ターナー色彩株式会社

   
美術手帖2013年11月
福田紗也佳
福田紗也佳


石井芳征= 取材・文
後藤武浩= 撮影
Text by Yoshiyuki Ishii Photo by Takehiro Goto

What is the reason why our paths cross? 2012 キャンバスにアクリル絵具、油彩 130.3×162cm


廿六木 spiral 2012 キャンバスに油彩 80.3×116.7cm

薄紅散らす追分 2013 キャンバスにアクリル絵具、
油彩 41×41cm


晴空の二十九階2013 
キャンバスに油彩 91×91cm

複数の色の絵具をパレットにのせてヘラで伸ばす。画面上で微妙なグラデーションが生まれる

日常風景唐突に現れたコンテナや不明の小屋など気になった風景を写真でおさえ絵の題材に

制作場所となる共同アトリエ。制作途中の作品が並ぶ。カフェが併設されていて、カフェの壁には福田の作品が展示されていた

アクリル絵具で画面全体を描いていき、最後に油彩(黒など)をポイントに使い仕上げていく。筆をゆっくり走らせる時間の断層を描いていく
青森出身の画家、福田紗也佳。昨年大学院を修了、翌年「GOLDEN COMPETITION2012」で、絵画作品《What is thereason why our paths cross》が優秀賞を受賞するなど、若いながら実力のある画家だ。工場や橋、ダムなど、人工の構造物を多く描いた彼女の絵を見てまず感じたのは、「暗さ」であった。本人にそのことを問うと、自分では、暗いとは思っていないと言う。確かに画面の割合的には、カラフルな色が多く使われている。ただヒビのような、黒い線が画面の至るところに走っていて、素直に明るい絵とは言いがたい。ヒビのようなものをなぜ描くのかという問いに、彼女はこう答えた。

「壊れそうだったり、ぐらぐらと線そのもので動きを表したくて。一つの風景の中に、亀裂や痕跡、時代の異なるバラバラの断面、石を割ったときの断層みたいなものを描きたいんです」。

子どもの頃から暇があれば外を歩き、身の回りの風景を眺めていたという彼女。それまでそこにあった建物が建て壊され、いつの間にかなくなるのを見て、なくなっていくものや、建物そのものが持っている過去、存在しているものの不思議に興味を持つようになった。

現在でも、そのような匂いのある「場所」に出会ったときには、写真を撮り、その場所の歴史を調べて絵の題材にしている。今自分が見ているもののかつての時間を想像し、なくなっていく運命にあるものを絵で残す。目の前にあるものの不確かさと、目の前にはないものへの想像力、存在と不在についての実証(フィールドワーク)絵画とでも言ったらよいだろうか。

例えば、《晴空の二十九階》は、浅草の(神田明神から見た)風景だが、現在スカイツリーが建っている場所に描かれているのは、明治大正期に存在していた「凌雲閣」という関東大震災時に崩れてしまった展望塔。現在の風景に過去が交じり合って描かれている。

「混ぜたい欲求がある。反する二つのものが同時にあるのが好きなんです。どこかに偏るのは簡単だけど、『中間』にいるのは難しい。何かを言い切るのではなく、自分の絵も『中間』にあるようなものにしたい」。

この「中間」という言葉は、彼女の絵の性質を適切に言い表している。彼女の絵は「今」の場所を用いながら「過去」が描かれている(塔や橋などがつくられた当時、使われてきた何十年という時間など)。ヒビのような黒い線は、時間の亀裂であり歪みである。亀裂の入った風景は、私たちが当たり前すぎて忘れていること、「今」は必ず「過去」になる、私たちは常に過ぎ去る時の中にいるということを思い出させてくれる。

「とりあえず、過去も未来も画面一つに集約しておけば、全体像が見えてくるんじゃないかと」。

絵が時間を経てどこかの誰かに見られた時のことを想定して、過去も今も、目の前にないものもあるものも混ぜて、記述しておく。目の前にはない過去を描くだけでなく、目の前にいない鑑賞者、未来から見られたときの過去としての今を描く。その意味で、福田紗也佳の絵は、過去と未来の「中間」としての絵画なのである。

福田の青森出身というプロフィールを見て、津軽塗という漆器の伝統的技法を思い出した。津軽塗は幾重にも漆を重ね塗りし、その表面を平滑に研ぎ出し、下層の模様を浮かび上がらせる技法だ。赤や緑、黒など、色を色で隈取ったような有機的な斑点模様が特徴的で、表面は漆独特の滑らかな光沢を放つ。数十回の工程で何層にも重ね塗りした漆、埋もれていった下層(過去)が削り出しによって模様で浮かび上がる。切り出された時間の積層の風景を福田の絵に重ねて見たのだろう。

「ラジオの音が途中で切れるように、さっきまでクリアに流れていたものが雑音で断絶される感じ。目の前に存在しているものの見えている、それ以外を見せられたらと思っています」。

彼女の絵は暗いと前述したが、その暗さは色調の話だけではなく、光の及ばない地層に眠った「過去」を覗き込んでいるからであり、「今」を「過去」の暗闇に浸しているからである。そして、そのような暗さを表現できるのは、もしかしたら絵画という古いメディアの優位性なのかもしれない。ネットなどと比べたときの絵画というものの圧倒的なコミュニケーションの狭さと遅さ。鮮度のある写真とコメントをあげて現在進行形を共有する「なう」という共時性もよいが、それとは別の速度の時間を生きることも、人の生き方を豊かなものにするはずだと福田の「中間」に立った絵は教えてくれるのだ。
Sakurako Hamaguchi
Sayaka Fukuda

1987年青森県生まれ。2012年筑波大学大学院人間総合科学研究科芸術専攻修了。主な個展に11年「 TWS-EMERGING2011『Photopsia』」(トーキョーワンダーサイト本郷、東京)。主なグループ展に、13年 「アートフェスタいわて2012 」(岩手県立美術館、岩手)など。主な受賞暦に13年 「GOLDENCOMPETITION 2012」 優秀賞など。今年10月開催の「EMERGING DIRECTORS’ART FAIR ULTRA006」に出展、来年1月にはターナーギャラリーでの個展を予定。
私の一色 パイロールレッドライト 31-D
「原色が好きで、その中でもとくに赤、太陽のように目に突き刺さってくる感じが好きなんです。バーミリオンとカドミウムレッドが混ざった、少し暗い朱色のような赤が好きで、〈パイロールレッドライト〉はまさにそんな色。白に混ぜてもよし、そのまま使ってもよしで気に入ってます。GOLDENは、ほどよくゆっくり乾燥するので使いやすいですね」