アクリル絵具とゲルメディウムの乾燥過程研究


By Michael Townsend



アクリル樹脂の乾燥速度


大半の市販塗料、プライマー、コート材の容器には、製品の乾燥時間がラベルに表示されているのが普通です。「通常の条件では2~4時間で乾燥」、「指触乾燥は30~60分」、「上塗りする前に、4時間乾燥させてください」など。ではゴールデン社の多くの製品にはなぜそうした情報がないのでしょうか。答えは簡単です。当社の製品はさまざまな技法、さまざまな下地、さまざまな環境条件で使われるからです。したがって、使用方法の詳細や、作品のそれぞれの段階でのさまざまなニーズを考慮することなしに「予想」をすることはとても難しいのです。油彩画の下塗りなのか、翌朝の宅配便に乗せなければならないのか、水をたっぷり含んだ絵具を何層も重ねるのか、ルイジアナで壁画を描くのか?こうした複雑さのため、「どのくらいで乾燥するのか」と質問されたときには立ち止まらざるを得ないのです。

アクリル樹脂の乾燥ステージ

もっとも単純な模式図レベルでいえば、アクリル絵具は塗膜からの水と他の「揮発成分」の蒸発により乾燥します。蒸発につれてアクリル固形分は移動して徐々に近づきやがてくっつきあって塗膜を形成します。最終的に十分に固まって水や添加剤を追い出して融着状態に到達します。硬化した塗膜は非常に安定し、水や上塗りにより逆戻りすることはありません。

理想的な乾燥条件で薄塗りした場合は、アクリル絵具はみかけ上は数分から数時間で乾燥します。逆に、厚くもりあげた場合には数週間から数ヶ月かかることも珍しくはありません。すべてのアクリル絵具は、水と共溶剤の蒸発により乾燥しますが、乾燥状態、特に乾燥速度には、乾燥過程のさまざまなファクターが影響します。事実、厚塗りの場合は、いくつかの異なる乾燥ステージの領域が存在し、それぞれが異なる揮発成分を含んでいます。

長年の間、この過程は厳密に定義されることがなく、いくつかの用語は人によって異なる意味を持つことがありますが、ここでは乾燥過程の基本的なステージを示してみましょう(図2)。

未乾燥絵具--製品が容器から取り出され、パレットやキャンバスに塗られるまでの状態。絵具にはまだ初期のレベルの揮発成分(水と共溶剤)が含まれ、下地に塗られると塗膜から蒸発を始める。未乾燥絵具はまだ動かすことができ、筆やナイフで簡単に作業ができますが、目に見えて固くなっていきます。樹脂の粒子は互いに近づきあい、全体に絵具で作業ができなくなったとき、未乾燥状態は終了します。

皮はり状態--塗膜から揮発成分が急速に蒸発し始めると、アクリル樹脂固形分は互いに接近します。塗膜の厚さによりますが、絵具は一連の急激な段階を経ていきます。この特定の期間は、軽く指で表面に触ったとき、絵具がついてこない程度に十分なだけの皮がはっている状態です。全体に皮がはってくると、塗膜の硬化の開始となります。

指触乾燥--指触乾燥段階は、皮はり状態段階と近い状態です。塗膜が薄い場合は、塗ってからすぐに、皮はり、指触乾燥と移行するでしょう。しかし、塗膜が厚い場合は、触った際に皺や裂け目ができなくなるには、十分な皮はりが必要です。揮発分が蒸発するにつれて皮は成長しますが、特に吸い込みのない面では、内部にかなりの量の添加剤が残っています。

取扱い可能/固形化--ある時点で塗膜は湿潤状態から抜け出し、重量減少速度は御幅に低下します。ここで塗膜は「乾燥した」と考える人が多いのですが、そうではありません。かなりの量の添加剤がまだ出てくる必要があります。この時点では、アクリルは非常に弱いので、梱包したり巻いたりするべきではありません。塗膜は部分的に硬化しているだけなので、接着性や塗膜が完全となるにはまだ十分ではないのです。

