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油絵具とアクリル絵具の寿命に関する考察

 

フランク N.ジョーンズ教授

コーティング研究所

イースタンミシガン大学

 

フランク N.ジョーンズ(Frank N. Jones)はイースタンミシガン大学コーティング研究所の教授であり()コーティングコンサルティングサービス社の社長である。樹脂・塗料業界での研究およびマネージメントに20年従事した後、1983年にノースダコタ州立大学ポリマー・コーティング学部教授として教育現場に入った。1990年に全米科学財団・産学協同コーティング研究センターのディレクターおよび教授としてイースタンミシガン大学に移った。また米国化学会高分子材料科学・工学分科会議長を務めた。ジョーンズ教授の共著には200以上の著作と30以上の米国特許があり、教科書・参考書の「オーガニックコーティング:科学と技術(Organic Coatings: Science and Technology)」の共著者でもある。1999年に第二版がジョン・ウィリー&サン社から出版され、第三版を準備中である。

 

本論文では、コーティングの専門家の立場からアクリルおよび油絵具について比較します。この主題についての究極的資料にしようというのではありません。そうではなく、読者にこれら画材の長期耐久性に関する情報を提供しようと考えています。

以下にあるのは、油およびアクリル絵具の品質や情報に関するアーティストによる最近のメーリングリストやインターネットチャットからの抜粋です。これらのコメントはこうした画材の保存性を探るガイドになるでしょう。

 

「アクリル絵具は、現在手に入る中で最も安定し耐久性のある材料であり、正しく使えば他のどの画材よりも長く持つだろう。」[1]

「アクリルについては注意が必要だ。当初は驚くべき材料と考えられたが、油彩よりも早く劣化し黄色く変色した。」[2]

「やれやれ、情報だらけの上にいいことずくめだ。」[3]

 

コメントの最初の二人はまったく違う意見を強く持っていますが、ではアーティストはどうしたらいいのでしょうか。多分、自分の使っている画材の長期耐久性についてはっきりとは知らないでしょう。本論文において、皮膜の形成・劣化・ひび割れ・黄変・洗浄性・接着・退色などに焦点をあてることで、それぞれの材料の問題点に対するアーティストの意識が高まるものと思います。また使っている画材のことや彼らの作品が500年後にはどのようになるかについて、よく知った上で決定を下すための必要な知識が得られるでしょう。そのためにはまず、絵具の皮膜がどのように作られるかを知る必要があります。

 

1.皮膜形成

絵具の皮膜を形作っている樹脂分子を理解するために、とても長くて強い紐状の調理したスパゲッティーの塊をイメージしてみましょう。この紐は樹脂の鎖と大まかに似ています。それぞれの紐は曲がったり互いにすれ違ったりできるので、塊はほぐすことができますが、絡まりがあるので動きは制限されます。この塊に触ると、固体ではあるものの硬くはなくゴムのように感じるでしょう。次にそれぞれの紐が交差しているところを適当に糊付けしたらどうなるでしょうか。そうすると塊はもっとほぐれにくくなります。糊付けの点をどんどん増やしていくと、塊はどんどん硬くなっていきます。やがてすべての紐がそこら中で糊付けされると、塊はとても硬く紐をちぎらない限りほぐせなくなります。塊は変形に対して抵抗力を持ちますが、十分な力が加わるとひび割れます。個々の紐を糊付けすることは、高分子化学者が「架橋」と呼んでいるものに(大まかな意味で)似ています。

キャンバスの上では、アクリルや油絵具は高分子量ポリマー(用語集参照)の皮膜になりますが、本質的にはこれは薄いプラスチックの層であって、普通はその中にたくさんの顔料を含んでいます。しかしその成り立ちには大きな違いがあります。

■チューブ入りの油絵具は主として亜麻仁油などの植物油と顔料です。油絵具はキャンバスに塗られた後、酸素と反応する複雑な化学反応によって固まります。この反応過程で鎖は長くなり多くの架橋が起こって、網目状に架橋した高分子が形成されます。油の分子は最初は比較的小さいので、十分な硬さになるにはたくさんの架橋が必要になります。皮膜が硬くなるにつれて化学反応は遅くなりますが、(通常の展示や保管条件では)決して終わることはありません。長い間には架橋が進んで皮膜はもろくなるでしょう。

■アクリル樹脂は絵具を製造する以前に高分子化しているので、皮膜を形成する際には化学反応は必要ありません。アクリル樹脂は非常に大きな分子(長い多くの紐)で、融着(用語参照)と呼ばれる過程を経て良好な皮膜を作るので架橋を必要としませんが、わずかながら架橋を誘発して高分子化する場合もあります。塗って間もないアクリルの皮膜は軟らかく柔軟で、油絵具のようにもろくはありません(ただし低温時は例外−下記参照)。アクリル皮膜も時とともに化学変化を起こしますが、作品を室内に置く限りは硬化の原因となる変化は非常にゆっくりです。

では皮膜形成を理解したところで、皮膜の劣化の原因を探ってみましょう。

 

2.絵具皮膜の物理的劣化の原因は何か?

