色の範囲

カレッジ・アート・アソシエーション(CAA)のトレードショーのブースの一部として展示された大量のドローダウン
   
クリストファー・ファレル

色の知覚や用途や技法、そして色の再現に関する独立したエッセイを書きたいと思いつつも、Just Paint第22号の「色の機微」に言及しないわけにはいきません。この記事の概念的出発点であるだけでなく、今もなお続く色彩研究という長い旅の触媒でもあるからです。この記事の内容を理解するためにそれを読むことを要求すべきではないでしょうが、この記事も読むことで参考になるのではないかと思います。

サラ・サンズの記事をきっかけに起こった一連の出来事から、ティント・アンド・グレーズ・ポスター(ティント:ホワイトで薄めた色、グレーズ:透明なメディウムで薄めた色:訳注)が印刷されることになり、2010年2月に初めてお客様に提供され、遅くとも2010年の夏には第二版が店頭に並び始めました。ティント・アンド・グレーズ・ポスター以外にも、彼女の記事に端を発した色彩研究の構想や応用への取り組みが行われてきました。

ポスターの発端は、テクニカルサポートサービス部が2009年の春と夏に記事のために実施した研究のティントとグレーズを使った色彩研究でした。2009年の秋、記事の研究に使ったいくつかの色がきっかけとなり、ヘビーボディカラーズの全色に関する調査が行われました。テクニカルサポートの画家たちはティントとグレーズの大規模な手作りの色見本ライブラリーを作る構想をとても魅力的だと考えましたが、このアイテムの魅力を認識すると同時にその非実際性も実感しました。ドローダウン1は数百時間に及ぶ作業の賜物であり、細かくカットして冊子のようなものやノートのページに論理的に順序だてて貼りつけるとなると何倍もの時間と費用がかかるでしょう。それでもなお、我々はこのコンセプトを画家に届けたいと強く願いました。

文化と理想と実際性と技術の十字路に突き当たったのはこの時でした。これらがひしめく十字路で色域2を作成したものの、わかったことと言えば、無謀な試みだったということだけでした。苦心の結果生まれたこの小さな類似物がそれを物語っています。ティントとグレーズの研究から生まれた美しいさまざまな色を再現するには、一般的な商業印刷技術以上のものが必要だったのです。

この記事を印刷されたニュースレターで読んでいる場合、見える色はすべて、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色(通称CMYK)で作られており、印刷物で見るさまざまな色の99%はこの4色を基調にしています。お使いのコンピュータに付属するプリンタもおそらくそうでしょう。CMYKはいたる所で使用され、一般的に信頼できるようになりましたが、同時に、アーティストが使用する色の全範囲を表現するには不十分であることもわかっています。

CMYKを使うと「色の機微」は当然失われます。最たる例は、オレンジ、ほとんどのグリーン、ディープブルーです。なぜなら、これらの色は三原色(シアン、マゼンタ、イエロー)の中間にあり、妥協と混色の領域に入るため、色の本質が満たされることは決してないからです。そのため、より進歩した「ヘキサクローム」3カラーシステムでは、イエローとマゼンタの間にオレンジを、シアンとイエローの間にグリーンを挿入しています。これを「CMOYGK」カラーと呼ぶこともありますし、もっと簡単に6色刷りと覚えてもよいでしょう。
この6色刷りはオレンジとグリーンのスペクトルを印刷で再現する時に経験しがちな問題を解決します。CMYKで表現される色と6色刷りで表現される色とを比べると、何気なく見ただけでも全く違うことに気づくでしょう。通常、印刷はCMYKより50%高価ですが、この6色刷りであればドローダウン研究から生まれる色も許容レベルで表現できるだろうと思いました。

残念ながら、絵具の色を印刷物で忠実に表現するという難題をたった一つの技術で解決することはできません。ティント・アンド・グレーズ・ポスターの開発工程から、色の知覚に差があることや、コンピュータの画面や印刷物でどのように表現されるかが明らかになりました。

技術的詳細に入る前に明確にすべき点は、画家のパレットにある色をすべて十分に模倣する方法はないということです。顔料には可視スペクトルの範囲を超える要素があり、利用できる最高の色測定ツールでも絵具の一定の様相や特性しか把握することができません。結論として、ある顔料が絵具でどう見えるのかを知るためには絵具を見なければならないということです。リトグラフや絵画のjpeg画像を見ても絵画を直接見ることにはならないのと同様です。

そこで、各色を5種類のティントと4種類のグレーズに正確に混ぜ、試験紙に塗ると絵具はどう見えるのかを正確に調べ始めました。次のステップは、分光光度計、すなわち科学的に較正されたデジタル機器を使って、各色を白地と黒地の上で測定して色をデータに翻訳することでした。RGB(大まかに言うと、コンピュータや携帯電話やテレビの画面での色彩表現)、sRGB、L*a*bなどの測定値に多くの色指数を当てはめました。

L*a*bの測定値が最も効果的な基準であると考えられている理由は、RGBや反射色のCMYKを使った色の見え方に基づくのではなく、人の目の機能に基づいているからです。国際照明委員会(CIE)が1931年に開発した「L」スペクトルは0~100の輝度値を示し、0は完全に暗い(黒)、100は完全に明るい(白)を表します。「a」と「b」は、もう少し複雑で、*aはマゼンタとグリーンの間の知覚曲線、*bはブルーとイエローの間の知覚曲線を表しています。*aと*bの範囲は-128~127で、マゼンタとブルーはスペクトルの最もマイナスになり、グリーンとイエローはスペクトルの最もプラスになります。

