ターナー色彩株式会社

 
美術手帖2010年5月
相川勝 相川勝
どうしようもなく自分

いしいよしゆき=取材・文
吉次史成=撮影(作品図版、展示風景除)
Text by Yoshiyuki Ishii Photo by Fuminari Yoshitsugu
CDs
CDs 2007-09 キャンバス、ケントボードにアクリル絵具 14×14cm
写真は、ジューダス・プリースト『復讐の叫び』を複写した作品

101Tokyoにおけるインスタレーション風景
撮影=和田高広&eitoeiko


CDs 2007-09 キャンバス、ケントボードにアクリル絵具 14×14cm 写真は、キッス『地獄からの使者』の作品

CDs 2007-09 キャンバス、
ケントボードにアクリル絵具 14×14cm
上から、カーティス・メイフィールド『スーパーフライ』25TH・アニヴァーサリーエディション、ピンク・フロイド『原子心母』、プライマル・スクリーム『スクリーマデリカ』、ソニック・ユース『GOO』の作品


アトリエで制作する相川。CDジャケット、帯、ライナーノーツを描き録音まで、1作品に約3週間ほどかかる

制作中のマイケル・ジャクソン『MOONWALKER』のビデオパッケージ。相川がモニターの前で延々とアフレコをしたビデオテープがつく

ミュージシャンたちとシェアする共同アトリエ「八広ハイチ」。ライブも行われるなどコアな音楽ファンが集まるクリエイティブコミューンのような場所

支持体は、ボードにキャンバスを貼ったもの。近づけば筆致が見えて、あらためて手描きの絵だとわかる
ギャラリー内にロックやメタルのCDジャケットが壁に並び、その横には試聴機が設置されている。一見するとCDショップの店内かと見間違うが、このすべてがアーティスト相川勝の作品である。ジャケット、帯、封入されたライナーノーツ(冊子)、盤面、プライスシールまですべてが、手描きで表現された絵画であり、さらにCD内にはアルバム収録曲を作家本人がアカペラで歌った曲が収録されている。「どんなコピーバンドよりもコピーが巧い」と本人が宣言するように、彼の作品は、真のコピー作品である。

ジャケットを見ていくと、AC/DC、ピンク・フロイド、ビートルズ、デヴィッド・ボウイ、クーイン、ベック、ソニック・ユース、スターリンなど、一度は目にしたことのある有名なものから、マニアックなものまで、相川が心から好きなミュージシャンのアルバムがラインナップされている。基本的にそのチョイスの基準は彼個人の趣味であり、音楽的な歴史や文脈などを相対的に考察するなど題材としての批評性はそこには存在しない。

それは歌にしても同様で、ただあこがれであるミュージシャンになりきりながら、楽器がまったく弾けないため、アカペラで熱唱する。そこにパロディー精神はない。ヘッドフォンでCDを聞きながらの録音作業。歌詞を間違えようが、基本的にはワンテイクで歌いきるらしい。

「自信作はピンク・フロイドですかね。一曲が長いので大変なんですよ。20分もある曲もあって。一発録りなので、大体一つのアルバムは60分とかで録音し終わります。失敗してもそのままですね」。

感覚はライブ録音に近く、至極まじめに全アルバム収録曲をコピーする。歌詞のない伴奏もスキャットのように口ずさんで再現しているのだが、クラフトワークのインスト曲を歌っているのを聴いたときにはさすがに笑った。

話を絵画に戻すが、本人によれば徹底したコピー(複製)を行っているというのだが、帯に描かれた文字などは、手描きならではの歪みがあったり、ある種のムラが、そこかしこに発見できる。ライナーノーツでは、その文書量の多さと細かさを描いていくため当然失敗もするのだが、修正は一切しないという。間違えていてもそのまま描き続ける。歌録り同様、スピードと一回性が重視されていて、そこにこだわるのかとつっこみを入れたくなる。このような客観的なロジックに回収されない矛盾やムラが、どうしようもなく相川勝という「個」を伝えるプロフィールとして成立しているところが彼の作品の特徴と言える。

「オリジナリティーがないのが、オリジナリティーだと思っている。これが僕の作品ですと主張しているような作品は好きじゃなくて、そういうのを消去していく方向性です。その上で複製だけど、逆に複製された既製品の中のオリジナルを主張したい」。

相川の歌を聴いていたとき、タナダユキの映画『百万円と苦虫女』で、劇中主人公が吐露したこんな言葉を思い出した。「自分探しなんてしたくない。むしろ逃げてるんです」。これは、自分というものは探しにいくものでなく、望む望まない関係なく、どうしようもなくここにあるものだと突きつける、近代主義的なアイデンティティーを転回させた名セリフなのだが、相川が逃げているかどうかはともかく、この「どうしようもなく自分」な感じに相川の作品との共通点を感じる。

コピー(自己を消すこと)を出発点としながら、その行為の中で滲み出した「身体性」をそのまま放置して残す。14×14センチの作品の中には、相川の「どうしようもなく自分」がパッケージされている。

「既製品を一点ものの作品にしていくことで、回復とまでは言いたくないが、作家の肉体を含めて提示する。アウラはあると思っている」。

魂の叫びが入っていると言うと大げさだが、あのマジな歌声のCDには、相川勝という「個」からしか生まれない何かが確かに湯気を立てて存在していた。今後の作品に関しては、もっと社会との接点があるものを構想しているという。それは今のように音楽ともリンクしていて、仕組み自体をつくっていくような作品だという。どのような作品になるかは想像できないが、きっと「どうしようもなく相川勝」になることだけは唯一確信できる 。

◎いしい・よしゆき[美術ライター]
 
相川勝 Masaru Aikawa
1978年生まれ。東京在住。ペルー共和国で生まれ、幼い時期を同地にて過ごす。2004年多摩美術大学メディア芸術学科卒業。主な個展に、03年「僕と布」Media Select 展(名古屋アートポート)、「発生と消滅のループ」(ICC、東京)、08年個展(STAIRWELL GALLERY、アメリカ)、 09年個展(MOUNTAIN FOLD GALLERY、アメリカ)。主なグループ展に、09年「101TOKYO Contemporary Art Fair」(東京)、「Asia Top Gallery Hotel Art Fair」(ソウル)。現在「六本木クロッシング2010展:芸術は可能か?」(森美術館、六本木)に出展中、会期7月4日まで。 http://masaruaikawa.com
私の一色 パイロールレッドライト [31-D]
一見CDアルバムそのものの相川勝のコピー絵画。アクリル絵具ならではの発色のよさを活かし印刷物の明るい色ののりをうまく表現している。「展示で並べたときのパッと見の印象を気にして、比較的に明るめでポップな色を選ぶことが多いです。このパイロールレッドライトは、ガッシュのように発色もよくて、印刷物に近い質感を再現できるのでいいですね」。