樹脂皮膜の劣化にはいくつかの形があります。よくあるのは、(1)最適状態以上に架橋を進める、(2)高分子の鎖を徐々に壊す、という二つの化学変化があります。過剰な架橋は皮膜をもろくし、ひび割れや剥離が起こりやすくなります。高分子鎖が壊れると分子は小さくなり、たくさんの鎖がちぎれると皮膜は弱くなって極端な場合には崩壊します。

先に書いたように油は架橋しなければ固まりませんが、油絵具では最適状態になるまでに何ヶ月もかかることがよくあります。そこに至るまでに架橋を起こす化学変化は遅くなりますが、終わることはありません。化学変化が進むと油絵具はより硬くなって柔軟性を失い、時とともにもろくなります。

油絵具には高分子鎖を壊す化学反応もあります。一番多いのは水との反応で、反応は遅いのが普通ですが、絵具皮膜がアルカリ条件で湿った空気にさらされると反応はずっと速くなります。絵具にアルカリ性の顔料が配合されている場合やアルカリ性の下地に塗られた場合には、これが問題になります。アルカリ性顔料は全体的な劣化を起こすかもしれず、アルカリ下地では接着不良となるかもしれません。レンガ、コンクリート、漆喰、セメント、スタッコなどの面はたいていアルカリ性なので、油彩には適しません。

一方、アクリルは良好な皮膜の形成に架橋を必要としません。現在のアクリル絵具に使われるアクリル樹脂は、酸素や水との反応、あるいは紫外線にさらされることで起こる化学変化に対する耐久性をゴールとして設計されています。しかしまだゴールに到達したわけではないので、作品は時とともにゆっくりとした化学変化を受けます。変化は屋外でもゆっくりですが、特に室内環境では非常に遅いのです。アクリル皮膜がその物理的性質をどのくらい保持するのかは知られていませんが、以下に示す実証は、何千年とは言わずとも何百年かは保持することを暗示しています。化学変化が起こった場合、鎖が壊れるかさらに架橋するかのどちらかになるでしょう。最後に、アクリルは湿った空気とアルカリだけではほとんど影響されないのでコンクリートや漆喰などのアルカリ性下地に適した絵具です。

顔料は劣化の速度にいくつかの影響を与えます。第一に顔料自身の劣化があり、たいていは色が変化します。退色についてはセクション7で扱います。第二に、顔料は樹脂結合材に影響します。たとえば、ある種の二酸化チタン白色顔料は光化学的劣化の触媒作用を持っています。二酸化チタンの最適グレードはこれを防ぐために、ガラス質やアルミナでコーティングしています。もう一つの例としては、多種類の顔料を多く配合した場合、皮膜が硬く柔軟性に乏しくなります。この問題は一般には対処可能ですが、顔料分が高い絵具皮膜は時とともにもろくなる傾向があり、ひび割れなどの問題を早める可能性が高くなります。一方、酸化鉄やカーボンブラックは紫外線をよくカットするので、屋外での皮膜の耐久性をよくします。

 

3.ひび割れ

それぞれの化学変化の結末は何でしょう。油絵具は硬化する際に幾分もろくなりますが、時間の経過につれて化学変化が進みさらにもろくなります。その結果、長年の間にはますますひび割れやすくなります。Mayerの画材に関する概説[4]には、ひび割れを最小限にするための方策として、支持体をきちんと準備する、硬い画面に軟らかい絵具を乗せる、乾燥の速い色(バーントアンバーなど)を乾燥の遅い色(アリザリンクリムソンなど)の上に塗らないなど、七つが挙げられています。にもかかわらず筆者のみたいくつかの著名な美術館にある100年を超えた油彩画では、大半とはいわずとも多くのものにひび割れがあり、中には比較的最近のものも含まれていました。キャンバスのような柔軟な下地に厚塗りした場合は特に起こりやすいようです。

 


写真は1950年頃の油彩画サンプル(作者不詳)で時間とともにもろくなりひび割れている。

 

