ターナー色彩株式会社

TURNER AWARD
2014 審査員の言葉 大賞専門学校最優秀賞高等学校最優秀賞未来賞専門学校優秀賞優秀賞入選学校賞募集要項

審査員による作品講評会

TURNER AWARD 2015 審査を終えて

岩渕 貞哉(『美術手帖』 編集長)
O JUN (画家 東京藝術大学教授)
中村 佑介 (イラストレーター)
本吉 康成 (『イラストレーション』 編集長)
八木 秀人 (アートディレクター)
(五十音順・敬称略)

ライター:細川英一(ART DIVER)

12月15日・TURNER GALLERYにて収録
岩渕近年、とくに絵画のコンペが増えていて、多くの美大生はどのコンペに出すかをよくよく選ぶという状況になっています。その意味で、ターナーアワードは、アートスクールや絵画教室、予備校などからの応募もあって、ほかのコンペでは見られない作品が見られる点が、特徴のひとつとして挙げられます。去年と比べて、全体の応募者数はどうだったのでしょうか。

八木応募者数は、昨年の639点から788点に増えているそうです。

本吉今回は、一次の書類審査から参加しましたが、一次通過者数を、昨年の160点から216点に増やしています。

八木 実作品での2次審査も、点数が増えたのですね。個人的なことを言えば、いいと思うものとそうではないものがすぐに判断できたので、点数の割に審査には苦労しなかったですね。

O JUN昨年も審査に参加しましたが、今回はコンペで外されそうな作品が入ってきている点に注目しました。単体ではコンペ向きではないなという作品も、整った作品のなかに並ぶと生き生きとしてくる例がいくつかあったのは面白い傾向だなと。

中村私は、今回はじめてターナーアワードの審査に参加しました。最近のイラストレーションやデザイン系のコンペでは、デジタル制作作品が主流で、絵具で描かれた絵を審査する機会は少ないので、やはり絵具を使った絵にはパワーがあるというのが第一の印象です。エネルギーがストレートに伝わってくるんですよね。  裏を返せば、全体の印象としてはテーマが偏っているとも感じました。それは何かといえば、自分の内面を描いているということです。絵具会社が主催するコンペなので、絵具の素晴らしさをストレートに魅せるような風景の超絶技法的なものがあってもおもしろいのにと少し感じました。

本吉今回は、丁寧に描かれた作品が多いのが目につきました。その一例として、大賞の本山智香子さんの「為装人―女子高生(16)―」は4点の連作での出品でしたが、どれもクオリティが高かった。洋服ダンスからその人が見えてくるというテーマ設定にも成功していますね。

八木大賞に選ばれたのは1点ですが、その裏に3点があるというストーリーも大賞に選んだ理由のひとつです。

岩渕四角く枠取っているタンスは段ボール製で、そのたわんで崩れそうな感じが、衣装が表す人間像が仮初めであることを示唆しているようです。実際の衣服でもファストファッション的なものが散りばめられていて、現代の日本の若い女性の状況を反映しているようで社会的な文脈を読み取ることもできる。  その意味では、やや言葉にしやすい作品だけども、今後は言葉に換言しきれないものをどれだけ描いていけるかという、伸びしろを楽しみにしたい気持ちもあります。

中村実は、私自身は大賞に選ばれたものより、他の3点のうちに好きな作品があるのですが、先ほど言った「絵具のエネルギー」を最も感じた作品がこの作品でした。絵画としての総合点がとても高い。惜しかったのは、この1点に関して言えば、自然な生活感の中、下着や学生カバンといった女子学生の記号的なものが説明的過ぎると感じてしまいました。彼女は、そんなことをしなくても充分力があるのだから、自信を持って、よりストレートなペインティングを今度は見てみたいと思います。

O JUNそうですね。本山さんは藝大の大学院生ですが、学部の頃からこうしたモチーフを一貫して描いてきている。根性もあるし、技術も年々上がってきています。モチーフと自分との追い込み方がきちんとできていて、ある意味ではよく構築された正統的な回答のひとつとでも言えるでしょうか。

本吉専門学校優秀賞は、舟橋璃咲さんの「ともだち」です。水面を象徴的にうまく表現できていて、色感がとてもきれいでした。モザイクっぽい表現も面白かったです。私と中村さんは、この作品を大賞に推しましたね。

中村ええ。シンプルできれい、それ以外は感じさせない強さがある。描かれたことだけがすべてという潔さ。好きになりましたね。この作品が賞を取ったことで、他にも勇気の出る作家がいるのではないか。そうした開かれた作品だと感じました。

本吉高等学校最優秀賞は長島有花さんの「人観観音図」。群像をやまと絵の手法で描いていて、山口晃さんなどの影響を感じさせます。細かく見ていくと、一人一人にストーリーを描き込んでいて、さぞ大変だったろうなと(笑)。昨年と比較して、高校生の技術レベルが全体的にレベルアップしていますが、この作品は抜きんでていましたね。

中村今回、こうした宗教的なテーマの作品が多かったのですが、長島さんの作品は、一番画面としてまとまっていました。完成度が高く、全会一致の結果です。

O JUN私は、未来賞の湯沢零司(龍零)さんが、一押しだったんですけど(笑)。審査の後で知ったのですが彼は13歳、中学生です。絵具の使い方がしっかりしている周りの作品のなかにあって、この作品は技術的には劣るけど、とても気持ちよく描いている。それが、違和感とともに目に入ってくるんですね。後から、中学生ということを知ってびっくりしました。まさに未来賞にぴったりだなと。
 50号というサイズは中学生には持て余すものだと思うんですが、全体の空間を意識していて、中学生にしては早熟さすら感じます。岩渕さんとも話していたのですが、この題材はフェルメールの「天文学者」からきているのかなと。

岩渕ええ。フェルメールの絵をもとに描くのは勇気がいりますよね。それに、中学生の応募って、あまり聞いたことがない!