このような話はすべて学術的に聞こえるかもしれませんが、ティント・アンド・グレーズ・ポスターの制作作業において表色系で対応した理由はきわめて現実的なものでした。ポスターの制作にあたり利用できるソフトウェアにはどれも6色刷りの機能がなかったのです。ラボで作られた色は、その色、すなわち最終的には6色刷りの出力を表現する技術的能力のないソフトウェアを通過しなければならないでしょう。この全工程において色を操作するために使用したコンピュータ画面の色域は、6色刷り印刷の可能な色域より小さいものです。技術的難題の中で唯一の明るい材料はレイアウトソフトウェアのL*a*b能力でした。
各表色系で見える色と見えない色を把握するには、下の図が参考になります。これは可視スペクトルを図で表現したものですが、この記事で述べてきた表色系の境界を示しています。L*a*bシステムは可視スペクトルの全範囲にわたっており、装置に依存しません。しかし、この図が示すように、CMYKとRGBは限界があるため、どうしても可視スペクトルがところどころ除外されます。6色刷り、すなわちヘキサクロームにはRGBを超える範囲が複数あります。

 

       記事に記載した各表色系の可視スペクトルと境界を示す図


換言すると、コンピュータ画面の色範囲を超えて色を操作する必要がありました。そのため、工程の各段階で専門的なデジタル製版システムを使用して作成した6色校正刷りに頼りました。色はレイアウトソフトでデータとして操作され、その後印刷会社で画像システムにより処理されました。色を調整するたびに、その色がプレス機の6種類のプロセスカラーでどのように表現されるかを確認するために、デジタルの校正刷りで検証しなければなりませんでした。時間と費用がとてもかかるように聞こえると思いますが、実際にそうなのです。

市販のプリンタで作業をするメリットの一つは、色がコントロールされた環境です。特殊な照明のついた大きな机のようなブースのおかげで、一定のバランスのとれたニュートラルな色の光の中で6色の校正刷りとオリジナルのドローダウンを見ることができました。ブースの壁はフォトグレーで、観察区域に窓がないため、正確に比較することができました。
ほとんどの人は、「日光」はとにかく一定であると思っていますが、アーティストは、気象や大気の状態、時間帯や季節によって日光の色が変化することを知っています。そうしたすべての変動に、壁や床や天井に反射した色の影響や日光が通過する窓の色合いの影響が加わるのですから、このように色彩バランスのとれた光と観察ブースで作られた一定性が必要であることが理解できると思います。

これらのツールと工程をすべて駆使して、色をティント・アンド・グレーズ・ポスターに変換する作業にコツコツ取り組みました。1回目で正確に表現できた色はほとんどなく、微妙整をして色のニュアンスを保つことに作業の大部分をあてました。校正刷りと微調整の繰り返しでした。最も難しかったのはブルー系でした。その理由は、ブルー系のほとんどがシアンとマゼンタとブラックに依存しているため、CMYKにオレンジとグリーンを追加してもブルーの領域ではあまり有効ではないからだと思います。

非常に明るい色と非常に暗い色では、一見小さな色の変化が劇的な差になったため、課題が残りました。工程の中でさまざまな色が生み出すある種の影響「曲線」の感覚を育てる必要があります。絵具と同様、暗い色は明るい色より速く混合物に影響を及ぼすため、イエローとオレンジの調整はシアンやブラックの調整より厳密に行う必要がありました。
入手可能な最高の表色系をもってしても妥協は避けられません。コバルトブルーやカドミウムレッドのような顔料が持つ範囲の輝きや明度には最高の印刷工程ですら対応できないため、最も近い色を受け入れ、6色刷りでよりよい近似色となる色と比較して、これらの色に最適な場所を見つけなければなりません。使用した工程と作成したツールに関する最も大きな希望は、有益な二次元のガイド、すなわちアーティストが当社の絵具で実際に作り出す色の魅力的な領域のマップが得られることです。

最終的に、ティント・アンド・グレーズ・ポスターは参考資料の実験です。ゴールデン社のテクニカルサポートサービスチームや他のチームは、各色が独自の性質と属性を示しているため、系統だった方法をさまざまな色がティントとグレーズのシステムに拡張できたことを大変魅力的に感じました。

ティントが柔らかいピンクとなるレッドは燃えるようなグレーズになりました。ジオキサジンパープルのようにチューブから出した時はほとんど黒に近い色は、色の範囲と濃さが並はずれていることがわかります。見本を見ただけでは決して使おうとは思わないような色も、このように表示されると驚くべき多用途性や独特の性質を示しています。

毎年手描きのカラーチャートを数千部作成する会社としての関心は、まぎれもなく、実際のティントとグレーズがあればこの作業がいかに楽しいものであるかを伝えることです。今では、ティント・アンド・グレーズ・ポスターは、考えられる限りにおいて、アイディアを伝える最も実際的な手段です。しかしながら、ニューベルリンの近くに来られたら、ぜひ工場にお越しください。喜んで絵具をお見せします。

ティント・アンド・グレーズ・ポスターに関する詳しい情報をご希望の方や、学校やスタジオ用にポスターをご希望の方は下記サイトをご参照ください。http://www.goldenpaints.com/products/promotional/tintAndGlazePoster/.



1 :「ドローダウン」とは、色のばらつき、不透明性などの性質を調べるために、前もって混ぜた絵具を一定の厚さ(当社は250μmを使用)で試験紙に塗ったテストカードです。goldenpaints.comの色に関する詳細な情報にはドローダウンのスキャンもあります。
2:色に関して使用した色域という用語は範囲の広さ、すなわち印刷で表現できるすべての色や、可視スペクトルで認知できるすべての色を表します。
3 :ヘキサクロームとは、パントン社が所有する特許カラー印刷システムです。

Golden Artist Colors社


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