アクリル・パティナ(古色)の定義

マーク・ゴールデン


 

 
 促進暴露試験はアクリル樹脂の経年変化を予想する
   
アーティストのためのアクリル材料は、ボクーによる最初の実験的な専門家用アクリル絵具マグナから既に60年目を過ぎました。私は時に色々な人と共に、これらの材料が100年後、500年後、あるいは1000年後にどのように見えるだろうかと想像し推測してきました。時と共にこれらがどのように変化するのかを推測するための、相等な量の証拠が保存科学分野の仲間や当社の研究により集められています。促進暴露や実際の暴露試験を通して、様々なアクリル画面やメディウム、色彩の変化を予想することが可能です。

ゴールデン社におけるフィロソフィーやアクリル材料に関する仕事の個人的なメタファーは、ガラスの透明性と石の耐久性を有する材料を達成することでした。現実にはそのような材料でさえ、時の経過には無傷でいられません。あるものは硬くなり、あるいは軟らかく、伸びる、または粘つき、そしてひび割れたり、ささくれ立ったり、チリと消え、また色彩は白く褪せるもの、暗くなるもの、褐色になるものなど、様々です。殻のようなものができたり、裂けたり、孔が開いたり、汚れたり、皺が出来たり、微生物が発生したり。変化は様々な形で現れ、同じ材料でも時により相反する方向だったりします。

これらの変化の多くを私たちは物体の「Patina:パティナ(古色)」と表現します。こうした経年の兆候は、材料自身の磨耗、様々な要因への暴露、内部変化により形成される変化に由来します。作品の歴史的な記録として残るものもありますが、あるいは対象物に特徴的あるいは美的外観のために作為的に即席で行われることもあります。PBS(米国の公共放送サービス)の「アンティーク・ロードショー」のファンは、どのように劣化あるいは傷ついていてもオリジナルの表面に触らないこと、それによってお金では買えない宝物をスクラップにしないようにと警告しています。


美術作品におけるすべての変化をパティナと呼ぶわけではありません。世界の修復家や美術史家、芸術家たちはパティナという言葉を、多くの物体や美術作品における非常に幅広い変化を表す語として使っています。しかし明らかにその定義は、物体や絵画の目に見えるごく表面に限定されます。美術作品のその他のより内部的な変化を指すものではありません。言ってみれば、私たちは表面のわずか数ミリメートル以下の話をしているのです。まさに表面を見ているわけです。


 

斑(まだら)で光沢のない外観は、無光沢グラシン紙で絵を包んだ結果

私たちは、材料に年月の刻印の感覚を与える摩滅や変化を表すために「パティナ」という用語を使う傾向があります。そして古く見えるほど作品の意義や重要性が大きいように思います。金属や大理石、石、ガラス、フレスコ、木、皮、織物、そして絵画など、あらゆる素材における年月の刻印については多くの専門家が述べています。美術品や歴史的なものに対してのパティナという言葉によって、対象物は大きな価値や重み、興味を与えるオーラを発します。この年月による視覚的な外観は、実際の色や形、表面変化を超えて私たちの理解や評価に影響を与えます。


美術、デザイン、ファッションなどでは、古びた外観を創り出す産業があります。パティナの創造は重要なビジネスです。工芸家は家具に暖かみのある形跡を残すために、家具をいじめ叩きます。金属については、独特な表面を作るために、あらゆる分野の冶金学が作りだされてきました。画家たちは、絵具に混ぜ物をしてひび割れやめくれを起こさせたり、あるいは画面に「ゴールドトーン」を与えるために色をつけたワニスやメディウムを使ったりします。衣服でさえも、漂白したり擦り切れさせたり、引き裂いたりして自分のスタイルに独自のセンスを与えようとします。ちょうど昨年のこと、何人かの政治家たちは厳粛性を強調するために髪をグレーに染めたことを非難されました。


絵画やオブジェの修復の世界では、劣化生成物をどこまで洗い流したり取り除いたりするのが適切かという判断について多くの議論がなされてきました。表面の除去は作品の歴史観を破壊するのか。作品の特質を実際に洗い出しているのか、あるいは時とともに創り出された均衡した変化の調和を洗い流しているのではないか?美術作品は、塵や汚れ、煤の蓄積、あるいは内部的変色や表面歪みによりどの時点で作家の意図を反映しなくなるのか?このような作家の本来の意図を回復するという倫理でさえ、修復においては熱い論争となっています(1,2)。最終的に、どの時点でこうした変化が美的に作品と調和し、歴史的遺産としての作品となるのか?


