デジタル転写とアクリル絵具の可能性の認識


By Dana Rice

Golden Artist Colors社のプロダクトマネージャーとして、この5年間、驚くほど多くの材料を取り扱い、探求する機会に恵まれました。こうしたアクリルツールのさまざまな活用方法が分かりかけてきたと思っていた頃、絵画用アクリル絵具とデジタル転写技術の組み合わせという斬新な可能性に目を向けるようになりました。現実の描画プロセスと仮想の描画プロセスとが出会うことで、わくわくするような新たな連鎖が生まれるのは必至です。最初の写真家が新たな媒体の可能性とこれから開拓できる新たな肥沃な土壌の広がりを認識したとき、同じような挑戦心や興奮を感じたに違いないと想像します。100年を経て、我々はついにこの2つの世界を融合させる可能性を生み出し、真の探求が今始まったのです。

長年にわたりアーティストたちはアクリル絵画への画像転写を行ってきましたが、このプロセスをもっと簡潔明瞭にし、アーティストが画像とアクリル絵具の融合をもっとコントロールできる方法があったらどうなるでしょう。写真をまったく異なる面に移動させる方法があったらどうなるでしょう。かつてのポラロイド写真のように、印刷工程で画像を個別に加工するという発想を再導入する方法があったらどうなるでしょう。

2004年、Digital AtelierRと総称されるDorothy Simpson Krause、Bonny Lhotka、Karin Schminkeが『デジタルアートスタジオ:インクジェット印刷と伝統的な画材を組み合わせる技法』という本の著作によって実証したように、この探求の最先端にいたのが版画制作者です。この本では、複数層の印刷、描画、他のさまざまなメディウムとコラージュ要素を最終作品に統合する手法など、豊富な洗練された技法が明らかにされています。
最近まで、錬金術のようなこうしたプロセスは、小さな、しかし絶えず広がり続けるアーティストのグループに限定されてきました。そして数年前、Golden Artist Colors社の開発ラボが新たなインク受容製品を私のデスクに持ってきて、こういう材料とゴールデン社の教育活動範囲があれば、すべてのアーティストが直接画像転写プロセスを利用することができるでしょうと言ったのです。

インク受容製品をゴールデン社の大きな製品システムの一部として考えようというアイディアは興味深い提案でした。色でもテクスチャーでもない製品です。あえて説明すると、プリンタを通過することができるもの、その結果生まれる印刷の質、印刷後の活用の可能性となるでしょうか。

この新製品の基本前提は「比較的平坦な面を印刷可能な面に変えるコーティング剤」で、ごく単純に思われます。「インクジェット対応」と表示された市販のコーティングされた紙を買わなくても、自分でコーティングする方法が手に入るのです。しかし、実際にはどうなるのでしょう。そして、どこから始めればよいのでしょう。市販のコーティングされた紙はプリンタに使えるのだから、水彩画用紙など、ある種の紙が妥当な出発点になるのではないかと思いました。

ラボのアドバイスに従い、デジタルグラウンドクリアー(グロス)を紙に二回コーティングし、乾燥させ、印刷準備を整えました。手持ちのプリンタに規格外サイズが入るかどうか心配だったので、A4の大きさにカットしてプリンタのペーパートレーにセットし、気に入った画像を探して印刷しました。紙は支障なくプリンタを通り、美しく見事な画像に仕上がりました。しかし、そのとき、こう思ったのです。よし、見た目はいい。でも、デジタルグラウンドがなければどんな風になっていたのだろう。そこで、プリンタに水彩画用紙をもう1枚、今度はコーティングをせずにセットしました。残念ながら、印刷した2枚を比べても大きな質の違いは見つかりませんでした。コーティングしなかった紙の方もきれいな仕上がりでした。それなら、デジタルグラウンドには何の意味があるのでしょう。

