ターナー色彩株式会社

   
美術手帖2013年9月
山本理恵子
山本理恵子


小吹隆文= 取材・文
平野愛= 撮影
Text by Takafumi Kobuki Photo by Ai Hirano

リビングルーム 2011 キャンバスにアクリル絵具、油彩 227×364cm
©Rieko Yamamoto courtesy of MORI YU GALLERY

六畳トリップ 2011
キャンバスにアクリル絵具 227×183cm
©Rieko Yamamoto courtesy of MORI YU GALLERY


─無題 2012
キャンバスにアクリル絵具 60.5×50.3cm
©Rieko Yamamoto courtesy of MORI YU GALLERY

ベランダthe balcony 2011 
キャンバスにアクリル絵具、油彩 41×46.5 cm
©Rieko Yamamoto courtesy of MORI YU GALLERY

逃れられないティータイム 2011
キャンバスにアクリル絵具 130.3×162.1cm
©Rieko Yamamoto courtesy of MORI YU GALLERY

制作のヒントになるようなドローイングや、制作段階の作品を撮った写真を壁に貼っている

アパートの一部屋をアトリエとして使っている。アトリエ内には制作中の作品が並ぶ

自主制作中というCDのおまけとして制作中の、ステッカーの図案

アトリエでは絵具や工具などが使いやすいように整理されている
山本理恵子は一昨年に美術大学の大学院を修了したばかりの新鋭画家である。彼女が描くのは、風景、静物、人物、複数のモチーフが融合した世界など、多岐にわたる。特徴は、画面をびゅっと走るダイナミックな筆致だ。それらはまるでモチーフとは無関係と言わんばかりに主張しており、作品の一要素に収まることを拒否している。さらに、色彩、構図、地と図などもことごとく主張しており、各要素が今にも崩壊しそうなぶつかり合いを見せながら、ぎりぎりのバランスで均衡を保っているのだ。小柄で華奢な身体のどこからこんな表現が生まれるのか、不思議なほどだ。

山本が美大進学を決意したのは、中学生の終わりごろ。だからといって早熟な美術少女だったわけではない。

「絵を描くのが好きで、入口は落書きの延長みたいなものです。でも、美大の友人にもそういう人が多かった。バリバリの現代美術好きで、好きな作家や憧れがあって進学する人は、意外と少ないような気がします」。

学部時代はデイヴィッド・ホックニーが好きだった。

「彼の作品が持つ躍動感、浮遊感が好き。描くプロセスを楽しんでいる感じが絵から伝わってくるのが魅力的です。絵画の魅力は、筆触や身体性が反映されるところや、絵具の垂れや染みからプロセスを追体験できるところだと思うのです。ですから、自分の身体感覚をとおして滲み出てきたものが一番信用できると思います」。

作品制作においてドローイングはたくさん描くが、マケットや下描きの類を一切つくらないのはそのためだ。

「絵画制作においては、作家と鑑賞者がともに認める制作方法の中で、作風を守りながら展開していくのが一般的だとは思います。でも、私は作品で試したいことが見つかったら、そのとき取りくんでいる方法とはちがうことでも同時にやってみたくなります。そのせいで絵が破たんしてしまうこともあります。絵の内容がバラバラになることもあるので、個展の搬入時にはたくさんの作品を持ち込んで、並べながら間引きます。
試したい絵画制作のプロセスや、方法論から入り表現することは、一見表面的なように見えて、『私はこういう作家なんです』と作品でプレゼンしているよりも信じられる。その中でどうしても出てしまう自分の癖みたいなものにリアリティーを感じています」。

現在山本は、所属するMORIYU GALLERY京都で11月に行う個展に向け新作を制作中だ。しかし、その前に8月21日から、今までとはまったく毛色の違う個展「中庭の回遊」を大阪のSEWING GALLERYで行う。

「私は子どもの頃からピアノを弾いているのですが、最近、友人と音楽を作るようになりました。つくる曲には音楽制作ソフトを使っていますが、ソフトの構造と私の絵画制作には共通性があります。たとえば音の種類によってトラックが増えていくのですが、その組み合わせ方や、隣り合った音の響きをなじませる、フレーズのつなぎ目を自然にするといったところが、絵画におけるモチーフのエッジや、地と図の境界線の処理の仕方と似て、おもしろいです。

そして、一度楽曲をCDにして発表しようという話になり、個展を行う会場にピアノがあったので、音楽のライブをすることにしました。私にとってははじめての試みですが、絵画にもなにかフィードバックがあればいいなと思います。

また、今年の春から始めた夜間中学・高校の非常勤講師も、彼女に大きな影響を与えている。

「夜間学校には、いろんな事情で日中に通学できない人や、戦争で学校に行けなかったおじいちゃんおばあちゃんたちがいて、そんな人たちとの交流から得たものがあります。私は大学院も含め6年間もアカデミックな世界にいたので、夜間学校の経験は衝撃的でした。義務教育である中学校に夜間学級があることもはじめて知りました絵画以外の表現に目を向けたのも、そうした経験が影響していると思います。また、東日本大震災以降、『アーティストに何ができるのか』と問われることが多くなりました。私が一番思うのは、作家が作風や表現を守るために保守的になる必要はないということです。美術以外のことにかかわってもいいし、自分の意見も今よりもっとはっきり表明してもいい。まだプロフェッショナルになることを急ぐ必要はないと思っています」。

作家性の構築を焦ることなく、日々の制作や生活で感受した刺激を作品へと昇華させる山本。彼女の作品は今後さらなる変化を遂げるにちがいない。
Sakurako Hamaguchi
Rieko Yamamoto

1985年、大阪生まれ。2011年、京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画(油画)専攻修了。主な個展に、11年「六畳トリップ」、12年「utility fog’s circle」(ともにMORI YU GALLERY)。主なグループ展に10年「VOCA展2010」(上野の森美術館/東京)、11年「アートアワードトーキョー丸の内2011」(行幸地下ギャラリー/東京)、12年、「渋谷未来派宣言−新しい予感−」(Bunkamura Gallery/東京)など。受賞歴は、11年「アートアワードトーキョー丸の内2011」で高橋明也(三菱一号館美術館館長)賞を受賞。今年11月にMORI YU GALLERY KYOTOで個展開催予定。

http://www.moriyu-gallery.com/artists/profile.html?artist_id=27&l=jp
私の一色 キナクリドンマゼンタ 20-C
実を言うと、好きな色というのは特にありません。表現したいものによって使う色は違うし、色については相対的に考えるようにしているからです。〈キナクリドンマゼンダ〉は、今私が気になっている色のひとつです。私が使う色について、ある人から、和風の色合いではなく西洋的な色を使っていると言われたことがあって、そういうのは面白いと思います。服装とか日常生活のあちこちにも影響を与えていのるかもしれませんね。