Heritage Preservation:公共壁画の救済

Jenny Wiley Arena


 
 画家Eva Cockcroft.による「スーラへのオマージュ:ハーレムのグランド・ジャット島」の修復前と修復後

1986年、ウェスト・ハーレムの喧騒の中、ホープ・スティーブンズ・ガーデンの緑豊かなオアシスに高さ9メートルの宝石のように美しい壁画がお目見えしました。画家Eva Cockcroftの作品としてニューヨーク市に最後に残る「スーラへのオマージュ:ハーレムのグランド・ジャット島」は、ハーレムの美と多様なコミュニティを描写するために、点描画家スーラの画風を意識して制作されたものです。

残念ながら2007年には、コミュニティの貴重な壁画は見る影もなく荒廃していました。亀裂や漏れを修理するために壁画のあちこちに新たにしっくいが塗られていました。かつては鮮やかだった色も褪せてパステルカラーになっていました。壁画はまさに永遠に失われる危険に曝されていました。Heritage Preservationの公共壁画救済部は、戸外や公共の場にある共同体の壁画が直面するリスクに向き合うことにより、「スーラへのオマージュ」のような壁画の緊急のニーズに対応し、その意識を高めることを目的に設立されました。公共壁画救済部は、アメリカの壁画に世間の注目を集め、壁画が芸術と歴史に果たした独自の貢献を文書化し、壁画を保存するための専門知識と支援を確保することを目指しています。

2006年に創設された公共壁画救済部は、修復家と画家を集めて危機に瀕した壁画の状況を評価させる責任を負ってきました。修復家と壁画家の両方を使って評価することにより、技術と芸術に関する最高の知識を結集して壁画の状況を文書化し、最適な保全方法を決定します。

公共壁画救済部はこれまで、「スーラへのオマージュ」を含む国の重要な16の壁画の評価を行いました。ラスティン・レベンソン絵画修復協会のHarriet Irgangとブルックリンの壁画家Janet Braun-Reinitzは2006年、「スーラへのオマージュ」の評価を担当し、修復計画を推奨しました。評価時にわかったことは、壁に絵具を塗る前に下塗りがなされておらず、おそらくシーラーも施されていないということでした。これらの要因が壁画の経年劣化の大きな原因になっていたのです。

こうした発見や、多くの同様の壁画からわかった事実がきっかけとなって生まれたのが公共壁画救済部の最新活動である「壁画制作のベストプラクティス」です。公共壁画救済部は、既存の壁画を確実に保護し、保全する作業を行う傍ら、慎重な計画と準備を行うことで壁画が直面する共通の多くの問題を軽減できることを認識しました。公共壁画救済部は、壁画家、修復家、美術史家、美術品管理者、材料科学者、技術者と話し合い、ブレーンストーミングを行った結果、壁画制作のベストプラクティスを文書化しました。推奨事項の詳細については次のサイトをご参照ください(英文)。www.heritagepreservation.org/RPM/MuralBestPractices.

推奨の目的は規範化ではなく、疑問を呈し、計画、壁の選択、壁と表面の準備、描画、コーティング、保守といった壁画作成の各段階で検討すべき問題を提起することです。各段階における推奨事項の簡単な説明を以下に記載します。
 
 撮影者:Camille Perrottet
計画

耐久性が期待される共同体の壁画には慎重な計画が必要です。各関係者(委託組織、画家、建物所有者、地域住民、他のパートナー)は、壁画の制作と保守の工程においてどのような権利を持ち、責任を負うかを決定すべきです。これには、壁画の概要と耐用年数を定め、所有権と長期保守の責任を決定することも含めるべきです。

壁の選択

壁画を描くという決定は大抵、特定の無地の壁を塗りつぶしたいという欲求から来ます。壁画は公園や校庭を明るくし、地域のビジネスに利益をもたらし、関係する人や歴史的出来事を記念するという役割を果たします。これらはすべて壁画の場所を選択する際の有効な理由ですが、重要なことは、選択した壁が劣化要因の抑制に必要な物理的特性を持つかどうかを確認することです。検討要因は、具体的な場所の安全性、壁にあたる直射日光、壁をつたい流れ去る水の流れ、構造的安定性などです。

壁と表面の準備

物理的に安定した安全な壁の選択に注意を払うだけでなく、使用する絵具や他の材料に合わせて壁を準備することも重要です。壁を適切に洗浄し、使用する他の材料と相性の良い下塗剤を選ぶことに努めるべきであり、工程を慎重に文書化すべきです。下塗剤と絵具を塗るのは、10℃より暖かい時で、必ず乾燥した時に行いましょう。

描画

壁画の長期的外観は、絵具の慎重な選択にかかっています。同じメーカーの下塗剤、絵具、コーティングを使うことを検討しましょう。耐光性は、「ASTM I」に適合する絵具が理想ですが、「ASTM II」でも大丈夫です。水性のアクリル絵具を使う場合、「D5098適合」という表示は色が堅牢であることを表します(米国のみで表示)。壁画のコーティングが十分に保たれていない場合には、酸化チタニウム(ホワイト)と混ぜると退色しやすくなることを示す研究もあります。同様に、カドミウムレッド、イエロー、ウルトラマリンブルーは戸外では退色する傾向があります。

コーティング

コーティングの使用目的として最も多いのは落書きを消しやすくすることですが、トップコートの中には、紫外線による退色を防ぐものや、絵具層の劣化防止が期待できるものもあります。しかし、透明なコーティングに関しては、曇り、黄ばみ、割れ、はがれなどの問題を経験した壁画家もいます。壁画のごく一部をコーティングせずに放置し、その部分に印をつけて写真を撮ってください。将来コーティングの曇り、黄ばみ、劣化が生じた場合の検証に役立つでしょう。

保守

制作開始時に環境に耐えるように作られた材料を選び、そして定期保守スケジュールを実施する方が、壁画を完全に修復するよりも費用対効果はずっと高くなります。さらに、手入れが行き届いた壁画は公共物破壊のターゲットになりにくいのです。単独または複数の業者に定期点検を委託すべきです。修理や再塗装を行う者に関するガイドラインも定めるべきです。

「壁画制作ベストプラクティス」のウェブサイトに、より詳細な推奨事項を記載しています。 このウェブサイトは全米芸術基金の“Access to Artistic Excellence”補助金により実現したプロジェクトです。これらの推奨は、技法や材料の慎重な計画と検討のもとで制作され、定期保守を受けた壁画は、非常に耐久性が高くなる可能性があると想定しています。

ウェスト・ハーレムの地域社会にとってそれは紛れもなく「スーラへのオマージュ」に望まれることです。2009年、公共壁画救済部による評価作業の大きな成果により、当社が寄贈した材料で壁画は最終的に元の鮮やかな状態に修復され、再び地域社会に色鮮やかな背景を提供しています。修復に関わった画家、修復家そして近隣住民が毎年集まって壁画を点検しており、壁画は現在まで良好な状態です。

公共壁画は市民にメッセージを伝え、近隣住民を活性化し、地域の出来事、願い、意欲を表現します。残念ながら、壁画に独自性を与える特徴そのものが崩壊の原因にもなります。公共壁画救済部は評価とベストプラクティスといった努力を通じ、こうした問題に関する意識を高め、この素晴らしい芸術形態の長期保存を促進することを望んでいます。

c2014 Heritage Preservation

詳しい情報については下記にご連絡ください。

Heritage Preservation
1012 14th Street, NW, Suite 1200
Washington, DC 20005
電話番号:202-233-0800
info@heritagepreservation.org


 

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