? ?  


油絵具をアクリル絵具と使う

サラ・サンズ

それは結局、何らかの力とひずみのことです。油彩画に関するほとんどすべてのことは、環境や物理的な扱いに対する膨張と収縮、硬化と流動です。さらに悪いことに、様々な材料が時間とともに内部変化を起こすにつれて、そうした変化の程度と性質も時間とともに変化することです。最終的には、張り伸ばされた油彩画は競い合う力の戦場ともいうべき、常に変化を続ける動的なシステムです。

油彩はアクリル下地、さらにいえばアクリル絵具やメディウムの上に安全に使えるのかという疑問を、この戦いの場に投げかければ、さらに新たな戦場にはまりこんでしまいます。伝統主義者や純粋主義者は、近代材料の使用に反対するか、あるいは極端に使い古された一般論で悲惨な結末をほのめかします。すなわち、アクリルは柔軟すぎる、閉鎖的だ、全く試験されていない、ひどい場合は、新しすぎる、などといいます。伝統的な調合の欠点、結局は歴史上の非常に多くの油彩画はひび割れし様々な手順の修復をされているという事実に対しても、彼らは「知らない悪魔より知ってる悪魔の方がまし(英語の諺)」ということでしょう。現在ではこれらの問題も修復科学者によって完全に解決され、最善の対策がつくられ文書化されていると考える人もいるでしょう。しかしそれは違います。私たちが、油彩画のアクリル下地に関する通念を追い払おうとする際、同時に新たな問題と疑問が開かれます。少なくとも現状では、最善の憶測で満たすしかないのです。

機械工学用語

この分野で最も有望な研究は機械工学と材料科学のレンズを通して行われてきました。これらの分野は絵画のほとんどあらゆる物理的外観を深く探求し、その過程で、絵画がシステムとしてどのように機能するか、そしてより堅牢な下地と安定した構造を持つ美術作品をつくるための要件についての深い見識を提供してきました。

この領域について探求する前に、その研究分野についての用語を理解しグラフを解読する必要があります。代表的な図として、応力-ひずみ曲線がありますが、これは材料がどのくらい強くて柔軟性があるか、そしていつ破壊されうるかを測定する手段です。



最初の図の曲線は多くの材料が引き延ばされた時の典型的な挙動を表します。最初は初期抵抗に打ち勝って引き延ばすための力を要するために、曲線は急激に上昇します。レジ袋を両手で引っ張って伸ばすときのことを考えてみてください。最初は抵抗がありますが、十分な力で引っ張ると、最後の引きちぎられる点まで伸び始めます。レジ袋の代わりに、30cm長さの油絵具塗膜を引っ張った場合、引きちぎれるまでは、ほんの1.5~3mm程度しか伸ばせませんが、多くのアクリル絵具塗膜は通常の条件であれば、その長さの二倍あるいはそれ以上伸ばすことができるので、大きな違いがあります。材料を伸ばすのに必要な力の大きさを「応力」と言い、材料が伸びたパーセントを「ひずみ」と言います。最後に重要な用語は「降伏点」です。これは材料の伸びが元の状態に戻らずに恒久的に変形したり損傷したりする点です。多くの画材や支持体では、1パーセントの半分(0.5%)という非常に低いレベルに設定されており、現実的な限界を表すだけでなく、許容できるひずみがいかに小さいかを示しています。

 

二番目のより基本的なグラフ(図2)は、自由な、つまり引っ張られていない材料膜が、温度あるいは湿度の変化に応じて変化する膨張あるいは収縮のパーセントを示します。「引っ張られていない」ということは、材料は伸びたり縮んだりすることの制限がないということです。例えば、緩やかな生地あるいは木が室内の湿度変化に伴って伸びたり縮んだりするところを想像してください。こうした寸法変化を測定することで、その材料が(湿度や温度に対し)どのように反応するかがわかります。この同じ材料が何らかの引っ張りを受けているときを想像してみてください。例えば枠に張ったキャンバスならば、全体の寸法は変わりませんが、(湿度や温度変化に応じて)張力が発生し、キャンバスが張ったりゆるんだり、膨張や収縮を起こすことが分かります。このように自由膨張ひずみの測定は、環境条件が変化する時にはいつでも絵画に起こる応力の大きさに直接関係してきます。

