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審査員の言葉 大賞未来賞入選学校賞募集要項2010TURNER AWARD

審査員の言葉

大島賛都(サントリーミュージアム[天保山]学芸員)
今年から初めて審査に参加させていただいた。学芸員として主に現代美術を扱ってきた者であり、また、主催者から自身の価値観に基づいて審査をして欲しいとの申し出があったため、過去の基準にとらわられず、日頃感じているところの美術の問題に即して審査をさせていただいた。ジャンル不問のアワードであるが、これまでは、いわゆるイラストレーション系の作品が目立っていたように思う。もし今年の入選作の傾向に少し変化が感じられるとしたら、それは今回の審査員が共有していた意識−表現により普遍性を求めた結果−であるだろう。そうした普遍性の所在は、現代美術と「イラスト」を隔て、ひいては作品に国際的な受容をもたらすものとなるはずだ。今回の審査を経験し、本アワードの今後の展開が大いに楽しみとなった。

私は今回一次審査から関わらせてもらったが、1,297点の応募作品を見て全体的に感じたことは、ストライクゾーンに入ってくる作品が意外と少なかったことだ。入念に準備をしたと思われる作品には、過去の傾向を意識し過ぎているようなものが少なくなく、一方、斬新さが感じられる作品には絵画としての厚みがどこか足りない。後者の場合、おそらく気軽に応募できることが良くも悪くも作用しているようだ。

その一次審査の段階から、私は今回未来賞を受賞した升谷真木子の作品に注目していた。ターバンにファンタジー性を求め、それらをユーモアを交えて類型化させて見せる視点は見事に斬新であるし、技法的な洗練性もあって絵画として大変面白い。ただ米国の作家バリー・マッギーへの無邪気なる近接を思わす点が少し気になるところだ。

大賞の和田百合子の作品は、画面を漂うとらえどころのない不思議な雰囲気が絵画的な強さに転化されている点が大きな魅力だ。タイトルも含め、シンボルや引用がベタな描写と等価で扱われ、作家の意識の所在がいまいち不明なその潜在性が帰着する先に、大きな期待感を抱かせる。本アワードの新しい方向性を示す意味でも、今回の大賞に最もふさわしい作品と考えた。
天明屋 尚(現代美術家)
今年で2回目となる審査でしたが、昨年よりも全体的にレベルが上がっていたように思います。ですが、入賞作品(大賞・未来賞)に決定的に抜きん出た作品がこれといって無かったため大賞を決めるにあたり二転三転し、最終的にはサイズの大きな作品が大賞に選ばれる結果となりました。大きなサイズや2点以上の作品を応募してくる学生達は小さな作品や1点だけで応募してくる学生達よりも、パワーや存在感、世界観や説得力があったように感じます。審査の裏話しになりますが、一時的に大賞候補になったS100号の作品が規定外のため大賞を惜しくも逃しました。私はこの作品をとてもかっていたので残念でなりません。賛否あるかと思いますがあえて言わせて頂くなら美術の世界には基本的にルールなどありません。しかし、公募展の場合にはルールを外れると入選すらできなくなります。そんなのはあたり前なことなのですが、美術のルールとは?と改めて考えさせられました。また、作品の表層だけからは感じ取れない世界観をタイトルに求めるのは良くないことなのかもしれませんが、今回の審査では大賞を決めるにあたり私は作品タイトルも重要な評価基準とさせて頂きました。作品のタイトルはその作品を象徴する重要なコンセプトを孕んでいると考え、評価対象としました。悪い言い方をすれば、ある一定のラインをクリアした作品群による団栗の背比べ的な状況において、サイズ、作品点数、タイトルと言った作品自体のアウラを越えた部分に審査基準が及んだことは今回のアワードを象徴する出来事だったように思います。
名和晃平(彫刻家)
1次審査は写真資料での選考だったが、 絵の具のテクスチャーやマチエールが読み取りづらく、 写真とタイトルだけで選ぶのは難しかったため、直に見てみないと判断出来ないものにはとりあえず票を入れた。その結果、1次を通過した作品が例年よりも多めだったらしい。全体の印象としては、洋画や日本画など絵画のフォーマットよりもイラストレーション、ポスター、グラフィックに寄ったものが多くみられ、絵の具の会社が主催するアワードの特性が顕著に感じられて、個人的には興味深々だった。また、高校生から大学生まで年齢層の幅が広いこと、教育機関からの推奨と指導が積極的に行われているところも特徴だろう。例えば、ある学校からの応募を集合的に捉えると教える先生のディレクションが見えてくる。あるいは、そこから脱却しようとする生徒の意志も見え隠れする。非常にリアルな教育の現場、さらには日本のアートの裾野を見る想いがした。

