Golden History

絵具と画素  Paint & Pixels

カリン・シュミンケ、ドロシー・シンプソン・クラウス、ボニー・ピアス・ロッカ
Digital Atelier®
のアーティスト

家庭でも制作現場でもコンピュータが日常的になりつつあるため、作品にデジタル処理を施す作家はかつてないほど増えています。デジタルのすぐれた編集能力は創作的探求心をくすぐり、作家は作品の制作をより緻密にコントロールすることができます。

デジタル画像の魅力として、作品の別の姿を見ることや、たった今あるいは数週間前に行った決定を「取り消す」ことができるのを好む作家もいますし、プリントや絵に写真のリアリズムを加えられるのを好む作家もいます。おそらくデジタル画像の最も魅力的な点は、さまざまなメディアを簡単に一体化できることにあるのでしょう。デジタルツールを使えば、絵、スケッチ、コラージュ、写真、印刷をすべて継ぎ目なく組み合わせることができるからです。

コンピュータを使って制作した作品には根強い明らかな障壁がありましたが、最近では、インク、印刷工程、ソフト、デジタル画像製品の価格が手頃になり技術が進歩したことで、そういった障壁も取り除かれました。

最近のインクジェットプリンターは解像度が非常に高く、よく見なければデジタルプリントと写真の見分けがつかないほどです。大型インクジェットプリンターは幅24インチ(約60センチ)以上のどんな長さの画像も印刷することができるため、大きな作品を制作するツールになっています。耐久性にすぐれたデジタルプリントを制作することもできます。耐久性に関する情報については、http://www.wilhelm-research.comをご参照ください。インクとインクジェットメディアのメーカーの中には、耐久性に関する独自のデータを提供しているところもあります。

インクジェットプリンターの場合、発色をよくするためにインクを保持するには、インクジェット受理層で「プレコート(前処理)」した面が必要です。そのために特殊コーティングされたアートペーパーを購入するのが一般的です。インクジェットプリンターのメーカーはほとんど、コーティングしたペーパーとインクのカラープロフィールを提供しています。伝統的なアートペーパーのメーカーも、現在ではその多くがインクジェットプリンター用にコーティングしたペーパーを提供しています。最も有名なのはアルシュ(Arches)で、同社のインクジェットペーパーはArches Infinityと呼ばれています。他にもコーティングしたインクジェット用アートペーパーを提供するメーカーとして、プレコートした和紙を販売するLegion PaperHahnemuhleSomersetなど、またプレコートしたインクジェット用のハンドメイドペーパーを販売しているTwinrocker Handmade Paperなどがあります。これらのプレコートしたインクジェット用ペーパーの表面のばらつきは加熱プレス面や常温プレス面など、標準的なアートペーパーと同程度です。

さらに、inkAIDから出ている刷毛で塗るタイプの透明と白のプレコートを使って、好みのアートペーパーにコーティングを施したり、インクジェットプリント用に独自の表面を作り出したりすることができます。その結果、コラージュや絵画など、インクジェットプリンターを通るものであればどんな面にも印刷することができます。デスクトッププリンターをご使用の場合は、下欄をご参照ください。

デスクトップのインクジェットプリンターを使用する際の注意事項

デスクトッププリンターで実験を始める前に、注意事項があります。ほとんどの場合、デスクトッププリンターにはイジェクションホイールが内蔵されています。これは複数のページを自動的に印刷できるようにするためのものですが、ミクストメディア技法を使う場合、印刷工程を妨げることもあります。このホイール(ピザをカットする小さな丸い刃に似ていることからピザホイールと呼ばれることもあります)は印刷直後に印刷物の表面に接触します。接触時にインクが乾燥していなければ、最終印刷物にこの跡が残ることがあります。

市販のプレコートした表面や、透明のinkAIDでコーティングした多孔性の表面(紙など)や、inkAID White Matteプレコートでコーティングした面に印刷する場合、素早く乾燥させれば跡が残らないようにできるでしょう。しかし、プラスチックやアクリル絵具などの表面にGloss inkAIDSemi-Gloss inkAIDなどの透明のinkAID製品を使用している場合、ホイールの下を通過した時点ではインクがまだ乾燥していないため跡が残るでしょう。ご使用のプリンターの保証期限が切れている場合、インターネット上の指示に従ってピザホイールを無効にするか取り除くことを検討されるか、ワイドフォーマット(幅24インチ(約60センチ)以上)のプリンター(大部分はピザホイールがない)を検討されるのがよいでしょう。

コンピュータが制作過程だけではなく創作の構想段階も容易にすることから、このような進歩は作品の制作方法におけるパラダイムシフト(考え方の枠組み変化)をもたらしつつあります。