 

普通の室温環境では、アクリル絵画は油彩画よりずっと柔軟です。ですからそうした環境なら、新しいアクリル画はたとえ非常に厚く塗ったとしても新しい油彩画よりもひび割れしにくいと予想できます。しかし、低温条件ではアクリルはもろくなります。特に氷点よりやや高めの0から15℃の間の温度で急激に柔軟性を失います。その程度は色や成分、湿度によって異なります。[5] 油彩画も低温ではもろくなりますが、脆弱になるのは氷点下です。Mecklenburgらは、非常に湿度が低い条件で温度が23℃から氷点下まで著しく下がった場合に、13年経った比較的若い油絵の皮膜に応力が生じて破壊点を越えることを示しました。[6] どちらのタイプの絵画も、寒くて特に湿度が低い場合は十分に注意深く扱うべきです[7]

 


写真はフルーィドアクリリックスのナフソールレッドライトの皮膜を、室温(左)、3.34.4oC(中央)、-3.3-2.2 oC(右)で乾燥させたもの。明らかに9.4 oC49 oF)以下ではアクリル絵具は均一な皮膜を作らないことを示している。

 

画家たちはいまだに凍える屋根裏で描いているのでしょうか。もしそうなら油絵の方が向いています。描画するときの温度は、油絵具よりもアクリル絵具の方が問題です。アクリル建築用塗料では、塗装する時や塗装後の48時間以内に気温が5℃以下になりそうな場合は使うべきではありません。その理由は、低温条件では強靭で均一な塗膜ができない上に、その後に塗膜の温度が上がったとしても強度は回復しないからです。アクリル絵具も同じです。安全性をみるなら、10℃以上の時に使うべきですし作品が乾燥した後も数日間はその温度に保つべきです。[8] 低温条件で描いて乾かしたアクリル画は一見よさそうに見えるでしょうが、塗膜は耐久性に欠けひび割れしやすいのです。これに対して油絵具は氷点あるいはそれ以下でも使うことができます。

新しいアクリル画は新しい油彩画よりもひび割れにくいということですが、問題は時とともに皮膜性能がどう変化するかということです。他の用途ではアクリル皮膜について多くの知見がありますが(セクション9に概略)、絵画については研究がいくつか発行されているだけです。ある一連の研究では、カーネギーメロン大学のWhitmore教授とColaluca博士が「リキテックス・アクリルグロスメディウム」の皮膜について促進劣化試験を試みました。[9,10] 「リキテックス・グロスメディウムの皮膜は紫外線下では確かに光酸化をしたが、全般的にはこのクラスのアクリル樹脂に見られる優れた光化学安定性を示した。UV-B暴露下での機械的性質低下に比べると、UV-A光源での引っ張り強度低下は200日後にしか観察されなかっただろう。この近紫外線量は美術館での5000年分に相当する。」[8,9] この結論は励みになるでしょうが、絵具の促進試験というものは信頼性に欠けるもので、特に促進度合いが高い時はそうであることを認識しなければなりません。この研究ではファクターは「87001−美術館の1年=促進試験の1時間」です。その上に、多くの絵画は美術館にあるよりもずっと手荒い扱いを受けたり、光や湿気、温度変化にさらされるのです。

ひび割れが生じた油彩画は他の問題も起こりやすくなります。接着性が十分でなければひび割れた皮膜がはがれるかもしれません。たとえ下地に皮膜がついていたとしても、ひびが開いてはっきりと見えるほどになります。Mayerが「時として網目状のひびの境界内に存在する陥没あるいは凹み」と定義したカッピング(cupping)の症状が出る場合もあります。[11]

*訳注:細かなひび割れの境目がめくれ上がり、ひびで囲まれた小さな塗膜の中央がカップの底のように凹んだ状態になること。

 

4.黄変

油は最初からわずかに黄みですが、硬化するための酸化反応によりさらに黄変が進みます。油の種類が違えば黄変の程度も違ってきます。化学物質にさらされた場合、たとえば家庭用洗浄剤から出るのアンモニア蒸気にさらされると黄変は悪化します。この黄変を防ぐために少なくとも一世紀以上、様々な努力がなされてきましたが、どれも成功していません。フランスにあるブレーズパスカル大学の教授であるMallegol, LemaireおよびGardetteは、黄変の化学的原因について詳細な研究を行った結果、「黄変は乾性油の避けられない性質であり、ユーザーは心に留めて置くべきだ。」[12]と結論付けています。