2次審査では審査員の票は完全に割れていた。僕の当初の意見は「今回は大賞はなし」だったし、他にも実は大賞に決まりかけていた作品があったが、長い議論の末、和田さん(この方のすごいところは、申請資料に書かれていた絵の向きが縦横間違っており、さらにはキャンバスの裏のサインも上下逆で、審査員全員を混乱と動揺に陥れたこと!)のものに決まった。審査会場の広さ、審査員の持ち時間にも左右されるが、多くのアワードでは、最終的には実物を一部屋に一辺に並べて比べることになる。すると、必然的に審査員は離れて見ることになり、画面が大きなものほど有利になってしまう。もちろん、それだけで決めてしまうほど、今回の審査員の方々の目はフシアナではないが、あまりに意見が割れる(絵画表現のフォーマットに種類がありすぎて相対化しづらい、そもそも飛び抜けてすごい作品がなかった、というのが一番の原因)ので、コンセプトやコンテクストではなく、その一点の画面性とかスタイルの持つ可能性が評価のポイントになりやすいのは事実。

また、稚拙なタイトルのせいで観る側の想像にブレーキをかけ、逆に損をしてしまっている方が多かったように思う。最後に、立体も出せるという条件だったのに、十数点ほどしか応募がなかったのはとても残念だった。絵の具を使うことが条件かもしれないが、それを逆手にとったような表現や絵の具という素材そのものを分析的に扱った作品がもっと出て来ても良いんじゃないだろうか。
切明浩志(イラストレーション 編集長)
全体にパンチ力や刺激に欠けるかな…。合議の末、最終的に並んだ10数点の作品を見て思った率直な感想がこれだった。どれも技術力は高く、見た目も気持ちいい。それは十分に評価の対象となる。

一方でそんなことをぶち壊すような、圧倒的な作品に出合いたい。そう思って審査会場を見回す。行儀良い作品が多く目立つ。表層はそうであっても、その奥にパッションを秘めた物、何かを深く突き詰めた痕跡、そんな物を見つけたいと願う。大賞を選ぶ段階で、二転三転したのもその要素が影響した。  入選作では豊田真理沙さん、荒川夏名さんの作品が印象に残った。他者とは違う形を模索する姿勢、応募規定ギリギリで遊ぼうとする気持ち。停滞する時代の中で、そんなトライがもっと求められている気がする。

選考後半には作品を並列に並べ検討した。そうなると「作品の大きさ」「存在感」も意識する。何故その大きさで描いたのか。コンペではこれも大事なファクターである。

最後に現在のアートとイラストレーションの表現スタイルについても一言。イラストレーション専門誌を作る立場から見ると、アートやマンガ、その他の表現ジャンルとの境界線は徐々に薄れる流れが続き、今はボーダーレスと言ってもいい。プロを目指すならジャンルを気にした絵でなく、「絵を描いて生きて」行ける表現と手段を懸命に模索すべきだ。そこには自己プロデュース力(自分の見せ方)の鍛練も含まれていて、表現者にとって、よりシビアな段階へ進んでいる。

同時に絵の力でワールドワイドに発信/表現する機会は確実に増えている。日本から世界へ、新たな表現を発信できたら、と願いその芽を待ち望んでいる。ぜひ頑張って欲しい。


中村政人(アーティスト・東京藝術大学准教授)
全体的な印象としては、具象的イメージを直感的、衝動的に短時間で描いている表現がとても多く、絵画を組み立てる制作姿勢にプロフェッショナルな意識を感じる人は少なかったようにも思えます。また、学校の授業で描き、課題でテーマを与えられたり、先生の指導が入っている画一的な表現意識の作品も多くみられました。アワードの出品規定のためか平面作品で運搬しやすい小ぶりな作品が多いのも残念です。その中で入選した作品は、自己の表現を抱き始めており、自立した制作活動ができるアーティストとしての可能性を評価されたとおもいます。「イラストレーション」「絵画」という枠組を意識することなく、社会や時代、日常を深く洞察し新しい価値観を抱く鋭い表現を期待したいと思います。

大賞の和田百合子さんの作品は、画面に登場させる一つ一つの要素が織りなすイメージの脱構築が特徴的です。イメージから受ける素直な印象を狙っているのではなく、そのイメージが消費されてしまった後に残るぽっかりと抜けた虚無感、そこ薄く残る空白としてのイメージ。そしてその空白に入り込む新しいイメージの構築と消費の連続。そのトートロジカルなあがりのないイメージの罠は、解釈を多義的にしミステリアスな謎に満ちた作品として印象づけます。より大迷宮に迷い込むような作品の展開に期待したいと思います。

未来賞の升谷真木子さんの作品は、独自なフラクタル理論とアルゴリズムを駆使して自己組成するようにターバンの巻き方を論理的に絵画で展開している。というように解釈すると、一つ一つの組み合わせ方に無限の可能性が感じられて絵画的展開に期待感がもてます。ミュージアムピースとしてのスケールの大きな作品を見てみたいと感じさせます。才本亜矢さんの作品は、アワード規定外のサイズのものが一番魅力的で、描かれている対象と画面のサイズによって大きく完成度に差が出ているように思います。食べ物にたいする独自の世界観が先行して見えてきますが、基本的な絵画の構成要素としての色彩の発色と形の味わいの純度を高めるとより魅力的に展開すると思います。

審査時には、作品のメッセージ性、表現の動機、アーティストとしての可能性の三つを基準に評価しましたが、アートの可能性は、このアワードの審査だけで判断できるものではありません。入選しなかった作品にも審査員の先生が気づかなかったものが多くあると思います。今回、応募した作品は大切に保管し、次回作にチャレンジしてほしいと思います。