ロンドンにあるテート・モダンでの「近代絵具を紐解く」というシンポジウムのために共同研究を行うグレッグ・スミス博士(左)とジム・ヘイズ(右)。

アクリル画材の研究を省みる

マーク・ゴールデン

信じがたいことですが、1980年のゴールデン・アーティスト・カラーズ社創業当時、複数のゲルメディウム、ポリマーメディウム、マットメディウム、モデリングペーストを持つアクリル絵具メーカーはありませんでした。アーティストのニーズにより、当社のアクリリックスメディウム製品は46を超えるまでに増え、特注メディウムにいたっては数え切れないほどです。このように新たなメディウムと色の可能性が急増したことは、当時まだ比較的新しい画材であったこれらを使って胸躍らせる未開拓の未来を発見したいというアーティストのニーズを満たそうと努力した結果起こったことでした。美術界であまり重要視されていなかった製品から生まれたアクリルは、今では少なくとも他の画材に等しいと認められる製品になりました。しかし、この新たなアクリルから新たな可能性が生まれたことで、アーティストは、この材料にさらに多くを要求し、さらなる領域へと拡大させて新たなことを見つけ、その機能に対する一層の期待が生まれることになったのです。

1980年代には、アクリル画材に関する多くの情報が知られるようになったと思われますが、情報の多くは推測であり、間接事例でした。アクリルに関する専門書はほとんどありませんでした。マーガレット・ウォサーストンの『カラーフィールドペインティングの洗浄』(1)は、初期に出版された修復処理研究の一つであり、アクリル絵画がそれほど劣化しにくいものではないかもしれないという兆候を示唆しています。しかし、このウォサーストンの著書は、アクリル絵具そのものの真の批判よりも、接着不足のアクリル絵具と保護されていないキャンバスの問題を多く取り上げています。どうすればこの材料が経年に耐えうるかを真に理解するには、材料学者とメーカーが共同で取り組み、情報記録をサポートして、この材料の働きに関する一般的想定の賛否を示す必要がありました。

10年以上前には、どうすればこの新たなアクリルが良くなるかという点に関する知識の根幹をなしていたのは、きわめて乏しい研究と多くの推測でした。この新たな絵画用結合剤の先駆者は、ロバート・L・フェラー博士でした。ピッツバーグにあるカーネギーメロン研究所の修復化学者である博士は、改良された絵画用ワニスを模索していました。1950年代から1980年代にかけての修復用アクリル絵具に関する博士の画期的な研究のおかげで、アクリルが画材に使えるという科学的根拠の少なくとも発端が得られたのです。この作業は不定期に続けられ、結局、1993年、ポール・ホイットモアがメロン研究所でアクリルの化学変化に関するその研究を引き継ぎました。スミソニアン研究所修復分析研究室のマリオン・メクレンバーグは、その1年前に、アクリル画材の構造力学を分析するというまったく異なる手法でこの材料の研究を行いました。

すべての画材に関する新たな品質基準を策定するという目的でアクリル画材の研究を行っている他の唯一のグループは、ASTMの絵具と関連材料に関する小委員会D-01.57でした。基準を策定する中で、顔料がアクリル画材の耐久性に役立っていることがわかってきました。この作業における最も重要な貢献者の一人が画家を対象としたアクリル画材の先駆的化学者であり、リキテックスの発明者であるヘンリー・レヴィソンでした。ある種の熱意を持って行われた彼の最初の研究は、特に伝統的な油絵具と比べたときの黄変の軽減でした(2)。レヴィソンは、ASTM小委員会の作業に初期段階から貢献した一人でした。この作業は1970年代後半に始まり、当社がこのグループに加わったのは1981年でした。小委員会の作業の多くは、アーティストのために絵具に正確なラベル表示を行うことに加えて、顔料の耐光性の基準を策定することでした(3)。

1991年、スミソニアンの修復分析研究室員がナショナルギャラリーで第1回共同会議を開催し、当社もそれに出席しました(4)。修復関係者との関わりができたことで、この材料に発生しうる類の問題点をそれまでより深く理解できるようになりました。州立大学バッファロー校のジェームズ・ハムと共同で、塗布した下地と関連づけたアクリル塗膜の黄変についての最初の論文を発表しました(5)。それ以降、独自に、または共同で7つの論文を発表し、アクリル画材の修復に関する多くのシンポジウムで配布し、この素晴らしい材料の知識と潜在能力を高めるために、独自の配合を他の多くの研究プロジェクトに提供し支援してきました。こうした取り組みにおいて、ワシントン市ナショナルギャラリーの修復責任者であるロス・メリルの指導を仰ぐことができたのは幸いでした。グレッグ・スミス博士に授与した「近代画材の研究に関するサミュエル・ゴールデン・フェローシップ」を後援しようとする当社の取り組みにも、ロスの支援を得ることができました。ロスは、こうした重要な問題に取り組もうとするさまざまなグループをまとめることにも尽力しました。この共同作業には、スミソニアン材料研究教育センター、ザ・テート、ザ・ゲッティ、オランダのMolArt、ニューヨーク近代美術館、クィーンズ大学、州立大学バッファロー校、トゥリノ大学、ウィンターサー美術館も参加しました。これらの機関はすべて、20世紀と21世紀の最も重要な新画材を理解するために、初めて共同作業にあたりました。

