々しさに惹かれました。両者とも瞬間的なわかりやすさと同時に何度見てもわからない得体のしれなさを兼ね備えています。一般の部大賞の玉野大介さんの描く不思議な情景は、独特のタッチも含め、魅力的な謎に満ちています。一瞬で目を引き、いつまでも見ていたいと思わせる作品をいかに描くか――画家が絵を描く時間とは、絵を見る人の短い時間と長い時間について考えるための時間でもあるのです。

片桐 淳一イラストレーション誌編集長
ACRYLAWARD は今年13年目だという。主催者の尽力に頭が下がる思いだが、毎年定期的にコンペが行われることの意味・意義を、今回は強く感じることが出来た。昨年「イラストレーション」賞の原真吾さんが、今回は今井祝雄賞を受賞している。明らかに、作品世界が広がり、奥行きが加わっている。1年間の作家の努力というか精進が、しっかり形になっている様を見るのは、審査員として大きな喜びだった。改めて数年分の受賞作品カタログを見ると、こうした例が過去にもいくつかあることが分かる。新しい才能を発掘し、育て、世に送り出すことが出来たとすれば、コンペの主催者として最高の栄誉ではないかと、2年目の新米審査員からのエールである。個人的に、特に気になったのは、大橋恵奈さんの作品。いつか、この人の手になる絵本が見てみたいと思う。