
左:鬼子 2012 キャンバスにアクリル絵具、油彩 100×80.3cm
右:かお 2011 キャンバスにアクリル絵具、油彩 100×80.3cm

00 2011 キャンバスにアクリル絵具、油彩 100×80.3cm

fuming without fire 2011
キャンバスにアクリル絵具、油彩 100×80.3cm

goodbye little boy 2012
キャンバスにアクリル絵具、油彩 100×80.3cm

red skull 2010
キャンバスにアクリル絵具、油彩 100×80.3cm

背景に描いた絵を白く塗りつぶして、再構築している途中だという絵画。細かい線とダイナミックな筆さばきが混在する

廃校となった小学校の教室を2部屋借りてアトリエにしているという。整理整頓がされた広々とした空間

最近、描き始めたという絵具や色鉛筆を使ったエスキース。絵具の色遊びから作品が始まる場合も多い

アクリル絵具のキャップに中身の色の絵具を塗っておけば、一目で探せて見た目もきれいというアイデア
加藤直の作品には、いつも無数の顔や人体が浮遊している。描かれた無表情な少女や子どもの多くは、まるで魂の抜け殻のように見えるが、一方で、大きな眼をかっと見開き、眼球が溶け出すなど感情を露わにする者もいる。描画法も多彩で、グラフィカルな線描があるかと思えば、表現主義的な激しいタッチも繰り出される。また、印刷物やデジタル画像から採集したキャラクターや商業的なイメージが、コラージュのように散りばめられる場合もある。そこには、生と死、混沌と秩序、理性と感情、繊細さと大胆さ、粗と密など、もろもろの相反する要素が多層的に詰め込まれており、見る者の意識を甘美な乱反射へと導く。
「相反する要素というのは、私自身、常に意識していることです。例えば、人間には精神と肉体のように、時に相反してしまうものが必ずあると思うのです。男と女という正反対の人間がいて、その組み合わせから子どもが生まれるように、画面のなかに相反する要素を共存させることを意識的にやっています」。
そんな二律背反的な構造を持つ彼女の絵画は、どのようにつくられるのだろうか。
「エスキースのような線画から始まる場合もあれば、絵具の色で遊んでいるなかから生まれる場合もあります。絵を描いているときに、ふとパレットを見ると、絵よりもパレットのほうがきれいだなと思うことがあって。無意識の純粋さというか、いやらしさが抜けた絵画的な調子を活かすように心がけています。絵具で遊びの試し描きをしたら、その隙間に細い線や太い線を入れてみて、そこからどんどん密度を増していきます。描き過ぎたと思ったら画面を潰して、その上からまたバランスを見て描いていく感じです」。
モチーフの少女や子どもについては彼女独特の見解がある。
「以前は少女を描くことが多かったのですが、息子が生まれてからは、子どもが増えてきましたね。心がけているのは、描く人物になるべく個性を持たせないこと。道端に置いてあるお地蔵さんのような、依り代の役割を担わせています。人間を描き始めたのは大学3年生の頃でしたが、当時は人形がすごく好きで、人形の収集もしていました。そのとき、なんで人形が面白いのかと考察して、人型だけど中身がなく、表面的な存在であることに強く惹かれるんじゃないかと思いました。だから、私の描く人物が、見る側の依り代となってくれればいいなと」。
一方、彼女が人間を描くことには、もう一つ別の意図があるのだと言う。
「世間に対する一種の皮肉も含んでいます。東日本大震災以降、自分を着飾って綺麗に見せることが、より愚かに感じられるようになりました。雑誌などを見ても、女も男も自分の表面を綺麗にすることに腐心しています。でも、それは虚構に過ぎず、やはり内面の美しさが本質だ大事と思っているので。それであえて表面的な器としての人間を描いている部分もあります」。
そんな彼女に大きな影響を与えた経験として、学生時代の約3年にわたるカイカイキキでのアシスタント活動がある。
「村上隆さんの作品、制作現場、思想を間近でずっと見ていましたが、何より新鮮だったのは、村上さんの制作姿勢です。カイカイキキでは毎日朝礼と準備体操と掃除をするのですが、それらを怠るとすごく怒られるし、日常の雑務ができない人は次のステップに進めません。アーティストは絵を描くことだけが大事なのではなく、一つひとつのプロセスを疎かにせず、真剣に取り組むことが、作品へとつながるのだということを学びました。ただ、私の場合、村上さんのように、自分の作品のコンテクストなどを考え過ぎると、絵がガチガチになってしまいます。それは、男性は頭で考えて構築し、それを元に手を動かしますが、女性は頭より感情で行動する部分があるからかもしれません。だから村上さんのやり方をそのまま真似るのではなく、カイカイキキで学んだことを生かしつつも自分の方法でやってみようと思うようになりました。今はとにかくたくさん描くことが大事で、いつか時期が来たら、村上さんの方法論をもう一度振り返ってみたいなと思っています」。
子どもを授かり、現実の生活や東日本大震災の影響もあって、約2年前から夫の実家がある鳥取県に転居した加藤。生まれ育った都会とは違う豊かな自然環境や、わが子の成長を見守ることが、作品制作に新たな刺激を与えているという。当面の目標は「休学中の大学院を終えるため、今年度中に修了制作を完成させること」。豊かな伸びしろを持つ彼女の絵画世界が、今後どのように進化していくのか楽しみだ。