Golden History

From Formulation to Finished Product:

Causes and Potential Cures for Conservation Concerns in Acrylic Dispersion Paints

配合から最終製品まで:
アクリル絵具の保存考察に対する原因と可能な治癒

By Jim Hayes ジム・ヘイズ

驚かれるかもしれませんが、時折、当社のJust Paintはやや専門的過ぎると非難されます。正確性を期するために、読みやすさを犠牲にすることはありました。あるいは夢遊飲食(夢遊病の一種/訳注)の副作用がない睡眠補助薬の代わりになるという人もいます。今回は論文の要約をしてみました。論文執筆はバッファロー州立大学アンドリューW.メロン保存化学助教授グレゴリー・スミス博士との共同という良運に恵まれました。私たちのプレゼンテーションのエッセンスを正確に伝えられ、私たちの活動背景にある科学を楽しんでいる専門アーティストにとって大きな価値となれば幸いです。

絵具配合とは補完と競合という二つの目的をバランスさせる仕事です。配合技術者(私)は、高価値で安全な水性絵具を提供するために、塗膜柔軟性、強度、乾燥時間調整、様々な光沢やテクスチャーといった特性を調整します。水性アクリル絵具(正しくはアクリル分散絵具:acrylic dispersion paints)の物理および化学特性は製品配合をする時点での選択に大きく依存します。バインダー(付着材)と添加剤の選択はこの画材の多くの素晴らしい特性を与えます。それは速乾性や光劣化に対する耐性、強靭でありながら柔軟性のある水性コーティング材です。しかしながら、こうした選択の大半は望ましくない副作用をもたらします。この特性の多くはアーティストや修復家にとっての懸念材料になります。その主たるものは、アクリル絵具の塵埃を吸着する傾向であり、接触面に付着する性癖であり、そして美術保存によく使われる水や溶剤に対してメディウムが影響を受けやすいことです。ここでは、配合技術者として私たちが行う様々な選択の関係、アクリル作品の経時的安定性に対する相関を検証します。近代の合成絵具は工業、自動車、建築におけるコーティング材料と技術を借用しています。私たちはこうした様々な工業界の文字通り数千におよぶ新しいバインダーや添加剤を見て、アクリル絵画における手に負えないと思われる問題のいくつかでも解けないかを見ています。本論文では、最も可能性のありそうな解決策について、より洗練された形で検証しようとしました。最後に、修復家ではなく絵具メーカーとして、将来的にアクリル表面の洗浄に関しての保存の懸念を減らすものと考える何らかの方向性を提供したく思います。この部分に関しては、スミス博士は関与されません。

図1:アクリル絵具の成分

アクリル樹脂(バインダー)

親油性アクリル樹脂・乳化剤/活性剤

接着促進剤

開始剤

緩衝剤

顔料(表面処理済など)

湿潤剤

分散剤

増粘剤/レオロジー修正剤

凍結安定剤

造膜助剤

防腐剤

pH緩衝剤

消泡剤

背景

アクリル絵具は添加剤のカクテルであり、添加剤は簡単にいえば親油性、つまり油を好む高分子と、そして大半は油を好む顔料を水に入れ込むものです(図1参照:アクリル絵具の成分)。これには少なくともバインダーと乳化剤(合成バインダーと水の橋かけ)が必要です。しかしながら、温度変化に耐え、保管性と安全性という市場要求に応え、アーティストの要求する多様性と性能を満たす絵具を作るには-現在も未来も-それ以外の多くの成分を必要とします。技術者は、乾燥時間や表面仕上がり、レオロジー(総合的な粘性)、粘度、テクスチャー、顔料濃度に影響を与える多くの添加剤を自由に使うことができます。それぞれの目的に応じて多数の添加剤が市場にあり、それぞれの機能を果たしています。幅広いガラス転移点(Tg)を網羅するアクリルディスパージョン(分散体)が市場に出ています(Tg:樹脂が、それ以上ではゴムのように柔軟な固体となり、それ以下ではガラスのような固体として挙動する、その樹脂固有の温度)。品質のよい絵具では、Tgが室温よりやや低い樹脂の選択が理想的な柔軟性を与えます。室温では樹脂塗膜がちょうどゴム状で柔軟な状態になります。しかしそのようなTgの場合、暖かい部屋ではこうした熱可塑性樹脂塗膜の表面は柔らかく粘着性になります。アクリル絵具が過度に柔らかくなると、塵やホコリが容易に付着し、絵具表面が他の絵具やカバーに簡単にくっつき(ブロッキング)、指紋が永久に表面に残ることになります。

