アクリル絵具の乾燥時間の理解とコントロール

 By Ulysses Jackson

アクリル絵具は、次々と手早く塗り重ねができる速乾性で知られています。中にはさらに乾燥を早めるために扇風機やヘアドライヤーを使う人さえいます。一方で早く乾きすぎると感じる場合も多々あります。この記事では、その両方を説明したいと思います。アクリル絵具の乾燥をコントロールする上で、添加剤、アトリエのコンディション、下地などについて考え、初期乾燥の機構と、乾燥が遅くなった場合に塗膜に与える影響について説明します。


まず最初にコントロールが可能な範囲は、これから絵具を乗せようとしているその層です。下地材や吸収性の絵具層(天然土系の色で塗ったそうでさえも)は、光沢がある層やシールされた層に比べると、絵具から水分を取り込みやすいのです。特に薄く塗り重ねた場合は、揮発成分は空気中だけでなく下地へも吸収されるために、絵具の硬化乾燥は早くなります。

チタンバフとトランスペアレントレッドオキサイド(右)を75ミクロンの厚さで並べて塗った画像では、下地が乾燥時間にいかに影響するかを示しています。最初は下塗りしていない水彩紙では水分が素早く吸い込まれてしまうために、実質的に作業ができるのは1分程度で、3分後にはほぼ何もできなくなります。次は、水彩紙にゴールデンホワイトジェッソを下塗りしています。ジェッソはある程度の吸い込みがあるようにつくられているにもかかわらず、水彩紙だけの場合よりも大幅にシールされるので5分までは作業が可能で、1何もできなくなるのは10分後です。最後は、GAC100(国内未発売)を使っていますが、他のグロスタイプのゲルやメディウムでも効果は同じです。お分かりのように、表面をシールした場合、21度C、湿度50%でも15から20分間の作業時間が可能になります。

多くの場合、下地をシールすることで画面上での混合などの作業時間を長くすることができます。しかしシール層が自分のスタイルに合わない場合、あるいは望んだ効果のためのオープンタイム(作業が可能な未乾燥状態の時間)が得られない場合があります。こうした場合は、描画する周囲の環境をコントロールする必要があるでしょう。アトリエの環境はアクリル絵具の乾燥時間に大きく影響します。温度と湿度を調整することで、驚くほどの結果が得られます。

私はノースカロライナにいる時、温室でもあるアトリエで夏に制作をしたことがあります。当時は大きな作品を仕上げるのに好適な場所が使えることはとても嬉しいことでした。しかし想像できるように、非常に湿気が高くおそらく湿度は100%近かったでしょう。昼間の温度は耐え難いものなので、変則的な睡眠をとってアトリエでの作業は深夜に行いました。ある朝、ジェッソを塗った120cm?180cmあまりのキャンバスでとてもソフトなグラデーションを施したいと思いました。乾燥がとても早いと思われたので、まずグレージングリキッド(グロス)を画面に塗り、その上にゴールデンアクリリックスで描画を始めました。

それから1時間ほど、約束のある時間まで気持よく描きました。アトリエを後にした時、しなければならない別の仕事をこなす間に画面はすっかり固まってしまっているだろうと思うと、気がめいりました。約2時間後、サウナのようなアトリエに戻ると、驚いたことに絵具はまったく乾いていませんでした。背景を描き終えた後、乾燥を待つうちに3日が経ちました。塗り重ねをしたいがために、未乾燥の作品を湿度の低い環境に持って行くと、エアコンをきかせ湿度が低くなった部屋では、数分の間に表面は乾燥してしまいました。これから、環境ファクターが絵具の硬化に影響することが明らかであることがわかります。幸い、湿度の高い環境は温室での制作だけとは限りません。



上の画像は、ゴールデン社研究室の環境試験機と円形乾燥試験機(設定1時間)を使い、様々な環境条件下で250ミクロンの厚さに塗ったジオキサジンパープルの乾燥試験をしたものです。最初の試験では、通常の室温で湿度を上げて行きました。この簡単なテストでも湿度が乾燥時間に大きく影響することを示しています。

この結果から、乾燥時間には、温度よりも湿度の方がずっと大きな影響を与えることがおわかりになるでしょう。水性の絵具で湿度が大きく影響するのは何故でしょう?これは、高湿度の環境では絵具中の水分と空気中の水分の量の差が小さくなるために、水分の蒸発が制限されるからです。濃度差に関する様々な現象と同じように、浸透性の法則が成り立つのです。周囲の湿度を上げて空間を飽和させる一番簡単な方法は、描画を始める前に霧吹きや噴霧器で空中に水分を噴霧することでしょう。アトリエの湿度が低い場合には、描画中も定期的に噴霧する必要があるでしょう。

さらに、中には描画のある段階に描画面に直接霧を吹き付ける人もいます。それは一向にかまいませんが、その後で画面の色を混ぜるなり筆で塗り広げるなりをしないと、望ましくない水滴の痕が残ることがあることを知っておいてください。この方法は素晴らしい効果が得られることもありますが、望んでいない場合にはがっかりするような結果に終わることもあります。

