ターナー色彩株式会社

   
美術手帖2011年11月
大小島 真木
大小島 真木


石井芳征=取材・文
磯部昭子=撮影(作品図版除く)
Text by Yoshiyuki Ishii Photo by Akiko Isobe

精霊たちの家 2012 アルシュ紙に鉛筆、色鉛筆、アクリル絵具 表裏2面 114×140cm
まだ人と動物に境がなかった頃 人が精霊と共に暮らしていた頃風の音は精霊の声であり、獣の声は大地の雄叫びであった。そして森は優しく、時に恐ろしく、そこに在ったのだ。


ユカラの地 2011 紙に鉛筆、色鉛筆、アクリル絵具 額に彫刻、着彩 53.5×53.5cm
「キイ」「シシッ」鹿子達が合図を送り合い、魂を送り出す舞を披露します。舞は歌となり、歌は鹿達が踏みならす大地の力強い音です。

絵本『ウオルド』より 2010 紙に鉛筆、色鉛筆、水彩、アクリル絵具 152×171cm


絵と文を大小島が手がけ、手製本した絵本『ウオルド』

「Wall Art Festival 2011」への参加の際、インドのビハール州スジャータ村で行った、絵本『ウオルド』の読み聞かせ風景 撮影=三村健二



作品を制作する大小島。迷うことなく筆が進む。紙の表裏両方に絵が描かれ吊り下げて展示される。多面的に見ることを誘う

アトリエとして使用。報道カメラマンだった祖父の想い出の品に囲まれて制作を行っている

下絵が描かれたノート。下絵でその絵が持つ内容や時間のイメージを探るという
大小島真木の絵は、表現したいことがとても明確である。その理由は、彼女の絵に必ずストーリーが存在するからだ。そのストーリーとは、彼女が考えた「人間と自然にまつわること」。人類学的ともいえる世界各地の文明や歴史、宗教、死生観、古代から現代そして未来へとつながる人間の営みの「大きな流れ」に対する彼女の思考と想像力であり、絵はその記述と言っていい。

「特定の宗教でなく、世界中になんでこんなにたくさんの宗教といわれるものがあるのか、そのこと自体に興味があります。彼の地に行けばたくさんの人が一生懸命『祈り』を行い、それを中心に生活が回っている。祈りってなんだろうなって。謎解きというか、なんでだろうって考えていることを絵にしていくことが多いです」。

とても雄弁な絵描きである。一つひとつの絵について、これはこういうことを考えて描いた、このモチーフはこういう意味を持っている、など、自分なりの想像、解釈、その考えのもとになった知識、そして日常の中で彼女が抱いた実感が、彼女の口から躊躇なく語られる。よく耳にする「言葉で説明できないから絵を描いている」といった言句が、逃げ口上のように聞こえてくるくらいに、彼女の絵における説明は厳密で説得力を持ち、決して絵を殺してはいない。逆に絵を活かしている。それだけの思考と想像力(自分の言葉)が、絵に変換されているのだから当然のことなのかもしれない。

 最近始めたという「壷シリーズ」は、壷を一つのモチーフにして、アジア、ヨーロッパ、日本(アイヌ、東北など)、世界各地の様々な土地の文化や民話を、彼女なりのフィルターを通して記述した絵のシリーズだ。

「古代から人は、壷にいろんなものを入れてきました。水を運び、食べ物を入れ、骨、臓器なども入れてきた、人類にとって密接な生活の道具です。壷には時代ごとに様々な装飾性が加わってくるんですよね。そこには文明自体が刻み込まれている。美術は本来そういうふうに人間と一緒に過ごしてきたものだと思うんです」。

大小島の「人間と自然にまつわること」への思考は、ある種主観的で飛躍的である。学術的な正しさとは別なところにある。しかしその独自の論理がこの魅力的な絵を生み出している。

フランスの社会人類学者クロード・レヴィ=ストロースは、著書『野生の思考』の中で、端切れなど不要品を寄せ集め、別の道具がつくられていく世界各地の事例(フランスでは寄せ集めから修繕する職人をブリコルールという)をあげ、民族の神話体系の成り立ちをこれと同様と捉えた。

余り物として、次の時代の誰かによって寄せ集められ部分となり、また新たな全体を生み出し、その全体もまた次の時代の部分へと変容し受け継がれていく。

「勉強ではなく、知りたいと思う。突き止めたいっていう気持ちは、途切れないですね。地球もちっぽけな宇宙の一部と考えると、人類の歴史がどれだけ小さくて、自分が考えてること知ってることがどれだけあるのか。99%の知らない世界の中で、私たちは生きて死んでいく。知らないことのほうが多いなかで、でも見渡してみるとこんなに大きな世界が広がってるんだなと改めて実感して、わあ、すごいなって(笑)。とても尊いと思うんです。そういう想いを伝えたい。情報としては知っていても実感することは難しい。それでも、そうだよねって見る人と共有できることが大切だなって思います」。

大小島は「過去も今も未来も『大きな流れ』でつながっていて自分もその中にある」と話す。そう、彼女はブリコルールだ。人が見過ごしている余り物、世界に転がっている端切れ、ストーリーの断片を嬉々として拾い集め、丹念につなぎ合わせ一枚の絵にしていく。そしてそれだけでは満足せず、絵本の読み聞かせやワークショップなどを通じて、よりダイレクトに伝えていく方法も試みている。

「自分も含め、生きものたちが、どういうふうに生きているのかを描き、見た人にこういう考え方もあるんだなって思ってもらったり、違う視点を増やしてもらえるようなことをしていきたいです」。

 昨年、美大の修士課程を修了したばかりでまだキャリアは浅いが、すでに表現の軸はしっかりと根付いている。現在開催中の個展でも、きっと私たちを「大きな流れ」へと放り込んでくれるにちがいない。
大小島 真木
Maki Ohkojima

1987年東京都生まれ。2011年女子美術大学大学院美術専攻修士課程卒業。主な個展に、09年「f.tigerたち」(東京都庁)、10年「オレンジ色の月とみずいろの太陽」(トーキョーワンダーサイト本郷、東京)。主なグループ展に、09年「トーキョーワンダーウォール2009」(東京都現代美術館)、10年「-森-もやもやもり」(世田谷美術館区民ギャラリー)、11年「一枚の絵の力」(3331Arts Chiyoda、東京)、「PROMISEDLAND / SUMMERSHOW」(MAKI FINE ARTS、東京)など。4月7日〜29日、個展「獣たちの声は精霊の声となり、カヌムンは雨を降らし、人々は土地を耕した。」が、island MEDIUMにて開催中。

http://islandjapan.com

大小島真木HP http://www.mmm.from.tv/mmm/1.htm
私の一色 マンガニーズ ブルーヒュー 81-A
ゴールデンオープンアクリリックスは、普通のアクリル絵具に比べて伸びがよく、1日経ってもそのまま使えるし、油絵具のオイルを混ぜたときの感じに似ていて、でも水に溶けて調合しやすいんです。この〈マンガニーズブルーヒュー〉は、海の水をすくったような透明な青で気に入っています。そのまま使ったり、他の色を混ぜて不透明にしたり、塗った上から重ねたり。原色で使えるよさがあってとても好きです。