乳化剤(界面活性剤、活性剤)が必要なことから起こる重大な問題は、このような活性剤が乾燥後の塗膜に残ることです。このような乳化剤の表面への移行性や結晶性は文献に書かれています(脚注参考文献12)。その傾向のため、結晶化した活性剤は無着色塗膜の透明性を損ない、曇りを生じます(図2参照:スミス博士による洗浄と非洗浄の比較)。活性剤の浸出物を洗い流した効果は乾燥塗膜の透明性だけでなく、アクリル画の硬さを高めます。これは測定したTgの上昇によって立証されました。表1は水浸漬によるTg上昇を示しており、水中に浸した時間が延びると、Tg測定値は同様に約11 C上昇しています。

改善の要点
物理特性

2:活性剤浸出-アクリル樹脂液滴

右:未処理

左:水洗浄/浸漬 乾燥2週間後に水に10分間浸漬し乾燥

絵具メーカーとして現在の配合の選択範囲では、材料特性をほとんどあるいは全く阻害しないような高品質絵具を提供するには限界があることを承知しています。それを踏まえて私たちの研究開発努力は、そうした欠点の克服に取り組んでいる工業塗料界からの新しい添加剤や原料を検証する方向にあります。以下のセクションでは、今までお話してきたネガティブな結末について私たちが試みたことを述べてみたいと思います。

ゴールデン社の最初の試みは、ブロッキング性を低減するための絵具の硬さ調整でした。1994年、アクリル樹脂メーカーは、エチルアクリレート・モノマーから、より耐久性の高いブチルアクリレート・モノマーに移行しました。私たちはこれを利用してアクリルモノマー成分を微調整して、アクリル製品全体のTgを上げました。この改良により、表面粘着性は低下し、耐ブロッキング性が改善されました。

長年にわたって、私たちは一連の異なるアクリル樹脂の試験を行ってきました。最も重要な試験は、イースタンミシガン大学のフランク・ジョーンズ博士(Dr. Frank Jones)およびその同僚との共同プロジェクトでした。自然科学財団(the National Science Foundation)の援助により、プロジェクトでは新しく配合された幅広いアクリル樹脂の研究が可能になりました。それは、他の工業界のために開発されたアクリルを使うのではなく、原点から始めて画材のために特別に作られたアクリル樹脂を開発することでした。工業的要求から、最適な耐久性よりは経済的あるいは特定の用途向きに成分が選ばれているという認識をしていました。しかし試験では耐水性の改善はみられたものの、発色性、透明性が損なわれ、不成功に終わりました。

もう一つのアプローチは、他の樹脂化学の検討です。100%アクリル樹脂は塗料業界では優れた耐候性と耐UV性を持つと考えられていますが、塗膜強度や耐水性では必ずしも最良というわけではありません。塗膜強度や耐水性のよさが知られているポリウレタン分散体やシリコーンを含む様々な樹脂を検討しました。また工業会ではブロッキングや耐水性を改善するために、自己架橋タイプもよく使われています。残念ながら、これも主要な特性の改善は最小限だったり、発色性が大きく損なわれたり、樹脂自体の黄変が強いという結果に終わりました。

機能性顔料や添加剤の使用は、塗料業界では耐ブロッキング性や耐水性を改善するもう一つのメカニズムです。ワックスは合成(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミドなど)や天然(カルナウバ)がありますが、これも概して甚だしい黄変を塗膜に引き起こしました。

ポリテトラフルオロエチレン固形物は、低表面エネルギー、高スリップ性で知られており、テフロンコーティング素材です。この添加剤は一般に表面スリップ性を上げますが、ブロッキングと耐水性は目立った改善をしませんでした。

アクリル絵具表面は塵やホコリを容易に引き付け付着させると言われていますので、実際に静電気による誘引があるのかを検証しました。そのためにアンチモン・ドープ酸化錫をコーティングして半導体としたマイカベース導電性顔料を配合した絵具を作りました。その結果は、導電性顔料の有無にかかわらず塵の積もり方に差は見られず、アクリル絵具は何らかの有意な静電気は帯びていないことを示しました。

つや消しあるいはザラついた面はブロッキングや粘着の影響が少ないと考え、塗膜の柔らかさを低下させるためにつや消し固形分の試験を行いないました。ここでは表面粘着と耐ブロッキング性が大幅に改善されました。しかし大きな問題は、これらの原料はつや消しになると透明性を損ない、また効果の非常に高いつや消し剤の一部は黄変の可能性がありました(特にゲルやメディウムで目立つ)。つや消しの絵具はまた発色性も劣り、摩擦による傷つきや水の浸透性の問題もあります。

