顔料容積濃度と、色におけるその役割

by Sarah Sands

画像1:水彩絵具、カゼイン、卵テンペラ、アクリル絵具、エンコースティック、油絵具によるコバルトブルーとウルトラマリンブルーを示したCAA材料パネルプレゼンテーションボード


ウルトラマリンブルーやコバルトブルーなど、誰もが知る顔料の名を挙げてみてください。私たちは即座に特有の揺るぎない色を思い浮かべます。それもそのはず‐人は、アクリルや油や水彩など、さまざまな画材を行き来しているため、顔料が常に不変の特徴を持つものだと考えがちです。取扱特性や顔料含有量が変化することは受け入れられても、色は間違いなく一定であると。ちがいますか?この記事では、その疑問に対する驚くべき答えを探求し、異なるシステムで使用されたときに顔料の色が変わる様子を調べます。

その前に、このテーマを選んだ背景を少しお話しましょう。当社は毎年、他のメーカーと共同でカレッジ・アート・アソシエーション(CAA)で行われるマテリアルパネルの企画をお手伝いし、参加しています。昨年は、「バインダー中の顔料」というテーマで、さまざまなバインダー(展色剤、樹脂)が顔料の外観に及ぼす影響を扱いました。R&F Encaustics、Gamblin Artist ColorsおよびNatural Pigmentsと協力し、ウルトラマリンブルーとコバルトブルーの同一顔料を使って、卵テンペラ、水彩絵具、カゼイン、エンコースティック、アクリル絵具、油絵具で調整したサンプルを作成しました。増量剤(体質顔料)は使用していないため、顔料とバインダー単独の相互作用ができる限り表現されています。黒と白の隠蔽力試験紙にこれらをほぼ同じ膜厚で塗付し、2”x 3”の色見本にカットし、ディスプレイボードに慎重に並べました(画像1)。以下はプレゼンテーションに手を加えたもので、これらの異なる絵具の外観と塗膜物性における顔料含有量の役割に焦点をあてたものです。


不変性
分子重量、屈折率、密度、化学組成など、顔料のある特性は不変であると考えられています。絵具メーカーやアーティストとしての仕事の過程でこれらを変えることはまずありません。ただし、そのリストにないものは、特定の顔料に言及するときにほぼ必ず頭に浮かぶこと、すなわち色です。そこで単純な疑問が生まれます:なぜ?なぜ同じ顔料を使用した色見本がそれぞれ異なって見えるのでしょうか?画像1でわかるように、2種類の顔料を6種類のバインダーで作成したパネルは、外観の特徴から大まかに2つのグループに分けられます。一方のグループは水彩絵具、カゼイン、卵テンペラで、明るく、彩度が高く、特にウルトラマリンブルーは不透明です。もう一方のグループ(アクリル絵具、エンコースティック、油絵具)では、色に深みがあり、赤っぽく、特にウルトラマリンブルーはかなり半透明です。

 表1: バインダーと屈折率

一般的にはバインダーの屈折率(RI)が原因かもしれないと思われるでしょう。しかし、屈折率が重要な要因である場合もあるかもしれませんが、この場合、データは単純にその一般理論を裏付けてはいません。明確な違いを説明できるような大きな差がないのは明らかです(表1:注1)。


顔料容積濃度(PVC)
主な原因が屈折率ではないとすると、より有望な可能性は、変化の原因が顔料容積濃度(PVC)の差であるということです。PVCは、顔料の容積を顔料とバインダーの総容積で割った率と定義されます。

PVC = 顔料容積/(顔料容積+バインダー容積)
これは、すべてが完全に乾燥した後の絵具層に含まれる顔料の率を表し、「顔料含有量」について話す時にほとんどの人が思い浮かべることです。確かに、作った絵具を見ると、カゼイン・水彩絵具・卵テンペラの外観と、油絵具・アクリル絵具・エンコースティックの外観に関して気づいた差は、乾燥した膜それぞれに含まれる顔料率の明確な増加と合致していることは確かです(表2)。

表2:6種類の塗布システムにおけるコバルトブルーとウルトラマリンブルーの顔料容積濃度(PVC)率

臨界顔料容積濃度(CPVC)
バインダーと顔料の比率が変わるにつれ、顔料粒子間の空間はすべてバインダーで完全に満たされたままでありながら、顔料が最大含有量になるスイートスポットに達します。この最適ポイントは臨界顔料容積濃度、すなわちCPVCと呼ばれます。絵具システムによって異なりますが、CPVCは一般的に30~60%のどこかです。この連続体(画像2)に沿って移動し、CPVCを超えると、塗膜にはますます多くの空間ができ、その結果、絵具層はよりマットに、より透過性が高く、ますます脆くなります。
  





画像2:顔料容積濃度の図はPVC率の増加を示している。
 (右に行くほど顔料が多く、左に行くほどバインダーが多い)


これらの段階をより図式的に見ると、さまざまな段階で塗膜の中を覗いた場合、乾燥顔料単独のスタート時点と、CPVC状態の塗膜と、CPVCを大きく超える塗膜との下記の対比(画像3)に似たものが確認されるでしょう。

 画像3:イラストは乾燥顔料とCPVC到達時の顔料を示している。


顔料容積率60%のCPVCを超える塗膜の実際の表面は、下記の電子顕微鏡写真にはっきりと写し出されています(画像4)。

画像4:顔料容積率60%のCPVCを超える塗膜の電子顕微鏡写真のスキャン。A Paint PVC Ladder, N J Elton, A Legrixによる光沢と表円構造c 2008, Suroptic Ltd.

