紙に塗った透明水彩絵具の上にGOLDENアーカイバルMSAワニスを塗る 

by Cathy Jennings

 

汚れは紙に塗られた水彩絵具の美しい表面を損ない、紫外線はデリケートなウォッシュの色褪せを生じさせます。水彩画を展示する際には保護が必要です。透明アクリル板による美術品保存のための額装にさまざまなオプションが生まれたことにより、伝統的なガラスを使った額装を超えて選択の幅が広がりました。しかし、美術館グレードのUV無反射ガラスやアクリル額装は高価で、作品の運搬時に重量が増す可能性があります。紫外線のダメージに対し、同様の保護を提供できる代替品はあるでしょうか?

ワニスは、ガラスと木枠でできた額縁から水彩画を解き放つ方法を提供します。水彩絵具へのワニスの塗布については、多くの質問を受け取りましたし、その工程について記載した塗布情報シートもあるほどです(注1)。当社のワニスは紫外線から絵具を保護しますので、光による色褪せから水彩絵具を保護するはずです。紙に塗られた水彩絵具が光に曝されたとき、UVLS2入りグロスアーカイバルMSAワニスはどの程度他の保護オプションに肩を並べるでしょうか?それを確かめるために私たちは試験を行いました。

比較耐光保護試験
光によって起こり得る色褪せから水彩画を保護することは、展示に際して考慮すべき重要事項であると言えるでしょう。水彩絵具には微量のバインダーしか含まれていないため、顔料粒子は、アクリル絵具や油絵具に含まれる場合よりも多くの光に曝されます。米国材料試験協会(ASTM)は、各絵画用メディウムに含まれる顔料に関する耐光表を別途提供していますが、多くの場合、水彩絵具の顔料は耐光性に劣ります。

ASTMは、暴露により絵具に生じる変化の度合いを判断する際、「デルタE」という単位を用いています(注3)。デルタEの1単位は平均的な観察者が気づくことのできる最低変化量を表しています。絵画用絵具の耐光性に関し、ASTMは、デルタE単位0~4に相当する色変化を耐光性I(優れている)、4超~8をII(とても良い)、8超~16をIII(良い、永久的ではない)、16超~24をIV(劣っている、褪せやすい)、24超をV(非常に劣っている、褪せやすい)と指定しています。高品質の絵画用絵具の耐光性はIまたはIIです。

比較耐光性保護試験にあたり、下記の3種類の着色剤から作った水彩絵具のライトウォッシュとミディアムウォッシュにおいて、デルタEを測定しました:1) PR255すなわちQoRパイロールレッドライトはASTMにより「優れている」(耐光性I)と評価されており、2)蛍光ピンクの染料と3) PR83すなわち本物のアリザリンクリムゾンを褪せやすいと評価しています。アリザリンクリムゾンは、ASTMが絵画用絵具に関する耐光性試験手順を開発したときに最初に試験した顔料の一つであり、ASTMはこの顔料で作られた水彩絵具の耐光性を「劣っている」(IV)と評価しています(注4)。QoRR Modern WatercolorにはPR83または蛍光染料を含有する絵具は含まれていないため、当社の技術者が今回の試験のためにこの2つの水彩絵具を作りました。今回の調査において退色しやすい絵具が多数を占めたことから「最悪のシナリオ」が想定されましたが、同時にコーティングによる保護能力の有用性を押し広げることにもなりました。

各絵具を蒸留水で希釈し、ArchesR Natural White 140 lb. (300 gsm) Cold Press Watercolor Paperに、強度が中程度のウォッシュ(ミディアムウォッシュ/mw)と軽度のウォッシュ(ライトウォッシュ/lw)を複数回塗りました。希釈率とウォッシュ強度は目視で判断しました。明度における均一性と類似性に関し乾燥したウォッシュを評価し、その後選択したウォッシュを平らにしました。各ウォッシュを四角の色見本に切り取り、未暴露コントロールとして保管するものとコーティングにより保護され耐光保護試験(暴露試験)を受けるものに分けます。

