Golden History

 

Techniques for Cleaning Acrylic Paintings

アクリル絵画の洗浄技術

家庭やオフィス、特に公共の場では、他のものと同様、絵画の表面にも空気中の塵が積もります。故意にまたはうっかり絵画に触れることもあり、そのために汚れることもあるでしょう。アクリル絵画は特性として、塵や埃を引き付け定着させる好ましくない傾向があります。静電気を帯びやすいため、塵を引き付け定着させてしまうというのはなるほど理屈ですが、この特性が塵の誘引の主因であるかどうかにかかわらず、アクリル絵画と修復について修復家とともに研究した結果、アクリル塗膜の熱可塑性が表面への粒子付着の大きな要因になっていることが分かりました。

「熱可塑性」とは、樹脂の相対的な硬さや柔軟性が温度によって変化する性質です。温度が上昇すると、アクリルは柔らかくより柔軟になり、粘着性が出てきます。そうすると、表面に積もった塵は接着し、やがてそれを取り除くには強制的な手段が必要になります。こうした問題が起こりにくい硬い樹脂を選んで絵具を作ることも可能ですが、そのために犠牲も生じます。アクリル絵具の基本的な特徴は、本質的に備わった塗膜柔軟性であり脆さの克服です。硬いアクリル樹脂を使うということはガラス転移点(GTT)が上昇することを意味し、その結果、絵画面には運送中の衝撃や移動でヒビ割れが生じ、プラスチックのように屈曲せずにガラスのように割れてしまう可能性が高くなります。GTTを上げるということは、取り扱いを誤ると恒久的な損傷が生じるリスクが高くなるということです。ゴールデンのアクリル絵具は、塗膜の柔軟性を最適にし、適度な低さのGTTを維持できるように配合しています。しかしながら、これは保護されていないアクリル画にはより強制的な洗浄手段が必要になるというリスクが高まることを意味します。

絵具の構造の性質もまた、異物の付着性や付着後の洗いやすさに影響します。作品制作における材料選びや展示場所、展示条件を決める際にこの点も考慮すべきです。例えば、アクリル絵具を使うと、速乾性で変形しない素晴らしい盛り上げ効果が可能になります。しかしこのタイプの画面により作られる形状には多くの水平面が生じ、棚のようになって塵が舞い降り、やがては食い込んでしまうでしょう。あるいは窪みや穴ができて空中の埃が溜まるでしょう。こうした性質が複雑に絡み合い、これらの表面は洗浄が非常に困難になってしまいます。

より微視的には、アクリル絵具の膜は、乾燥時に水が蒸発する際、小さな空隙が残され、収縮により表面近くの固形分が突出するために、比較的多孔質になります。このような微妙な構造から、汚れやすく洗いにくい表面になるのです。同様の現象は、屋内用ハウスペイントのツヤあり塗料とツヤ消し塗料の違いにも見られます。この特徴は、専門家仕様の製品において顕著です。例えば、ゴールデンのパステル用のプライマーはその表面に接触する柔らかい材料を削り取り定着させるのに適していますし、アブソーベントプライマーは画面にニジミを描くときに特に効果を発揮します。従って画面を保護しなかった場合、どちらも通常のアクリルジェッソに比べると、汚れる危険性が高くなり、洗浄は難しくなるでしょう。

アクリル絵具の利点であると同時に注意を要するもう一つの特徴は、接着性、特に乾燥の最後の過程におけるその機能です。この性質は保存性のある手段で素材をまとめたいコラージュアーティストが効果的に使っていますが、それはアクリルが伝統的な糊材と違って、長期間経過しても脆くならず、水溶性でもなく変色もしないからです。しかし、この性質のために、もし乾燥の最終過程で表面に異物が着いてしまうと作品は永遠に損なわれてしまいます。例えばサンドペーパーをかけた時の塵がスタジオ内に浮遊している場合などにそうしたことが起こり得るでしょう。

ゴールデンのゲルやメディウムなど、樹脂が単独で機能する場合、アクリルならではのもう一つの次元が視覚効果に加わります。透明なメディウム層を通して下層が見えるようにしたい場合、表面が汚れていては興醒めです。除去可能なワニスを使わずに、アクリル樹脂のメディウム(例えばゴールデンのグロスメディウム)で透明な仕上げトップコートをすることがよくありますが、このような使い方は、一旦汚れると、効果的にクリーニングすることができなくなる危険性があります。特にクリーニング過程で画面を物理的に擦ることになれば、光の透過性に影響を与えずに済ますことは困難でしょう。