スベルタナ・ボイムは著書「ノスタルジアの未来」において、異論続出のシスティナ礼拝堂ミケランジェロの洗浄について述べています(3)。年月による汚れや蝋燭のスス、あるいは過去の修復などの除去という「苦悩と恍惚の暗くロマンティックな英知の神話を消滅させる試み」による、オリジナルのより鮮やかな色の復活に関する議論です。彼女は私たちに最終的質問をします。「何が本当なのか。今まで保存されてきたミケランジェロの描いたオリジナルなイメージなのか、それとも何百年も経た歴史のイメージなのか?もしミケランジェロが永遠の若さを拒み、年月のシワを良しとするなら、どうするのか?」


近代修復において絵画材料は時と共に変化することを知るという賢明な発見があったということではありません。絵画史上において、画家たちは彼らが使う材料が変化することを知っていたのは明らかです。亜麻仁油は時と共に黄色く変色し、より透明になることを理解していました。樹脂はより琥珀色になることを理解し、油はもろくなり作品にヒビが生じることを確実に理解していました。ジョシュア・レイノルズ卿(1723-1792)は自分の作品の脆弱な構造に直面し、「すべての優れた絵画にはヒビが入る(4)」と述べたといわれます。アーティストたちは使用する様々な色材の耐久性あるいはその欠落と格闘し、しばしば自分のアトリエで、あるいは親しい錬金術師あるいは薬剤師とその調合を試みてきました。最終的にそうした仕事は、17世紀末から18世紀に新たに現れたカラーマン(色材技術者)によって達成されます。


私たちの美術史観は、ずれ続けていく表面のレンズを通したものです。私たちが知る美術作品とは、年月により大なり小なり変化を受けたものです。伝統的画材においては、そうした変化を受け入れ、多くの場合は信奉してきました。言い換えるなら、古い絵画について心配になるのは、こうあるべきだという自分たちの予測に反した状態になったときだけです。


アクリルはどのように変化するのか?
残された探求すべき問題は:近代絵画材料に対する予測はどうなるのか?年月による変化はないといえるのか?アクリル絵画は現代の遺産の凍結サンプルとなるのか?


これから私が検証したいと思うものは、これら材料の変化の証拠と不変性です。これら材料の代表的な使用による起こりうる将来像と、これらの新しい材料が可能にする実験的な技法を含めた起こりうる変化の検証です。そうした変化を理解することで、アーティストは年月による材料の視覚的な動きを予測し、創作時に込めた当初の意図とその歴史のいずれをも、作品が鑑賞される年月の間、持続させることが可能になります。またこのような予測された変化の幾ばくかを軽減あるいは少なくとも遅延することについて考える機会を与えます。


材料はいかに耐久性や耐光性に優れていても変化します。目に見える表面にわずかな変化しか認められない美術品や骨とう品も観察が可能ならば、明らかな変化を起こすような非常に多くの環境因子や化学的および物理的因子があります。ちょっと考えるだけでも、光暴露(特に紫外線)、極端な温度や湿度、素材内部での化学的架橋や結晶化、作品に使われた相性の悪い材料の組合せ、人為あるいは環境による災害、藻、カビ、昆虫、動物、変形、滲出、保管や梱包や輸送作業、作品の洗浄、様々な溶剤や薬剤への暴露、そして公害の影響などがあります。


アクリルは特に他の材料と比べた場合、耐久性、柔軟性、耐光性に優れているので、色や塗膜表面の変化はほとんどないと期待するでしょう。しかしそのようなアクリル画面でも伝統的材料とは異なる形での変化を受けます。


アクリルは絵画材料としては比較的新しい発明であるため、実際の年月の変化を受けたサンプルで、その組成と暴露状況がはっきり分かっているものは多くはありません。アクリルと他の材料の作品の比較調査をした美術館はほとんどありません。StringariとPrattのアクリル材料研究では、MOMAのアクリル絵画コレクションについてわずかに述べているだけですが、いずれにしろこれらの作品は扱いが悪かったり極端な環境に置かれたりしていない限りとてもよい状態にあります。(5) それ以外の多くの試験においてはサンプルの促進試験に頼るしかありません。一般にサンプルを高温や強烈な光(特に紫外線)に一定期間さらすことで、予想される自然の変化を起こそうと試みます。予測される変化を十分に理解するためには完璧とは言えないのは確かですが、現状ではこれが最良の手段です。