硬化/融着--乾燥過程でアクリル固形粒子は緻密に充填された状態に移動し(ちょうどテトリスのゲームに似ています) 、大半の揮発成分はこの過程で押し出されます。加えて、塗膜形成添加剤がこれらのアクリル固形分を柔らかくするので、粒子形状が変形し、粒子間の空間がなくなっていきます。粒子同士の間隙を埋めていた水や他の揮発成分はなくなって、六角形の蜂の巣のような樹脂のネットワークが形成されます。この過程を融着と呼びます。十分な融着が起こった後に初めて、塗膜は安定で最終的な物理化学的性質を発揮します。

融着はアクリル絵具塗膜の最終段階と考えることでしょう。大雑把にはそのとおりですが、アクリル塗膜には、水性とするために必要な程度の親水性、つまり水に馴染みやすい添加剤を含みます。そのために、見かけ上は乾燥した後でも幾ばくかの水分が残ります。加えて、融着が不完全な部分もあり、そのためにアクリル塗膜は多少なりとも多孔質であり、六角形に変形したアクリル樹脂粒子の壁面に細孔が残ります。こうした孔は湿気が入ったり出たりする通路となります。
 
この証拠はグラフ(図3)に見られ、かなりの時間が経過した後も塗膜にはかなりの量の揮発分が残っていることは明らかです。実際には5~20%の揮発分が残っているにもかかわらず、どの程度の塗膜完全性が得られているかは驚くほどです。アクリル塗膜は重量が減ったり増えたりしますが、それは周囲の空気のためです。温度が高く空気の流れが多いと、湿気を追い払いますが、相対湿度が高いと塗膜は湿気を含みます。この過程は塗膜が環境に反応することで継続していき、周囲の湿度との平衡状態を再構築します。このプロセスは、例えば常に気候が変動するニューヨークのようなところでは、とてもゆるやかで、安定した平衡状態になるには何ヶ月もかかります。他の多孔質体と同様、中の水分が蒸発するに十分な期間だけ湿度が低くならない限り、いくらかの湿気は残ります。

試験の準備

アクリル絵具の乾燥過程の時間についてもっと知るために、制御できて影響のあるファクターを検証しキーとなる乾燥過程により定義するために、一連の試験パラメーターを決めました。すべてのファクターを試験することは無理です。すべての試験を同時に行ったので、温度と湿度による差は除外できました。環境ファクターは重要ですが、この試験においてコントロールしようとすることは実践的ではありません。いずれにしろ周囲条件は記録しました。空気の流れは通常の室内条件に限定しました。

テストサンプルは常に最低3個を作り、基材には湿気に感応しない素材(アルミ、アクリル板、ポリエステルキャンバス)を選びました。初期にわかった問題点は、アーティストが使う多くの基材は吸収性が高いために湿気の影響で試験中に重量が変化することでした。綿キャンバスは湿気を吸い込み保持しますし、ハードボードや紙も同様です。試験に使った基材では、ポリエステルキャンバスは吸収性がありますが、アクリル板やアルミは吸収性がありません。目標は、吸収性の有無が乾燥過程に影響するかどうかです。

乾燥中の揮発分の変化を比較するのに重要となる固形分量について、レギュラーゲル(グロス)とチタニウムホワイトの実際のデータを測定しました。

テストは2種類行いました。ひとつは1年以上前に開始し、もうひとつは60日サイクルで観測しました。

塗膜厚さ

アクリル乾燥時間テストには、一連の標準的な塗膜厚さが含まれます。専用のツールを使って、均一な厚さの塗膜を準備しました。厚さは、0.25mm(たっぷりと筆で塗った厚さ)、1.6mm、3.1mm、6.25mmの4種類です。

