ターナー色彩株式会社

   
美術手帖2014年1月
増田将大
増田将大


石井芳征= 取材・文
後藤武浩=撮影
Text by Yoshiyuki Ishii Photo by Takehiro Goto

mist  2012 パネルに綿布、アクリル絵具、油彩 各182×91cm


静岡ランドスケープ 2010 パネルにアクリル絵具、油彩 各89.4×130.3cm

Untitled 2013 
パネルに綿布、アクリル絵具 60×60cm


Middle World 2013
パネルに綿布、アクリル絵具 38.5×71.2cm

最近はシルクスクリーンを使った作品を試している。
共同アトリエには製版設備も

薄く絵具を重ねたフラットな画面。
少ない色数で微妙な色調の違いが表現される

共同アトリエの一角ながら、大作を描くにも十分な広さのある制作スペース。作品の完成度の肝となる下地づくりには、細心の注意を払うという

シルクスクリーンで下地の絵をつくった後に、筆で着彩していく増田。現在、異なる画法の組み合わせで新たな「間」の表現を目指している
「間」(ま)というテーマを一貫して描き続けている増田将大。現在、東京藝術大学大学院で絵画科に学び、来年春に卒業を控え、キャリアは浅いものの、学生のための公募展「TURNER AWARD 2012」で大賞を受賞した新鋭画家である。受賞作《mist》は、出身地である静岡の街を俯瞰した視点から描いた3点1組の風景画だ。青を基調にしたモノトーンで、文字通り霧がかった風景だが、視界のわるさに目が慣れてくると、それまでは見えていなかった細部が浮かび上がってきて、初見とは違う印象の密度のある風景が姿を現す。

霧が晴れて見えてくる街並に人影はなく、時間の止まった死んだ街のようで、その静寂が逆に、何かが起きる予兆、もしくは何かが起きてしまった余韻のようなものをじっとりと肌に押し付けてくる。不吉というのとはまた違うが、安定していた日常の時間が脅かされるような、未知なものに対する畏れのようなものを感じてしまう。霧の中で、そんなしたくもない想像をしてしまうのである。

「何かと何かの間、日常的な風景の中で、非日常的なイメージが浮かぶ瞬間、ちょっとズレた時間というか、その2つの『間』を描きたいんです」。

同じく静岡の地元の風景を描いた《静岡ランドスケープ》という作品がある。それは、街中にある田畑の脇に供えられたスナック菓子や花束などの供物のある場を描いたもので、増田が「間」というテーマにとりくむきっかけともなった風景画だ。

「いつも目にしているような普通の田園風景のなかで、供物が道に供えられていたのを見て、そこに、違和感というか、ズレみたいなものを感じたんです。日常のなかで死を連想させるものが唐突に目の前に来たとき、現れる2つの世界の『間』を描いたんです」。

「間」をテーマにした作品は、こうした屋外を描いた風景画以外にも存在している。例えば、自宅アパートの浴室に映画『シャイニング』の一場面(ジャック・ニコルソンがアップで写される一番有名なシーン)をプロジェクターで投影し描いた作品がある。供物の置かれた田園風景とは違い、増田自身が日常の中に非日常的なシチュエーションをつくり、「間」の存在を検証した作品である。

「ホラー映画、とくにスティーブン・キングが好きで、作品に見られる日常の中に潜む狂気のようなものは自分の描きたい世界観に近い。

普段生活している生活圏に、非日常的な世界観をはめこむイメージでつくった作品です。映像を投影しなくても描けるんですけど、行為自体に意味があったので。投影してみて見えたイメージをより強いものにするために絵で描いたんです」。

そのほかにもブラックライトを照らすことで、キャンバスとその周りの壁面にイメージが浮かび上がる仕掛けをしたインスタレーションのような作品など、様々なアプローチを試している。最近はシルクスクリーンを使った表現にも挑戦している。「間」を発見することはおそらく誰にでもあることだが、増田がやろうとしているのは、描いた絵で同じような「間」の体験を生み出す装置、鑑賞者が絵の存在を忘れ、風景そのものを眺め、その中に知らず知らず入り込んでいた、というような場を絵画でつくることなのだろう。

「湿度をもった画面から受けるようなもの、見たときに空気が変わるような絵画をつくりたいなと思っています。制作時はエモーショナルに描くタイプではないので、作品と一定の距離を保って制作したいんです。感覚的に絵具を乗せていくには向いていないと思うので、そうではない戦い方を学んでいきたいと思っています」。

風景や絵と一定の距離を持って向かいあう増田。見るものに「間」を体験させるために、詰め込む情報は極度に減らしていく。色幅を制限し、絵具の厚みを抑え、それに合うように緊張感がある支持体と滑らかな下地をつくることで、余分なニュアンスを無くす。鑑賞者が非日常的な体験へと、足を滑らせやすいように「間」を設えるのだ。

「今後もこのテーマを突きつめていきたいと思います。自分のなかではまだ表現したい『間』が、これという明確なものになっていないので」。

アトリエには、卒業制作のために準備された巨大なキャンバスが置かれていた。次はどんなアプローチで、新たな「間」を出現させるのか、気になるところである。
Sakurako Hamaguchi
Masahiro Masuda

1991年静岡生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻。主な個展に2010年「増田将大」展( オーレ藤枝、静岡)、12 年「masuda」展(TURNERGALLERY、東京)、 グループ展に、11年 「黒一点」(TURNERGALLERY)。
受賞歴に、11年「TURNERAWARD2011 未来賞」、 12年「TURNERAWARD2012 大賞」。2014年1月26日から「第62回 東京藝術大学卒業・修了作品展」(東京都美術館、上野)に出品予定。
私の一色 ウルトラマリンバイオレット 91-B
「絵具の厚みを抑えるので、下地が生命なんです。最後に塗る表面の色を支える下地としてこの色は最適。表面を白や薄いピンクを塗った時に下から透けてくる、色の強さがちょうどいいんです。表面に透けて滲んでくるように色のバランスや重なりを設計して描いていくので、発色はもちろんですが、やわらかくて伸びのよさも重要なので、使用しています。」