文献には油絵具の黄変がどれほどひどいものかについて色々な証明が載っています。CrookLerner[13]は「亜麻仁油は最も広く使われてきたが、それは比較的乾燥が速いためである。しかし残念ながらそれは時とともに黄変するという傾向を伴う。他の黄変しにくい油を使うこともあり、特に白や明るい色にはそうである。」

一方で多くの画家達はMeyerの次のような意見[14]に同意しています。「黄変は、透明な皮膜の場合や普段と違った技法を使う場合に問題になるだけで、正しく描画された油彩画は黄変しない。」こうした意見の違いはどの程度の黄変が許されるかによるのでしょう。筆者による美術館での観察は、古い油彩画の白やパステル色において黄変が見られるものの、それが絵具の問題なのかワニスの問題なのかは判断しかねるということを提示しています。フランツ・ハルスの絵にあるレース編みは白く見えるでしょうが、白い紙と比較すればそうは見えません。家庭用油性塗料の性質から見ると問題は明らかだと思われます。屋内では白色は徐々に黄色に、そして褐色に変わります。これが建築用としてはこうした塗料を使わなくなった理由の一つなのです。

高品質のアクリル絵具に使われるアクリル樹脂は塗った当初はほとんど無色であり、通常の条件では時とともに非常にゆっくりと黄変します。この非常に黄変しにくい性質がアクリルをワニスの候補にしている大きな理由です。WhitmoreColaluca[15]の研究ではわずかな黄変がアクリル画材で報告されています。Levisonは「どのアクリル試験片にも知覚できるほどの黄変を見とめません」でした[16]。建築用や絵画用の材料において立証された性質からみて、アクリル絵具の黄変は油絵具に比べればほとんど問題にならないといってよいでしょう。

 


5.塵の付着と洗浄性

塵の付着による汚れという観点からは油彩画はアクリル絵画に対して大きな利点を持っています。しかしながら、油彩画の洗浄性は複雑です[17]。アクリル絵具の皮膜は油絵具に比べるとわずかに多孔性で軟らかいために、塵が付着しやすくなっています。アクリル樹脂の高分子はわずかに架橋している程度なためアクリルの皮膜を洗浄しにくいものにしていますが、それは溶剤や洗浄剤がアクリル描画面を侵してしまう恐れがあるからです。理論的には、この問題はアクリルの架橋を進めることで解決できるでしょう。木工家具用のワニスなど、他の用途では研究者たちはアクリル塗装を架橋させる方法を見出しています。そうした技術を絵画に持ち込むことも可能ではありますが、他の性質への望ましくない影響や長期耐久性に対する不確実な影響の可能性を考えると、慎重にならざるを得ません。ワニスがけをしていないアクリル絵画に対する最適な洗浄方法の研究も進められています。(p.11にある、ワシントン・ナショナルギャラリーにおける近代絵画材料の研究に対するサムゴールデン基金の記事を参照)アクリル画にワニスをかけることで塵の付着を減らすことはできますが、多くの画家はワニスをかけない画面を好んでいます。

 

 


写真は汚れたアクリル画面を2つの方法で洗浄した場合のサンプル。左から右へ、汚染画面、乾式洗浄後の画面、湿式洗浄後の画面。

 

6. 鼻は落ちるか?

もう一つの耐久性に関する視点は、支持体に対する絵具の接着性です。Meyerは「亜麻仁油は強い接着剤ではない」と指摘していますが、絵画用アクリル樹脂にも同じことがいえます。最も大切なことは、正しく使えば油絵具もアクリル絵具も十分に満足できる接着性があるが、誤った使い方をすれば失敗するということです。ほとんどの絵具と同じように、接着性をよくするための一番重要なファクターは支持体(下地)を正しく準備することです。Gottsegenは油彩画の下地について多くのことを論じています[18]。油絵ではキャンバスを油から守るためにキャンバスに地塗りをしなければなりません。アクリル絵具の場合は、地塗りは望ましいが必須ではありません。アーティストは様々な下地を使いますが、それをどのように準備するかについては多くの出版があります。