理想的な下地

油彩画に対する理想的な下地は、その上に乗せる下塗りや絵具よりも硬くあるべきです。この目的のため、伝統的には木製パネルやときには銅板が使われ、こうした素材になされた多くの絵画は、他のものよりもはるかによい状態に保たれています。柔軟性のない支持体は、環境変化や物理的な扱いに対する材料の潜在的な動きを抑制することができます。現在でもこれは、油彩画のヒビ割れや剥離の危険を最小限にし、耐久性のある作品を制作する上では最も重要なアドバイスです。油絵具のみで行う場合でも、下地や下塗りをアクリル絵具でする場合でも、これは真実です。

枠に張った綿や麻に描く場合を考えると、これらの材料は単に柔軟であるだけでなく、環境に対する変化が大きいことからも、複雑なことになります。伝統的には、生地を安定化させ、油による有害な影響から繊維を保護するために、ニカワの下塗り(サイジング、どうさ引き)をしてから、油性の地塗りを行い、最後に実際の描画を行います。しかしながら、この単純に見えるサンドイッチ構造(キャンバス、ニカワ、地塗り、描画)はまた、時間が経過し周囲が変化するにつれて、とても複雑な相互作用や様々な力を引き起こします。この領域は多くの近代研究の焦点であり、そこでの発見は油彩画の要素としてのアクリル絵具の可能性を見る上での助けとなります。

油彩画においてアクリルは、伝統的な下塗りの代わりとして、あるいは速乾性の下地描画やテクスチャーとして、非常に幅広く使われています。この傾向の大半は、アクリルが便利で使いやすいことに加えて、溶剤をあまり使いたくないことから来ています。しかしながら、こうした利点とともに、当初から根強い疑問や懸念がありますが、それらは三つに分類できます:環境に対するそれぞれの材料の変化が異なることから起こり得る潜在的問題、接着性の心配、そしてアクリル塗膜は本質的に油塗膜よりも柔軟である事実です。それぞれについて研究していきましょう。

環境条件に対する反応性

アクリルの上に油絵具を使用する重要な危険性は一般に、油絵具とアクリル絵具の伸縮の程度が著しく異なるために、塗り重ねた塗膜がヒビ割れることであろうと考えられています。この「事実」は頻繁に繰り返され、確認されることもなく長く流布されてきたので、論議もされず一般に受け入れられることとなりました。この過程において多くの人々は、アクリルは本当にそのように異なる寸法応答性を示すのかと、問いただすことを忘れてしまいました。また、もしそうならどのような環境下で起こるのか?幸運にもこうした疑問に答えるのに十分な研究があります。多くの材料が環境変化に対しどのように反応するのか、湿度と温度に焦点を当てたものを含む十分な研究があります。



湿度

図3は簡単に比較できるように、スミソニアン協会シニア研究科学者のMarion Mecklenburgによる多くの試験結果の一部を組合せ単純化したものです。図は代表的な自由膨張ひずみを湿度との関係で示しており、アクリル絵具と油彩画でよく使われる材料を対比しています。

お分かりのように、幅広い湿度範囲において20年経過したアクリル絵具はトータルで1.5%の伸縮を示しますが、これは一般に安定した下地材と考えられている伝統的な白亜地(ジェッソ)に見られる1%という変化とそれほどの差はありません。ニカワは一番変化が大きく、4%以上という顕著な寸法変化を示し、多くの研究家が多くの古い絵画のヒビ割れや剥離の主因がこの材料であると特定することにつながっています。イエローオーカーは、天然土とクレーから作られた反応性の高い油絵具の代表で、全体で3%もの変化を示し、60~80%湿度の間でほぼその2/3の変化をします。これはアクリル絵具に見られるよりも大きな動きであり、湿度変化に対して油彩画がどのように反応するかを考える際の懸念の要因であり、これらの天然土の色は結果として剥離や脱落を起こしやすいであろうといえます。もっとも反応の小さい色は様々な白色の油絵具であり、図にあるシルバーホワイトは0.5%あるいはそれ以下の小さな範囲に留まります。こうした製品に加えて、最近の研究(Hagen、2006)では固形分の多いつや消し家庭用塗料はさらに湿度による変化が少なく、極端な湿度変化にもほとんど反応しないほどであることが示されています。これは少なくとも、同じような特性を持つマットアクリル(国内未発売)やアクリルジェッソは、油絵具が接着するための安定した下地を提供するものであって、この製品をさらに探求すべきであるという私たちの考えを補強するものです。

