Golden History

 

消えないで−保護コーティングに関する最近の試験

by サラ・サンヅ

 「耐光性については特に気にしていないよ」。そのお客はUV(紫外線)保護ワニスに関する話の中で自信を持っていいました。「私の使っているインクシステムは100年以上の耐久性と評価されているから」。私は一瞥し、そして深く息をつきました。「そのことですが」私は考えをまとめ、そのような考え方には十分な注意を要すること、そして内容を吟味しなければならない理由の説明を始めました。この分野は相反する要求や誤解が絡み合った混乱状態になっていて、それを解きほぐすことを考えると目が回るようです。

まずプリントの寿命の決定法、それに影響する要素、デジタルメディアの寿命予測における促進試験の限界などについて考えることから始めましょう。またプリントを保護するには何がよいかを選ぶ際の情報もご提供します。最後にMSAワニスについて過去3年にわたって行った当社の試験による製品単独での結果、および市販競合品との比較結果をお見せします。そこではインクジェット材料の耐光性を上げる上でのMSAワニスの有効性をご紹介します。

絵具とプリントの耐光性比較

印刷インクと専門家用絵具の耐光性ランクが似たようなものだとか、あるいは少なくともランク付けの方法は同じだと考えるのは簡単です。しかしどちらの考えも正しくありません。耐光性と耐久性の測定に関して、それぞれの分野は歴史的に別々の基準を発展させてきました。絵具においてはCIE L*a*b*色彩空間による分光測色で表される変化を用います。Delta E (E)(1)で示される変化の程度によってASTM規格で定められた特定の耐光性ランクに格付けされます。対照的にデジタルプリントは色空間における変化を測定するのではなく、特定の染料における濃度変化を追跡する濃度計測定値を使用します。このシステムでは特定の色チップの変化ではなく、画像の変色が心理測定評価(注2)に基づく許容範囲を超えるまでにCMYK染料がどの程度の濃度損失を被ったかを重視します。Wilhelm Imaging Research(ウィルヘルム・イメージングリサーチ)の設定によると、現在の濃度低下許容範囲は最低がマゼンタの25%から最高がイエローの35%となっています。明らかに、これは画家が馴染んでいる測定方法とは随分異なるシステムです。またほとんどの人は、特定のインクシステムが一定期間の耐光性を提示している場合、それはそのレベルの濃度低下が起こるまでにどのくらいの期間がかかるかを言っているということを理解していません。さらにほぼ全部のデジタルプリントの耐光性表示が、プリントはガラス付きフレームに入れられ、温度21oC (70oF)、湿度60%で一日に450ルクスの光が12時間当たる条件で保管されるとしています。最終的にはどちらの方法がよいということではありませんが、それぞれに明らかに異なる概念と歴史を持っているのです。

退色に関する他の因子

プリントの安定性についてはUV暴露(紫外線にさらされること)を問題とすることが普通ですが、それ以外の湿度や空気、熱などの因子も同じく重要です。私たちの試験の焦点ではありませんが、それらの影響を考慮することも大切です。

湿度
デジタルメディアの多くは、湿度だけでも大きな変色を起こす可能性があります。例えば、染料ベースのシステムの中には、湿度80%、温度24oC75 oF(3)7日間というだけの条件下でDelta E16までの変化を示したものがあります。この変化は同じ期間に紫外線だけで起こる変化を大きく上回るでしょう。そしてこのような条件は湿度の高い夏場には決して珍しいことではないのです。顔料ベースのシステムが優れた耐光性を示したのは確かですが、染料ベースのインクではそれより低い湿度70%という条件でも変化は著しいものでした。

空気退色
通常の家庭やオフィス環境での単なる空気への暴露でも変化が起こります。汚染物質、特にオゾンはその大きな原因であると広く考えられています。ある報告では、多孔質のメディアにされたプリントを暗環境に4ヶ月置いたものが著しい「空気退色」を起こしたことが観察されています。この試験サンプルの大半はシアン濃度が15-25%失われ、その内の一つは許容限界の30%を超えました。(4)

温度/暗退色
多くの材料が熱に暴露されただけで黄変しますし、光がなくとも様々な化学反応が進行します。最近のある試験で、私たちは様々なクリアコート材が60oC140oF)条件下で400時間後には明らかに視認できる程度に黄変することを見出しました。

促進試験の限界

デジタルプリントの寿命予測においては促進試験の限界を知っておくことが大切です。ある結果についての保証や、製品のある効果についての認証を求められることはよくあることです。もしその試験結果やデータがそうしたことを可能にするなら、それほどよいことはありません。しかし残念ながら私たちにできるのは、ある特定の条件下で特定の組み合わせの材料がどの程度の実績を上げたかを言うのがせいぜいです。それ以上のことは、どのような実際の用途についてもさらに大雑把な推定にしかならないのです。