油彩画の上にアクリル絵具を塗り重ねるのは明らかに間違いです。硬くなった油彩画面は「食い付きのよい歯」がありません。アクリルが接着するには硬すぎ、そしてたいていは滑らか過ぎるのです。条件が同じならば、絵具は滑らかな面よりも粗い面によく接着します。粗さは目視あるいは顕微鏡で観察できるでしょう。いずれにしろ、粗くなれば絵具の接着力が働く表面積が大きくなります。非常に粗い面では絵具は凹み部分に入り込んで固まり、木材のホゾ継ぎのように機械的にかみ合って接着性をよくします。このように粗い面には「食い付きの歯」があるというわけです。たいていのプライマーの光沢が低いのは、微視的な食いつきの歯があることの証拠です。アクリル絵具は一般に油絵具よりも食い付き歯が多くあるのでアクリル画に油絵具を塗り重ねることは可能ですが、潜在的な問題がないか注意すべきです。肖像画の鼻は中心にあって高いから落ちるのではないかと心配して絵具や描画法ばかりに頼っていては、結局、鼻が剥離する結果になりかねません。まず下地をしっかり処理し「食いつきのよい歯」を作れば「鼻」が落ちる心配をしなくてもよいのです。(ゴールデン社補足:タイトルはアメリカの諺"Don't cut your nose to spite your face.:顔が気に入らないからといって鼻を落としてしまっては元も子もない"に由来する)。

 

7.色はあせるのか?

退色の問題は何世紀も続いています。色の安定性は本質的に、アクリルでも油彩でも使われている顔料の耐光性に依存します。現在、専門家用絵具に使われている大半の顔料は、ASTMインターナショナル(米国試験・材料協会)がアクリル[19a]および油絵具[19b]について耐光性があると認めた約115の顔料のリストから選ばれています。リストでは、油絵具ではアルカリ顔料を避け、アクリル絵具では水の影響がある顔料を避けるという点で若干の違いがあります。専門家用絵具には耐光性グレードの表示があり、グレードI(堅牢)とII(良好)の顔料のみを保存性のある絵具とみなします。蛍光色のようなある種の特別な顔料は耐光性がありません。室内に保管される絵画では、耐光性のよい顔料を使うことで顔料に由来する著しい色変化を防げます。しかしながら、画家は蛍光色のようなある種の特別な色は耐光性がないことに気をつけるべきです。

 

8.他の種類の絵具から何を学べるか?

すべてではありませんが、大半の美術作品はダメージを与える太陽の紫外線や厳しい天候からから守られた室内に保管されます。窓ガラスは太陽光線に含まれる有害な紫外線の多くをカットします。絵具や塗料の業界では、屋外展示に比べ屋内展示は絵具に対するダメージが非常に少ないと広く認められています。加えて、屋外耐久性のある絵具は屋内では非常に長期間の耐久性を持つと広く考えられています。

外部用ハウスペイントの樹脂は植物油からアルキド樹脂(1930年代)、アクリル樹脂(1950年代)へと発展しました。それぞれの段階で屋外耐久性が大きく進展したことが広く認められています。現代絵画に使われるアクリル樹脂は化学的にはこれらの高級ハウスペイントに使われているものと同類です。油性塗料やアルキド塗料(アルキドは油脂から合成される)は高級アクリルに比べると、紫外線や水、熱などの塗料に有害な因子に影響されやすくなっています。近所の古い家を見て回れば、塗装がひどくひび割れているのを見つけるでしょう。その大半は油性あるいはアルキド塗料で、とてももろくなって温度や湿度の変化による伸び縮みに耐えられないのです。これに対し、アクリル性ハウスペイントは長年にわたって柔軟性を保ちます。

今日までに米国で使われた屋外塗料の80%以上が水性「アクリル塗料」です。ここで「アクリル塗料」というのはいくらかのアクリルモノマー(合成段階で反応せず残存している物:訳注)を含んだ高分子樹脂を指しますが、中にはスチレンや酢酸ビニルなどのより安価なモノマーを含むものもあります。しかし高品質な塗料は100%アクリルです。アクリルがよく使われる大きな理由は耐久性のよさですが、それだけではありません。石鹸と水で洗うことができ、環境への溶剤揮発が少ないこともアクリルの重要な利点です。屋外用ハウスペイントとして今も使われるアルキド塗料は主としてプライマー(これは直射日光にさらされることがない)ですが、塗装業者がアルキドの優れた被覆力で一回塗りで仕上げたい場合や氷点に近い環境で塗りたい場合などもあります(セクション2を参照)。

多くの内装壁用塗料はポリ酢酸ビニル(PVAC)をベースにしています。PVACはアクリルより安価なため内装用に使われますが、屋外では十分な耐久性がありません。画家たちはPVACベースの絵具を1930年代から使ってきましたが、用途は限られていたようです。[20] PVAC絵具は絵画の修復保存に使われています。Horie[21]によると、この絵具の除去はうまくいく時もあれば行かない時もあります。保存性を考えた場合は、ほぼ疑いなくアクリル絵具に劣ります。