この共同作業から、近代画材の著名な研究者であるトム・ラーナー博士の指導のもとで高い目的意識を持ったコンソーシアムが生まれ、ついに2006年、ロンドンのテートで「近代絵具を紐解く」というシンポジウムが開催されたのです。多くの熱心な科学者がこの研究を続けてきた結果、修復家は新たなツールを手に入れ、私たちはこの新たな近代的コーティング材によりアーティストにさらなる成功を提供する製品を作ろうと努力する中で新たな考察を得たのです。

脚注
1 マーガレット・ウォサーストン 『カラーフィールドペインティングの洗浄』 E・カーミーン(編集) アメリカ抽象画の黄金の10年:モダニストアート 1960-1970 ヒューストン美術館 1974年 pp.119-29
2 ヘンリー・W・レヴィソン 『塗膜の黄変と漂白』 アメリカ修復協会刊行物(1985年)第24巻第2部第2章 pp.69-76
3 絵具の変化の有無を確定する際、顔料は大きな役割を果たしますが、暴露に基づく顔料の耐光性およびその後の変化の問題については、アクリル塗膜の多孔性と柔軟性における顔料濃度の役割以外は、この記事に含まれないでしょう。
4 シンポジウムのワークショップ:『近代画家の材料と修復のヒント』 スミソニアン研究所修復分析研究室 プレゼンテーション:『プラスチック、サン、プラスチック』 1991年6月26-28日
5 ジェームズ・ハム、ベン・ガヴェット、マーク・ゴールデン、ジム・ヘイズ、チャールズ・ケリー、ジョン・メッシンジャー、マーガレット・コントンパシス、ブルース・サフィールド『アクリル分散メディウムの変色』 デイヴィッド・グラタン(編集) 20世紀の救済:近代材料の修復 1991年会議シンポジウム議事録 カナダ、オタワ 1991年9月15-20日 カナダ、オタワ商工会議所 1993年
6 マーク・ゴールデン 『ロンドン、テート・モダンにおける近代絵具を紐解くシンポジウム』 2006年 Just Paint第15号

参考論文
ジェームズ・ヘイズ、マーク・ゴールデン、グレゴリー・D・スミス 『配合から完成品まで:アクリルエマルジョン絵具の修復問題に関する原因と潜在的解決』 会議録:近代絵具を紐解く ゲッティ保存修復研究所、テート、ナショナル・ギャラリー・オブ・アート、テート・モダン ロンドン 2006年5月16-19日
フランク・N・ジョーンズ、ウェンジン・マオ、ポール・D・ジーマー、フェイ・シャオ、ジム・ヘイズ、マーク・ゴールデン 『絵具 - 耐久性の概要と予備的研究』 有機塗膜の進歩 52 (2005) 9-20
エリザベス・ジャブロンスキー、トム・ラーナー、ジム・ヘイズ、マーク・ゴールデン 『アクリルエマルジョン絵具の修復問題』 修復の考察 歴史的美術品修復国際機関 2003年
マーク・ゴールデン 『絵具の基本的研究開発』の抜粋に説明を加えたもの 2002年ロサンゼルス ザ・ゲッティ・センターにおける赤外線とラマンのユーザーグループによる第5回年次会議
ジム・ヘイズ、マーク・ゴールデン、エリザベス・ジャブロンスキー 『アクリル分散絵具の修復:概要』 絵画専門グループポストプリント アメリカ保存修復学会(2001年)
ジム・ヘイズ、マーク・ゴールデン 『実験台からキャンバスへ:画材における合成ポリマーの50年』 ポリマープレプリント 第35巻第2号(1994年8月) ワシントン市:アメリカ化学協会Polymer Chemistry, Inc.部門
J・ハム、ベン・ガヴェット、ジム・ヘイズ、M・ゴールデン、C・ケリー、J・メッシンジャー、M・コントンパシス、B・サフィールド 『アクリル分散メディウムの変色』 デイヴィッド・グラタン(編集) 20世紀の救済:近代材料の保存 カナダ保存修復学会 カナダ(1991年)

シンポジウム
フランク・ジョーンズ、ジム・ヘイズ、マーク・ゴールデンによる非公式プレゼンテーション 『絵具 - 耐久性の概要と予備的研究』 ワシントン市ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(2003年3月)
シンポジウム:『米国における壁画の状態の評価、処理および保守に関する計画』 提出資料 『アクリル画材の屋外壁画』 ザ・ゲッティ・センター ロサンゼルス(2003年5月) 『美術、ツールおよび後世の集中』 中西部地域修復組合および南東部地域修復協会の共同会議(2002年11月)
シンポジウム:ニューメキシコ州国立ヒスパニック文化センターおよびスミソニアン材料研究教育センター後援 『サントス:物質と魂』 提出資料 『アクリル絵具の特性と木材塗装の最適実用』(2001年8月)
シンポジウムでのプレゼンテーション:『発明の色、色、技法および文化の探求』 ワシントン市国立アメリカ歴史博物館 発表者 『アーティストの視点:戦後美術における色、技法およびスタイル』 スミソニアンレメルソンセンター(1997年)
シンポジウムでのプレゼンテーション:『創造者か破壊者か:倫理、環境、画材』 アメリカ美術史学会年次会議でのプレゼンテーション:『耐久性のある画材と耐久性のない廃棄物は両立しうるか?』(1991年9月)
シンポジウムでのワークショップ:『近代画家の材料と修復のヒント』 スミソニアン研究所保存修復分析研究室プレゼンテーション:『プラスチック、サン、プラスチック』 1991年6月26-28日

 

Golden Artist Colors社


戻る