アクリルの優れた柔軟性

 
バッファロー州立大学で17年間、北向きと西向きの窓に
置かれていたガラスプレート
 
アクリルの初期の代表的な経時変化は、この材料を使ったアーティストにとっては驚くことではないでしょう。アクリルは非常に柔軟でひび割れに対する耐性(氷点に近い温度でない限り)があります。Eric Hagenの試験では、Marion Mecklengergが作った27年経過したアクリルのフィルムは、比較的新しい1年経過のフィルムと同程度の柔軟性があることを示しました(6)。柔軟性という利点は同時に不利な点もあります。摩擦に弱く、塵が付着し、他の表面にひっつく可能性があります。

1992年のバッファロー州立大学との共同研究では、アクリルゲルメディウムのサンプルをガラスに塗付し北向きと西向きとの窓で自然暴露試験を行いました。塗付厚さに相関して変色と不透明化が観察されました。
 
 
1987年に原料樹脂AC234を厚く塗付し、2010年に撮影。
ヒビ割れに見えるのは乾燥初期時の収縮による。
 
1950年代中頃から1990年代中頃に生産された初期のアクリルはアクリル酸エチルとメタクリル酸メチルの組合せた共通成分を含む。

アクリル樹脂メーカーは薄い塗膜では非常に透明でほとんど色がないとしています。Rohm & Haas(現Dow)の技術陣との共同作業から、アーティストたちはこれらの材料を頻繁に使うこと、そして最初からさらに透明なアクリル樹脂原料が必要であることを知ることが出来ました。2001年には、現在市場にある樹脂に関する懸念を軽減する方法についてさらに理解を深めるために、独自のアクリル樹脂を開発するプロセスに着手しました(7)。

アクリル樹脂、多孔質バインダー  

 
アクリル樹脂原料 左列
 60℃で400時間
一見しては分かりにくいアクリル材料の懸念に、その多孔質性があります。滑らかで光沢のある表面は透過性がないような印象を与えます。アクリルは閉鎖システム(下地を封止する)だという人もいます。それは正確ではありません。アクリルは非常に多孔質であり、顔料や安定な絵具をつくるための添加剤が加えられることでこの条件はさらに進行します。多孔質の利点は、その上に塗る絵具の接着性を改善することで、油絵具はより小さな分子構造をしているためアクリル塗膜に浸透して接着性が上がります。欠点は、ワニスがけをしていないアクリル絵画では環境に注意する必要があることです。ススや煙、その他の汚れがアクリル
 

制作時には見えなかった指紋が、
時とともに手の油分として見える
ようになり着色下地を変色させる

塗膜に湿気とともに浸透する可能性があります。多孔質のアクリル塗膜は、よかれと思った洗浄によりダメージを受ける可能性があります。アクリル絵画の取り扱いによる汚れは、特に光沢が非常に低い画面では、除去が非常に難しくまた時とともに色が暗くなる傾向にあります。
 

 



添加剤による変化

 

1992年に塗付し自然に放置された
アクリル樹脂サンプル。下段はアク
リル酸メチル/メタクリル酸メチル樹
脂と二つのアクリル酸ブチル/メタ
クリル酸メチル樹脂。

絵画用アクリル絵具を作るには、数多くの添加剤が必要です。添加剤は、安定性と作業性をよくするために必要ですが、その多く揮発性のためアクリル塗膜から蒸発します。塗膜に残る添加剤は、アクリル樹脂に影響する変化と同じような影響力を持っています。アクリル樹脂と同等の物理化学的耐久性を持つ添加剤はほとんどありません。その多くは時間の経過に従い、変化の原因となり得ます。これらの必要な添加剤を最小限にとどめ、乾燥後の塗膜に対するそれぞれの影響を評価することは、製造プロセスの責任です。

こうした添加剤には、消泡剤(一般には鉱物油)、湿潤剤(イオン性塩)、活性剤(絵具に含まれる水と非水物質を橋架けする)、増粘剤(アクリル酸、セルロース増粘剤、ウレタン類)、防腐剤があります。これら原料の何百にもおよぶバリエーションは、最終製品において、黄変、緑変、曇り、不透明化、色のしみ出しなどの様々な変化を引き起こします。