自動車用塗料は、油性からニトロセルロースラッカー、アルキド、そしてアクリルへと発展しました。ここでもそれぞれの発展段階で耐久性が改善されました。自動車の光沢を保つために頻繁にワックスをかけて磨くのはもうずいぶん昔のことになりました。アクリルの導入により耐久性の自動車用メタリック塗料やクリアコートが可能になったのです。現在の自動車用アクリル塗料は、フロリダやアリゾナのような厳しい環境でさえもドライブや屋外駐車に対して10年は良好な外観を保つと考えられています。自動車用アクリル塗料も専門家用アクリル絵具もその耐久性はアクリル骨格によるものです。[22]

 

9.アクリル絵具はどれも同じなのか、本当にアクリルなのか?

ロンドン・テイトギャラリーのLearnerは、20世紀の絵具に使われた合成樹脂の分析に精巧な機器を使いました。[23] 彼は多くの近代絵画の絵具を研究しましたが、その中には有名な画家による作品も多く含まれています。Leaner100%アクリル共重合体(樹脂)をいくつかの作品に見出しました。またアクリル/スチレン共重合体やアクリル/酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル/ネオデカン酸共重合体などもありました。これらはすべて同じ外観をしたエマルション樹脂なので、画家はどれも100%アクリル絵具であると簡単に誤解してしまうでしょう。100%アクリルの中に、[p(EA/MMA)] [p(nBA/MMA)]の二つのタイプがあることをLeanerは見出しました(用語集参照)。

筆者は35年間、様々な塗料を調査研究してきましたが、最近は絵具も研究しています。[24] この研究に基づいて、保存性のあるアクリル絵具としてどのようなタイプの化学的性質が性能を発揮するかについて意見をまとめました:

Learnerは絵具に使われている様々な樹脂を識別しました。100%アクリル樹脂とある種のポリウレタン樹脂の2種類が最も耐久性があると考えられます。これらの樹脂の建築用塗料における実績から100%アクリル樹脂は、アクリル/酢酸ビニルやアクリル/スチレン、そして特にポリ酢酸ビニル樹脂などよりも好ましいものであるといえます。

■残念ながら、塗料工業会ではアクリル/スチレンやアクリル/酢酸ビニルの樹脂も「アクリル塗料」とするのが普通です。絵画用絵具でもそうしたことが行われているかは筆者には不明です。

100%アクリルの中でも、[p(nBA/MMA)] [p(EA/MMA)]よりも優れていると考えられています。ハウスペイントでの経験は [p(nBA/MMA)]ベース塗料は[p(EA/MMA)]塗料よりも耐久性があることを示しています。

 

Learner論文から引用[23]

「現在の(専門家用)絵具配合にはこれら二つの純粋なアクリルエマルジョンが使われているが、この何年かの間はp(nBA/MMA)が徐々に増えている。その理由は多くのp(EA/MMA)エマルジョンの製造が中止になったからだ。その原因はこうしたエマルジョンの主な用途である屋外用ハウスペイントには疎水性材料が必要とされるが、その点では[p(nBA/MMA)]共重合体が一般的に優れているからだ。1993年に入手したアクリルエマルジョン10品種のうち4品種のバインダーが[p(nBA/MMA)]であった。その後に生産されている新しい配合ではほとんどがこのエマルジョンをベースにしている。」

 


ゴールデン社研究室は新規材料の耐久性試験ができるように暴露試験を行っている。写真はゴールデン社の試験台。

 

 

筆者の意見(証明はしていないが)とLearnerの所見(確認された事実)を合わせると次のように結論できるでしょう:

■多くのタイプの重合あるいは共重合エマルジョン樹脂が専門家用絵具に使われている。

■「アクリル」絵具が使われた初期の何十年かは、多くの画家が現在のアクリルよりも劣る絵具を使ったと思われ、それはおそらくアクリルでもなかっただろう。

■現在の信頼できる業者が提供するアクリル樹脂は、寿命という点では2550年前に使われていた一部のものよりも良いと考えられる。

■現在の情報からは、[p(nBA/MMA)]共重合体で作られた専門家用絵具は長寿命の絵画を作るに十分であると思われる。

 

10.実際の経験から何が分かるのか?