乾燥速度の評価法
 
1. キーとなる段階に、実際に絵具に触れてみる(物理的手段)。これはアーティストが乾燥状態をみるのに一番やりやすい方法です(図4)。
2. 皮張りや表面状態を視覚的に観察する(視覚的手段)。乾燥するにつれて表面は縮んで変化します。ゲルは最初は乳白色ですが、乾燥につれて半透明になり、曇った状態から透明に変化します。乾燥サイクルで視覚的な変化は重要なポイントを示します。
3. テストパネルの重量測定。ほとんどのアーティストは作品の乾燥過程で重量測定はできません。もしできたとしても、実際の固形分量を知らなければ、あまり意味はありません。重量減少と、物理的手段、視覚的観察を比べることで、正確な乾燥過程の様子を知ることができます。

試験結果
 
想像できることですが、このようなテストではたくさんのデータが作成されます。それぞれのデータは個別に検討され、ついで相互に比較されます。テストでもっとも重要な点のひとつは、それぞれの時間における乾燥の程度を、揮発分の量との関係で定義することです。これはサンプルの重量減少と、物理的変化、視覚的変化を比較しますが、実際には変化は急速に起こるために、各段階の区別は明瞭ではありません。塗膜が厚いほど、関係性はわかりやすくなりますが、乾燥サイクルにおける各段階を検証していくことは、結果の理解に重要なことです。

初期急速乾燥

それぞれのテストパネル全体において、大半の揮発分は乾燥サイクルの初期に蒸発して失われます。皮張りができないうちに、水分や溶剤の蒸発が起こります。図5を見ると初期の急速な減少がわかります。興味深いのは、それぞれの塗膜の重量減少をプロットすると、同じ乾燥カーブになることです。薄い塗膜では固体状態になるまで3日かかることがわかりました。これはその間、塗り重ねができないという意味ではなく、キャンバスを張るとかワニスがけするにはその程度の時間経過後が適しているという意味です。

基材の影響

基材の乾燥時間に対する影響は大きなものです。同じ絵具を同じ厚さで塗った場合、キャンバスのように吸収性のある基材のほうが早くなりますが、それは吸収性のない基材にくらべ、2方向に乾燥が促進されるからです。初期段階では重量減少は同程度ですが、表面に厚い皮が形成され始めると、その差が明瞭になってきます。
 
より吸収性が高いほど、2方向乾燥しやすくなります。非吸収性のアルミパネルではほとんどの場合、重量減少は一番遅く、ゲルが透明になるのも遅くなりました(図6)。

塗膜厚さ

塗膜厚さは、アクリル絵具の乾燥速度の重要なファクターとみなされます。0.25mmの塗膜は、ゲルでも絵具でも数分で指触乾燥(表面乾燥)します。均一に乾燥し、通常の乾燥過程となります。しかし塗膜が厚い場合は大きな違いとして皮張があり、それは塗膜が完全に硬化するまでの間により顕著になります(図7)。塗膜の皮は、揮発成分が塗膜から蒸発するのを大幅に妨げます。

これについては、レギュラーゲル(グロス)が透明になる速さと重量減少速度を比較することで検証できました。さらに物理的手段においても同様でした。どの場合でも、製品や基材にかかわらず、薄い塗膜ほど早く乾燥します。

製品による違い

本試験は広範囲に及ぶため、試験に使った製品の種類は限られたものでした。チタニウムホワイトとレギュラーゲル(グロス)は製品による違いを十分にカバーしています。様々な顔料、絵具の配合、その他製品の種類によっては、これらの2製品とは異なる挙動を示すことは理解しています。絵具製品には、アクリル樹脂の固形分に加えて、多種類の顔料、体質顔料、固形物、つや消し材などの固形分が含まれているのに対し、ゲルの固形分はアクリル樹脂だけかそれにつや消し材が加わる程度です。
 
チタニウムホワイトとレギュラーゲルを比較すると、様々な塗膜厚さや基材に関わらず初期状態では大差はありません。初期の重量減少では、チタニウムホワイトがリードをとり、これは60日テストサイクルの間、続きます。いくつかのテストグループにおいて、塗膜に残った揮発分の最終的レベルは7から15%でした(図8)。