デジタル画像を伝統的なメディアと一体化するための基本的な方法は、デジタル画像を下刷りや上刷りとして使用したり、特製の表面に印刷したりすることです。

左:写真からの紙に印刷した薄い画像。右:印刷画像にアクリル絵具で着彩。

デジタル画像の下刷り

下刷りの場合、デジタル画像(写真または他の材料で制作した作品のスキャン)を他の素材の下地の基礎画像として使用します。下刷りに白黒写真を使って伝統的な材料で色づけすることもできますし、印刷を利用してコラージュや描画した要素を配置することもできます。たとえばキャンバス上に一部完成した画像を5枚印刷し、それぞれにアクリル絵具を塗ると、関連性のある独自の絵が5枚できあがります。このプロセスを活用して、テーマを検証したり、アイディアを膨らませたり、さまざまな素材を探求したりすることも可能です。

下刷りをする場合、市販のプレコートされたキャンバスを使う必要があります。必ずご使用のプリンターが対応できるキャンバスを見つけてください。プリンターのメーカーが出しているインクジェット用にコーティングされたキャンバスと、同じメーカーのインクとは相性がよいです。Digital Art Suppliesなどの販売店からも入手できます。現状では、麻のキャンバスに描画する場合、独自のキャンバスを作る必要があるでしょう。麻布を張ってジェッソを塗り、inkAIDから出ているインクジェット受理層のどれかでプレコートする必要があるでしょう。乾燥後、キャンバスを枠から切り離します。塗布面を外側にしてボール紙の筒に巻き、画像処理できる状態になるまで待ちます。キャンバスの印刷が終わると、他のキャンバスと同様にアクリル絵具を塗ることができます。アクリル絵具以外に、chine collé、色鉛筆、金箔などの材料を印刷した画像と組み合わせることもできます。インターフェアランスやメタリックやパール感のあるアクリル絵具を使うと印刷面に輝きを加えることができます。

実際に、ほとんどすべての伝統的材料はさまざまな表面の下刷りの上に使うことが出来ます。黒鉛、木炭、色鉛筆、パステルも使えますが、GOLDEN Acrylic Ground for Pastelsでペーパーを整える必要があるかもしれません。下刷りの画像をいくつか併せてコラージュにした後、従来のメディアと組み合わせて作業すると、プリンターのサイズによる制約を受けない作品を作ることもできます。

デジタル画像の上刷り

上刷りをする場合、伝統的な材料から始め、その後デジタルプリントの層を加えます。このプロセスでは、完成作品において伝統材料の画像がデジタルプリントの下に見えるように、透明のプレコートを使います。アクリル絵具、水彩絵具、白黒写真、カラー写真、新聞印刷、手紙、繊維、色鉛筆、コラージュ、木炭など、また木版画からリトグラフまでさまざまな印刷物も含めてほとんどすべての伝統的な材料をこのプロセスに応用することができます。

伝統的な素材とインクジェット印刷を組み合わせると、それぞれの長所が生かされます。デジタル作家が得意とする精緻な画像コントロールを活かしながら、ミクストメディア作家が得意とするさまざまな質感や表面を利用することができます。途中で完成画像の予想図をプレビューで見ることもできます。

インクジェット印刷では、不透明な膜ではなくむしろ透明な上層を印刷面に作り出すため、下地の描画面の特徴が透けて見えます。他の素材の上にインクジェットで印刷すると、描画面の豊かさが増すだけでなく、色彩の幅も広がります。下地に描画をすることで、市販の紙にただ印刷して表現できるものを超越した画像が生まれるでしょう。

デジタルプリントの下地面を色彩豊かで詳細なものにするためにアクリル絵具を活用することができます。この方法により、未だにCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)の4色プロセスに依存しているデジタルプリント特有の色範囲の限界に対応することができるのです。たとえば、エプソンのUltrachromeインクといった新製品の6色システムは単に透明なシアンとマゼンタにさまざまなブラックを基本色に加えるだけでインクセットの拡張版を作っています。一方、アクリル絵具は何百種類もの個々の顔料を扱い、ゲルとメディウムでさらに変化を加えて、希望するレベルの透明性を生み出すこともできます。そのため相当な範囲のコントロールが可能になり、イリデッセントやインターフェアランスの絵具の特殊効果も含めると、印刷用インクだけで表現できる範囲よりはるかに色の範囲が広がります。質感についても同じことが言えます。繊維にアクリルのゲル、メディウム、ペーストを使って、他の方法では簡単に実現できない感触の良い存在感を与えるさまざまな面を作り出すことができます。あるいは下地に絵具で薄くウォッシュを塗るだけで、微妙な手塗り感を加えることもできます。このようなケースにおいては常に2つの素材を組み合わせることで、単独では表現できない光のイメージを生み出すことができます。