塗料や絵具の耐久性を判断するための最も信頼性のある方法は、現場での状態を評価することです。そのために、自動車メーカーは実際に使われている車を点検する調査チームを派遣します。彼らは実際に自動車の全寿命にわたって観察することができますし、自動車登録番号(VIN)からその車がいつ作られどの塗料を塗ったかを正確に知ることができます。絵具メーカーはそれほどの幸運には恵まれていません。2050年前の絵画について化学分析からその化学組成が分かったとしても、どのブランドの絵具や下地、キャンバスを使ったのか、たいていは分かりません。

では実際に使われているアクリル絵具について何が分かるのでしょうか。最も重要なことは、アクリルが導入されて以来創作されてきた大半のアクリル絵画は、セクション9で説明したように、現在のアクリルよりもおそらく劣ると思われる絵具を使った多くの作品を含めてよく持ちこたえているということです。アクリルも寒冷な環境では手荒に扱うとひび割れることがあります[25]

現在までのところアクリルの記録は良好ですが、画家や修復家はまだ歴史が浅いという理由からその長期耐久性について懸念を抱いています。いずれにしろアクリル樹脂は70年程度の歴史しかなく、水性アクリル(分散体)を使った絵具については50年ほどしかないのに対し、油彩画は500年も使われているのです。

このような懸念は、著名な画家の「アクリル」絵画におけるいくつかの損傷が広く公表[26-29]されたことでさらに高まりました。一般紙に報告された損傷は退色や剥離、ひび割れ、崩壊など様々に表現されています。それ以上に、このような損傷の原因を厳密に判断するための情報がほとんど提供されてません。自分の知識と経験から憶測するしかありません:

■退色は、使われている顔料の耐光性がないことが主因と思われる:これは油彩画にもアクリル画にもあてはまる。

■剥離(おそらくは接着性の力の低下)は、汚れていたり調整不良だった下地に描いたことが主因と思われる。他にも絵具の配合が悪いなど、多くの原因が考えられる。

■ひび割れや崩壊は、絵具自身の問題か描画技法の問題が主因と思われる。上述のようにアクリルもひび割れることはあるが、全体としては油絵具よりもひび割れにくい。

■アクリルとされた多くの絵画(ロスコーによるハーバードの壁画を含む)が他の材料で描かれている。[28]

 

結論

アクリル絵画は長い年月の後には大量の作品に損傷が起こるかもしれないという恐れが表明されています。アクリルの歴史は浅く、促進試験はそれが起こらないことを確実に証明するだけの十分な信頼性がありません。

しかし筆者は、アクリル絵画は、特に現在の高品質材料で適切に描きまたよく手入れをすれば長い寿命が証明される可能性が高いと考えています。現在の証拠を見るとアクリル画は油彩画より耐久性があり、そして油彩画は500年も使われているのです。

 

謝辞

絵具研究について、補助番号9903813, Artist Paints with Improved Durability(耐久性のよい絵具)”によって援助をしてくださった全米化学財団に感謝します。イースタンミシガン大学のDiana Pancioli教授とRoy Johnston教授からは画家の立場から有益な意見をいただきました。ゴールデン社のMark Golden Jim Hayesの両氏からは価値のある識見をいただきました。同じくゴールデン社のJodi ODell氏には編集を助けていただきました。

 

用語集

融着:個々の粒子が組み合わさって一体になること。

 

プラスチック:成型や模型形成ができる。変化条件に適応できる。破損することなく連続的、恒久的にあらゆる方向に変形できる。

 

ポリマー(重合体):大きな分子であり、たくさんの小さな分子(モノマー)が結合する化学反応により形成されることが多い。分子は長い鎖状であったり、化学的に一つに結合(架橋)して単一巨大分子を形成したりしている。

 

モノマー(単量体):比較的小さな分子でポリマー(重合体)を作る機能がある。

 

コポリマー(共重合体):2種類以上の化学的に異なるモノマーからできたポリマー。

 

エマルションポリマー:乳化重合という工程から生産されるポリマーまたはコポリマー。生成物は小さなポリマー粒子が水中に分散したもの。ラテックスと呼ばれることもある(日本ではラテックスは主として天然ゴムのエマルションやゴムを指す)。ほとんどのアクリル絵具の樹脂(バインダー) はエマルションポリマーである。

 

アクリルポリマーおよびコポリマー:アクリル酸やメタクリル酸のエステル・モノマーからなるポリマー。どちらのモノマーを使うかで硬質アクリル(商標名プレキシガラスPlexiglas)や軟質アクリルあるいはその中間のものができる。

100%アクリルコポリマー、100%アクリル樹脂、純粋アクリル:アクリルやメタクリルモノマーだけからなるコポリマー。エマルションポリマーの場合もある。

 

