ターナー色彩株式会社

   
美術手帖2013年7月
佐藤翠
佐藤翠


小吹隆文= 取材・文
平野愛= 撮影
Text by Takafumi Kobuki Photo by Ai Hirano

Reflections of a closet 2012 キャンバスにアクリル絵具 227.3×363.6cm

Embroidery dress T 2011
キャンバスにアクリル絵具 91×72.7cm


Pink carpet 2011
キャンバスにアクリル絵具 130.3×194cm

Voyage 2011 キャンバスにインク、鏡・トランク・布にアクリル絵具 サイズ可変

Black carpet T 2013
キャンバスにアクリル絵具 130.3×194cm

スケッチブックとともに机に並ぶファッション誌。作品制作の資料になる

筆入れにしている佐藤好みの焼き物。アトリエ内のインテリアや小物にもこだわりが見られる

壁紙をイメージして描き始めたという絵画。完成まで8割ほど進んでいる。鳥の形に淡いピンクをのせていく

現在は、以前は父親の書斎だったという実家の一室をアトリエにしている。窓からはたっぷりと自然光が入る
ハンガーに掛けられた衣服がぎっしりと詰め込まれたクローゼット、整然と並ぶパンプス、お気に入りのブラウスやドレス、複雑な色と模様のカーペット……、佐藤翠が描くのは、生活に彩りを添える愛すべき品々と、それらに囲まれた秘密の花園的空間だ。ただし、彼女はただかわいらしくそれらを描いているのではない。画面は赤、ピンク、紫などの鮮烈な色彩で彩られ、ときにはエモーショナルなほど激しいストロークに支配される。具象と抽象が入り混じった多義的な絵画空間。それこそ彼女が表現したいものなのだ。

佐藤の作風が定まったのは、大学4年生の頃だ。きっかけは前年の秋に交換留学でフランスに滞在した経験である。

「フランスのディジョンという街に半年ほど行ったのですが、当時はまだ自分が何を描くべきか模索している状態でした。それまでの日常から離れ、テレビはなく、新たに出会う友人ばかり。そんな環境だったので、とにかく絵に集中しました。そしてじっくり絵と向き合ううちに、純粋に描くことが好きだった昔の気持ちを思い出し、自分が好きなものを描けばいいんじゃないかって。それからはパリにも出かけたりして、自分が何に興味があるのか、何を美しいと思うのかなどアイデアを探して、今描いているモチーフにたどり着きました。そして帰国してから本格的に制作に打ち込むようになりました」。

佐藤は、学生時代には洋服屋でアルバイトをしていたという。

「いわゆる売り子です。当時すごく好きなブランドだったので、かわいい服に囲まれて幸せでした。ビジュアル的にも美しくて、自分自身をワクワクさせてくれるもの、自分の活力になる存在だと感じていました。ですから、現在の作風には当時の経験も重なっていると思います。アルバイトをしていた頃は、そのまま洋服の仕事をすることも考えました。でも絵を描く楽しさが勝って大学院に進学したのです。今は自分に偽りのないものを描いています。好きで、信じているものを描いているので、受け取ってくださる方に特にこう見てほしいといったことはないですが、何か感じてもらえれば嬉しいです」。

クローゼットを描くとき、以前はハンガーにかかっている服の一着一着の柄まで考えていたが、徐々に感覚化・抽象化してきた。鑑賞者が絵から受け取る印象を限定的にしたくないからだ。色やストロークを強調するのも同じ理由である。

「色にはすごく関心があって、それ自体に魅力を感じています。フランスにいたとき、日本では出会ったことがない色の組み合わせ方や色味を知って、すごく興味をそそられました。描くときにモチーフと色を別々に考えることもあります。画面に塗りムラや余白を設けているのは、自分で予想がつく範囲内で描くのではなく、作業を進めていくなかで出会える可能性を求めながら描いているから。絵画は2次元ですが、描き方によっては現実の世界よりも複雑な空間を表現することができます。その自由さが絵画の魅力だと思うので、ルールや現実に縛られない表現を目指したい」。

そんな佐藤が近年積極的に取り組んでいるのが、カーペットを真正面から描いた作品だ。

「もっと自由に抽象的な感覚をのせられるモチーフはないかと探していて、たどり着いたのがカーペットでした。カーペットの装飾性に惹かれていたし、大好きなインテリアということもありますが、平面的なモチーフを平面に表すことで、具象表現と抽象表現の可能性を並行して追求できるような気がしています。絵に自分の心情をのせやすくて、具象表現だけだと自分の中に溜まってしまうものを解放できるというか、偽りのない自分を表現する上で純度を高められるように思います」。

大好きなもの、ワクワクするものを通じて偽りのない自分を表現し、具象と抽象を自在に駆使した作風を確立しつつある佐藤。そんな彼女に今後の予定を聞くと、意外な答えが返ってきた。

「実は5月11日から半年の予定でロンドンに滞在します。母が若い頃にやり残した夢をかなえるために語学留学をすることになり、その付き添いで私も行くことになりました。私自身も語学はやりたいと思っていたし、ロンドンもすごく素敵な街だから、とても楽しみにしています。2人住まいなので広い家を借りる予定。大きい絵も描けそうです。新たなモチーフや画材と出会うことで、また作品が変わるかもしれません」。
Sakurako Hamaguchi
Midori Sato

1984年、愛知県名古屋市生まれ。2006年、フランス・ディジョン国立芸術大学に交換留学。08年、名古屋芸術大学美術学部絵画科洋画コース卒業。10年、東京造形大学大学院造形研究科造形専攻美術研究領域修士課程修了。11年、フランスCite Internationale des Arts Paris,Residennce滞在。主な個展に、10年トーキョーワンダーサイト本郷、11年トーキョーワンダーサイトAr t Café「Kurage」、12年東京オペラシティ アートギャラリー コリドール、TKGエディションズ京都。主なグループ展に、08年「ART AWARD TOKYO 2008」(丸の内 行幸地下ギャラリー/東京)、「モンブラン ヤングアーティスト パトロネージイン ジャパン」(モンブラン銀座本店/東京)など。受賞歴は、09年第24回ホルベイン・スカラシップ奨学生、10年「ART AWARD TOKYO 2010」で小山登美夫賞を受賞。13年「VOCA展2013」で大原美術館賞を受賞。現在、ロンドン留学中。

www.midorisato.com
www.tomiokoyamagallery.com/artists/sato
私の一色 ウルトラマリンブルー 76-B
「今まで、青はあまり使わない色でしたが、最近は使ったことがない色に挑戦したいと思うようになりました。理由はよくわからないけれど、年齢とともに色の好みが変化しているのかもしれません。青のなかでも〈ウルトラマリンブルー〉は強い色で、今すごく気になっています。私は混色をよく使うのですが、〈ウルトラマリンブルー〉は混色では表現できないような気がします。濁ってしまうんじゃないかな。それぐらい美しい色だと思います」。