アクリル樹脂の変化の原因となり得る、配合におけるこれらすべての条件や複雑さにもかかわらず、アクリルは絵具としては最も安定した素材です。ポール・ウィットモアによる1955年の研究では、アクリル樹脂は、管理された美術館環境ならば5000年に相当する近紫外線に対しても顕著な光化学的安定性を示しました(8)。その研究では、屋外に相当する条件下ではアクリル樹脂も急激に劣化することが示されました。これは特に屋外壁画に関連することです。

 

  左:76ミクロン厚さの油絵具塗膜
  右:3ミリメートル厚さのアクリル塗膜

当社研究室での研究では、数種類のアクリルを同じ重量だけ塗付し乾燥させました。そして60℃で400時間の加熱をしました。保管サンプルと比べると、加熱されたゲルの変色具合が分かります。

こうした厚さのあるアクリル塗膜における変化を理解するには、伝統的画材とアクリルを比較したデータが必要です。薄い塗膜では、アクリルはほとんど色がありません。伝統的材料と比較すればアクリルはほぼ透明です。

トム・ラーナーがテイトにおいて行った評価では、アクリル、油、アルキドのそれぞれのホワイト絵具での変色が示されました(9)。下のグラフでは、評価されたアクリルサンプルは600時間の熱処理後でも最も小さな変化でした。グラフでは上に行くほどサンプルの黄変が大きいことを示します。ここで注意すべきことは、加熱促進試験は、実際の時間における変化の可能性を示すだけであって、変化の程度や酷さ、時間がそのまま当てはまるわけではないことです。


グラフの上の方の曲線は、加熱促進試験をした場合、アクリルに比べて、油やアルキド絵具のホワイトの黄変が大きいことを示す。


ゲルメディウムの変化を評価する

 
1992年にジェッソを塗ったキャンバス
に塗付したアクリルゲルメディウム
をそのまま18年間おいたサンプル。
薄い部分は顕著に透明性を保ってる

 
アクリルを評価する場合は、塗膜厚さを3ミリメートル以上で試験します。このような厚い塗膜は、特に複製の場合などに視覚的には捉えきれない変化を拡大してみせます。アクリルが透明になればなるほど、アーティストはあたかも厚塗りの水彩やガラスのようなイメージで厚く塗っていきます。そうした材料を試みているアーティストは、材料について考え、変化の可能性を予想できることが重要です。


数百年の間に起こるかもしれない変化を判断するには不十分な試験法ではありますが、当社ではアクリルゲルメディウムの変化を示すために、UV促進暴露試験を行いました。最も共通した変化は、黄色から琥珀色にわたる変色と、いくらかの不透明化でした。ゲルが厚くなるほど、塗膜の中に泡が残る傾向があります。こうした結果は、UV蛍光管試験機やキセノン光源全波長試験でも明らかでした。ウィットモア、コラルカ、モリスによる研究により、アクリルは暗所に保管された場合に油と同様の効果があることが示されました(10)。UV暴露の後、黄変を減少させることができることを示しました。しかし下地との相互作用による黄変を減少させることはうまくいきませんでした。


表面色と透明性の変化が著しいのは、ゲルがつや消しに作られている時です。これはゲルの光沢を消すために固形物が加えられている場合です。こうした塗膜は時間とともに着色し透明性が悪くなります。


 
約3ミリメートル厚さの様々なアクリルマットゲルメディウム。最上段は何もしていない保管サンプル。
下段はUVAに400時間暴露した後の変色を示している。
約3ミリメートル厚さの様々なアクリルマットゲルメディウム。最上段は何もしていない保管サンプル。
下段はUVAに400時間暴露した後の変色を示している。

