ターナー色彩株式会社

   
美術手帖2013年1月
坂本真澄
坂本真澄


石井芳征=取材・文
後藤武浩=撮影(作品図版を除く
Text by Yoshiyuki Ishii Photo by Takehiro Goto

あそぼう 2011 キャンバスに油彩、アクリル絵具 162×260cm Courtesy of GALLERY MoMo

彼氏A 2012 ベニヤにアクリル絵具 182×58cm


─恋人サブレ 2011 キャンバスにアクリル絵具
162×130cm
Courtesy of GALLERY MoMo

個展で上映されたスライドショーの1シーン。
坂本と彼氏が 都内各所をデートする 撮影=西光祐輔

ごちそう 2012 キャンバスに油彩
98×130cm Courtesy of Studio J

彼氏を寝かせて描く。距離の近さが二人の親密な関係を窺わせる

自宅兼共同アトリエ。自分の理想の男の子たちに囲まれる幸福な空間

制作途中の切り抜き作品が並ぶ。ドローイングの線をそのまま再現する糸のこ技術が活きる

血の赤み、血管の青白さなど様々な色を重ねて肌を描く。生きている感じを出すのが重要
坂本真澄が描くのは、自分にとっての理想の男の子、すなわちアイドル(偶像)だ。先日studioJで行われた個展「東京愛情事故」では、これまでキャンバスの中に描かれてきた男の子を等身大の切り抜きのパネル作品にして、結婚式を行った。会場では2人のつきあってきた甘い時間をスライドショーにした結婚式ムービーが流された。広末涼子の「大スキ!」をBGMに、浅草雷門や東大前などを2人でデートする、仲睦まじい姿が映し出される。

「今回の個展で周りの人からやっと吹っ切れたねって言われました。私自身とつくっているものが一致したって。今までいい子すぎたんでしょうね。ずっとこれがスキだと思って描いてきたつもりだけど、最終的に美術をしようとしていたっていうか。自分の中の『絵』とか『美術』とかを意識してしまって。でもそれより自分を思いっきり出し切ってないことのほうが恥ずかしいと思って」。

大学時代には銅版画を専攻していた坂本。その後、色を使いたいという動機で油絵を試すようになった。しかし彼女にとって描きたいものはあくまで理想の男の子自体だったので、それ以外の背景などは、正直本当に描きたいものではなかったという。かっこよくて素敵な男の子を生み出す、存在させることが、彼女にとっては、絵を描くことと同義であった。

「描きたい男の子の姿(顔と体)がまずふっと浮かんで、顔から描いて『ああハンサム』って、そして『いけない、体も描かなくちゃっ』ていう感じで、男の子を描き終わったらそれで自分的には満足なんですけど、そのあと彼をどういう状況に置こうかって、セット(背景)を考える。それはそれでおもしろかったけれど、無理が生じる。絵という辻褄をあわせようとしていたところがありますね」。

まるで自分が減っていくような感じがしたという。しかし今は描けば描くほど、自分が足されていく感じがすると彼女は語った。この違いはとても大きい。それは絵を描くモチベーションと完成した絵が一致しているということ、坂本の絵に必然性があるということを意味している。以前は産みの苦しみの中、ストイックに描くことがいい絵につながっていくと勘違いしていた。しかし楽しく、健やかに、幸せな気分で絵を描くことは決して悪いことではなく、むしろ、絵を日常の中へ取り戻す有効な手段だと今彼女は確信している。

「外でデートしてしまった時点で、もうなんの羞恥心もなくなった。ちょっと快感ぐらいの感じ。撮影してると外国人の人から『ダーリン?』って訪ねられたり、やっぱり彼氏に見えるんやって、変な自信つけて帰ってきましたね(笑)」。

展示のために作品にしようとする意識(プロデュース的視点)とデートを素直に楽しむ気持ち、その2つがあるはずで、どちらにウェイトがあるかを彼女に尋ねたが、撮影中リアルにデートを楽しんだというのが事実だという。はじめて幸せの中で絵を描いた(作品をつくった)展示は、幸福感に満ちあふれていた。「絵」や「美術」から解放されて自由になった坂本は、逆に「絵」や「美術」の本質にこれまで以上に近づいたとも言えなくない。

「こんな楽しい気持ちで描いていいの?って心配するくらい幸せに描けたんです。プロデュースという考えはいっさい浮かばかったですね」。

二次元から飛び出した薄い板でできたぺらぺらの彼氏と屋外デート、現実の空間(三次元)とフィクション(二次元)がつながった不思議な光景、絵の世界と現実の境界が瓦解している。しかし彼女にとっては、この現実の世界自体が不思議そのものだという。

「現実の世界が一番不思議だと思う。この世界も絵と一緒で人がいて背景があって、舞台とかセットみたいなもので、不思議な瞬間や場面にたまに出くわすことがある。ここ(現実)にセットがあるんだったら、そこに彼氏を連れてくればいい。そうしたら絶対絵になると思って」。

彼氏がこちらの世界に来た後、坂本は自分自身を絵の中に登場させ、彼氏とのツーショットを描いた。フィクションと現実、二次元と三次元の境を越えるといった意識はなく、お互いの実家を行き来するくらいの自然な感覚だった。「絵」という枠組みに縛られない自由を得たことで、彼氏(坂本の絵)は、アイドルとしての輝きを増し、極上のハンサムへと変貌を遂げた。
Sakurako Hamaguchi
Masumi Sakamoto

1982年大阪府生まれ。2005年大阪芸術大学芸術学部美術学科銅板専攻卒業。主な個展に、09年「体育のじかん」(GALLERY MoMo Roppongi 、東京)、10年「プライベート0号室」(studio J、大阪)、11年「グッバイ☆アイドル」(GALLERY MoMo Ryogoku 、東京)、12 年「東京愛情事故-TOKYO Love Story-」(studio J、大阪)ほか。主なグループ展に、09年「トーキョーワンダーシード2009」(トーキョーワンダーサイト渋谷 、東京)など。
私の一色 ハンザイエローオペーク 41-B
この色はつくれないなって思います。三原色はつくれないというのは当然わかってるけど、黄色は本当につくれないと素直に思います。混色をあまりしないので、このまま使うことが多いです。肌を描くときにもよく使いますね。この色は、水で薄くのばしても、ちゃんと顔料が残って、色が定着して発色するので安心感があります。薄塗りで、何重にも重ねて描くので重宝しています。