温度

湿度と違って、温度変化によりもたらされる寸法変化は非常に小さく、それ自体はほとんど脅威ではありませんが、これらの材料が温度だけでは明らかな膨張や収縮をしないことからみれば驚くことではありません。一般に、油絵具、アクリル絵具、ニカワはいずれも0.5%という狭い範囲になります。図4は一定の温度範囲における代表的と考えられる自由膨張を単純化して表しています。



それよりずっと問題なのは、低温に曝された場合に、油絵具、アルキド絵具、アクリル絵具がもろくなることです。今までみてきた膨張や収縮と違い、過度にもろくなると絵画は内部応力によって割れるリスクが高まります。もちろん、引張りや取り扱い、輸送などによる機械的応力による割れはいうまでもありません。しかしながら驚くべきことは、一般に10℃以下では劇的に硬くなるという条件をもってしても、アクリルはよい状態を保つことです。実際、アクリルプライマーと、油変成アルキドを含む油性下地の比較研究では、常温および低温においても、アクリルはヒビ割れするまでの柔軟性に明らかな利点を持っています。アルキドとアクリルによる下地に関する最近の研究の一つでは、現在のところ「アルキドベースの油性プライマーは近代の柔軟な支持体に対しては最も影響を受けやすい」(Young, Hagen,2008)と明白に述べています。研究では、20度というような普通の温度でも、亜麻仁油ベースの鉛白(炭酸鉛、シルバーホワイト)下地はわずか1.6%引き延ばされても割れてしまう一方で、もっとも柔軟なアルキドベースの下地は9%までの伸びを維持できたことが分かりました。しかしながら、10℃では、それぞれ、0.8%、2.1%にまで低下しました。0℃では、シルバーホワイト下地は通常の扱いや移動で十分に想定される0.4%ひずみで破損しました。これに対しゴールデンアクリルジェッソは、さらに低い-10℃でも破損したのは1%のひずみの時であり、0℃では破損するまでに2.3%の伸びが可能で、10℃では7.3%まで可能でした。油変成アルキドの劇的なもろさは、過去および現代の研究(Erlebacher, 1992, Ploeger, 2009, Alba, 2010)で指摘されていますが、アクリルは常に低温における大きな伸び性を示しています。

こうした懸念を明白にし、ひずみの程度を分かりやすく説明すると、25"x30"(63.5cmX76.2cm)の絵画において、1%またはそれ以上の対角線方向のひずみを起こすのに必要なずれは、わずか1.5mmであり、短辺で測定すればこれは0.5%のひずみです。これが意味するものは、上記の研究にあった油性プライマーは穏やかな温度の10℃でもヒビ割れする危険があるということです。

追跡試験が最終的には必要ですが、少なくとも現在のところ、ゴールデンアクリルジェッソのようなアクリルプライマーは温度が10℃以下でも破損しにくい下地であるといえそうです。とはいうものの、低温ではここで述べているいずれの絵具のシステムも高いリスクがあり、そのような環境に作品を曝す場合は非常に注意深くする必要があります。

接着

多くのアーティストにとって次に重要な問題は、一連のアクリル下地、絵具、メディウムによく接着するかどうかです。これはゴールデンが15年以上前から注目してきた分野であり、以下はこれらの結果のレビューと、酸化亜鉛を含む油絵具の接着性に焦点を合わせた保存研究についてです。

