• 溶剤の解決

     

    サフラワー油 

    水彩

     

    アクリル

    卵、油、水の乳化物


    油絵具は絵画制作に使用される材料の中で最も天然で安全なものの一つですが、誤解により危険物のレッテルが貼られてしまっています。油絵具は亜麻仁油に乾燥した粉末顔料を練り込んで作られています。時には安定剤や添加剤や乾燥剤を少量使用することもありますが、それは絵具が適度な時間で乾燥し、チューブのなかで分離せず、塗りやすいクリーミーな状態で取り扱えるようにするためです。油絵具が水性絵具より毒性が高いという考えは、油そのものではなく、薄め液や増量剤や洗浄剤として使用される溶剤によるものです。顔料は、アクリル絵具と水性絵具に使用されるものも、油絵具に使用されるものも、ほぼすべて同じです。

    油絵具に溶剤を使用する理由はさまざまです。最初に塗る層では多くの場合、絵具を薄める目的で使われ、これは一部のアーティストにとって描画工程に必要なステップであることが多いのです。サラサラした流れのよい絵具を使うことで、描いたものが空白のキャンバスに命を吹き込み、上の層に伝わっていく効果を生むことができます。こうした層は、薄く透明で、比較的容易に支持体に吸収される傾向にあります。溶剤を使って絵具を薄めるため、厚みのない層が表面に形成されて短時間で乾燥するため、通常翌日には肉付きのよいしっかりした絵具を塗り重ねることが可能です。ウォッシュ層は1回では不十分なことが多いのですが、塗り重ねても表面には光沢がなく、伝統的なグレーズのような深みや油っぽさはありません。この最初の層以外にも、溶剤を使って絵具を少し軟らかくすれば、油を加えた場合のように乾燥時間を長引かせるようなことなしに、塗り広げやすくすることができます。溶剤はさまざまなメディウムやワニスや樹脂にも使われています。溶剤を使った筆や道具類の洗浄はスタジオではごく一般的に行われています。

    溶剤だけで薄めた塗膜の安定性は多くのアーティストにとって常に関心の的でした。この点を調べるために、溶剤の使用により塗膜が結合するかどうか、またどの位の溶剤量で結合するか、そして溶剤の種類の影響はあったかを確認する試験を行いました(画像I)。試験に使用したのはテレピン油、無臭石油スピリット(ペトロール)、スパイク油、柑橘系溶剤です。これらの各溶剤と絵具を2対1、1対1、1対2という3種類の割合で混ぜました。丸1日経過後、綿棒で12種類のサンプルすべてを5回ずつ円形にこすり、1週間毎日繰り返しました。予想通り、絵具より溶剤の方が多いサンプルは、絵具が溶剤と同量以上のサンプルより絵具剥離が起こりました。溶剤2対絵具1のサンプルでは引き続き同量の絵具剥離が起こりましたが、他のサンプルの混合物では剥離はそれより少ない量でした。それぞれに差異はありましたが、この試験は非常に小規模であったにもかかわらず、スパイク油とテレピン油は全体的には色の除去が少ない状態だったようです。
     
     プリマ描き(ウェット・イントゥー・ウェット) ウォッシュ層なし
    溶剤の不使用を要求されたり、選択したりするアーティストが多いのは、学校の規則の厳格化や、アレルギー反応や、将来を見越した決断などが理由です。中には、単に乾燥時間、色の変化、顔料濃度や流動性の違いなど、新画材の一般的な学習曲線を考慮して、油からアクリルや水性絵具に転向するアーティストもいます。その多くは新たに見つけた水性メディウムでうまくやっていますが、今もなお油絵具を求め、代替使用法を模索しているアーティストもいます。

    スタジオにおいて溶剤なしで済ませる方法としては、軽質の油(以下の文脈から、ケシ、サフラワー、クルミの油を指すと思われる:訳注)を使うこと、最初の下塗りにアクリルか卵テンペラか水彩絵具のいずれかを使用し、卵と油を乳化させ下の層に水を取り込むこと、溶剤の使用を控え、粘度の高い状態でのみ描くことなどが考えられます。洗浄の際に溶剤を省くことも可能であるだけでなく、そうすれば石鹸水で絵筆を洗うことができます。

    軽質の油を使う場合、準備段階でキャンバスに薄く大きな動きの描画を施すことができます。しかし、速乾性マットな表面も提供されません。通常、サラサラしたブロンド色の油はケシ、サフラワー、クルミです。この方法にはいくつかの制約があります。粘度の低い油は亜麻仁油より柔軟性が低く、もろいため、長い間に亀裂の可能性が高まるからです。最初に油を多く含んだ層を使うと心配事を引き起こす可能性もあります。絵画は一般的に、油が全くまたはほとんど含まれていないやせた層から始めて、その上にたくさんのメディウムを含む層を重ねていくからです。最後に、これらの油は遅乾性であるため、速乾性の層を上に塗るとリスクが高まります。この方法も一般的に亀裂の原因になるからです。

    油の下にアクリルを使う方法は一般的であり、組成的に安定した下塗り方法です。この方法には、接着と安定を助ける要素があります。マットなアクリルが艶のあるアクリルより常に好まれるのは、ザラついた表面に自動的にしっかり接着するからです。当社のアクリル絵具でマットになるように作られているのは、マットフルーイド、ヘビーボディマット、ハイロードアクリリックスの3種類です(いずれも国内未発売)。これらはすべて、程度の差こそあれ、グアッシュと似たマットな光沢を持っています。これらの絵具は、大きな動きのあるウォッシュ層では必ずしも必要とされない不透明さと豊かさを提供し、透明性と流動性を維持するには、水ならば最大1対1で薄めることができ、マットメディウムやフルーイドマットメディウムではどんな比率でも大丈夫です。「油絵具をアクリル絵具と使う」(2011年Just Paint 24)で、この手法のガイドとなる情報を見つけることができます。