アクリル/スチレンコポリマーと酢酸/アクリル・ビニルコポリマー:アクリルモノマーと、安価なスチレンや酢酸ビニルのモノマーから作られたコポリマー。これもエマルションポリマーの場合もある。

 

ポリ(アクリル酸エチル/メタクリル酸メチル) [p(EA/MMA)]100%アクリルコポリマーの類でアクリル酸エチルとメタクリル酸メチルのモノマーからなる。

 

ポリ(アクリル酸n-ブチル/メタクリル酸メチル) [p(nBA/MMA)]100%アクリルコポリマーの類でアクリル酸n-ブチルとメタクリル酸メチルのモノマーからなる。高品質建築用塗料では高耐久性を持たせるためにp(EA/MMA)に取って代わっている。

 

亜麻仁油:亜麻の実をつぶして得られる油。不飽和脂肪酸を多く含み、酸素と反応して架橋ポリマーを作る。その意味では亜麻仁油はモノマーである。

 

アルキド樹脂:植物油(亜麻仁油や大豆油など)とある種の石油化学品から作られるポリマー。広く塗料に使われ、一部では絵具にも使われている。絵具に使われるタイプは亜麻仁油のように酸素によってさらにポリマー化する。

 

文献

1 www.societyofcanadianartists.com/tips/acrylics June 30 2004.

2 www.artandantiques.net July 7, 2004.

3 www.wetcanvas.com/forums August 11, 2003.

4 R. Mayer, The Artists Handbook of Materials and Techniques, 5th Edition, updated by S. Sheehan, Viking, New York, 1991, pp. 209-211.

5 J.D. Erlebacher, M.F. Mecklenburg, and C.S. Tumosa, Polym. Prepr., 33(2) (1992) 646-647.

6 M. Mecklenburg, C.S. Tumosa and M.H. McCormick-Goodhart, A General Method for Determining the Mechanical Properties Needed for the Computer Analysis of Polymeric Structures Subjected to Change in Temperature and Relative Humidity, Journal of the American Institute for Conservation, (1994), Vol. 33, No. 2, Article 7, pp. 153-170.

7 Anon., A special feature on acrylic and other synthetic media paintings, Part 3: Acrylics inherent susceptibility to cracking, McKay Lodge Conservation Report, 1991, No. 3, 16.

8 www.goldenpaints.com

9 P.M. Whitmore and V.G. Colaluca, Studies in Conservation, 40 (1995) 51-64.

10 P.M. Whitmore, V.G. Colaluca, and E Farrell, Studies in Conservation, 41(4) (1996) 250-255.

11 R. Mayer, op. cit., p. 503.

12 J. Mallegol, J. Lemaire, and J-L Gardette, Studies in Conservation, 46, (2001) 121-131.

13 J. Crook and T. Learner, The impact of modern paints, Watson-Guptill Publs., New York, 2000.

14 R. Mayer, op. cit., p. 468.

15 P.M. Whitmore, V.G. Colaluca, and E Farrell, Studies in Conservation, 41(4) (1996) 250-255.

16 Henry W. Levison, Yellowing and Bleaching of Paint Films, Journal of the American Institute for Conservation, (1985), Vol. 24, No. 2, Article 2 pp. 69-76.

17 Kenneth R. Sutherland, Solvent extractable components of oil paint films, 1, (2001)

18 Mark David Gottsegen, The Painters Handbook, 1993, p. 41

19a. Anon., ASTM D 5098. b. Anon., ASTM D 4302.

20 J. Crook and T. Learner, op. cit., pp. 21-24.

21 C. V. Horie, Materials for Conservation, Reed, London, 1987, pp. 92-96.

22 Other features of their chemistry are different. Car paints are highly cross-linked, and in the factory they are cured by baking at temperatures above 120 oC (250 oF).

23 T. Learner, Studies in Conservation, 46 (2001) 225-241.

24 Artist Paints An overview and preliminary studies of durability, Jones, F.N.; Mao, W.; Ziemer, P.D.; Xiao, F., Prog. Org. Coatings, 2004, accepted for publication.

25 D.W. Grattan, Saving the Twentieth Century: The Conservation of Modern Materials, (1993) 411-438.

26 E.B. Wyer, Flaky art; modern masterpieces are crumbling, New York, (January, 1998) 25.

27 C. Hume, “‘Cracked painting row shakes art world, The Toronto Star, (May 24, 1992).

28 C. Lees and R. Palmer, Cracking paint ruins modern masterpieces, The London Times, (March 29, 1992).

29 P. Recer, 20th-Century art fails the test of time, Toronto Globe & Mail, (September 1, 1992).

 

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