絵具と紙:水彩画のしくみ

Cathy Jennings

水彩画用紙は絵画制作における能動的な部分です。水彩画家にとって紙は単なる媒体ではなく、道具であるからです。そのため、どの水彩画用紙を選ぶかが描画工程や仕上がりに影響を及ぼします。紙の選択は使う色や題材と同様、人によって違うのかもしれませんし、このメーカーのこの紙の面が好きだと言う画家はめったにいません。通常は描く題材によって紙を変えているのかもしれません。紙の質が描画工程に影響するからです。

適切な水彩画用紙

長期保存される水彩画には、安定性と耐久性が高く、均質で、絵具や筆を荒っぽく使ってもそれに耐える紙が使われます。プロ用画用紙はほとんどが綿100%の円網抄紙機製ですが、値段がもう少し高くてもよければ同質かそれより上等の手漉き紙を使うこともできます。紙の「重量」、すなわち厚さには国際的な基準があり、最もよく使われる重量は140 lb / 300 gsm(1連あたりのポンド数または1平方メートルあたりのグラム数)です。塗布中に繊維が湿り膨張することにより生じる皺や歪みを防ぐためのストレッチが必要であるかどうかは、作品がどの程度「ウェット」であるかによるでしょう。

サイジングおよびテクスチャー

繊維の内容物と厚みの次に描画工程と完成品の外観に大きな影響を及ぼすものは、サイジングと表面のテクスチャーです。

サイジング:1枚の紙が作られる前に、紙の強化と耐久性向上のために製紙用パルプに内部サイジングを加えることがよくあります。しかし、製造終了間際に行われる外部サイジングが最も重要です。

サイジングがないと、ペーパータオルがこぼれたコーヒーを吸い取るように絵具を吸収してしまいますが、サイジングにより吸収を防ぐことができます。十分にサイジングされた水彩画用紙の表面には筆から流れ落ちた絵具が留まります。そのため、必要に応じてウォッシュ、グレーズ、筆跡を作るなど、絵具を扱う時間が生まれます。また、外部サイジングにより、ハードエッジが作りやすくなりますし、絵具が乾燥した時の輝きも保たれます。ほとんどの水彩画用紙には、水彩画技法に最適なサイジング量として「ハードサイジング」が施されています。サイジングが過剰であると表面が絵具をはじき、少な過ぎると絵具が紙を毛羽立たせ、紙面に沈み込み、すぐにくすんだ色のソフトエッジのシミができるでしょう。

水彩画用紙の伝統的なサイジング剤が動物性ゼラチンである理由は、絵具の吸収と絵具に対する抵抗のバランスが理想的であることです。たとえば製紙会社のArchesRは今でもゼラチンのサイジング剤を使っています。一方、代替材料も使われており、FabrianoRという製紙会社は水彩画用紙に動物由来物質を使用していないと宣伝しています。同じ「ハードサイジング」であっても、表面サイジング剤の量と水彩絵具に対する紙の反応は会社によって異なりますし、同じ製会社であっても紙の種類によって異なります。

(左から右):ArchesRホットプレス140 lb /300 gsm、ArchesRコールドプレス140 lb / 300 gsm、FabrianoRArtistico 140 lb / 300 gsm、Twinrocker?手漉きラフ200 lb / 400 gsm、それぞれにQoRR水彩絵具(ゴールデン社新製品/国内未発売品)


表面のテクスチャー:テクスチャーは、紙面上の絵具の動きにも直接影響し、サイジングと違ってその違いは簡単にわかります。伝統的に、水彩画家にはホットプレス(または無プレス)、コールドプレス、ラフという3つの選択肢があります。最も滑らかな面がホットプレス、「食い付き」もテクスチャーも中くらいなのがコールドプレス、最も粗いのがラフです。上の画像はコールドプレス、ホットプレス、ラフ、手漉きラフに描いたものです。ホットプレスでは花の描写が緻密であり、コールドプレスとラフでは食い付きの良さと凹凸により花弁の表面が多様に表現されています。

製紙会社からさまざまなテクスチャーの紙が提供されることで大きな楽しみと大きな戸惑いが生まれます。楽しみの理由は選択肢が多いことで、戸惑いの理由は選択肢が非常に主観的であり、ホットプレスとコールドプレスとラフのテクスチャーの特徴が何であるのか、伝統と製紙会社のラベル以外に標準マーカーがないことです。ある製紙会社の「ホットプレス」が別の製紙会社の「コールドプレス」とテクスチャーが似ていることもありますし、「コールドプレス」が「ラフ」と似た面を持つこともあります。さらに、良質の水彩画用紙は表にも裏にも描画することができるため、1枚の紙でもどちらを選ぶかによって2つのテクスチャーが得られます。画家にとってもっと重要なことは、ラベルにこだわるよりも、テクスチャーやサイジングと描画工程との相互作用に注意を払うことです。

   
Fabrianoコールドプレスの伝統的な白画用紙140 lb / 300 gsm、QoRウルトラマリンブルー(PB29、セミステイニング、半透明、粒状) Fabriano コールドプレスの伝統的な白画用紙140 lb / 300 gsm、QoRキナクリドンマゼンタ(PR122、ステイニング、透明、非粒状)