暴露試験による色の変化を比較するためには、色見本を光に当てる前にスタート時点の測定値が必要でした。X-Rite VS450分光光度計により、各水彩絵具のウォッシュ色見本の5ヵ所においてCIE L*a*b*(CIE 1976)の値を測定し記録しました。これらの測定値を平均することでそれぞれの色見本における色の暴露前の値としました。

紫外線促進暴露試験により、色見本とそれぞれの保護コーティングを暴露するために、QUVブース(試験機)を採用しました。QUVのUVA紫外線蛍光管は窓ガラスを通して入る太陽光に似たUVスペクトルを発します(注5)。各400時間サイクルの促進暴露はおよそ33年分の美術館照明に相当します。QUVにおいて3セットの色見本を400時間、800時間、1200時間にわたり暴露させました。これにより約33年、66年、99年分の照射に相当する比較測定値が得られました。ニューヨークの冬は大気中の湿度は低めですが実験室の湿度レベルもそれにともなって変動します。試験温度は60° Cに設定しました。

今回の試験は下記のコーティングオプションが対象であったため、QUV試験における色見本は、むき出しままのものと考えられる保護材でカバーしたものがあります。

コーティングなし:紙に塗った水彩絵具に全くコーティングしないことは最悪のシナリオになるでしょう。
通常ガラス: これは水彩画を額に入れる場合の最初のオプションであり、多くの画家は今もこれを使っています。
Tru VueR Optium Museum AcrylicR6(美術館用アクリル板):美術品保存のオプションと説明されているこの製品は、紫外線を99%遮ることから、水彩画を額に入れる場合の耐光保護に関する判断基準となっています。摩擦にも強く、粉々に砕けることなく、帯電防止であり、反射しません(注7)。
UVLS入りGOLDENグロスアーカイバルワニスを2回、4回、6回スプレーした層:これはMSAワニスのエアゾルスプレー品です。アーカイバルワニスはどのような保護を与え、その結果は試験対象の他のオプションとどのように違うのでしょうか?

この範囲のコーティングにより、現代の画家が使用する際の数々の可能性を検証することができました。通常の窓ガラス、Tru Vue Optium Museum Acrylic、UVLS入りGOLDENアーカイバルワニスのそれぞれを通して紫外線に曝された色見本のデルタE測定値の差は特に重要でした。

暴露後、各色見本を5ヵ所ずつ再度測定し、測定値を平均してその色見本の色に関する暴露後分析を行いました。再度、分光光度計による暴露前と暴露後の測定値を比較し、それぞれの色見本の変化量を判断しました。この変化がデルタEの数値になります。各見本は、使用した水彩画用紙と水彩絵具、塗布したウォッシュ、保護膜(もしあれば)、暴露時間の固有の組み合わせを表しています。総計すると、342のスクエア を10回ずつ、3,420回、分光光度計による測定を行いました。試験オプションごとに3つの色見本を平均し、その試験の組み合わせを表す単独のデルタEを算出しました。

表1

表2


耐光試験結果

表1と表3はそれぞれ、400時間暴露と1200時間暴露の結果を平均した数値を表しています。これらの表からわかるように、暴露されていないコントロール色見本でさえ、比較平均値の間で小さな差異が生じています。これは、手描きウォッシュにおける一貫性の欠如と測定位置のわずかな誤差に起因するかもしれません。スペースに制限があるため表は掲載していませんが、本記事のJustPaint.org掲載記事において800時間デルタE測定値(表2)をご覧いただくことができます。この結果から本試験の厳格なパラメータ内での変化に関する情報は得られますが、水彩絵具とUV保護剤がこれら以外の使用法、あるいは実世界の照射状況における経年においては、異なる相互作用を示す可能性もあることにご注意ください。