促進試験の強みとは、よく管理され再現性のある標準的な状態に材料を置くことが出来るということです。現実の条件下における複雑さや相乗効果は常にもっと錯綜し、分析が難しいものです。これまでにほのめかしてきた環境要素を勘定に入れればよいというだけのものではないのです。例えば、紙やインクシステムの組み合わせの選択が耐久性のレベルを決定する上で重要な役割を果たすことが分かっています。同時にこれは静かな業界の話ではありません。新しいシステムやテクノロジーが常に現れ、そのために試験結果は急速に陳腐化するか不適切なものになってしまうのです。

相反則不軌(光量と変色の程度が比例しない現象)
これはデジタルメディアの促進試験の限界を理解するうえで重要な概念の一つです。基本をいえば、インクは低照度の光に長時間さらした場合には、促進試験における高照度/短時間で行った試験結果から予測されるよりも早く退色するということです。言いかえれば、あるプリントを二倍の紫外線量で半分の時間だけさらしたときの結果は、実際条件で同じだけの紫外線量を受けた結果と一致するとはいえないということです。

もっと控えめな評価を考慮したとしても、報告されている相反則不軌による誤差の程度によると、促進試験が耐光性結果を現実の結果よりも40%から1000%、つまり10倍ほども過大評価している可能性があることが示されています。このようなことを考えると、促進試験で100年とされているプリントシステムは、現実には60年から短ければ10年程度しか持たないかもしれないのです。

光強度
最後に、プリントが暴露される光量や光のタイプも結果にある程度影響するということもほとんどの人が認識していません。蛍光灯かキセノン光源か、光の強度はどのくらいか、ガラス超しか直射日光か、以上のようなことは異なる環境をシミュレーションする場合に考えられる条件です。こうしたものについて、現状では産業界全体で標準化された設定仕様はありません。

さらに悪いことに、プリントが暴露される「代表的な」光のレベルについても同じように大きな意見の不一致がありますが、それはとりもなおさず促進試験と実際の年月との関連性を決める要素になります。Wilhelm Imaging社は典型的な室内照明を一日12時間450ルクスとしています。コダック社は250ルクス/12時間としています。美術館では光に敏感な素材に対しは低くて50ルクス、高くても250ルクスとしていますが、窓際にかけられ直射日光を一日数時間受ける作品ならば50,000ルクスにもなります。

予測と比較

これまで述べてきたことから分かるように、現在の促進試験法からプリントの耐久性を正確に決めるには大きな障害があります。しかしながら、予測試験と比較試験の違いを理解しておくことも大切です。比較試験は、一組のサンプルが同一の条件下に置かれたときに、その特定の条件における性能を比較する手がかりとなる結果を与えるだけだということです。それに比べ予測試験にはずっと多くの必要事項があります。それは可能な条件を表す多くの変数を考慮しなければなりませんし、結果はその素材が現実にどのような性能を示すかを予測するために使われるからです。この違いは試験に使われるパラメーターや手順、そして結果の重要度を明確にします。

ゴールデン社における最近の試験結果

実験手順
標準試験サンプルを作る上で、当社では退色しやすい染料系インクを代表的なインクジェットメディアに印刷したものを選びました。この最悪のシナリオは、ゴールデンMSAワニスや保存用ワニス(アーカイヴァルワニス)がUV暴露による退色から作品を保護する効果をみるにはよい試験になると考えました。サンプルはデジタル画像をエプソン700デスクトッププリンターに標準インクセットで、メーカー推奨の通常の光沢および無光沢の写真用紙、そしてインクジェット・キャンバスに印刷しました。さらに基準となるサンプルを業務用ジクレープリンターと広く使われている顔料系インクシステムにより水彩紙にて作りました。測定は常にシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの純色を最大濃度で帯状または四角に印刷した場所で行いました。ただし、この試験はあくまでクリアコートの性能を見るためのもので、インクや下地材の性能を見るためではないということに留意してください。

促進耐光性の試験にはUV-A351光源を取り付けたQ-LabQUV型試験機を使いました。これは自然昼光(ガラス越し)の最も重要な短波長領域におけるUVエネルギー曲線を再現しています。代表的な試験パラメーターは放射照度0.762W/m2@340nm、温度60oCです。1サイクル400時間は室内の紫外線量のほぼ33年分に相当します。これらの試験では暗サイクルや結露サイクルは使われていません。湿度は室内条件のままで大体50%以下です。

