ターナー色彩株式会社

TURNER AWARD
2014 審査員の言葉 大賞専門学校最優秀賞高等学校最優秀賞未来賞専門学校優秀賞優秀賞入選学校賞募集要項

審査員による作品講評会

TURNER AWARD 2014 審査を終えて

岩渕 貞哉(『美術手帖』 編集長)
O JUN (画家 東京藝術大学教授)
大島 賛都 (アーツサポート関西 チーフ・プロデューサー)
本吉 康成 (『イラストレーション』 編集長)
八木 秀人 (アートディレクター)
(五十音順・敬称略)

12月10日・TURNER GALLERYにて収録
O JUNここ数年、審査にかかわってきましたが、何かが変わってきたという印象を受けます。絵のタイプが開かれてきている感じがするんですね。とくに高校生や専門の学生の中には今まで見られなかった傾向の作品が入ってきています。描くことに肩肘はらないというか、ドローイング的な要素が出てきているかなと。

岩渕久しぶりにターナーアワードの審査に参加しましたが、以前は多く見られた、オールオーヴァーな細かく描き込んだ作品や若い自意識をそのまま吐き出したような具象画が減りましたね。むしろ、見る人への視覚効果を狙ったような作品が増えていると感じました。

本吉私は去年に引き続き2回目の審査になります。前回と比べるとわけのわからないものが少なくなったという印象があります。考え込まずに楽しく描いている作品が多くなっていますね。

八木私は今回がはじめてで、新鮮な気持ちで審査をさせていただきました。普段はアートディレクターという立場で仕事をしているので他の審査員の方々とは違った見かたになると思うのですが、今回気づかされたのは、アクリルガッシュを使った表現の多様性です。アクリルガッシュで描いた絵にはベタ塗りの平面的なイメージがあったのですが、実際はマチエールを使って立体的に盛り上げていたり、変形したキャンバスに描いたりと、やり方によっては際限なく表現できることを知って逆に勉強になりました。

大島今回は1次の書類審査で絞り込みをきつくした結果、最終審査では作品すべてを並べることができて、より客観的な審査ができました。応募総数としては少し減っていますが、全体的にはレベルが上がっていると思いますね。

O JUN前回との比較でいえば、今回は平面作品の規定に変更があったんですね。最大サイズが100号Sから50号Sに変わったんです。

八木その意味で、大賞の城野紗貴さんは規定サイズぎりぎりの大きさで迫力がありました。大きいけど緻密で、引いても寄っても強度のある作品で他を圧倒していました。審査員満票での大賞受賞です。

O JUNこの作品は最初から目に入っていて印象深い作品でした。
遠めに見ると、金網越しにシーズンの過ぎたプールサイドの風景が郷愁を誘うように描かれているのですが、何か絵がざわついているという感覚がある。それは近づいてみてわかったのですが、表面に複雑なイメージを錯綜させるように描き込んでいるんです。

岩渕写実的な描写にレイヤーを重ねるように、微細な線画が描かれています。これは、現実世界の上にネットワーク空間を重ね合わせて見る、現代の人間の拡張現実的な世界認識の感触がうかがえました。またこれは想像ですが、彼女は筑波大生なので、東日本大震災での原発事故による放射能の拡散など、不可視なものが空間に漂っている不安や、それを可視化することで理解しようとする動機が背景にあったのかなと感じました。これも今の時代の感覚を良く表していると思います。

本吉オーソドックスな絵として見ても強さがありますし、レイヤー的に描かれているという発想にもインパクトがありますよ。

大島私は1次審査からかかわっているのですが、1次の写真審査では陳腐な構図の作品に見えたんですね。でも、実物を見ると圧倒的な存在感があって、素材の使い方も工夫されていますし、非常に充実した絵になっていますね。

O JUN専門学校最優秀賞の武藤真仁さんの作品は、まわりの木枠がとても複雑な構造をしてね。横から見ると層になっていて。

八木フレームに木の質感を残しているのが興味深かったです。

大島工業デザイン的な光の映り込みにも見えるし、平面分割的なモンドリアンのようにも見える。現代的デザイン的なものとオーソドックスなものとの組み合わせで新しいものを生み出そうという工夫を評価したいと思いました。

岩渕タイトルが「Listen to the World.」なので、耳の中、内耳の構造をイメージしているのかもしれませんね。

大島音楽を形にあらわしているのかも。

本吉最初、平面構成としておもしろいと思ったのですが、よくよく見ると立体的な要素もあって、そこも評価のポイントになりました。

岩渕ただ、もう少し違った色彩のパターンでも良かったかなとは思いました。

八木コンピューター系の専門学校の方ですね。ふだんデジタルの世界にいる人がなぜこういったアナログ作品を作るのかなと興味を持ちました。コンピューターの世界をアナログで表現しようとトライしているのでしょうか。