湿度をコントロールするもう一つの方法は、冷風加湿器を購入してアトリエの湿気を保つことです。描画前にスイッチを入れておき、乾燥を早めたいときには切ればよいのです。この方法は初期投資が必要な点が課題ですが、気候などのために乾燥した地域や季節に制作する場合や、できる限り作業時間を伸ばしたい場合には非常に有効です。

温度も絵具の水分蒸発に影響はしますが、それほど大きなものではありません。常識的に温度が低いほど絵具の乾燥は遅くなりますが、これは低温時には絵具内でも空気中でも水の分子の動きが遅くなり、画面からの水分の飛散が少なくなることが原因です。これは同時に、アクリルでは絵具が適切に乾燥した塗膜となるための最低温度には限界があることを意味しています。ですから、最低でも9度C以上、現実的には15度C以上に室内温度を保ってください。

ここから類推できることは、画面上での空気の流れを抑えることも水の分子の動きを制限するため、乾燥を遅らせることが可能です。扇風機の風向きを逸らしたり、エアコンの吹き出し口に注意することで、アトリエ環境をさらにコントロールできるようになります。誰でもというわけではないでしょうが、温湿度記録計を購入することはアトリエ環境を理解する上で有効な手段ですし、完成した作品の保管条件の管理にも役立ちます。こうした器具はそれほど高いものではありませんし、最低・最高の範囲も色々なタイプがあります。
 
環境ファクターのコントロールに加えて、絵具自体でも作業時間を伸ばす調整ができます。ゴールデンオープンアクリリックスはこの要望に応えるために作られました。乾燥の遅い絵具での制作に慣れている画家にとってオープンは、塗り厚さ、顔料濃度、乾燥時間のいずれも好適なものです。オープンアクリリックスは多くの色調に乾燥の遅さが備わっているので、チューブからそのまま使えるという利便性があります。上の画像は、オープンアクリリックスと、通常のアクリリックスを様々なメディウムや補助剤で調整した場合の比較です。オープンアクリリックスは、色濃度や厚みにおいて優れた性能の違いを見せているのが、絵具を引き伸ばした部分からお分かりになると思います。

ただしこれらは一般的な下地材の上に塗った場合のことです。アクリル板のように吸収性がまったくない場合や、水彩紙のように非常に吸収性のあるような下地材の場合には当てはまらないでしょう。また、乾燥を遅らせる添加剤を使う場合は、場合によって効果が同じにはなりません。グリセリンや蜂蜜を使う画家が中にはいますが、これは良い考えとはいえません。いずれも乾燥しない成分のため、ハエ取り紙のように粘着した画面となってしまいます。
 
グレージングリキッドやオープンメディウムは、いくら絵具に混ぜても問題は起こらない素晴らしい選択肢ですが、それはそのままでも乾燥を遅らせながらも乾燥後は十分な塗膜となるように設計されているからです。どちらにもアクリル樹脂が含まれているため、絵具と混ぜると透明感が増すので、乾燥を遅らせながら透明なグレージング効果を得るにはとても便利なメディウムです。
 
パレットの保管方法や、描画の際の技法にもよりますが、粘度の低いグレーズは望ましくありません。粘度を高めに保ちつつ乾燥を遅らせたい場合、シルクスクリーンメディウムやオープンゲルは、ソフトゲル(グロス)と同じくらいの粘度に調整されているので、好ましい材料です。これらの製品も比較的薄く塗る限りは、オープンメディウムやグレージングリキッドと同じように絵具とどのような割合で混ぜても問題はありません。これらの製品ではある程度は、筆跡を残したり垂直面での垂れを防いだりできます。厚く塗りすぎた場合は、乾燥中に大幅に痩せが起こったり、耐水性不足で重ね塗りで色が動いたりすることがあります。そのため、シルクスクリーンメディウムやオープンゲルを使う場合は、最大でも厚さは1.5mm、つまりコイン一枚程度の厚さまでにしてください。




オープンシンナーは、オープンアクリリックスの揮発成分を補う目的で開発されました。簡単にいえば、オープンアクリリックスが水で溶けるように保つ役割をします。しかし筆跡を残さないようにする目的にも効果があります。アクリル絵具では、その種類やその乾燥時間の特性によらず、グラデーションをしている場合にはある時点で絵具が固まってくるという経験があることと思います。そうした場合、その時点でオープンシンナーを筆にごく少量加えると、また作業が可能になると同時に筆運びもスムーズになります。オープンシンナーには、湿潤剤やアミン。水分といった成分が最適に配合されているので、過度に薄まったり、固まりかけた絵具を引っ張ることなく作業を回復できます。

以上の説明が、乾燥機構の理解と、絵画制作における絵具のコントロールにお役に立てれば幸いです。ここでの提案の一部、できればすべてを実際に試してみてください。そうすればもっと理解が深まるはずですし、新たな技法の発見にもつながるでしょう。そしてもちろん、何か制作上のご要望やご質問があれば、ゴールデン技術サポートサービスは喜んでお手伝いします。遠慮なく、Eメールや電話でお問い合わせください。

Golden Artist Colors社


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