下地由来による変色

 
未乾燥のゲルメディウムにキャンバスの成分が吸収されて生じた変色。
左:麻と綿のキャンバスを塗付前に洗浄。約3ミリメートル厚さ。
変色で最も顕著なものの一つは、綿や麻のキャンバスやメゾナイト板(MDF合板の類)や同種の表面にアクリルゲルメディウムを塗った場合に起こるものです。当社ではこの著しい変色を、1992年に「下地由来の変色(SDI)」として研究報告しました(11)。水性のアクリルは多量の活性剤つまり石鹸の類を含むので、たとえジェッソが塗ってあってもそれを通して下地の水溶性成分を吸収する性質があり、アクリルを著しく黄変あるいは暗色化させることがあります。この写真は、ジェッソとゲルメディウムを塗る前にキャンバスを洗った効果を示しています。またジェッソを塗る前に、当社のグロスメディウムなどを下塗りしてキャンバス表面をシールすることでこの減少を軽減することも可能です(12)。下地由来の変色は薄く塗った場合には下地が汚くても目立ちません。それはアクリルが下地の成分を吸収する前に素早く乾燥するためです。

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 アクリル塗膜の断面:右側 湿らせた布でクリーニングすることで表面の汚れが除去されている。

耐溶剤性
アクリルは多くの溶剤に敏感なため、よかれと思ったアクリル画のクリーニングが結果として問題を起こすことがあります。ごく弱い溶剤で軽く行ったとしても、アクリル塗膜を削ったり溶解したり引掻いたりする可能性があります。アクリル塗膜に最もダメージが少なく適切に使用できる唯一の溶剤はミネラルスピリッツと水です。残念ながら、ミネラルスピリッツは洗浄剤としては十分ではないので、作品に使用できるのは水だけになります。保存に関する一般の書物を読んだなら、水は膨潤性があるのでアクリル塗膜の洗浄には使うべきではないと書かれているでしょう。これはごく最近、数年の間の研究ですが、アクリル絵画の洗浄には水の適用がよいのではないかという提案があります。当社ホームページのJust Paint 5ではアクリル絵画についていくつかの乾式洗浄法の概略を示しました。引き続き当社では乾式法をまず十分に行うことを強調しますし、こわれやすい作品の場合は適切な手段は乾式法のみです。
 

左:乾式洗浄後に湿らせた布で洗浄した拡大図。 右:23年経った汚れたアクリル画の拡大図
 


当社の研究では、湿らせた糸くずのない布による洗浄は作品への著しいダメージを与えずに行えることを見出しました(13)。研究の初期には、何人かの修復科学者から水による洗浄には利点があるとも指摘されました(14)。作品とその構造については作者が一番知っているのですから、彼ら自身で試してみることも推奨できます。作者は自分の作品の洗浄をしないと考えるのは先入観というものでしょう。明らかによくない手段を避け成功裏に行うための情報を提供するのは私たちの責任です。作品が一旦アトリエを離れたら、購入者は近代絵画を扱える絵画修復家をさがす必要があります。多くの有能な修復家がアメリカ修復学会(AIC)のウェブサイト
www.conservation-us.orgに掲載されています。

 
約3ミリメートル厚さのMSA塗膜(溶剤系アクリル)
上から下に向かって:グロス、サテン、マットのMSAワニス
左:400時間のUVA照射 右:照射なし
アクリル塗膜を水で洗浄する利点は、水が素晴らしい洗浄溶剤であることです。湿らせた布は、表面にしみ出してきた絵具の添加剤をうまく除去できることが分かっています。この表面に蓄積された成分で最も一般的なものは「(界面)活性剤」です。活性剤はアクリル樹脂の製造にも必要です。活性剤はアクリル絵具中に顔料をよく分散するためにも使われます。乾燥すると役目は終わり、その後は画面の光沢や均一性を損なう原因になることがあります。水で拭くだけでこの成分を取り除き作品の清澄性を改善することができます。また作品の最終画面を整えるワニスの接着性をよくします。


MSAワニス(ミネラルスピリッツに溶解する)は、当社の基本的なアクリルワニスですが、どのアクリル樹脂よりも透明性があります。このようなアクリル樹脂を水性にすると変化の程度が大きくなるのはうなずけることです。


アクリル絵画にワニスがけをする利点について述べることはこの記事の範疇からはずれますが(Just Paint 2を参照)、遮断コートと最終のワニスは作品のオリジナルの意図の助けになると同時に、将来の修復の際の保護コートと除去可能なコートとなります。