もっと何かあるに違いない。そこで、Black InkTM Paper社の担当者に電話し、さまざまな特殊紙について話し合いました。担当者の話では、インクジェットプリンタできれいにプリントできる紙もあるが、インクが最上層から浸み込み、ぼやけた画像になる紙もある、あるいは、金属繊維が紙に含まれていると繊維がインクをはじき、画像が紙に定着しないとのことでした。

次の実験では、メタリックなものやそうでないものなど、さまざまな特殊紙を使いました。得られた結果はさらにエキサイティングなものになりました。その中のいくつかでは、デジタルグラウンドでコーティングしていない紙の画像は、コーティングしていないときには美しいとは言い難いものでしたが、コーティングしたときには実に美しく明瞭でした。デジタルグラウンドクリアー(グロス)を使うことにより、紙の上で画像と版画を組み合わせることができ、同じ画像でも紙の性質によって異なる印象を表現することができたのです。このとき、デジタルグランドホワイト(マット)が美しい白い面を作り、最初に試した水彩画用紙では透明よりも白いデジタルグラウンドを使った場合に違いが大きくなることもわかりました。

紙から布地へと範囲を広げました。布地は紙と同様に薄いので、デジタルグラウンドを塗って硬化した後もまだ若干柔軟性が残ることがありました。この段階で使用する材料を「キャリア」シートに貼り付けることを学びました。キャリアはプリンタを通ると思われる標準的なものであれば結構です。ほとんどの場合、標準的なプリンタ用紙はもちろんよい結果が出ますが、カードストックのようにやや硬めの素材の方が好都合なこともあります。デジタルグラウンドで布地を準備した後、低粘着性の塗装用養生テープを使って布地の先端と右側をキャリアシートに固定します。プリンタはこの部分から取り込んでいくので、ここを貼り付けておけば、ほとんどの場合、大丈夫です。

見本ができた後、デジタルグラウンドの効果を同僚に見せて回りました。いいね、他に何ができるんだろうと、プリンタの用紙搬送路に入りそうな薄く柔軟な素材を皆で探しました。キッチンにあるアルミホイルはどうだろうと誰かが言いました。そうだね、やってみよう!アルミ箔に非多孔質面用デジタルグラウンドを二回コーティングした後、プリンタ用紙に貼り付け、プリンタにセットしました。カラーのイラストを印刷すると、何と、アルミホイルの上でまさに色が浮き上がったのです。この種の面では、インクの乾燥に時間がかかるので、プリンタから出てきたばかりの時にはまだかなり脆弱な状態です。しかし、これがまたとないチャンスにもなります。インクに手を加えて、消したり描いたりする時間があるからです。かつてポラロイド写真を加工したのと同じ方法です。

あくまでも比較のために、デジタルグラウンドを塗っていないアルミホイルをプリンタに通しました。インクは行き場を失い、プリンタから出てきた時点では画像が認識できる状態でしたが、インクが乾燥するにつれ徐々に滲んで広がり、翌日になると画像がまったく認識できない状態になっていました。

アルミホイルでうまくいったので、サランラップRでも試してみました。はたしてサランラップへの写真転写は可能なのでしょうか。実現したら面白いと思いませんか。アルミ箔と同じ工程を使って、サランラップに非多孔質面用デジタルグラウンドを二回コーティングし、ラップをキャリアシートに貼り付け、印刷しました。印刷された画像は鮮明で、美しい色が出ました。ただし、忠告として一つ、印刷も画像もいい出来でしたが、ラップ同士がくっつきやすいため、見本として保管することは厄介でした。

次はアクリルスキンです。アルミホイルやサランラップのようなものでもプリンタをうまく通過させられたのだから、アクリル製品の薄層なら簡単なはずです。アクリル皮膜を使うことで、印刷面の外観と印象を操作する可能性が広がりました。画像転写やゲル転写という発想は、デジタルグラウンドを使うことでゲルスキンや絵具スキンに画像を直接印刷することが容易になり、まったく新たな様相を呈しました。線画でも、白黒写真でも、カラー写真でも、同じように簡単に転写することができたのです。