400時間の方では、Tru Vue と、グロスアーカイバルワニスを4回または6回塗った保護が、水彩絵具試験用色見本に優れた保護効果を示しました。色を塗ったサンプルはすべて、デルタE=4以下あり、ASTM耐光性I(LF I)の範囲内ですが、Tru Vueの方が若干優れています。400時間暴露におけるパイロールレッドライトのウォッシュはすべて、LF Iのままでした。比較して、グロスアーカイバルワニスの2回塗りは他のウォッシュを保護しましたが、蛍光ピンクは両ウォッシュに関して評価はLF IIIでした。ガラスでは、アリザリンクリムゾンの両ウォッシュと蛍光ピンクのライトウォッシュはLF IIIでしたが、蛍光ピンクのミディアムウォッシュはLF Vに下がりました。400時間暴露の後、保護されていないアリザリンクリムゾンと蛍光ピンクのライトウォッシュはどちらもLF IVでした。保護されていないミディアムウォッシュは、アリザリンクリムゾンではLF IVに、蛍光ピンクではLF Vに下がりました。

1200時間の方では、グロスアーカイバルワニスを6回塗って保護されたウォッシュはすべてLF Iのままでした。Tru Vueを使った場合は、蛍光ピンク(FP)のミディアムウォッシュがLF IIに下がった以外はすべてLF Iに保たれました。グロスアーカイバルワニスを4回塗ると、蛍光ピンクのウォッシュは両方ともLF IIになりましたが、他のウォッシュはLF Iのままでした。アーカイバルワニスを2回塗ると、アリザリンクリムゾン(AC)のライトウォッシュはLF II、ミディアムウォッシュはLF IIIと評価され、蛍光ピンクのライトウォッシュはLF IIIに、ミディアムウォッシュはLF Vに下がりました。通常ガラスと「コーティングなしの暴露」では、蛍光ピンクとアリザリンクリムゾンのライトウォッシュの測定値はLF IIIでした。アリザリンクリムゾンのミディアムウォッシュはLF IVになり、蛍光ピンクのミディアムはLF Vを得ました。

パイロールレッドライトでは、ASTMの評価と同様に1200時間では、すべてLF Iのカテゴリーに留まりましたが、例外として「コーティングなしの暴露」によるライトウォッシュがデルタE 4.23で、LF IIとの境界を少し上回ります。このごく薄いウォッシュはASTM耐光試験に規定された反射率40%のウォッシュより顔料分が少なかったためで、この評価は驚くには値しません。

ワニスは紙に塗った水彩絵具の美観と性質を変化させます(図1)。しかし、今回の試験は美観に対し耐光性にのみ焦点をあてたために、本号ではグロスワニスだけを塗るという選択で構成しています。それはグロスワニスが最も良い測定値が得られるためです。この方法の欠点は、特にグロスワニスを何度も塗り重ねるとラミネート加工に似た外観になることです。そのため、将来の記事では、グロスワニスとマットワニスを組み合わせて使うことでこれを最小限にとどめる方法をいくつか記載したいと思っています。現在の結果を見ると、グロスアーカイバルワニスを6回塗り重ねると、耐光保護力が高まり優れた結果が出ました。しかし、6回塗り重ねることで紙のキメが埋まり、極端に光沢のあるアクリル面になります。ある角度から見ると、このコーティングに光が反射して絵が不明瞭になります。ワニスを4回スプレーした場合は、表面の光沢は少なくなり、紙のキメはなお存在し、反射は連続した面にならずむしろ途切れます。2回塗りの場合、キメが鮮明になり、ワニスの量は少ないため、その結果、光の反射によりごくわずかに光沢のある品質になります。ワニスは作品内の色と明暗に永久的な変化を加える可能性があります。受け入れられる変化に留めるために常に試験をすると良いでしょう。

対照的にTru VueRでは、ほとんど目に見えず取り外し可能な保護となって水彩絵具の美しさにあまり変化を与えないため、紙の表面は独自で微妙な光との相互作用を維持することができます。耐光保護、紙固有の面での水彩絵具の保全、水彩画の伝統的な美しさを考慮すると、Tru VueRは優れたオプションになります。