1

活性剤の移行低減

前述のように、絵具に含まれる活性剤は乾燥後は塗膜内全体に均一に存在するわけではなく、塗膜/下地あるいは塗膜/空気の界面近くに偏在するようになります。塗膜表面への活性剤移行は、表面の親水性(水を好む傾向)を高め耐水性を低下させ、同時に水可塑化作用(hydroplasticization)によってTgを低下させる効果があります。

以下に述べるのは、アクリルからの活性剤放出を抑えるために私たちが検証したいくつかの方法です。

活性剤添加量を減らすことは最も直接的なアプローチと思われるでしょうが、バランスを考えてください。重要な領域の一つは安定性です。保管安定性と凍結安定性は活性剤のタイプ、有効性、添加量に関係します。アトリエで長く保管できない絵の具や、凍結/融解サイクルの後に固まってしまう絵具は商業的に成り立ちません。

現実には、絵具に含まれる活性剤の大半は樹脂メーカーから仕入れる精緻な樹脂分散体に既に存在するのです。

こうした活性剤がなくては、樹脂固形分は分散した均一な状態を保てないでしょう。活性剤を含まない樹脂も検討しました。しかし、そうした樹脂も耐水性の改善は見られませんでした。

揮発性で塗膜に残らない活性剤が市場に一つだけありました。残念ながらこれは顔料湿潤性に欠けるため(絵具の)安定性が悪く、また非常に臭気が強いこともあり、検討をあきらめました。

研究文献には、反応して樹脂と強固な結合を作る活性剤の利点について述べているものが多くありますが、現実には市場にはほとんど出ておらず、非常に高価です。その結果、樹脂メーカーは使用をためらい、私たちには試験さえ限界があります。

アーティストのための道具

以上でアクリル塗膜は相対的に軟らかく、大半のつや消しでない塗膜では活性剤は硬度低下と耐水性低下をもたらすことがお分かりになったでしょう。では描画が終了したなら、これを洗い落としてはどうでしょうか。ゴールデン独自の研究および修復界での実績から、画面にある活性剤には利点はなく、水で容易に取り除くことが出来ます。結果として、湿らせた糸くずのない白布で画面を洗浄した場合の影響は、作品の物理特性を改善するだけであり、経時耐久試験に対する性能を向上させるものと強く感じます。すると、次の質問は「ハウ・ツー」に絞られます。以下に挙げるのは、それぞれの美術作品について最良の手段を決めると考えられるガイドラインです。

どんな道具を使うべきか?
軟らかく糸くずがほとんどあるいは全くない布が理想的です。私たちの試験では、50/50白綿/ポリエステルがとてもよい結果でした。また雑貨店や薬局で手に入る蒸留水を使ってください。そうすればアトリエで使っている水の水質を気にする必要がありません。キーポイントは、時々布をゆすいで、吸収させた活性剤を(布から)洗い流すことです。

いつ洗浄すべきか?
難しい問題です。一般には、活性剤が表面に浸出するのに2-4週間かかります。表面の活性剤を最大にするだけでなく、塗膜が十分に硬化したことを確認するには、4週間待つのが理想的でしょう。

作業が十分だったか、どうやって知るのか?
まず、この作業をするだけで、画面の質を向上させることを認識しましょう。活性剤とは石鹸のようなもので、水と出会うと泡が起ちます。ですから、泡が出なくなるまで清水と布で表面をやさしく洗ってください。同時に、乾燥後は塗膜は均一でマダラがないことが必要です。もしマダラが残るなら、残存活性剤が不均一な画面の原因と考えられるので、その除去を続けましょう。

活性剤はまた出て来るか?
残念ながら塗膜中に活性剤が存在する限り、表面移行は止まりません。制作過程で洗浄が早すぎたり(特に乾燥後、数日以内に洗浄した場合)、水を使わなかったりすると、塗膜内部には活性剤が残存し最終的には表面に出てきます。十分に洗浄すれば、つまり4週間待った後に泡が出なくなるまで洗い続ければ、それでもなお表面に移行する活性剤は残るでしょうが、最小限になるはずです。

