ターナー色彩株式会社

   
美術手帖2014年1月
宮崎雄樹
宮崎雄樹


小吹隆文=取材・文
平野愛=撮影(作品図版除く)
Text by Takafumi Kobuki Photo by Ai Hirano

傍観者として 2013 キャンバスにアクリル絵具、蜜蝋、油彩 112×162cm


ハイスクリーム 2011 キャンバスにアクリル絵具、蜜蝋、油彩  130.3×162cm


そして僕はひとりで乗っている 2013 
綿布にアクリル絵具、蜜蝋、油彩 22.7×15.8cm


マイスペース 2012
綿布にアクリル絵具、蜜蝋、油彩 130.3×162cm

宮崎の制作方法は、キャンバスや綿布にアクリル絵具で描いたあと、その上に溶かした蜜蝋を流し込み層をつくる

固まった蜜蝋の上から、油彩で描画する。
乳白色の蜜蝋の下からアクリル絵具で描いた図が透けて見える

現在は自宅の一室をアトリエとして使う。
壁には制作途中の絵画やエスキースが架けてある

机の上には、自ら撮影した写真のプリントアウトと、それをもとに制作中の下絵が並ぶ

宮崎雄樹が描くのは、主に自身の日常生活の断片だ。友人の披露宴、お墓参り、夏祭り、スキー場、都会の群集などの情景が、大小の画面に淡々と綴られている。それらはどれも淡い色合いと曖昧な輪郭で描かれており、蜜蝋による半透明のベールも相まって、薄れゆく記憶の残像のようだ。

また、モチーフとの微妙な距離感や、どこか覚めた視線を感じさせるのも特徴といえるだろう。具象を基調としながらも、その一言では割り切れない世界を描く宮崎に、自身の作品世界と現在までの制作の経緯を語ってもらった。

「私の作品は、まずキャンバスや綿布にアクリル絵具で描き、その上に蜜蝋を流し込んだ後、蜜蝋の上に油彩で描いて仕上げます。油彩を用いるのは一部分だけで、画面全体を塗ることはしません。アクリル絵具の前に鉛筆で大まかな形を描きますが、あえてその線を見せる場合もあります。鉛筆の段階では一発で形を取るのではなく、何度も線を引き直します。そういう意味では、自分は塑像的なつくり方をする作家ではないでしょうか」と制作方法を語る宮崎。

モチーフについては、「ほとんどの場合、自分で写真撮影した風景です。最近はインターネットから画像を採集する人もいますが、私は自分が撮影した写真でないと気がすまない性質で、写真を見ながら撮影時を思い出して描いています。写真は思いつきのスナップショットではなく、作品にできそうな場面に出合ったときに狙って撮ります。ただ、その時点では最終的なイメージまで見えているわけではありません。また、数は少ないですが、スケッチをもとに描く場合もあります」。

自分の性格を「人の輪に入るのが苦手なタイプ」と語る宮崎。「飲み会の席でも馴染めずに、一人で周囲を傍観していることが多いですね(苦笑)。学生時代には通学で毎日電車に乗っていましたが、車内の乗客たちを観察して作品のモチーフにしていました」。だからと言って極端に内気な性格かというとそうではなく、人当たりは極めて温厚だ。小学校から高校3年までサッカーに打ち込み、もともとは体育会系だったというから人は見かけによらない。

本格的に画家を目指すようになったのは、大阪芸術大学卒業後の3年間、同校の副手を務めていたときだ。「それまでは本当に何をやっていたのかというくらいの活動しかしていない学生でしたが、副手になって同年代で活躍している人たちを知るうちに、画家としてやっていく気持ちが固まりました」。現在は日中に仕事をしながら夜や休日に制作を続けているが、職場の額縁屋まで自動車通勤しているため、電車内の風景は描かなくなった。彼は自分の生活環境によってモチーフが変化するタイプの作家であり、本人はさほど意識していないものの、その作風は極めて私小説的といえるだろう。

作品の最大の特徴というべき蜜蝋の使用については、二つの大きなきっかけがある。「一つは、トレーシングペーパーやOHPシートにプリントアウトした画像を何層も重ねた小品シリーズを制作したこと。半透明のイメージが幾重にも重なる姿を見たときに、これを絵画で表現できないかと思うようになりました。もう一つは、三重県立美術館で2010年に開催された展覧会「ひろがるアート〜現代美術入門篇〜」で出会ったホセ・マリア・シシリアの作品。蜜蝋の層の上に油彩で描いた彼の作品を見て、蝋に油絵具がのることを知り、突破口が開けました」。

現在は天然の蜜蝋に少量の化学系ワックスを混ぜて使用している。取材時に蜜蝋をキャンバスに流し込む作業を実演してもらったが、液状の透明な蝋がキャンバスに流し込まれた途端、固形化して白くなり、熱が冷めるにつれ徐々に透明度を取り戻していく。そのプロセスは、まさに画面に彼の記憶が宿る瞬間のようだった。

今年もすでに二つのグループ展に出品した宮崎だが、今後の予定は年末にグループ展があるくらいで、個展は未定だ。「最近は仕事が忙しくて制作時間が足りません。活躍する同年代の作家を見ると羨ましいし、時間があればアーティスト・イン・レジデンスに応募してみたい。希望を言い出したらきりがないですが、いまは我慢の時期と思い直し、自宅で着実に描いています」。

そして彼は、今年から週1回デッサン教室に通うようになった。「もともとジャコメッティのような人物画を描いていましたが、最近モデルを描くことがなかったので久々にやりたくなりました」。日々の生活環境と作品が密接につながっている宮崎。新たに始まった人体への回帰が、今後どのように結実するのかに注目したい。
Sakurako Hamaguchi
Yuki Miyazaki

1982年大阪府生まれ、三重県在住。
2005年大阪芸術大学芸術学部美術学科卒業。
主な個展に07年「distance」(信濃橋画廊、大阪)、09年「complicated」(ギャラリーメゾンダール、大阪)、11年「トーキョーワンダーウォール都庁2011」(東京都庁舎)、13年「LOCAL DISTANCE」(Gallery Den mym、京都 南山城村)など。
受賞歴は、06年第2回市展「いが」岡田文化財団賞、10〜11年第25回ホルベインスカラシップ奨学生、11年トーキョーワンダーウォール賞、13年シェル美術賞2013(木ノ下智恵子審査員奨励賞)など。

http://www.miyazakiyuki.com
私の一色 フタロブルー 79-B
「青色が好きで、作品でもよく使っています。青といっても紺系の濃い青です。薄い青よりも色幅の調節がしやすく、絵具を薄く溶いて使うときに画面に馴染む感じも、自分に合っています。また、混色で色をつくるときにも青をよく使います。たとえば、黒が必要なときは青と茶色を混ぜ、緑がほしいときは青と黄色を混ぜてつくっています。単色の黒や緑はきつい感じがするのですが、混色すると自分が望むトーンがつくれます。」