図1:QoRパイロールレッドライトのライトウォッシュとミディアムウォッシュ:
アーカイバルワニス(グロス)なし、2回塗り、4回塗り、6回塗り(左から右)


結論
今回の調査では、大部分は耐光性の乏しい絵具を使いましたので、紫外線によるダメージからの保護試験としては厳しいものになりました。通常のガラスとアーカイバルワニス(グロス)の2回塗りは、色褪せしやすい絵具の紫外線による退色に対し有効性が示されませんでした。ワニスの塗布回数を増やすことで保護力は高まりました。ワニスを4回塗るとある程度の保護になりますが、アーカイバルワニス(グロス)を6回塗ることで、美術館の照明に約99年間曝されるに等しい暴露を受けても、テスト用色見本はすべてLF Iカテゴリーのままでした。Tru VueR Optium Museum Acrylicを使用した場合も、1200時間暴露後、蛍光ピンクのミディアムウォッシュを除いて、すべての色がLF Iのままでした。通常のガラスにはこの保護力はありませんでした。LF Iカテゴリーの絵具であってもごく薄いウォッシュであれば、1世紀にわたり紫外線光に曝されると色褪せするかもしれません。今回の試験から、ワニスの2回塗り程度のわずかな保護でも色の変化防止に役立つ可能性があることが示されました。ワニスにより生じる美観の変化を受け入れ伝統的な水彩絵具の限界を押し広げることに関心のある画家にとっては、GOLDEN アーカイバルMSAワニスは紙に塗った透明水彩絵具の耐光性保護の有益な選択肢となり得ます。
 

注1) Golden Artist Colors「Application Information Sheet: Varnishing Watercolors with GOLDEN Products(技術情報シート:GOLDEN製品を使って水彩絵具にワニスを塗る)」http://www.goldenpaints.com/technicalinfo_varnwatercolor

注2)  UVLSとはUltraviolet Light Stabilizers(紫外線安定剤)のことであり、美術品の上に塗ると耐光保護を提供するワニスの成分です。

注3)  詳しい情報については、Sarah Sandsの「Delta E: A Key to Understanding Lightfastness Readings(デルタE:耐光性測定値を理解する鍵)」 http://www.justpaint.org/delta-e/をご参照ください。
ASTM D4303-03「Standard Test Methods for Lightfastness of Colorants Used in Artists’ Materials(画材に使用される着色剤の耐光性に関する標準試験方法)」によると、デルタEの決定には分光光度計とCIE L*a*b*色空間(CIE 1976)を使用すべきです。この色変化分析は、分光光度計による絵具の暴露前の測定値と暴露後の測定値の比較に基づいています。数字が大きくなると、光によるダメージが大きくなり、色の変化が大きくなるということになります。

注4) ASTM D5067「Standard Specification for Artists’ Watercolor Paints(絵画用水彩絵具に関する標準仕様書)」p. 2, 6

注5) 「Sunlight, Weathering & Light Stability Testing(日光、風化、耐光性の試験)」Q-Lab技術冊子LU-0822, rev. 2007, p. 6, Q-Lab.com. http://www.q-lab.com/, http://www.q-lab.com/documents/public/cd131122-c252-4142-86ce-5ba366a12759.pdf

注6) 「Tru VueR Optium Museum Acrylic」 Tru-Vue.com, http://Tru-Vue.com/solution/optium-museum-acrylic/

注7) 「Product Comparison for High Performance Acrylic and Glass Solutions(高機能アクリル絵具とガラスによるソリューションに関する製品比較)」Tru-Vue.com, http://Tru-Vue.com/wp-content/uploads/2015/12/TRU_5954_AcrylicSellSheet_V2.pdf および「Acrylic Collection Fact Sheet(アクリルコレクションファクトシート)」 http://tru-vue.com/museums-collections/samples-literature/ 「Technical Info and Resources(技術情報およびリソース)」を通じてアクセス可能)、「Tru VueR Optium Museum AcrylicR」 Tru-Vue.com, http://Tru-Vue.com/solution/optium-museum-acrylic/
 

Golden Artist Colors社


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