テクスチャーと絵具の性質

表面テクスチャーの山と谷の有無(および深さ)も液状の絵具との相互作用を生じさせますが、綿密には顔料と描画プロセスの性質によって異なります。透明の絵具は紙のテクスチャーにあまり反応しないため滑らかな外観が生まれます。コールドプレスとラフの紙では沈殿した絵具が粒状になり、濃い「谷間」に集まって斑点を作ります。絵具の乾燥中に紙を軽くたたくと分離が促進されます。この違いは上の例を見ればわかります。ウルトラマリンブルー(PB29、セミステイニング、半透明、粒状)は紙の谷間に濃く集まりましたが、キナクリドンマゼンタ(PR122、ステイニング、透明、非粒状)はそうなりませんでした。どちらの例でも、塗ったのはFabriano社のコールドプレスの伝統的な白の水彩画用紙でした。透明な絵具と粒状になる絵具を混ぜて使用した場合、もっと予想外の美しい結果が出るかもしれません。

メーカーによって異なるテクスチャーの多様性

製紙会社にはそれぞれ独自の工程と製法があるため、どの生産ラインでも同じ製品というわけではありません。下の例は、Lanaquarelle、Twinrocker(手漉き)、Arches各社の粗面水彩画用紙の比較です。グレージング層はQoRキナクリドンマゼンタ(PR122、透明、ステイニング)とビリディアングリーン(PG18半透明、セミステイニング)で作りました。 Lanaのラフは全体に均一にラフなテクスチャーで、3つの例のうち最もサイジングが軽かったものです。そのため、ウォッシュのエッジは柔らかめで色の層は落ち着いています。Twinrockerはハードサイジングにより絵具が複数の層をなしていても明らかに分離したままであり、シャープなエッジが生まれ、3つのうち最も鮮やか色調です。Archesのラフは3つのうちテクスチャーの多様性が最もはっきりしており、Lanaより色が鮮烈でエッジがシャープです。これもハードサイジングですが、Twinrockerほどではないことがわかります。やや粒状の絵具ビリディアンは紙面の谷間に沈み、視覚的に赤と緑が斑に混ざった状態になり、この紙のラフなテクスチャーが強調されています。

   
Lanaquarelle ラフ水彩画用紙。 キナクリドンマゼンタとビリディアンの5つのグレーズ層。 Twinrocker ラフ水彩画用紙。 キナクリドンマゼンタとビリディアンの5つのグレーズ層。 Archesラフ水彩画用紙。 キナクリドンマゼンタとビリディアンの5つのグレーズ層。


 基本的な違いは紙を検討する際の目安になるかもしれません。ホットプレスの滑らかな紙面には直線的な筆遣いが残り、細かい部分が美しく表現されています。しかし、絵具の曇りと水たまりも促進されるため、ホットプレスの紙に大きく平坦なウォッシュを作るのは難しいかもしれません。さらに、ホットプレスの表面には絵具を大量に吸収する小さな部分が生じることがあるため、広い範囲に斑点ができるかもしれません。ラフの表面はテクスチャーが最も大きいため、途切れ途切れのウォッシュや、フルーイドによる表現手法や、グレーズの例と同様の絵具の分離を促進するスタイルにはうってつけですが、張り詰めた滑らかな輪郭や緻密な表現には合わないかもしれません。

ホットプレスとラフの中間であるコールドプレスの紙は、中くらいのテクスチャーで「食い付き」がよいためウォッシュをコントロールできる一方で、緻密さや直線的筆遣いを阻害するほどではありません。コールドプレスは、画家に何を提供できるかという点で最大の柔軟性があり、おそらくそのために今日最も一般的な描画面たりえているのでしょう。

 ArchesR コールドプレス面  
左から:
ハンザイエローメディウムPY73
ニッケルアゾイエローPY150
インディアンイエローPY73、PY150、PR206
キナクリドンゴールドPO48、PY150
キナクリドンゴールドディープPO48、
ディアリライドイエローPY83

ArchesRラフコールドプレス
左から:
インディゴPB15:3、PBk7、PV19
ウルトラブルーPB29
フレンチウルトラブルーPB29
セルリアンブルークロムPB36:1
コバルトティールPG50
ビリディアングリーンPB18 


サイジングにより生まれる時間的余裕

滑らかなウォッシュを作る伝統的手法は、絵具を一筆一筆上から下へと走らせ、紙を塗りつぶしていく方法です。この過程で紙面に一時的な絵具溜まりが何度もできます。筆跡が重なったり、絵具溜まりができたりした場合、顔料が2度塗られたことになるためウォッシュが縞模様になる可能性があります。絵具が沈殿したり、粒状になったりした場合も縞模様のウォッシュになる可能性があります。塗り終えた場所に顔料が定着するのに時間がかかり、その間にウォッシュが紙面を流れ落ちるためです。「ハードサイジング」が施された面では、ウォッシュを塗る時にもう少し時間の余裕が生まれるため、こうした状況は軽減されます。同様に、明るい部分を埋めるために絵具をリフティングする必要がある場合、絵具と紙の間の透明なサイジング層が役に立つでしょう。しかし、水分を含んだ筆を紙の上で動かすたびに表面のサイジングは緩み、絵具と紙の間のバリアが減少します。

水彩絵具を持ち出して遊ぼう!

「ハードサイジング」や「ホットプレス」「コールドプレス」「ラフ」といった同じ区分でもさまざまな微妙な違いがあります。紙で描くことは、どの紙面サイジングとテクスチャーが自分の制作リズムと工程に最も合うのかを実感できる唯一の方法です。


Golden Artist Colors社


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