本吉この何年か、デジタルの世界の人がアナログ的に身体性を前面に押し出した作品をつくる場面を見ることが多くなっています。この作品はそうした流れにも位置づけられるかもしれません。

岩渕高等学校最優秀賞の木下美奈さんの作品は、車のシートから見えるものを描いた3点組です。車の窓を流れる夜の街のネオンを携帯電話で撮った写真を描いたような作品は、そこから夜景の高揚感や寂寥感のような感情が読み取れず、とてもフラットな感覚で描かれていて、そこが流れる景色がデジタルカメラが光のデータを受容するように、夜景の光が人の視神経を一瞬刺激して通りすぎていくような感覚が面白かった。

八木小さくてかわいらしいですよね。黒がベースになっているのが効いているし、光のぶれに焦点をあてているのがおもしろい。光の軌跡がある種の抽象性を獲得していると思います。

本吉光学的な効果を絵にするのは新しいことではないけれど、作家が新鮮な気持ちで描いているのが伝わってくるいい作品ですね。

O JUN次は未来賞の原里美さん。僕は一番好きだね。敗者復活であがってきた作品です。

八木正直、僕はどんなところがいいのかわからないから、みなさんに伺いたい。

O JUNイメージは人物なんだろうと思います。描くということは必ずしも見えるままを写すのではなく、色と筆触とがよれ合いながら筆が遊ぶように動く中であらわれてくることもあると思うんです。原さんの作品はその典型ですね。こういう作品が僕たちの目の前にあるというのは、おもしろいリアリティだと思います。

岩渕どんな人がこれを描いてるんだろうという興味を掻き立てるような絵ですね。

本吉僕は最後に一票投じたのですが、実は最後まで何がいいかわからないまま、気になり出したら最後まで心を惹かれてしまった。「投票させられちゃった」という感じです(笑)。

O JUN美大生にもなると、公式通りに絵を作っていく技術をすでに身につけているんだろうけど、原さんはまだ高校生。型にはまっていない分、自由に描けていると感じますよ。東京藝大で僕が教えている学生も何人か上位に残ったんだけど、比べちゃうと見劣りするかな。

大島技術的には未完成だけど、原石として何かを持っている感じを評価したいと。

O JUNもちろん彼女は今後、技術的なトレーニングを積む必要はあるんだけど、一度こういうものを描いちゃったという事実が残るのは作家にとって大事なことだと思います。

八木一方で同じく未来賞の中根唯さんの作品は、さすが東京藝大という作品でした。キャンバスの角を丸くしたりとテクニックも多彩でした。

O JUNパネルにモデリングペーストをして、やすりで削っているのではないかと思いますね。おそらく手でペーパーをかけているので、よく見るとでこぼこになっていますが、それも味になって作品の一部になっています。

大島これも票を多く集めた作品で準大賞といってもいいですかね。雪をイメージしたシェイプドキャンバスで、キャンバス自体が造形物のようです。ブリューゲルを思わせるように、若干の既視観はあるけど、技術的にも見る人を楽しませている点など、絵の作りかたとして好感が持てました。

O JUN中根さんは去年も入選していましたね。技術的も上がっているし、前回よりも自然になっています。

本吉個人的には大賞と同じくらい好きな作品です。遠景が少しずつグレイッシュになっていく部分など、とても丁寧な絵作りで、日本人の琴線に触れる作品だなと。
 同じく未来賞の鶴岡季歩さんは、「おじぎ」という日本的なテーマをユーモラスに展開しています。服や身体の一部を白で抜いて背景と同化させていく画面の作り方なども、興味深く拝見しました。

八木鶴岡さんの作品はグラフィックデザイン的というか、ガッシュの持っているよさをうまく使っているかな。人物の大きさを変えて奥行き間を出していて、独特の感性が伺える絵ですね。