アクリル絵具で作業する場合、前もって明度を決めておき、伝統的な水彩画を描くときと同様に、最も明るい色を最初に塗りましょう。最後に印刷するデジタル写真が必ず最も暗い要素になるようにしましょう。あるいは、絵の中に写真を組み入れるスペースを空けておき、写真より暗い色を塗らないようにしておいてもよいでしょう。アクリルの下塗りが終わったら、プレコートの前に完全に乾かしてください。下欄は上刷り工程の情報を提供します。

他の素材の上にデジタル画像を上刷りする

比較的簡単な工程です。
1段階 上刷りに使うデジタル画像を選びます。
2段階 プリンターを通過できる紙に絵を描きます。描くときにデジタル画像を参照し、その色、明度、形状を考慮します。
3段階 絵が乾燥したらスポンジブラシでinkAIDプレコートを塗ります。
4段階 inkAIDがにじまない程度に十分乾燥したら、紙を平らに保てるように持ち上げます。乾燥しても平らにならなければ、重みのある板の下に一晩寝かせて圧をかけ、その後紙と同じ長さの23インチ(57.5センチ)の巻心に画像面を外側にして巻く必要があるでしょう。1時間ほど巻いておいた後印刷します。
5段階 描画面にデジタル画像を上刷りします。

特製下地の作成

プリンターを通過することのできる面であればどんな面でも印刷用にプレコートを施すことができます。特製面を作る方法は3つあります。作品の恒久的な基礎を作るベースメソッド、プラスチックシートを使って画面がプリンターを通るようにし、印刷後に画面をはがすキャリアメソッド、そして一時的な基底材に画面を作ってから、はがし、プレコートを施し、印刷するサポートメソッドです。

 

左:ゴールデン・モデリングペーストを不織布に塗り、テクスチャーのある画面を作る。

右:ゴールデン・クラックルペースト(国内未発売)にグレージングを組み合わせた画面の拡大図。

ベースメソッド

ゲルメディウム、ソフトゲルまたはヘビーゲル、モデリングペースト、クラックルペースト、パミスゲルを使って、プリントに適した美しいテクスチャーのついた画面を作ることができます。大型プリンターの多くは1ペニー硬貨くらいの厚さまで印刷可能です。メディアの厚みについてはお手持ちのプリンターの仕様を確認してください。ポリエステルスパンボンド不織布(芯地など布地店で販売)など、湿ってもそらないような、薄くて安定した素材から始めましょう。Strathmore Aquariusペーパーもうまくいきます。必要に応じてジェッソを12度塗って面をシールします。テクスチュア感のある材料を塗り、完全に乾かします。inkAIDでプレコートし、再び乾燥させ、プリンターに給紙して画像を印刷します。

 

和紙は印刷後にキャリアから簡単にはがせる。

キャリアメソッド

和紙のように薄くて、プリンターをうまく通らないとか、面に印刷がのりにくいといった紙に印刷するには、キャリアメソッドが理想的です。inkAID Clear Semi-Glossプレコートを使って薄紙を少し大きめで5ミル(約125μm)厚のDura-Lar®ポリエステルフィルムに貼り付けます。プレコートを乾燥させた後印刷し、Dura-Larキャリアシートから画像をはがします。

ポリプロピレンの下地(サポート)にゴールデン・レギュラーゲルを使って素材をコラージュすると、インクジェット印刷用のユニークな画面が出来る。

サポートメソッド

デジタル画像の下地層に絵具を使う場合のバリエーションとして、コラージュ面を作り、印刷前に下地からはがす作家はたくさんいます。接着性のないプラスチックである0.20.3インチ(0.50.75ミリ)のポリプロピレンかポリエチレンのシートに和紙、繊維などさまざまな素材をアクリルメディウムや絵具でコラージュすることができます。乾燥すると半透明のコラージュはシートからはがせます。コラージュのテクスチュア感のある上の面にも、下地にくっ付いていた平滑な面にも、透明のinkAIDでプレコートすることができ、その後インクジェットプリンターで印刷することができます。

プリンターにヘッドの高さを調整する機能がある場合、印刷時にヘッドが通過できるように最も高い位置に設定してください。最も高い位置に設定するとそれを無効にするプリンターソフトもありますので、その場合、プリンタードライバまたはRIPで適正なヘッドの高さを選択するオプションが可能であれば、必ずそれを選択してください。