ゴールデンが行った試験の第一ラウンドは1990年代半ばで、3種類の異なるアクリル下地(ゴールデンジェッソ、チタニウムホワイト、そしてセルフレベリングクリアタールゲルとフルイド・チタニウムホワイトを2:1で混合したもの)に、5種類の油絵具(インダンスロンブルー、ウルトラマリンブルー、モーブブルーシェード、コバルトターコイズ、コバルトブルーディープ)を250ミクロンのフィルムアプリケーターで塗付したものを作りました。これにより、つや消しで食い付きのよい下地、標準的なアクリル絵具、そして非常に滑らかで光沢のある色のついたアクリルメディウムというサンプルが用意できました。3種類の下地の上に塗ったサンプルを25個、トータル75個のサンプルを作成しました。サンプルはコート試験紙に塗付し、研究室の穏やかな環境条件で保管しました。接着試験はASTM 3559により実施し、いくつかの代表的サンプルについては明らかにヒビ割れるまでたわませ、外科用メスではがせるかどうかを見ました。今までのところ、非常に滑らかで高光沢の面に塗った油絵具でさえも、欠陥の記録は一つもありません。

第二のさらに広範囲な99のサンプルを含む試験は2006年に始まり、その中には250ミクロン厚さにフィルムアプリケーターで塗付したゴールデンジェッソの上に同じ厚さで塗付した油絵具も含まれています。油絵具は3種類の異なる専門家用ブランドから3色(イエローオーカー、バーントアンバー、アイボリーブラック)を選び、チューブから出してそのままのもの、アルキドメディウムと3:1および1:3の混合したもの、4:1で晒蜜蝋と混合したものを、それぞれ塗付したもの、そして最後に1:4に無臭ペトロールで希釈して薄いウォッシュで筆塗りしたものとしました。それに続き、ダンマルまたはゴールデンMSAワニスによる、仕上げあるいはリタッチワニスを、間隔を変えて塗りました。碁盤目接着性試験を続いて実施しましたが、いずれも剥離などの欠陥はありませんでした。先の試験と同様、すべてのサンプルは時間による変化をモニターし再試験を行う予定です。

私たちの試験は、多くのアクリル塗膜への油絵具の接着性に関する信頼性を提供することから始めるべきではありますが、最近、様々なアクリル下地からの油絵具の剥離に関する研究(Maor, Murray 2007, Maor et al 2008, Maor 2008, Mecklenburg 2007b)がよく取り上げられているという懸念があります。研究は主として1999年にスミソニアン協会においてMarion Mecklenburgが、特にこの問題に関して、および二つの実際の作品で剥離が起こったことを探求するために造ったサンプルをベースにしています。結果を見ると研究では最終的に、酸化亜鉛が相当量存在していたことが剥離の根本的な原因であり、アクリル下地であったことによるのではないと結論していることに注目することが大切です。Yonah Maorが述べていますが、彼女の結果を要約すると「決定因子は油絵具に含まれる金属であり、下地のタイプではない」ということです(Maor, 2008)。様々な金属石鹸、とくに亜鉛によるものが問題の絵具のなかでどのように形成され脆性や剥離を起こすのかというメカニズムについては研究が続けられていますが、絵具と下地の間に形成される金属石鹸が変わらぬ要因と思われます。また、粗い下地は滑らかな場合よりも接着性がよくなるようだと指摘されており、アーティストたちはザラつきのある下地を選ぶことでリスクを減らすことが出来るでしょう。同時に(トータル20のうち)亜鉛をほとんど含まない16の絵具では剥離はまったく起こっておらず、その顔料としては、酸化チタン、鉛白、ローシェナ、コバルトブルー、ウルトラマリンブルー、レッドオキサイド、イエローオーカー、テールベルト、インデアンレッド、バーントシェナ、バーントアンバー、ベルディグリス(緑青)が選ばれています。

もし酸化亜鉛に関連する明らかな問題以外にシステム的な問題があったとすれば、こうした他のサンプルにも多くの欠陥が起こると予想されたでしょう。様々な抽象表現画家による作品で下地にジンクホワイトを使用している場合に見られるクラックや剥離に関する研究により、これらの研究の結論はさらに増強されました。このような問題はアクリル下地とはまったく関係のない多くの例でも見出されたという事実からも、問題は亜鉛の多い油絵具の構造的弱さに起因し、他の要因とは関係ないということが強調されます。