    水性絵具の上に油絵具を塗ること、特にアクリル絵具を使う場合は、新たな進歩のように思えるかもしれませんが、実際には深い歴史的ルーツがあります。たとえば、14世紀にはチェンニノ・チェンニーニが卵テンペラの上に油を使う技法について言及しており、油が主要な画材になる15世紀後半まで、この技法は、テンペラ・グラッサと呼ばれた卵と油を混ぜて乳化させたものの使用とともに一般的なものでした。水性絵具も伝統的な下塗り方法です。レズリー・カーライルは19世紀の画家の壁画と技法に着目した著書「The Artist's Asistant(2001)」において、この技法は1803年にはすでに始まりその後同世紀の間中繰り返された資料を引用しています。また、水性絵具の上に油を使用すると水性絵具は溶けないため、その後層を塗り重ねても絵具の汚れや流出といった心配はありません。一般的に入手でき水で簡単に薄めることができる当社のQoRウォーターカラー(国内未発売)は、従来のアラビアガムを主成分と絵具と同様に使えるため、油絵画家が普段は溶剤に頼る大面積のウォッシュや流れるようなラインを作る有効な手段となります。伝統的なジェッソやアクリルジェッソも含めて吸湿性の高い下地は、油やアルキドの下地より水性絵具を受け入れる力が高いことを念頭に入れておいてください。ですから使用前には必ず相性のよしあしを試してください。
     
     

    画像I:絵具をさまざまな割合の溶剤で薄めたサンプル一覧。丸い円は数週間かけて綿棒を使用した際のさまざまな度合いの絵具の剥離を示している。

    (図内)
     右から左へ: 絵具対溶剤:2対1、絵具対溶剤:1対1、絵具対溶剤:1対2
     上から下へ: 柑橘系溶剤、スパイク油、テレピン油、無臭ペトロール


    水溶性の油絵具をつくるための昔ながらのレシピは、絵具の結合剤が一種類で溶剤を使わず低粘度で速乾性の絵具が得られる方法です。昔のレシピの多くは、本質的に達成不可能な成分または有毒な成分を使っていました。今でも使えそうなレシピは、卵と油を乳化させ、それにより水で薄めることを可能にするものです。その方法は、卵を用意し、白身と黄身を分離し、黄身を左右の手の間で行き来させ、表面を乾燥させる方法です。表面に膜が張ったら、黄身の端を人差し指と親指でつまんで、ボール(お椀)のうえで吊るします。もう一方の手で黄身に穴をあけ、中身がボウルにこぼれたら、膜を捨てます。卵の黄身と亜麻仁油を1対1の割合で、手または絵画用ブレンダーでかき混ぜます。分離がなくなり、トロリと乳化するまで混ぜてください。この混合物は、チューブから直接出した油絵具と混ぜ合わせることができます。卵と油の混合物と絵具が混ざったら、水を1度に1滴ずつ加えます。飽和点に到達すると分離が始まるため、その時点で十分な水を加えたことがわかるでしょう。それ以上水を混ぜるには、卵と油の混合物を増やす必要があります。この方法はバランスを保つことが肝心です。

    最後に、Just Paint 31で取り上げたウィリアムズバーグのワックスメディウム(未訳、国内未発売)には溶剤が全く含まれていませんが、絵具に非常に流動的でシルキーな感じを出すことができます。同時に、M. Graham社のウォルナットアルキドメディウムや、Gamblin社のソルベントフリーゲルとソルベントフリーフルーイドなど、他社も溶剤不使用の製品を提供しています。テレピン油やペトロールの代用となる毒性の低い製品が望まれていることを考えると、これは今後拡大し続ける分野になると期待しています。

    溶剤不使用の絵画にしばしば関心が集まる一方、洗浄をする際に他のどこよりも溶剤が使われる場所がスタジオであることがわかります。また残念ながら、ほとんどいつも全く不要な方法で使われているのです。さまざまな混色に備えて十分な数の筆を使い、白や黄色のようなデリケートな色用の筆は別に用意しておきましょう。そうすることで、混色と混色の合間にしょっちゅう溶剤の中で絵筆を振り洗いするとか、1日中、溶剤を入れたカップに絵筆を浸しておくというよく見る光景を避けるのに役立ちます。本当に必要な場合以外はメディウムの容器は蓋で覆っておきましょう。1日の終わりに絵筆を洗う際は、まずタオルで絵具をすべて拭き取り、これを色残りがほぼなくなるまで続けてください。その後、食料品店で売っているキャノーラかサフラワーなどの不乾性の食用油に筆を浸し、残った絵具をタオルで拭き取り、絵具がほとんど除去されるまで続けてください。その後は石鹸水で筆を洗うだけで結構です。筆が乾いた感じがする場合はヘアコンディショナーでトリートメントすることができます。

    追加情報については、ウィリアムズバーグのブログ(http://www.williamsburgoils.com/blog)で公開されている「溶剤を使わない絵筆の洗浄」をご覧ください(英文)。

    イラスト:Amy McKinnon

    ※重要な注意:油絵の具のついたタオルは水に浸してビニール袋に密閉して廃棄するか、焼却処理してください。油絵の具のついたタオルを固めて放置すると、自然発火して火災が起こる危険性があります。(訳注)

    Golden Artist Colors社


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