測色はミノルタ分光光度計を用いました。データは試験前に初期データを測定し、その後試験サイクル毎に測定しました。ASTM規格D4303-03の専門家用絵具耐光性計算手順に従い、CIE1976によってDelta Eを計算しました。

これまでの結果
3
年以上前に、多数の標準インクジェットサンプルにMSAワニスを筆またはスプレーで様々に塗付したサンプルを使った一連の試験を完了しています。それぞれのサンプルについて代表的な測定ポイントで初期分光値を測定し、その後の色変化の基礎としました。その後2004008001200時間経過後にそれぞれサンプル面の測定を多数行いました。それぞれの下地/コートの組み合わせについてサンプルを3つずつ用意して試験を行い、400時間毎に一つずつ抜き取って保管しました。この報告記事のためには試験片66枚と900点以上の測定データを使いました。グラフに使ったDelta Eは、同種の下地/コートの組み合わせで同じ時間だけ試験した測定値を平均して作成しました。

12はワニスをかけていない染料系および顔料系インクと、ゴールデンMSAワニスをスプレー6回または筆塗り2回で保護された染料系サンプルの400および1200時間後の変色を比較しています。

 

1
コーティングなしの顔料および染料インクと、アーカイバルおよびMSAワニスを塗付した染料インク
400
時間QUV暴露試験後

棒グラフの色はインクの色に対応

左から:
・光沢写真紙に染料インク
・水彩紙に顔料インク
 いずれもコーティングなし
・光沢写真紙に染料インクにアーカイバルワニスを6回スプレー
・光沢写真紙に顔料インクにMSAワニスを負で塗り2回

 

 

 

2
同上、1200時間QUV暴露試験後

 

ワニスをかけたことによって耐光性が大きく改善されたことがはっきり分かります。同時にコートしていないサンプルの被った退色も顕著ですし、顔料系でさえも400時間後、つまり代表的な室内環境で33年経過後は相当な退色をしています。一方で、MSAワニスで処理されたものはわずかしか変化していません。1200時間後でさえもこれらのサンプルはDelta E8以下またはそれに近い色を保っています。Delta E8ASTM耐光性ランクIIの限度値であり、専門家用絵具として認め得る変色の限界レベルとみなされます。

3MSAワニスを一回または二回塗った際の様々なインクジェットメディアにおける変色の記録です。最終結果が示す各下地素材への効果は議論の余地がないと思われます。またワニスを二回塗りした時の効果がいかに著しいかも見ることができます。Delta Eは大体において30%以上減少し、多くの色で変色が耐光性IIの限度以内かそれに近くなっています。最後に、インクキャンバスでの変色はほとんどすべてが編み目の山の部分、つまりインクもワニスも一番薄くなりやすい部分に限られているということは注目に値します。それに対し、インクやワニスが溜まる谷の部分では色の変化がほとんどありません。


3
様々なメディアに印刷した染料インク、1200時間QUV暴露試験後

左から:
MSAグロスワニス筆塗り1回
MSAグロスワニス筆塗り2回
 以上、光沢写真紙

以下同じ組み合わせで、
つや消し写真紙
インクジェットキャンバス

比較試験
これらの結果からゴールデンMSAワニスは、非常に退色しやすいインクシステムでも顕著な保護効果があることが示されましたが、デジタルプリント用コーティング材として販売されている幅広い他の商品を加味してさらに試験を行う必要性を感じました。

最初の比較試験に含まれているのは、真摯なデジタルアートやジクレー印刷専用として市販されている様々な描画用ワニスやクリア保護コート、トップコートです。全部で13社から18種類の製品を選びました。製品は(GAC=ゴールデン):Bulldog Ultra Gloss, Clearjet Gloss, Clearshield Gloss, GAC Archival Varnish Gloss and Matte, Grumbacher Picture Varnish, Krylon Crystal Clear and Kamar Varnish, Lascaux UV Varnish Gloss/Matte, Lyson Printgaurd, Optima Millenium, Premier Art Printshield, Schmincke Glanzfilm and Mattefilm, Suregaurd Pro-tecta-cote #911 Gloss/#941 Matte, Winsor Newton Artists’ Picture Varnish Gloss。それぞれの製品についてサンプルを2つ作り、スプレー塗付で片方には二回塗り、もう一方には6回塗りをしました。双方についてデータポイントを取りましたが、結論としてわずか400時間で明らかになったのは、広範な退色と著しい物理的劣化の兆候を示すものがあったことです。