柔軟性

前述のように、張りキャンバスに描画するという単純な事実が油彩画家にとって問題なのですが、彼らは油絵が時とともに徐々にもろくなる一方で、その塗膜の数ミリ下にある綿や麻は曲がったりひずんだり、張ったり垂れたりを続けることを知っています。布地支持体の動きと応力はGustave Berger、Gerry Hedley、Marion Mecklenburgなどの研究者によって記録されています。これらの研究から展開された事実は、直感に反することですが、キャンバスではなく、上の絵具をサポートする硬いサイジングであり、構造上に科された最大のリスクは、伝統的なニカワサイジング(どうさ引き)に起こる、湿度による力と、温度による同様に危険なもろさです。

サイジング(どうさ引き)

伝統的材料で制作する人たちはニカワを信奉していますが、その弱さと、塗膜のヒビ割れや剥離における役割を示す証拠は本質的で説得力があります。一つの利点としては、湿度範囲が正確に保たれた場合に示す優れた強度がありますが、それもその極度に湿気に敏感な性質のために、湿度75%以上では急激に強度が低下しキャンバスが持つ張力にも耐えられなくなるため、その意味を失います。



こうした問題から、ニカワの可能な代替品を探そうとするのは自然なことです。アクリル製品のゴールデンGAC400(国内未発売)はキャンバスを硬くするので、以前からお勧めしてきました。特に最も古く最ももろくなる油絵具のための十分な硬さを得るには、理想的な代替品ができたという前にさらに研究を重ねる必要があります。しかしながら、GAC400で得られる硬さは、通常条件でのニカワの硬さに匹敵します。図5はMarion Mecklenburgによるテストのグラフで、麻にGAC400を二回塗りの場合と、ニカワを二回塗りの場合、そして312.5ミクロン厚さの油絵具塗膜単独の結果です。

GAC400の主な欠点は、非常に古い油絵塗膜、あるいは新しい塗膜でも酸化亜鉛(ジンクホワイト)などのもろくなる絵具ではそれらの硬さには満たないこと、そして高湿度での十分な耐水性を持たすにはヘアドライヤーを「強」にして表面を数分間熱して加熱硬化させる必要があることです。しかし、ニカワの反応性が高いことを考えると、作品が厳密な条件にずっと保たれない場合にはこれらの得失を考慮してよいでしょう。

アクリル下地:厚さ、複合構造、柔軟性の影響

アクリル下地の柔軟性を考える時、伸縮性ゴムのような塗膜に硬質の絵具を塗り、絵具がヒビ割れるまで伸ばすことを想像するようなワナに陥る人が多くいます。しかし、これは実際に絵具が被るレベルやタイプの応力やひずみとは関係がなく、もちろん考えすぎです。過度の想像であり誇張です。もっと大切なことは、材料が引っ張りに対しどのくらい強度や耐性があるかを理解し、硬い材料が必ずしももろいとは限らないことを知ることです。例えば、多くの金属は曲げたり伸ばしたり出来ます。そのために大きな力がいるだけです。あるいは、そうした考えにおいて厚さだけでもどんな影響があるか考えてください。例えば、多くの材料は薄いフィルムにしたり厚いシートあるいは板にしたりできますが、伸びや変形に対する抵抗力はそれぞれに大きく異なります。非常に伸びやすいプラスチックラップも、硬いカッティングボードも同じタイプのプラスチックから作られますが、絵画支持体としての柔軟性を考えた場合にはそれぞれはまったく別物と考えるでしょう。そしてアクリルも同様なのです。薄いアクリルの塗膜の挙動は、現実的な見方からして、十分に厚い塗膜とは異なります。メディウムの薄い膜は、1/4インチ(約6mm)厚さの板状のゲルとは異なります。



この効果は、図6で見ることが出来ます。ここではアクリルジェッソ4回塗りは、最初は古いシルバーホワイトの塗膜と同じ硬さを持ち始め、他のネープルズイエローやローアンバー、イエローオーカーなどの多くの色よりも硬さを保ちます。