上に示した対比サンプルで見たように、表面のテクスチャーが変わるにつれ、絵画の外観も劇的に変わる可能性があります。

絵具がCPVC以下である場合、滑らかな表面の方が光の拡散が少ないため、光の多くが浸透し、顔料に吸収されやすくなります。その結果、色はより飽和し、明度が深まり、通常はより透明に見えると感じられるでしょう。なぜなら、顔料とバインダーの屈折率の差は、顔料と空気との差よりはるかに小さいからです。また画面を見る人に対しては、滑らかで光沢のある表面はより秩序がありコントロールされた状態で光を反射します。ハイライトの感覚や断続的な輝きが見られることがあるかもしれませんが、マットな表面によく見られるような散漫な光の散乱はほとんどありません(画像5)。

画像5:CPVC以下の光沢のある塗膜からの反射

CPVCを超えると、塗膜はますますマットになり、キメのある画面になり、それ以上に増加すると、最後には、顔料の結合が解かれ、一部だけがバインダーの中で保たれ、または付着することになります。この時点において顔料はより大きな度合で光を散乱させます。なぜなら顔料の屈折率と周辺空気の屈折率との間に大きな差があるからです。加えて、表面のキメが粗いと光の散乱ははるかに不規則になり、この散乱して白っぽい光の靄が顔料の色と混ざり、相対的により明るく、しばしばチョークのように、または薄いウォッシュのように見えます(画像6)。

画像6:CPVCを超えるマットな塗膜からの反射

最後に、全体的な散乱は絵具塗膜に含まれる多くの空間やエアポケットの数に影響されます。たまたま表面から塗膜内に入り込んだ光は空間やエアポケットでさらに拡散され、その結果として色が不透明に見える状態、すなわち絵具内に発生した光の靄が内部に生じた霧のように作用することで、表面から下の方が見えることが妨げられるからです。

保存科学の第一人者であるRobert Feller氏は1981年の論文で、PVCを増やし続けながら配合したウルトラマリンブルーの絵具の表面反射率を測定することにより、この外観変化の多くを説明しています。この顔料が完全にバインダーに包み込まれたときの最大反射率の波長である440nmにおいて計測を行いました(画像7)。

画像7:さまざまな顔料容積濃度におけるウルトラマリンブルーの反射率 cAmerican Institute for Conservation of Historic and Artistic Works (AIC) (注2)


ご覧のように、顔料容積比率がCPVCマークの40%に達した後、表面から反射する光の量が突然劇的に上昇し、わずか10%であったものが、PVCが80%に達する時にはほぼ60%にまで上昇しています。ウルトラマリンブルーの6枚の色見本から分光反射率曲線を見ると、440nmマークで同様に上昇していることがわかります。PVCが14~46% から始まる3種類の絵具(油、水彩、円k-スティック)の頂点は反射率が10%を少し超えるレベルであるのに対し、PVCが76~81% から始まる3種類のシステム(水彩、卵テンペラ、カゼイン)の反射率は50%以上のレベルに達しています(画像8)。

 画像8:ウルトラマリンブルーの分光反射率曲線は440nmで反射率が上昇することを示している。

 

コバルトブルーは明らかに異なる顔料で、分光反射率と屈折率も全く異なりますが、それでもなお劇的とは言えないものの、同様のパターンであることがわかります(画像9)。

画像9:コバルトブルーの分光反射率曲線は440nmで反射率が上昇することを示している。


顔料容積濃度が色の最終的外観に影響することにはほぼ疑いの余地はありませんが、他にも着目すべきであるのに見過ごしがちな違いがあります。それを確認するため、調査では3種類の絵具(カゼイン、アクリル、油)に着目し、特にさまざまな配合を考慮したうえで、さまざまなPVC率の影響を明らかにします。

コバルトブルー
アクリル、油、カゼインのコバルトブルーの乾燥した塗膜のPVC率を捉えた場合、下の表のようになります。この表には各システムのバインダーに対する顔料の相対量を示されています(画像10)。

画像10:アクリル、油、カゼインのコバルトブルーに関するPVCの比較

これを見るとアクリルと油では、油の方がPVCが8%高いとはいえ、大きな差があるとは思われません。しかし、それに比べてカゼインは顔料含有率が72%ときわめて高く、驚くほどの差であると思われます。ただし、この数字のみに目を奪われると、システム全体に誤解を生じさせる可能性があります。そのため、欠けている大きな構成要素-すなわちアクリルにもカゼインにも含まれる水-を組み入れる必要があります。その際、油はその性質上100%固形システムであり、蒸発物がないことを念頭においておきます。これにより全く異なる絵が現れます(画像11)。