プリンタを通るようなアクリルスキンを作成するコツは、アクリル皮膜を紙のように薄くしなければならないことです。厚すぎると、プリンタを通過するとき紙詰まりを起こしたり、プリンタを通過するときプリントヘッドがアクリル面を擦る可能性があったからです。これには苦労しました。

アクリルスキンを作るには、ゴミ袋や金物店に売っている防湿性ポリシートなどのプラスチックに絵具やゲルを注ぎ、広げるとよいでしょう(テフロンのベーキングシートや肉屋のトレーでもうまくできます)。手始めに、フルイドアクリリックカラーでスキンを作りました。フルイドは自然にレベリングするので、大きなパレットナイフを使えば簡単に薄く広げることができたからです。画像が不明瞭にならないようにするには、フルイドチタンバフやハンザイエローライトなどの明るい色の方が、キナクリドンクリムゾンなどの暗い色よりうまくできます。インターフェレンスゴールド(ファイン)やイリデッセントコパーライト(ファイン)などを使っても固有色の相互作用で美しい画像が生まれます。フルイドアクリリックのスキンは簡単で楽しいので、一連のゲルとペーストを使って独自の方法で作業を開始しました。ここで少しコツが必要になります。ファイバーペーストやグラスビーズゲルなど(いずれも国内未発売)のゲルメディウムは少し粘度が高いので初心者には難しく、十分に薄く広げるのは難しいです。広げたときは薄く見えても、作品が乾燥するとパレットナイフでできた盛り上がりが見えたり、薄く見えても実際にはそうでなかったりしました。

確実に薄いスキン作るコツはパレットナイフの両端にテープを貼ることです。それにより、テープを貼った両端をテーブル面に置くと、刃とテーブルとのギャップがスキンの最も厚い部分と同じになります。この方法で粘度の高い製品を広げることに慣れると、素材がプリンタをスムーズに通過するために必要な薄さが測りやすくなります。

このように多様な面に印刷することができれば、あらゆる種類のミクストメディアアート、版画、写真の可能性が広がります。印刷物をコラージュにして大きな作品を作ることもできます。上から描いたり、描いた上にまた印刷するなど、オプションは尽きません。インクによっては耐水性が高くなっていますが、大部分はまだ水に敏感です。インクに手を加える場合はそれがメリットになるかもしれませんが、画像を保存したままで手を加えたいときにはデメリットになるかもしれません。この方向で作業をする場合、印刷の上に作業する前にインクを「固定する」ためにアーカイバルワニス(グロス)(国内未発売)をスプレーすることをお勧めします。写真や他の印刷画像の上に絵具やゲルやメディウムを塗るときは、アーカイバルワニスを1~2回薄く塗るとよいでしょう。

デジタルグラウンドと同時に発売された2種類の新たな姉妹製品、ゲルトップコート(UVLS入り)のグロスとセミグロスは、絵具の上に塗ってテクスチャーを与えつつ、退色から保護することもできますし、もっといい方法はアクリルスキンとして使うことです。スキンをコラージュにして大きな作品を作る場合、スキンの裏に画像を印刷することにより、ゲルに含まれるUVLSによって印刷は自然に保護されます。

インクジェットプリンタを使って作業する場合、どんな工程であろうと、プリンタインクはアクリルより退色しやすいことを知っておくことが重要です。プリンタのメーカーは印刷が長持ちすると宣伝していますが、この主張の基準はファインアート用画材の基準と同じではありません。したがって、長期間持続させたければ、最終画像にワニスかトップコートを塗ることが重要です。

新たな素材と工程のパイオニアとして、画像を独自の素材と融合させ、「どうやって作ったの?」と聞かれるような外観と印象を作り出すチャンスはたくさんあります。

ヒントとコツ

「ピザホイール」についての真実
実験当初、プリンタ内部にインクが入るのを避けるために、プリンタの「ピザホイール」すなわちイジェクションホイールを取り外しておくべきだと考えましたが、その後、「ピザホイール」を外す必要はまったくないことがわかりました。多くのアーティストが、プリンタを一切変更せずにさまざまな面にうまく印刷することができました。