複合材料はまた別の意味で複雑です。アクリルジェッソは普通は100%以上伸ばすことが出来ますが、最大で31%しか伸びない布地支持体に塗った場合は布の伸びを大きくすることはなく、むしろさらに12%に減らしてしまいます。これは繊維を固定することで柔軟な布地を硬くするからです(Young, Hagan 2008)。これから、アクリルをキャンバスに塗った場合に塗膜がどのくらい伸びるかの上限を効果的に設定できます。そしてもちろん、通常の環境変化や適切な扱いであればこの限界に達することはありません。

最後に、まったく別の方向からアクリル下地の柔軟性の潜在的な利点を考えてみましょう。最近出版された、様々な下地と様々な上塗り絵具の組み合わせに関する研究では、ゴールデンジェッソに専門家用油絵具を塗った場合は、100回折り曲げた後に20%引き伸ばした場合でも破壊がなく非常に柔軟であることが示されました。これは2年という比較的若い油絵具塗膜で行われたものであり、時間とともに油絵具はもろくなってこのような柔軟性はなくなると予想されます。それでもなお、油変成アルキド下地に同じ油絵具の組み合わせでは、11.6%の引き伸ばしでヒビ割れが起こったという結果と比較することは意味があります。使用した油絵具は同じですから、この結果はもろい下地層との関係が深いと思われます。柔軟なアクリルジェッソと硬いアルキド下地の性能比較は、アルキド絵具を上に塗った場合はさらに明確です。研究の著者は「アクリルの下塗りは上塗りのアルキド絵具のヒビ割れを減らすので、通常のアルキド絵具のもろさを軽減すると考えられる」と結論しました。少なくともこれらの結果は、柔軟な下塗りは界面力学や応力の減少の影響による有益な効果を持つ可能性があるという、新しい研究分野を示しています。

結論

最後に質問は残ります。アクリルの上に油絵具は安全に使えるのか?もしそうなら、ガイドラインや最良のやり方は何なのか?私たちは、一般にいわれる懸念は誇張であり、アクリルは通常の環境変化に応じて膨張したり収縮したりするというような警鐘の理由にはならないと考えます。しかし他の分野では、例えばアクリルベースに比べてアルキドや油性下地が低温で示す過度のもろさや、アクリル下地の上におけるアルキドや油絵具のもろさの軽減については、さらに理解を深めるための研究が求められるのは明らかです。アクリルに対する油絵具の接着は懸念に及ばないと信じてはいますが、酸化亜鉛を含む油性絵具に見られる問題を認識することは非常に現実的なことであり、そのような絵具を使うアーティストは十分な注意を払う必要があります。事実、こうした研究により、当社ではウィリアムズバーグハンドメイド油絵具の酸化亜鉛のパーセントを低くするか、あるいは可能な場合はなくすよう調整しました。現状では亜鉛の安全な含有量は不明であり、憶測でしかありません。現在は15%を最大としていますが、十分な信頼性にはさらなるテストが必要であると認識しています。それ以外には、強度を増すためにアクリル下地を何層も塗るというようなガイドラインの更新や、接着性を増すための粗い表面の利点などの従来からの推奨事項を再確認することなどがあります。そして最後に、より硬く、油を遮断し、高湿度でも張りキャンバスの張力を保つための、サイズ材の改良というエリアがあります。

アクリル下地に油絵具を使う場合の方法やアクリル下地に関する更新情報を見るにはwww.goldenpaints.com/ technicaldata/techsheets.phpをご覧ください。