結論
 
1993年に、ゲル90%、絵具10%で作られたゲル
チャート 様々なゲルと混ぜてもほとんど変化
がないことを示している
 当社や他の多くの研究から明らかなのは、アクリルは柔軟性、耐光性、透明性に優れていますが、なお完全ではないことです。時とともに変化し、この変化は多くのアーティストにとってそれほど明瞭ではありませんが、やがて明瞭になってくるでしょう。そしてこのアクリルの古色はどう呼ばれるでしょうか?「ゴールドトーン」は既に油彩に使われています。アクリルが油絵具ほどの黄変を示すのはありそうにないことです。

結論として、厚く塗られた光沢の低いゲル(マット)は時とともにより不透明で琥珀から茶色に変化するでしょう。また厚く塗ったグロスゲルはいくぶん黄みが出て透明性もわずかながら失うでしょう。またつや消しのアクリル絵画はより多くの汚染による変色を受け、それは除去が困難だろうと予想できます。しかし、ゲルや他のメディウムよりも絵具で構成された作品では、定期的なホコリの除去によるメンテナンスやワニスがけを考慮すれば、色彩はとても良好な状態を保つでしょう。


アクリル素材は現在までで最も耐久性のある画材です。これまで見る限り、アクリルはすぐれた柔軟性とUVに対する耐久性を持っています。この60年間、アクリルの色彩はその鮮やかさを保ってきており、これからもそうあり続けるでしょう。


この話の要点はまだ十分には書ききれていません。これらの材料が進化し続ければ、新たなアプローチと発見がアクリルの予想される変化を軽減するかもしれません。いつの日か、アクリル絵具が美術における材料として最も耐久性のあるものである地位を確立することでしょう。


FOOTNOTES
1 Gerry Hedley, "Measured Opinions, Collected Papers on the Conservation of Paintings", Edited by Caroline Villers, United Kingdom Institute for Conservation 1993, pp.152-167
2 Paul Philippot, "The Idea of Patina and the Cleaning of Paintings, (1966)", (Garrett White, translator) Issues in the Conservation of Paintings, Reading in Conservation, David Bomford & Mark Leonard (ed.), Getty Conservation Institute, 2005, pp.391-395  3 Svetlana Boym, "The Future of Nostalgia", Basic Books, 2001 p46.
4 M. Kierby Talley, Jr., "All Good Pictures Crack: Sir Joshua Reynolds' Practice and Studio", 'Reynolds', Edited by Nicholas Penny, Royal Academy of Arts, London, 1986, pp.55-70
5 Carol Stringari and Ellen Pratt, "The Identification and Characterization of Acrylic Emulsion Paint Media", in David Grattan (ed.) Saving the Twentieth Century: The Conservation of Modern Materials, Canadian Conservation Institute, Ottawa, 1993, pp.411-440
6 Eric W.S. Hagan, "The Viscoelastic Properties of Latex Artist Paints", Thesis submitted for the Degree of Doctor of Philosophy of the University of London and the Diploma of Imperial College, 2009, pp.177-180
7 Frank Jones, Wenjing Mao, Paul D. Ziemer, Fei Ziao, Jim Hayes, Mark Golden, "Artist Paint-an Overview and Preliminary Studies of Durability", Progress in Organic Coatings 52 (2005), pp.9-20
8 Paul Whitmore and Val Colaluca, "The Natural and Accelerated Aging of an Acrylic Artists' Medium.", Studies in Conservation, 40, 1995, pp.51-64
9 Data obtained with permission from Tom Learner.
10 Paul M. Whitmore, Val G. Colaluca and Hannah Morris. "The Light Bleaching of Discolored Films of an Acrylic Artists' Medium". Studies in Conservation, Vol 47 (2002), pp.228-236
11 James Hamm, et.al. "The Discoloration of Acrylic Dispersion Media: in David Grattan (ed.), Saving the Twentieth Century: The Conservation of Modern Materials, Canadian Conservation Institute, Ottawa 1993, pp.381-392.
12 In previous technical literature, GOLDEN GAC 100 has been listed as the most efficient block for SID. Current research has demonstrated that the GOLDEN Polymer Medium is more effective.
13 Jim Hayes, Mark Golden, Elizabeth Jablonski: "The Conservation of Acrylic Dispersion Paintings: An Overview", in Paintings Specialty Group Postprints, American Institute for Conservation (2001)
14 Dr. Greg D. Smith, Presentation at Modern Paints Uncovered, A Symposium Organized by the Getty Conservation Institute, Tate and the National Gallery of Art, Tate Modern, London May 16-19, 2006


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