カドミウムを使った絵具の未来(第2部)

By Ben Gavett

Just Paint第4号(1996年10月)に掲載された最初の記事で、カドミウム顔料に関する規制事情の変化や、絵具への使用が制限される可能性や、潜在的代替顔料の適切性について述べました。今回の記事では、ヨーロッパにおける絵具へのカドミウム使用を禁止しようとする動きの経過と結果、その背後にある理由、画家の世界における反応、禁止を実行するか否かの決定責任者の反応を記載します。

欧州連合加盟国は、消費者向け化学製品の製造と使用によるリスクから自国民を守るために素晴らしい規制枠組みを制定しました。このシステムはREACHと呼ばれ、「化学薬品の登録、評価、認可、制限(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)」を意味しています。REACHでは、EU内で生産されたかEUに輸入された最低数量を超える各化学薬品を欧州化学機関(ECHA)に登録しなければならないと定めています。この要件は、「調製品」全体ではなく個々の化学物質に適用されます。たとえば、当社のアクリリックス製品に含まれるプロピレン・グリコールは化学物質ですが、ヘビーボディアクリリック絵具は調製品です。登録プロセスには、要求事項として化学物質の環境に対する影響と健康に対する影響が含まれます。ある化学物質に関する情報が不完全な場合、その化学物質のメーカーと輸入業者は足りないデータを取得する共同責任を負います。この点から、特に心配のある化学物質については、加盟国(個々の国)が使用制限(すなわち禁止)品に指定するか、限定的使用にのみの認可品として指定することができます。ECHAの使命は、リスクと社会経済的利益を慎重に考慮したうえで、化学物質の制限または許可に関し欧州員会に意見を述べることです。

絵具に使用するカドミウム顔料は、スウェーデン化学機関KEMIがカドミウムとその化合物の絵具への使用を制限すべきであるとする提案をECHAに提出した2013年12月に、この精査の対象になりました。この提案が規制機関の完全性基準を満たす限り、機関は慎重に検討しなければなりません。この検討プロセスにはECHA内の2つの異なる委員会が関与します。問題の化学物質の人体と環境へのリスクをまとめ、提案された制限の有効性と必要性に関する推奨を行うのはリスク評価委員会(Committee for Risk Assessment = RAC)の仕事です。社会経済分析委員会(Committee for Socio-economic Analysis = SEAC)は経済的影響と社会的影響を評価する任務を負っています。 < BR >
KEMIは提案の策定中に当社に対し、カドミウム顔料の有機代用品の実現可能性と入手可能性、代用品の許容性に関するアーティストの意見、カドミウム顔料を含む絵具の市場比率について意見を求めました。私たちは「カドミウム顔料の特徴すべてに匹敵する代用品はありません」と回答し、詳しく説明しました。また、カドミウムを含む絵具がアクリル絵具総売上の5~6%(油絵具では若干高い)であること、またこの比率は過去20年間比較的変動がないことも報告しました。KEMIは、提出した提案において、代用の赤、オレンジ、黄色は存在するが、同一であると考えることはできないため、禁止案が採用されれば個々のユーザーはそれぞれのプロセスに合うソリューションを探す必要があるだろうと結論づけました。また、禁止が技術的に実施可能であると考えるアーティストもいれば、そうでないアーティストもいることを認めました。

KEMIの見解の根拠は、描画に関係する洗浄活動で排出されたカドミウムの摂取による健康被害について、統計的可能性によるとリスクがメリットを上回ることです。ヨーロッパのほとんどの人は公共下水処理と無縁ではありません。化学物質は洗浄され排水された後、下水処理プラントへ移行し、物理的状態に固有の運命と環境劣化の抵抗に出くわします。カドミウム顔料などの固体は、スラッジとして回収され、スラッジはその後通常は穀物栽培の肥料として農地に散布されます。土の中でカドミウム顔料は分解し、カドミウムイオンは(自然に発生するカドミウムと他の源泉から生じたカドミウムとともに)、穀物栽培や食品システムに取り入れられます。KEMIの提案では、画家が使用する絵具の5%が水とともに流されるため、それを禁止することで個人のカドミウム摂取の0.0081%が排除されると試算されています。このささやかな減少により、最終的に(150年後には)欧州連合全体で1年に骨折が60例減少し、乳がんが16例減少することになるというのがKEMIの主張です。

洗浄水から水性絵具の固体を除去する方法の詳細については、JustPaint.orgでJust Paint第3号をご参照ください(和訳はありません)。

ECHAはKEMIの提案を検討するとして受け入れ、プロセスにおけるその後のステップは提案された禁止や、根拠をなした想定に関する意見を求めることでした。これにより、当社がアーティストからECHAに情報とフィードバックが提供されるための導管になる機会が生まれました。制限条項案の2つのテーマ、すなわち芸術品におけるカドミウム顔料の適切な代用品があるかどうか、また画家はカドミウムの洗浄による排水をどのくらい回避しているか、という点に関するフィードバックを求めるために(中立の意見を考慮して設定された)アンケートがなされました。アンケートは電子メールで直接配信され(ECHAのウェブサイトにアクセスし、直接意見を提出することも推奨され)、受け取った回答は1,500を超えました。カドミウムに代わる他の顔料の適切性に関する意見はさまざまでしたが、回答者の大半は、カドミウム顔料は、その特徴、すなわちきわめてすぐれた着色力、耐光性、不透明性、良好な混合特性、強力な彩度の組み合わせにおいて他に類を見ないと答えていました。少数ではありますが、作品にカドミウムは必要ないし、禁止することで世界がより安全な場所になるのならそれを支持すると答えたアーティストもいました。調査の結果、アーティストの大半はカドミウムを廃水システムに流し入れるのを避けていることもわかり、このことから上記の5%という想定に疑義が生じます。排出の軽減に関して報告された実践例は、洗う前にブラシを拭いて乾燥させる、洗浄に使った水を蒸発させる、洗浄に使った水を家庭用有害廃水処分場所に除去する、顔料を除去するための水を処分前に処理する(Just Paint第3号を参照)などです。個々のコメントは調査結果の概要とともにECHAに転送されました。この意見書においてECHAのRACは、この努力を「公の協議に対する有意義な情報」の提供と認めました。両委員会は慎重に検討した結果、対応するリスクが無視できるほど小さいため「提案された制限条項は正当ではない」と結論づけました。プロセスの最終ステップは、SEACの回答期間の延長と、報告後になされる欧州議会による最終決定であり、これは委員会の推奨の後になると予想されます。

カドミウム顔料の主題に対するこの注意はアーティストによる安全な取り扱いと使用の重要性を減じるよりもむしろ強調するためにのみ役に立つというのが私たちの見解です。当社は引き続き、カドミウムを含む絵具は子供による使用を前提としていないこと、スプレー塗布やサンディングをすべきではないこと、接触から適切に保護されていない限り、また家庭外の設定において、乾燥カドミウム顔料の使用を避けるべきであることについて注意を喚起します。

アンケートに参加して下さった方々に感謝します。回答数に感動するとともに、データをECHAに提供できたことを喜ばしく思います。ECHAは環境への影響を軽減しようとする皆さんの努力を証明します。

 

Golden Artist Colors社


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