ターナー色彩株式会社

   
美術手帖2014年1月
三宅瑠人
三宅瑠人


石井芳征= 取材・文
後藤武浩=撮影
Text by Yoshiyuki Ishii Photo by Takehiro Goto

上-untitled(book-tiqueのためのイラスト) 2011 BBケント紙にアクリル絵具 15cm×15cm
下右-untitled(Bohemian’s Guildのためのイラスト) 2011 BBケント紙にアクリル絵具 15cm×15cm
下左-untitled 2010 BBケント紙にアクリル絵具 10cm×8cm


untitled(ASEEDONCLOUDのためのテキスタイル用イラストのコラージュ) 2012  BBケント紙にアクリルガッシュ 
協力:SUNDAY ISSUE

untitled(Cat’s Whiskersのためのイラスト) 2013 
BBケント紙にアクリル絵具 13cm×19cm


untitled(PAPIER LABO.のためのイラスト) 2013
BBケント紙にアクリル絵具 10cm×13cm

壁面に飾られた過去の作品群。まるで大きな図鑑を広げたようで、時間を忘れて見入ってしまう

制作中は必ず音楽を流して絵に集中していくという。
その時の気分、感覚にあわせた音を選ぶ

以前インターンをしていたギャラリーSUNDAY ISSUEにて。自宅での制作と別に、当時から作品制作の場としてギャラリー内を使用していた

作品はイラストレーションとして印刷物になることが多いが、原画は想像以上に小さい。1本1本の描線の細かさと密度に圧倒される
大学在学中よりイラストレーター、デザイナーとして活動し、今年東京藝術大学デザイン科を卒業した三宅瑠人。その絵の特徴は、目を見張る緻密さだ。例えば彼が得意とする鳥の絵にしても、拡大鏡を使って描いたのではと思うほど、羽の毛先一本一本までもが丁寧に描き込まれている。

「拡大鏡を使って描いてはいません。絵に顔をかなり近づけて描いています。デッサンを繰り返しながら正確に描くというより、簡単なガイド線を鉛筆で引いて、細部の描き込みは運動的というか、ピッチで描いていく感じです」。

俯瞰して描くのではなく、覗き込むように部分に集中して描いていく。その部分がつながり、全体がひとつの姿となっていく。イラストの仕事で、絵が印刷物になることも多く、原画より小さいサイズで掲載されたり、印刷のクオリティーに左右されたりと、原画の質が正確に再現されることのほうが少ないはずだが、彼の絵の場合、印刷物になったときにもしっかりとそのよさが伝わってくる。なぜなら、そこに費やされた時間(ピッチ)というものが、たしかに体積しているからだ。

「魂は細部に宿る」という言葉があるが、三宅の絵は、細部が集まって魂(絵全体の底力)をつくっている、そんな言い方ができるかもしれない。細部が積み重なれば重なるほど、魂の濃さも増していく。生命ある動物はもちろん、石や枯れ枝、鉛筆やコップなどの日用品、生命を持たない、もしくは失った無生物の絵までもが生き生きと息づいて見えるのは、そのような時間(ピッチ)の体積が、写実的(生き写し)というのとはまた別の形の生命感(リアリティー)を生み出しているからだ。

またもうひとつの特徴として、三宅の絵には背景が描かれることがほとんどない。それは、図鑑のような対象に寄りそった描き方で、もの自体にフォーカスが当てられる絵である。実際、資料として海外で購入した絵入りの図鑑をいくつか所有しており、作画の参考にしているという。ひとつはっきりさせておかなければいけないのは、一概に「図鑑的な絵」イコール写実的な絵ではないということである。基本的に図鑑の絵は、実物をフォルムから色彩にいたるまで、その有り様を忠実に再現することを目的としている。しかし図鑑によっては、そこから外れて微妙な狂いを持った写実の甘い絵が存在する。しかしその甘さが、人を惹きつけることがある。

図鑑を開いて虫や動物そのもの自体を見ようとする意識でいるところに、不意に顔を出す「絵」という主張。子どもの頃に図鑑で見て、大人になるまで長く記憶に残っているものが案外そういった絵の体験だったりする。そういう絵には、非の打ち所のない完璧さのなかでは体験できない、写実が甘いからこそ、いろいろと想像をかき立てる余白、放っとけなさがあるのかもしれない。

「スーパーリアリズムのような絵を描く人たちは、デッサンをちゃんとしているじゃないですか。でも僕は、部分から描き進めてしまうので、デッサンがおかしいところが生まれてくるんです。図鑑でも、下手というか、愛嬌のある絵に惹かれます。本物のように描こうとしてフォルムに無理が出ているようなもの。『脚のところはどうなっているの?』みたいな。ただ写実的に、リアルに描きたいわけじゃないんです。完成したとき、少し違和感がある感じになってるといいなと思います」。

絵を覗き込めば、驚くほどの密度をもった描き込み。引いて見れば、フォルムが微妙に狂っていて隙があり、どこか非の打ち所がある甘い絵。その落差に、見る者は無意識に惹かれていく。

「馬の絵を描いたときも、実際は脚の付き方などが、骨格的にはありえない形になっているんですが、腰をひねってるようでかわいく見えるなと思ったりしました。絵として許せる範囲で意図しない表情や意味が出てくると、嬉しいです。作業の一生懸命さと関係ないところでそういう発見ができたらいいなと思う。絵を見た人から『この鳥は踊ってるの?』とか、考えてもいなかったことを言われたりして、それいいなって」。

人の想像を越えた「緻密さ」と、人の想像をかき立てる「甘さ」を同時に持った三宅の放っとけない絵。そんなチャーミングな絵が、ずらりと並んだ図鑑がもしあったら、それこそ絵本以上に、いろんな人のいろんな想像を刺激し、無数の発見と物語を生み出すことだろう――なんて想像をしてしまう。
Sakurako Hamaguchi
Ryuto Miyake

1988年東京生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科中退、東京藝術大学デザイン科卒業。雑誌、書籍、水族館などへのイラスト提供、CDジャケットやショップカードのデザインも行う。グループ展に12年「ことり展」(ユトレヒト、東京)、2012年「TRIBUNEArt Exhibition No.01 RYUTO MIYAKE×MORIMOTO SHOUHEI」(SUNDAYISSUE、東京)など。イラスト提供に『アイデア No.358』(誠文堂新光社)、『POPEYE』(マガジンハウス)など。
私の一色 チタニウムホワイト 11-A
「基本的に絵具は、アクリルガッシュをよく使うのですが、ポイントでゴールデンを使うことが多いです。ガッシュに比べると絵具に弾力があって、水を混ぜてかなり薄く塗っても被膜っぽさが残るため、光を反射して鮮やかに発色するんです。例えばガッシュで描いたマットで少し沈んだ色合いの色面に、ハイライトでゴールデンの白を使うと、質感の違いが絵に奥行きを与えてくれるので重宝しています。」