アクリル絵具の多様な性能を引き出すための補助材、乾燥を遅らせるためのリターダーやにじみ効果をよくするためのフローリリースなどを多く使いすぎても、塗膜に塵がつきやすくなります。リターダーは乾燥時間を延ばし作業時間も延びますが、同時に乾燥が不十分なのに作業できない時間までも長くしてしまいます。この間、塗膜は空中からの塵の付着に対し敏感な状態にあります。同様に、アクリリックフローリリースを使いすぎると、塗膜の粘着状態が長く続くことになります。

アクリル絵画にはいずれクリーニングが必要になるということを知っておけば、クリーニング処理を避けるか先延ばしするためにどうすべきかを考えることが出来ます。これは保存手法の第一段階です。つまり作品に対する処置の必要性を防ぐということです。

なぜクリーニングの必要性を最小限にするのか

画面に触れるたびに、作品は幾分かの変化や損傷を受ける危険性にさらされます。画材は出来る限り保存性があり長持ちするように作られるべきであると長期的に考える場合、ここに提案するクリーニング方法も同様のテーマに沿うものです。絵画のクリーニング回数が少ないほど、恒久的な損傷を受ける可能性も低くなります。時にはそのような影響はほとんど微視的なものです。例えば、布で画面の塵を拭き取った場合に起こり得る小さな傷とか、あるいはマイルドな洗浄剤を使った場合に画面の水溶成分を少量除去してしまう心配などです。それに対し極端な例は、素人の誤ったクリーニング方法による恒久的な目に見える変化です。例えば、ステイン技法の絵画を湿式クリーニングしたために、汚れの筋が出来てしまった場合とか、あるいはつや消し画面の塵を拭き取ろうとして擦ってしまい光沢が生じた場合などです。もっと悪い例として、脆弱な画面を強くクリーニングすると、画面が目に見えるほど大きく下地から取れてしまう場合もあります。

変化の大小にかかわらず、芸術は永続するべきだという考え方からすれば、作品のクリーニングによるいかなる変化もその可能性も、その理念に反することになります。ですから、修復専門家による絵画のクリーニングが作品の寿命を最大限にする最良の方法となります。専門家は最小限の処置からスタートし、必要に応じて徐々に強制的な手段を使うという段階的手法を用います。しかし、洗浄行為が作品に恒久的な影響を及ぼすリスクを考慮すると処置にも自ずと限度が生じ、洗浄するほどきれいになるという気持ちが抑制されます。

一般的なアクリル絵画の洗浄方法
美術品の修復に携わる人たちと話をするときに、「どのようにしてアクリル絵画を洗浄していますか?」とよく質問します。「洗浄には苦労するよ」という答えが最も一般的ですが、私たちはもっと具体的な答えを求めています。この会話から、また修復に関する出版物やシンポジウムの資料に事欠くことからも、この分野にはもっと研究の余地があると感じます。しかし、絵画の洗浄方法において記載するに値する一般事項があります。以下の一連の処置は、話をした数人の修復家の手法をまとめたものです。この分野では確定的な研究が不足しているため、ここに紹介するアイディアの中には実験と考えるべきものや、もっと議論した方がよいものも含まれています。

1.       最初に検討するときとその後の各段階において、「予定していた処置は本当に必要だろうか?」と自問することが必要です。修復における現在の倫理は、絵画の処理を最小限にとどめることとしています。それは、修復という職業の創成期や発展段階において作品に取り返しのつかない変化が生じたことを知っているからです。できる限り絵画に接触しないことでリスクを最小限にとどめた単純な処理は簡単に採用できるかもしれませんが、結果が保証されていない強制的な湿式クリーニングはよく検討すべきです。

2.       どのような処理計画をたてようと、作品がそれに耐えられるかどうかを判断するために、表面を慎重に検討します。表面は安定しているか?接着が脆弱な場所や結合の弱い絵具や脆い部分がないか?画面の光沢はどの程度で、どのような影響を受けるのか?ワニスを塗っているか?塗っているとすると、ワニスを安全に除去することはできるのか?作家が使用した素材を知ることはきわめて有益です。そのため、作家が下地の準備、メディア(材料)の種類、使用した遮断コートおよびワニスについて詳しく記載した文書を作品とともに提出すると役に立ちます。作家もこの記録を1部コピーして持っておくとよいでしょう。

3.       除去しようとするものの性質を判断します。表面に塵や埃がついているのか?汚れが食い込んでいるのか?あるいはその両方の現象が起こっているか?