Bibliography(文献)
Alba, Ana, Susan Lake, Mel Wachowiak, 2010, A Question of Technique: Condition Issues Associated with Layering Structure in Richard Diebenkorn's Ocean Park Series, AIC Conference Paper
Erlebacher, Jonah D., Eric Brown, Marion F. Mecklenburg, and Charles S. Tumosa. 1992. The Effects of Temperature and Relative Humidity on the Mechanical Properties of Modern Painting Materials. In Materials Issues in Art and Archaeology III: Symposium Held April 27-May 1, 1992, San Francisco, California, U.S.A, ed. Pamela B. Vandiver, James R. Druzik, George Segan Wheeler, and Ian C. Freestone, 359-70. Materials Research Society Symposium Proceedings. vol. 267, Pittsburgh, Pa.: Materials Research Society.
Hagan, Eric, Maria Charalambides, Thomas J. S. Learner, Alison Murray, Christina Young, 2006, Factors Affecting the Mechanical Properties of Modern Paints, Modern Paints Uncovered, Getty Conservation Institute, pp. 227-235
Learner, Thomas, 2004, Analysis of Modern Paints, Getty Publications, Canada
Maor, Yonah and Alison Murray, 2007, Delamination of Oil Paints on Acrylic Grounds, Materials Research Society Meeting, Materials Issues in Art and Archaeology VIII, Symposium, Proceedings Volume 1047, Materials Society (MRS) Fall Meeting, Boston, November 2007 (Warrendale, PA: MRS, 2008) 1047-Y04-01
Maor, Yonah, Alison Murray, Bruce Kaiser, 2008, Using XRF for Semi- Quantitative Analysis in a Study of Delaminating Paint, 9th International Conference on NDT of Art, 25-30
Maor, Yonah, 2008, Delamination of Oil Paint from Acrylic Grounds, Master's Thesis, Queen's University, Canada
Mecklenburg, Marion F., 1990, Art in Transit: Studies in the Transport of Paintings, Washington, DC: National Gallery of Art
Mecklenburg, Marion, Matteo Rossi Doria, Laura Fuster Lopez, 2006, Failure Mechanisms in Canvas Supported Paintings: Approaches for Developing Consolidation Protocols, In: CESMAR 7, The Care of Painted Surfaces. Materials and Methods for Consolidation, and Scientific Methods to Evaluate their Effectiveness. Proceedings of the Conference, Milan, Saonara, Italy: il Prato, pp.49-58
Mecklenburg, Marion F., 2007a, Determining the Acceptable Ranges of Relative Humidity and Temperature in Museums and Galleries, Part 1, Structural Response to Relative Humidity, http://eprints.sparaochbevara.se/165/., 1-57. (http://si-pddr.si.edu/dspace/handle/10088/7056)
Mecklenburg, Marion F., 2007b, Determining the Acceptable Ranges of Relative Humidity and Temperature in Museums and Galleries, Part 2, Structural Response to Temperature, http://eprints.sparaochbevara.se/165/., 1-29. (http://si-pddr.si.edu/dspace/handle/10088/7055).
Ploeger, Rebecca, Dominique Scalarone, Oscar Chiantore, 2008, The Characterization of Commercial Artists' Alkyd Paints, Journal of Cultural Heritage, Vol. 9, Issue 4, pp. 412-419
Ploeger, Rebecca, Dominique Scalarone, Oscar Chiantore, 2009, Thermal Analytical Study of the Oxidative Stability of Artists' Alkyd Paints, Polymer Degradation and Stability, Vol. 94, pp. 2036-2041
Rogala, Dawn, Christopher Maines, Marion Mecklenurg, 2010, A Closer Look: Condition Issues in Abstract Expressionist Ground Layers, AIC PSG Postprints 22
Young, Christina, Rebecca Gregg, Roger Hibberd, James Walker and Tom Learner, 2004, The Physical Properties of Modern Commercially Available Primings and Their Interaction with Subsequent Paint Layers, Modern Art, New Museums, Contributions to the Bilbao Congress, p.244
Young, Christina, 2006, Interfacial Interactions of Modern Paint Layers, Modern Paints Uncovered, Getty Conservation Institute, pp.247-256
Young, Christina, and Eric Hagan. 2008. Cold Temperatures Effects on Modern Paints used for Priming Flexible Supports. In Preparation for Painting: The Artist's Choice and Its Consequences, ed. Joyce H. Townsend, Tiarna Doherty, Gunnar Heydenreich, and Jacqueline Ridge, 172-179. London: Archetype



 

Golden Artist Colors社


戻る