プリンタの用紙搬送路
「プリンタはどのモデルを使えばいいですか」とよく質問されますが、実のところ、モデルは重要ではありません。重要なのは用紙が通過するプリンタの搬送路です。基本的に搬送路には3種類(U型、L型、ストレート)あります。U型搬送路では最も紙が曲がるため、この種のプリンタを通過することができる材質は限られると思いますが、それ以外のことはうまく行くでしょう。最も扱いやすいのはストレート搬送路ですが、一般的に高額になります。L型搬送路は手頃な価格帯から安価なものまであり、多種多様な面に対応します。

キャリアシート ? 紙とマイラーR
キャリアシートは紙でもよいし、プリンタの搬送路を通過するなら他の素材でもかまいません。プリンタ用紙、マイラーR(商品名、プラスチックシート)、アセテート、すべて使えます。すべきことは繊細な、あるいは不規則形の下地素材に丈夫な表面を与えることだけです。一つ注意すべき点は、プリンタによっては、マイラーなど、透明のキャリアシートが感知できず、紙を引き出すことができないものがあることです。その場合、代わりにプリンタ用紙を面の支持体に使ってもよいでしょう。

乾燥時間
実務的な質問ですが、その答えは常に警告に満ちています。一般的に、吸湿性の高い面には1時間もしないうちに塗り重ねることができます。アルミホイルやゲルスキンなど、吸湿性のない面では、塗り重ねられる程度に乾燥するまで3時間から6時間かかります。印刷前に必ず表面を十分乾燥させておくことが必要で、紙の場合は約2~3時間、アルミホイルの場合は一晩おいてください。

コーティングの回数
良好な被覆を実現するには2回塗ることをお勧めします。紙や大半の多孔質の面にはこれが必要条件であることは確認済みですが、非多孔質の材料には1回しっかりコーティングすれば十分に被覆され、理想的な質の画像が得られるでしょう。

紙詰まりの防止
アクリルスキンを紙の支持体に貼り付けてもなお、プリンタを通過し難く、紙詰まりが発生する場合、普通紙の代わりにカバーストックを使ってもよいし、プリンタがテープよりも先に紙を掴むよう、テープの位置を先端から2~3センチ離したところにずらせてみてください。

印刷以外の用途
デジタルグラウンドはインクのしずくを捕らえることを前提にしているので、特にインクをはじくメタリックな紙やアクリルスキンにゴム印用の面を作るのに使うこともできます。

アクリルスキンを薄くするコツ
スキンを作る際、フルイドアクリリックカラーなどのアクリル絵具を広げるために使えるツールはたくさんあります。パン職人がケーキにクリームを塗り広げるときに使うような非常に大きなパレットナイフも役立ちます。乾式壁工法で職人がパテ塗りに使うような大きなヘラを使うのも一つの方法です。低粘着性のテープを使って、ヘラの両端にテープを何層か貼り付け、貼り付けたテープとヘラの刃先で出来るギャップが0.8ミリから1.6ミリになるようにします。この方法を使うと、刃の両端に貼ったテープとテープの間に広げたアクリル絵具がその厚さになるでしょう。

使用したプリンタ
プリンタと用紙搬送路に関して上に述べているにもかかわらず、誰しも機種を知りたいことはわかっています。そこで、作業性のよいプリンタが他にもたくさんあることはわかっていますが、ゴールデン社の作業場で使ったモデルを紹介します。
? Epson StylusR Photo Pro R2400
? Epson StylusR C120
? Epson StylusR CX8400 All-in-One(最近製造中止になったモデル。CX7400など、同様の低価格のオールインワンプリンタも同じ機能があるはずです)
上記のプリンタを選択した理由はそれぞれ独自のメリットがあるからです。R2400は高額ですが、搬送路がストレートです。C120は小型で、軽量で、コンパクトです。CX8400はオールインワンですので、持ち運び可能でコンピュータに接続しなくても印刷が可能です。


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