4.       どんな面でも接触を最小限にすべきであることを認識しましょう。そのつもりで最初の洗浄を計画すべきです。圧縮空気を使って表面の塵を吹き飛ばすのも一つの方法です。塵を捕らえて除去するために、柔らかいセーブルのブラシを使って表面にかるくブラシをかけながら、掃除機を画面から離れた位置に保持して塵を吸い取るという方法もあります。

5.       塵が食い込み、掃除機で全部吸い取ることができない場合、次の処置レベルで用いるのは、より強制的な表面接触を伴う乾式(ドライ)クリーニングです(衣服を溶剤で洗うドライクリーニングと混同しないでください)。残留物を出さずに塵と塗膜との物理的接着を克服することができるとされる疎水性のスポンジと分子吸着剤(活性炭やゼオライトなど)などの素材を使います。消しゴムなどの素材は塗膜の穴に入り込む可能性があるため、使用しないでください。残留物が残らないという確信があれば、テープを使って画面から塵を除去することも可能です。柔軟な下地に描いた作品に表面接触を伴う洗浄方法を使うときは必ず、できる限り画面を反らさず、作業抵抗性を均等にするために、適切に裏を固定することをお勧めします。

6.       最後の手段として、湿式クリーニングが必要なこともあります。一般的に、安定した損傷のない画面にのみこの方法を使います。この方法の潜在的危険性は、液体洗浄が塵をこびりつかせ、事態を悪化させたり、下地に汚れの線が生じたりする可能性があることです。これは可溶化した材料が液の周端に濃縮されることが原因です。表面における湿式クリーニングが塗膜内に流動学的な差を生み出すためであるとも考えられます。

長い年月をかけて実証された有効な洗浄技術は、婉曲に「酵素洗浄」と呼ばれています。これは、清潔な綿棒を口で湿らせ、画面上を転がすという方法です。唾液は温かく、酵素を含んでいるため、「汚れ」の二大成分である脂質とたんぱく質に作用するのです。摩擦が生じないよう、擦るのではなく、画面の上で綿棒を転がすのが正しい方法だということにご注意ください。できるだけ優しく作業を行い、表面の湿気を最小限に保つことが重要です。最初に、絵画の最も目立たないと思われる小さな部分でテストします。処理の各段階で、ツヤの変化や綿棒についた絵具を注意深く観察します。作品から汚れと湿気を取り除くために和紙で作業することが必要な場合もあります。湿式クリーニングでは、脱イオン水も適切な選択といえるでしょう。

余談ですが、綿棒を使って小さな部分の作業する方法では画面がまだらになるおそれがあるという懸念を耳にしました。おそらく、使用した水分と圧力の量や取り除いた塵の量などの要因に若干の差があったためにそのような問題が生じたのだと思われます。

7.       最終段階(最初の段階でもあります)は、処理の必要性を生じさせた状況を検討することです。より清潔な環境を見つけることができるか?除去可能なワニスを塗るべきであるか?

Recommendations

  • 美学的に適切であれば、洗浄しやすくするためにアクリル絵画に遮断コートとワニスを塗ります。ポリマーワニスやMSAワニスなどの除去可能なワニスを使用してください。除去可能なワニスを塗ると、画面洗浄時のリスクははるかに低くなります。ワニス層に傷がついていたり、塵が恒久的に食い込んでいたりする場合、この層を犠牲にして除去し(ポリマーワニスおよびMSAワニスの除去技術についてはゴールデン社技術データシートをご参照ください)、新たにワニスの層を塗って作品を当初の外観に戻すことができます。
  • 積極的な予防策を講じてください。可能な限り最も清潔で最も通行量の少ない場所に絵画を展示します。できる限り空気中に埃が浮遊しないよう、掃除のときは箒よりも掃除機やモップを使用してください。
  • できる限りアクリル絵画を高温にさらさないでください。埃っぽい場所では特にです。たとえば、暖房の吸気口の近く、直射日光が当たるところ、屋根裏などです。
  • 保護されていないアクリル画面の埃をはらうなどの、直接接触する頻度をできる限り少なくし、その代わりに圧縮空気を使用してください。
  • 作品と状況次第で適宜、専門家に作業を依頼しましょう。芸術品修復の分野の信頼できる専門家に洗浄してもらえば、その訓練、経験、ツール、技術のおかげで、絵画に損傷が生じるリスクははるかに低くなります。
  • アクリル絵画の洗浄だけではなく、保護にも特殊な技術が必要なことを鑑み、経験の共有を望まれる修復専門家からのご回答を歓迎します。

ConservArt Associatesのレニ・ポトフ氏とデュアン・シャルティエ氏、WestLake Conservators, Ltd.のスーザン・ブラックニー氏には、この記事に関する情報を独自に提供していただきました。ご協力に感謝申し上げます。

誤字脱字があれば偏に筆者の責任によるものです。

ベン・ギャヴェット
GOLDEN Artist Colors, Inc.

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