ステイン技法の絵画は厚く盛り上げた作品と同じように扱えるのか?
これは多分、さらに難しい、あるいは少なくとも複雑な問題です。一般論としてはノーです。本当のステイン絵画では、アクリル絵具は多量の水(一般には絵具が10%未満)で薄められるので、洗浄の必要はないはずです。何故なら絵具は活性剤とともにキャンバスや吸収性下地に吸い込まれ、表面には存在しないからです。もし下地の上にしっかりした塗膜があるならば、この洗浄工程を採ることが最善です。絵具の塗膜が薄い場合は、よりデリケートで柔らかな手段が明らかに必要です。テクスチャーのきつい部分では、テクスチャーを変形させないようやさしく行うと同時に、凹みや裂け目の内部まで届くよう巧みな手さばきが必要です。

絵具の色はこすり落ちるか?
そうです、大抵は確かにある程度起り得ます。理想としては濡れた布で落ちるような色がないことですが、実際には一部の色は他の色より滲みやすいのです。しかし全ての色についてほぼ最小限になっているはずです。湿気た布切れで表面を「洗浄」する場合には、注意深く、できる限り圧力をかけないようにします。少量の色が布に染み込む程度は心配いりません。もしハードエッジのように、ある色が他の色の上に滲み出る心配がある場合は、その色の中だけで拭うように動かしてください。

表面洗浄はアクリル画の特性を改善するのは確かですが、保護を最大限にし、また将来の洗浄が出来る限りうまく行くために、さらに推奨したい保護ステップがあります。ゴールデンのワニス(ワニス類、MSAワニス、保存ワニス)はどれでも、画面を絵具よりも硬くし、塵やホコリをより受けつけにくくします。またワニスは化学的に可逆性なので、適切な溶剤(脚注のリンク参照)で容易に取り除くことができ、その際に塵埃も一緒に取り除かれます。絵具塗膜に影響を与えず効果的にかつ安全にワニスを取り除くには、まず遮断コート(isolation coat、絶縁層)を塗ることをお勧めします。この遮断コートは絵具表面とワニスの間の物理的なバリアーとして働き、ワニス除去の際に溶剤に影響される可能性をなくします。この手法については本稿では述べませんが、当社のウェブサイト(下記リンク先)にはこの件に関してより詳しい情報があります。
  ワニスの基礎知識
  ワニスの塗付ガイドライン

左から右:グレッグ・スミス博士とジム・ヘイズは、ロンドンのテイトモダンにおける「近代絵具を紐解く」シンポジウムのための共同研究を行った

要約

私たちはちょうどシンポジウム:「近代絵具を紐解く」から帰ってきたところです。それはロンドンのテイト・モダンで開催され、私たちは本稿の情報を発表しました。絵具メーカー、学芸員、修復家、修復科学者が一緒になってこれらの近代材料について理解を深めようとしたことに喜びを感じました。このシンポジウムの成果は、この材料の持つ保存に関する本質的な性質の理解だけでなく、許容できる保存処理の判断に必要とされる進展を見たことです。

アクリルが経年変化を受ける際に何が起こっているかを評価する全ての作業や共同研究の意義は、世に出てから50年経過した今日においてアクリルはよくやっているということです。この絵具で描かれた絵画は、剥がれ落ちることなく、また著しい劣化の兆候も見せていません。これら作品の世話に責任のある修復家たちには、新しいチャレンジが待ち受けているといいます。薬品および水に対する感受性は真に重要なファクターであり、修復家はアクリル絵画について、何を使い、どう洗浄するか、まだ安心できないでいます。

作品の寿命を本当に考えている作家には、作品をより良く保存するための道具と技術があります。表面の洗浄は、活性剤移行によるマイナス面を低減する重要なステップです。作品が経年という事象に耐えるチャンスを確実に大きくするためには、遮断コートと除去可能なワニスを塗ることが重要な保護手段です。

私たちは作家や修復界の人々と共に、アクリル塗膜に関する軟らかさや耐水性といった問題の研究を継続し、この画材の大切な特質に影響する内在的な要素すべてをさらに明らかにしていきます。新しい材料や新しい配合も検討していきますが、「バランスの問題」を忘れてはいけません。すべての変更は相互に関係しており、その系全体に対する影響を理解することなく変更を行ってはいけないのです

脚注/参考
1. Digney-Peer, S. et al.
The Migration of Surfactants in Acrylic Emulsion Paint Films
Modern Art, New Museums.  IIC: Bilbao, 2004, pp 202-207.
2. Niu, B. J.; Urban, M. W.
Journal of Applied Polymer Science 1998; 70, 1321-1348

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