物理的手段の結果

ゲルとホワイトの表面に、初めは爪楊枝、後に鉛筆で物理的に突いて、数日後に変化が認められなくなるまで続けました(図4)。薄い塗膜では乾燥が非常に早いので、そこで生じる様々な変化を測定することは困難でしたので、記録可能なデータは大半は厚い塗膜から得ました。

試験初日のうちに、製品は目に見えて粘度が上昇し皮が張りました。一般にアクリルの塗膜は乾燥の初日にとても早い変化を始めます。数時間以内に、チタニウムホワイトには、ブリー(柔らかい熟成したチーズ)と同じような硬い皮膜を形成しますが、ゲルの皮膜はもっと弾力があって、触れると引っ張ったり伸ばしたりできます。

二日目には、爪楊枝では触れても変化しないようになります。皮膜は厚くて弾力性がなくなるので、乾燥のチェックは鉛筆に変更する必要があります。最初は軽く触れる程度でよいのですが、徐々に強く突くことになります。二週間目の終わり頃には、塗膜は鉛筆の芯が折れるほどに強くなります。

表面積広さの違い

この種のテストを行う際、テストデータは多くの場合、野球ボールのカーブのようになります。面積の狭いアクリル絵具の塗膜は、広いものよりも早く乾燥すると仮定するのが普通でしょう。そうでしょうか?そんなに早くないのです。パネルに、5cmと30cmの絵具の円を作って比較しました。レギュラーゲルとチタニウムホワイトのどちらも、重量減少は広い面積の方が早かったのです。その差は大きなものではないでしょうが、何故そうなるのかと疑問を持つには十分なものでした。

区域別の乾燥
 
こうした結果の解明にはもっと多くのテストが必要ですが、一つの考え方として、絵具でもゲルでも厚い塗膜ではこの皮膜の厚さは中心と端部では異なります(図9)。中心部には、周端部の乾燥の影響で揮発分が集中してくるので塗膜厚さは薄いと思われます。周端部には最初に皮膜が形成されより緻密になるので、水分はその部分を通って蒸発することが困難になります。水分は最も通りやすい路を通ります。この場合、水分は中心部に向かって流れ、均一に成長した(周端の)皮膜部分よりも(中心部で)若干ながらでも早く蒸発します。

まとめ

多くのアーティストはアクリル絵具の速乾性を利用します。これは大きな特徴の一つで、リターダーで乾燥を遅らせることはできるものの、速乾性により多くのテクニックが可能になります。しかし時間が重要視される場合、多くのアーティストはそのファクターを予め考えておくということがないため、次の描画プロセスに進むまでに予想外の時間を待たなければならなくなります。もし厚く塗った場合には、塗膜が乾燥するには十分な時間が必要なことを理解しなければなりません。速乾性を重視する場合は、乾燥時間を短くするにはどうしたらよいかをよく考えてください。

試験結果のまとめ:いくつかのヒント:

--薄い塗膜は厚い塗膜よりも早く乾く。これは厚い膜を作れないと意味ではなく、一度に厚く塗るのではなく、薄い層を何回も重ねることが可能かどうかを考えてください。
--吸収性の生地はより早い2方向乾燥を可能にする。パネルは非常に安定したものですが、それを使うことはすべての揮発分が一方向にしか蒸発せず、それは皮膜ができる方向だということです。

--製品の種類は乾燥に影響はするが、あまり神経質になる必要はない。

--描画サイズはあまり問題ではない。

--環境要因は乾燥に非常に大きな影響を与える。温度、湿度、空気の流れは、乾燥時間をコントロールするために調整できる。

最後に、今回のテストでは乾燥時間の変数を分離して考えましたが、これらを一緒にコントロールすることで、大した問題を起こすことなく全体の乾燥を早めることが可能です。地下室でパネルに厚く盛り上げて塗るよりは、暖かくて乾燥し空気がよく流れる場所でキャンバスに薄く塗る方がはるかに早く乾燥します。ですから、急いでいる場合でも、ご自分のニーズに合わせるために、できるだけ多くのファクターを乾燥の公式に入れて考える時間を取ってください。

Golden Artist Colors社


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