4では、図示に限度があるので6回塗りサンプルの結果と比較基準としての未塗付サンプルだけを示しています。結果は各サンプルのCMYKから計算されたDelta E平均値で示しています。左から、平均値は最小1.15から最大45.67まであります。ここで図45のサンプル名は製品名とは関係ありません。

 

4 比較試験
光沢写真紙に染料インクに各種グロスコートをスプレーで6回塗り
400
時間QUV暴露試験後
左端:ゴールデンアーカイバルワニス塗付
右から3番目:コーティングなし

当社のアーカイヴァルワニス(保存用ワニス)に加えて多くの他社製品が顕著な保護効果を示し、Delta E平均値は8以下を示しました。その製品はLascaux UV Varnish Gloss, Suregaurd Pro-tecta-cote #911 Gloss, Optima Millenium, Schmincke Glanzfilm, Clearjet Glossです。注意していただきたいのは、これらは各製品についてサンプル一点だけ、そしてわずか400時間の暴露試験での結果であるという点で、実際の長期間における信頼性のある結果予測には使えないということです。この試験の目的は、これらのコーティング材がコントロールされた同じ条件下で示した性能の大雑把な比較だけなのです。

5は現在進行中の試験で、同じ製品のやや小さめのサンプルセットについてASTM D4303-03で規定されたキセノン光照射による試験を行っている途中経過です。図に示す通り、最初の200時間暴露が終了したところですが、これはQUV試験機の400時間相当、つまり代表的な室内条件の約33年間に当たります。各サンプルについてCMYKのデータポイントの分光測定を行い、初期値からDelta Eを計算します。総括的な性能は、個々のCMYK計算値を平均したもので評価します。結果を明確にするため、これまでと同じくスプレー6回塗りサンプルの結果のみを示しています。

 

5 比較試験
光沢写真紙に染料インクに各種グロスコートをスプレーで6回塗り
200
時間キセノン光暴露試験後
左端:ゴールデンアーカイバルワニス塗付
右から2番目:コーティングなし

 当社のアーカイヴァルエアゾールワニスとMSAワニスは今回も最良の結果ですが、これらだけでなくLascaux’s UV Varnish Gloss, Optima Millenium,  Schmincke’s Glanzfilmはほぼ許容範囲の性能を示しています。ここで指摘したいことは、アーティストにとって自分の画材を試験することが如何に重要かということです。何故ならこの結果の中でインクジェットプリントに優れたUV保護効果があるとしているある製品が、未塗付の基準サンプルよりも悪い結果を既に示しているからです。

最後に

今回示した試験結果はこの分野において当社が長年行ってきた成果のごく一部であり、もちろん試験はさらに続けられます。これらの結果を解釈する上で大切なことは、試験した多くの製品がデジタルプリント向けだけに作られたものではなく、またUV保護効果について全く記載していない製品もあるということです。しかし全体としては、現在、アーティストが使用したり画材店で目にする商品を代表していると思います。全目録は www.goldenpaints.comにあります。


1 Delta E
:二つの色の差であり、一般正常色覚者が識別できる最小の変化に相当する単位が1として表示される
文献
2 How Long Will They Last? An Overview of the Light-Fading Stability of Inkjet Prints and Traditional Color Photographs, Henry Wilhelm, Wilhelm Imaging Research, published in IS&T’s 12th International Symposium on Photofinishing Technology, Feb. 2002, pp. 32-37, http://Wilhelm_IS&T_Paper_Feb2002.pdf
3 Humidity-Induced Color Changes and Ink Migration Effects in Inkjet Photographs in Real-World Environmental Conditions, Henry Wilhelm & Mark McCormick-Goodhart, Wilhelm Imaging Research, Inc., IS&T’s NIP16 International Conference on Digital Printing Technologies, Oct., 2000, pp.74-77, http://Wilhelm_IS&T_Paper_Oct2000.pdf
参考資料
4 Inkjet Photo Prints: Here to Stay, Dr. Nils Miller, Hewlett-Packard Company, June 2004
5 See in particular: Reciprocity Behavior in the Light Stability Testing of Inkjet Photographs, Henry Wilhelm & Mark McCormick-Goodhart, Wilhelm Imaging Research, IS&T’s NIP17 International Conference on Digital Printing Technologies, Oct., 2001, pp.197-202; A Review of Accelerated Test Methods for Predicting the Image Life of Digitally-Printed Photographs – Part II, Henry Wilhelm, Wilhelm Imaging Research, IS&T’s NIP20:2004 International Conference on Digital Printing Technologies, Nov. 2004, pp. 664-669; How Long Will Inkjet Prints Last: Estimating Print Life Using Accelerated Test Methods

補足 CMYKCMYKは、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックを表し、4色印刷の原色。