O JUN横位置の画面とモチーフとがうまく合っているよね。

岩渕次は、未来賞の菊池遼さんと吉野ももさん。菊池さんは作品の裏側に蛍光色が塗られていて、壁面に設置したときに反射光で壁がオレンジに光る効果がある作品。彼はもう1点出品していて、ふたつ並べることで、その視線の往還から第三の面が浮かび上がるような効果がありそうで、そこに興味を持ったんですが、それぞれ別の作品でした。
吉野さんは、丸めた紙をトリックアート的に描いた作品。近年、アートシーンではもの派の再評価が世界的に進んでいます。もの派の直前に中原佑介さんと石子順造さんが企画した「トリックス・アンド・ヴィジョン」という動向などを連想させる作品でした。絵画の視覚的な効果を強調して、見る人の鑑賞体験のなかで成立するという平面作品です。この傾向はどこから来るのか、僕の個人的な興味を喚起したこともあって取り上げました。

本吉菊池さんの作品はグレイの床においてあった時はその効果がわからなかったけど、白い壁にかけてなるほどと。吉野さんは去年も賞を取られていますが、コンセプトがおもしろいですよね。

O JUN吉野さんはターナーアワードに出すときは作品単体で出すんだけれど、普段は壁にかけるとぼこーんと穴が開いてみえるといったようなスケールの大きい作品を作っています。作品を置くことで空間そのものを変えていこうというおもしろさというか、そういう表現の幅が彼女の魅力ですね。

八木トリック的な部分も素晴らしいのですが、シンプルに描写力が高い。小さい作品ですが、引いて見るとよりわかりますね。
 次は専門学校優秀賞の3人から、吉川知沙さんの「ほかほか」。これは幸せそうなモチーフですね

本吉テクスチャーの作り方がおもしろい。モデリングペーストでしょうか。紙を貼り付けてもいるのかな。

O JUN僕にはテクスチャーと描いているものがマッチしていない印象があります。このモチーフであればふつうに描いてもいいのかとも思うのですが、それだと退屈だと思ったんですかね。

本吉おいしそうなご飯かというとそうではない。絵本に出てくるような造形の強さがこの作品の魅力かなと思います。

八木岩橋かなえさんの作品では、まずキャラクターに目をひかれました。見たことのないキャラクターで、これは何だろうと。単純に衝撃を受けました。

O JUN強い絵ですね。大賞の城野さんもそうだけど、細かい手が画面の随所に入っていて、全体の印象を支えている。

本吉今回、物語性を持っている絵が少なかった中で、岩橋さんの絵は強く物語の要素を持っていて、それに惹かれて投票しました。

大島中村元哉さんの作品は、原発の除染作業などを思わせる社会性のある絵ですが、絵柄的にはSF風です。この作品も1次審査では弱かったけど、実物はなかなかおもしろい作品でした。映画館の看板みたいな雰囲気もありますよね。

本吉そうですね。僕もSFイラストの世界を思い出しました。社会的なテーマと考えると、ここまで正面から描いたものは珍しいのかな。

岩渕最後に優秀賞の中から気になる作品について触れておきたいと思います。僕は木村有輝子さんの「ある晴れた日の午後に」に注目しました。この人は描ける人、描くべきものを持っている人だなというのが第一印象でした。大きな画面に挑戦してもらいたいですね。

大島私は渡部未乃さんの作品をあげておきます。平面構成的なものと具象絵画を組み合わせる試みはこれまでもいろいろとあったのだけど、この絵はそのいずれにも収まらない異質な作品。絵としてはこなれきれていないけど、そうした狙いに好感を持ちました。

岩渕この風景のだまし絵的な脱構築と色遣いは、タイガー立石を彷彿とさせますね。

本吉僕は小林あずささんの作品ですね。東京藝大の学生さんですが、髪の毛とか布とかタコの脚といったモチーフを執拗に描いています。一見気持ちが悪いのですが、その執拗さがだんだんとおかしくなってくる。
松村勇さんの作品は一通り審査が終わり気が緩んでボーッとしてきたときに目に飛びこんできたんですね。逆に神経が研ぎ澄まされているときは選ばなかったと思います。不思議とやさしい雰囲気が伝わってくる作品です。

O JUNきれいな絵ですよね。僕は田上伊織さん。みなさん「ええっ」と思われるかもしれないけど(笑)。描きっぱなしで野蛮で放り投げているような絵ですが、描いて「どうだ」とぶつけてくるような野蛮な感じがとてもいい。もうちょっと見てみたいけどね。

本吉タイトルは「野生」ですって。

O JUN野蛮というのはあながち間違ってないのかな。

本吉ここで筆を止める勇気があるという言い方もできますね。

八木僕は、渡辺佑基さんのお尻の作品。個人的に買いたいくらいに好きですね。女性のお尻はみんな好きなんですが(笑)、それをハートの形をを逆さまにして作品にしている。しかもきれいで柔らかい色彩で描いていて。たまたまですが、重さもいいななんて(笑)。