本吉しかも本物のフェルメールより、サイズが大きいんじゃないですか(笑)

八木未来賞の2人目は、吉田裕亮さんの「風車のカゼ」。私はこの作品が好きですね。プレゼンテーションの仕方がきれいだなと。フレームと作品との余白なども、作品全体の柔らかな印象を支えています。オキーフの作品をクローズアップしたかのような透明感があって、気持ちのいい作品でした。

本吉私も一次審査から気になっていた作品です。こうした抽象作品は写真ではわかりにくいのですが、これは素直に良さが伝わってきました。

岩渕同じく未来賞で、河野麻実さんの「おでんイング1(女)」。画材に、こんにゃくなどのおでんの具が使われています。タイトルからみても、デ・クーニングとおでんを掛けているようです。不定形なフォルムにも共通点があります。

O JUN彼女も藝大の学部生です。おでんの具を使って描きだしたのは最近だと思いますね。それまでは、ドローイングなど紙の仕事が多かったのですが、それをどうやってタブローにするかということでおでんに辿り着いた。何かをつかみかけているという印象を受けました。
 こういった作品はアトリエでぐちゃぐちゃやっているというのが通常で、コンペ向きでないと思うんですよ。でも今回、この作品が入賞したことは、今後のコンペの質を変えていく意味で評価したい。

岩渕アクション・ペインティングの要素も見てとれます。デ・クーニングはアメリカの男性作家で女性を描きましたが、こちらは日本の女性が男性を描いている。たたきつけるような自傷行為的な印象も受けますし、いろいろな文脈を踏まえていて見どころが多い作品です。
 次は、未来賞の4人目で、上野の森アートスクールで学んでいるという北田たきさん。普段見ることの少ない系統の絵で、私にはとても新鮮でした。絵画でできることを実験しながら、独自の方法で楽しんで描いている。絵に打ち込んでいる姿が想像できて、好感を持ちました。

本吉私は、ファンタジーイラストの文脈を感じたのですが、これもコンペでは見ないタイプの作品ですね。光沢感のあるマチエールも面白い。好きなタイプの絵ではないけど、何かが気になって投票したという感じです。

中村繊細なところと大胆なところの落差があります。一見、宗教画のようでもあり、和洋折衷の要素もあり、ラッセンのようでもあり……。でも近づいてみると人物はコミックタッチなんですね。コミックタッチのものをキャンバスに描くのは流行りですが、この人はそういう流行から一歩引いている。ギラギラといやらしい色使いなのに、この人自体が一歩引いている分、とても気持ちのいい絵に仕上がって、私は好きでしたね。誉めてるんですよ(笑)。

O JUN未来賞の最後は、西岡愉季子さんの「いちじく」。西岡さんはもう1点出品していて、そちらはオレンジがモチーフでした。原寸大ではなく、かなり大きくしたサイズ感もいいですね。フルーツの断面をつくりたいのではなく、もっと身体的なものや、風景のようなものを表現している。それがつくりこみによって、訴求力を持って、成功している。だまっていても目をひく強さがありますね。

本吉相当しつこく質感を追求しているのですが、それがインパクトにつながっています。

岩渕専門学校優秀賞は3名です。私は、萬田朋子さんの作品を評価しました。一瞬、何が描いてあるかわからないけれど、右に描かれた女性の後ろ姿に気づくと、図と地が反転して絵の全貌が一挙に立ち上がる。描かれるもののサイズが規定されないという絵画の特質を生かしていて、はじめは風景画のようにも見えるところなど、絵を見る快楽を感じさせる巧みな作品だと思います。

中村なるほど、そういう絵だったんですね。納得です(笑)
 私は、新保伶さんのお腹の作品がとても好きでした。タイトルは「永劫回帰」。男性のおじさんのメタボ体型のお腹なのに下品になっていない。私としては真ん中の色は説明的すぎるので、もはや必要ないのではないかと感じました。この清潔感があれば、男性器やお尻を描いてもいけるんじゃないでしょうか。肌シリーズがもっと見たいなと思いました。

岩渕トリミングが絶妙ですよね。

本吉もう1人の優秀賞は能宮紗良さん。私は、最後の最後に投票した作品です。萌え絵系の絵は流行っていますから、そういうものでいいものがあったら毛嫌いせずに選ぼうと思っていました。審査をしてみると、このタイプの絵が少なかったのは、出す方にもまだ躊躇があるのかもしれません。こういう絵に対して引け目を感じることもないので、その意味も込めて投票しました。
 女の子の絵という点では、中村さんの専門分野ですが、いかがでしょうか。

中村実は、私にはどうしてもまだこの絵が未完成に見えて、今回は投票しなかったんです。絵全体でのメリハリの付け方が足りないので、背景はいっそ真っ黒にする選択肢もあります。おそらく、キャンバスが大きすぎて手に負えなかった部分があるので、この4分の1くらいのサイズで完璧に描ききった作品が見たいです。力はあると思いますから。ただし、このサイズに挑戦したことはとても評価しますし、ぜひこうした意見を活かして次は大賞をとって欲しいと、審査員としても、イラストレーターとしても、とても期待しています。