画像11:アクリル、油、カゼインのコバルトブルーに関するPVC(アクリルとカゼインには構成要素としての水を加味)

これは全く異なる種類の比較であり、個別に考慮した時の広範で単純なPVC率では見えなかった重要な問題が浮き彫りになります。突如として、アクリルとカゼインは、システム全体で比較すると同程度の顔料含有率(10%)になることがわかります。いずれも配合に水が必要であるため、実際、油におけるコバルトブルーの顔料含有率28%に匹敵させる方法はありません。こうして、油絵具は独自かつ無類の濃度を有しているという一般的な感覚がわかります。これは油と顔料を混合粉砕したとき、油の分子はきわめて小さくて顔料を湿らせるのに効率が良いということに加えて、乾燥する際に蒸発する成分がないという事実があるからです。一方で、アクリルや他の水彩絵具は常に、配合時に多量の水を含まなければならないという問題があります。したがって、アクリルと油のコバルトブルーについて、最終的な顔料とバインダーの比率が近いとしても、乾燥前の絵具を触った実感では、アクリルは顔料の含有量や密度がかなり低いものとなります。



画像12:アクリル、油、カゼインのコバルトブルーに関する乾燥後の相対PVCを示している。

画像12における唯一の変更は水を取り除いたことで、それにより乾燥後の対容積顔料比が示されています。単純な割合が他の関係を隠しうることを引き続き明らかにしつつも、依然として最初のPVC率が正しいことがわかります。アクリルにおける最初の顔料含有量10%は乾燥後の最終塗膜の20%に相当し、カゼインの場合もグラフを読みやすくするために四捨五入したため、バインダー比率10/13は最初の比率72%ではなく77%になりますが、大まかには正しいと言えるでしょう。また、カゼインのバインダー率はかなり小さいことに注目する必要があります。言うまでもなく、水の率がきわめて高いため、その結果生じる膜は薄いものになります。非常にマットで不透明である一方、きわめて脆弱で、多孔質で、硬質の支持体にしか適さない塗膜ということになります。他方、アクリルは3種類のシステムのうち圧倒的に柔軟性が高くなります。十分に強いアクリルバインダーは比率も高いために水で1対1に薄めてもなお、接着性と耐久性に優れた膜を作ることができる一方、優れた透明性によりコバルトブルーの色は将来も鮮やかさ透明感を維持することができます。他方、油は常にバインダーが時の経過とともに黄ばんでいくという問題があり、この色の油絵具におけるバインダーの率が72%であるという事実は、多くのメーカーがコバルトブルーや他のブルーをサフラワー油やケシ油で作っている理由を物語っています。たとえこれらの油から作られる膜が脆弱であるとしても、そうせざるを得ないのです。注意を要すべき代償です。

注1) カゼインと卵黄の屈折率の問題に関する若干の情報があります。『The Science of Painting(絵画の科学)』(Mayer,Taft, 2000)ではこれを1.338としていますが、これは水に溶かした牛乳またはカゼインの屈折率を報告した出典に近いものです。しかし、ほとんどの商業的資料では乾燥カゼインまたは粉末カゼインの屈折率は1.54~1.67と記載されているため、ここではそれを使うことにしました。卵黄においても同様の差異を発見することができます。『Light: Its Interaction with Art and Antiquities(光:芸術およびアンティークとの相互作用)』(Brill, 1980)において、1.353という数字が提示されており、これは液状の卵成分に関する多くの商業的報告書に示されている一般的な数値です。一方、ゲティ美術館の保存科学者であるAlan Phenixは、『The Composition and Chemistry of Eggs and Egg Tempera(卵と卵テンペラの組成と化学)』という記事において、乾燥した卵黄の屈折率は1.525であると報告しているため、同様にこれを選びました。このような見解の相違が生じるのは、卵黄もカゼインも天然の状態では水の含有率が高い複雑な乳化物であり、その状態での屈折率は、水が蒸発し固形の膜となったときよりも低く見えるためです。私たちが研究しているのは乾燥状態であり、それが最終的に絵具の色見本から得られる知覚であるため、乾燥卵黄と粉末カゼインに関する屈折率の方が正確であると感じています。

注2) Feller, Robert L. 『The Effect of Pigment Volume Concentration on the Lightness or Darkness of Porous Paints(顔料容積濃度が多孔質絵具の明暗に及ぼす影響)』の図3反射率対顔料容積濃度、ダンマル樹脂のウルトラマリンUB-6917。1981年5月27~31日ペンシルバニア州フィラデルフィアにおける第9階年次会議において提出された論文の原稿。ワシントンDC:アメリカ文化財保存修復学会(AIC) 1981, pp. 66-74.

 

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