透明のプレコートを使うと下地面の色が透けて見えます。しかし、面の画像や色を隠しながら素材の質感を活かしたければ、inkAID White Matteのプレコートを塗ってもよいでしょう。このプレコートを2回塗ると、不透明になるため、下の色が見えなくなります。デスクトッププリンターで印刷する場合、多孔性ではない描画面にもWhite Matteプレコートは安心して使えます。

さらなる実験

伝統的な材料とデジタル画像を一体化するために上記の基本的な手法を試した後、もっと組み合わせを増やして画像を重ねることを始めてもよいでしょう。たとえば、紙に下刷りを印刷し、画像全体または一部にアクリル絵具を塗り重ね、inkAID Clear Semi-Glossでプレコートし、別のデジタル画像を追加し、3番目の画像を印刷または描画した薄い和紙をchine colléすることもできます。配置の上級テクニックもありますが、まずは、配置が決定的要素にはならはないイメージから実験を始めるのがよいでしょう。

ポストコーティング

透明のプレコートを使った作品の場合、MSAワニスは印刷を保護するためのすぐれた選択です。最初にグロスを1度塗り、希望の仕上がりにするためにグロス、サテン、あるいはマットを12度塗って仕上げることをお勧めします。ワニスは水溶性ではないため、画像を動かしたり、損なったりすることはないでしょう。さらに、UV防止剤が含まれていますので、印刷の寿命を保つのに役立ちます。エアゾルタイプは(器具類を)溶剤でふき取る必要がないため、デジタルプリントを保護するためには優れた手段です。

ただし、(市販でも自分でコーティングしたものでも)White Matte Precoatでコーティングした面には溶剤を含む製品(MSAワニスなど)を使用しないでください。溶剤がいずれプレコートを損なうことになります。ポリマーワニスは水性ですので、White Matte Precoatでコーティングした面の仕上げに使うことができます。

さらなる探求

伝統的なツールとデジタルを一体化するための上記の基本的な方法は、わくわくするようなメディア統合の可能性を垣間見せてくれます。実験によってこれらのプロセスにさまざまな独自のバリエーションを開発することができます。詳しい指示や、さらなる実験のアイディアや、上級テクニックについては、『Digital Art Studio, Combining Inkjet Printing with Traditional Artists Materials(デジタルアートスタジオ 伝統的画材とインクジェット印刷の組み合わせ)』(Watson-Guptill, 2005)という本をお読みください。上級の話題としては、ウェットトランスファー、ドライエマルジョントランスファー、ゼラチン(フレスコ)トランスファー、立体画像、繊維プリントの作り方などが記載されています。同書は、限られたワークショップでのみ利用されていた10年間の実験を紹介し、デジタル/ミクストメディアのわくわくするような新たなジャンルの探究心を掻き立てるために書かれています。

左から右へ:カリン・シュミンケ、ボニー・ロッカ、ドロシー・シンプソン・クラウス。20035月、ワシントン州サンジュアン島ホイットニーセンターにて、彼らの本の最初の草稿を書いているところ。

デジタルアトリエ 略歴

デジタルアトリエの作家であるボニー・ロッカ、ドロシー・シンプソン・クラウス、カリン・シュミンケは、伝統的な訓練を受けた作家で、早くからデジタル技術を取り入れ、統合してきました。彼らは主導的地位にあり、多くの雑誌や書物に書くことで、この急速に進歩する分野で成功をおさめた革新的技術にスポットライトをあててきました。彼らの作品は広く展示され、200を超える公共・民間のコレクションで見ることができます。芸術品に関する新技術を形成し、その意義と影響を解釈する彼らの取組みを称え、「情報技術の視覚的利用」に関するコンピュータワールド・スミソニアン賞が授与されました。

この記事はDigital Art Studio: Techniques for Combining Inkjet Printing with Traditional Art Materials by Karin Schminke, Dorothy Simpson Krause, and Bonny Pierce Lhotka(デジタルアートスタジオ:従来の素材とインクジェット印刷との組み合わせに関するテクニック カリン・シュミンケ、ドロシー・シンプソン・クラウス、ボニー・ロッカ共著)からの翻案です。 (c) 2004 LSK LLC. Watson-Guptill Publicationによる出版。出版社の許可により使用。

編集者注

この記事の情報はDigital Atelier®が行った調査と実験に基づくもので、理解と実験の基礎として提供するものです。記載した手法、機器、素材にはそれぞれ特有の多くの差異がありますので、アーティストはプロジェクトにおける個々の要求をすべて確実に満たすために各用途を必ず評価してください。GOLDEN ARTIST COLORS, INC.はこの情報に関して明示、暗示のいかなる保証も行いません。