Golden History

Just Paint issue 12
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「輝きの効果」の定義

サラ・サンズ

 

この章では、アクリル絵画に「輝きの効果」を生み出す技術的側面について検証します。「輝きの効果」とは、主に、グレーズと呼ばれる透明の膜を塗って色彩に光沢と深みを加えることをいいます。蛍光顔料や畜光(燐光)顔料についてはここでは触れません。これらは全く異なるメカニズムで効果を発揮し、文字通り光を発する顔料です。

 

史実

ルネッサンス以前、画家は主に透明な素材や反射性の高い素材を直接使って輝きの効果を作り出していました。中世イコン画の金箔や、シャルトル(フランスの都市)の色彩豊かなステンドグラス、ラベンナ(イタリアの都市)のモザイクに使われた角ガラスなどがそうです。玉子を使ったテンペラ絵具が画材としてまだ主流であった15世紀後半、北欧の画家たちは主にアマニ油に混ぜた顔料を使いテンペラ画のうえに薄く透明な膜を塗る技法を開発しました。1 このグレーズ技法を最初に完成させたのはヤン・ファン・エイクで、一般的にこれが油絵の誕生とされていますが、この方法により画家たちは初めて半透明の輝くような色の膜を作り出すことができたのです。2 グレーズ技法はついにはヨーロッパの他の地域にも普及し、古典派やロマン派の時代を通じて油絵の技法に大きな役割を果たしましたが、より直接的な手法を好む印象主義の出現後は主流の座を譲ることになります。それ以来、グレーズ技法は次第にベールに覆われた秘法となり、一般的には巨匠たちやより伝統的な古典派の世界と深く結びついた手法とみなされるようになりました。これは不幸なことです。グレーズ技法が切り開いた可能性を広げこの伝統的な技法を新しい方向に押し出したという、現代の画家と素材が果たした重要で継続的な貢献が無視されているからです。

 

屈折率は、物質内での光の速度が理想的な真空に対してどの程度遅くなるかの尺度である。分かりやすくいえば、光がどの程度曲がるか、あるいは空気に比べどの程度光を反射するかの尺度である。このため、樹脂(バインダー)と顔料の屈折率が近くなるほど透明になる。

 一般素材の屈折率

空気                                                1.0008

                                                   1.33

沈降性シリカ                                    1.46

ガラス(一般用)                                1.5-1.8

亜麻仁油                                         1.48

アクリル樹脂                                    1.49

ウルトラマリン                                   1.5

チャイナクレー(珪酸アルミニウム)        1.55

炭酸カルシウム                                 1.59

コバルトブルー                                  1.74

ジンクホワイト                                   2.01

イエローオーカー                               2.2

カドミウムイエロー                              2.42

カドミウムレッド                                 2.7

二酸化チタン                                    2.71

レッドオキサイド                                 2.8

 

 

グレーズの効果[3]

グレーズ技法を使うと他の方法では作り出すことのできない独自の色を作り出すことができます。明るい黄色に透明の赤でグレーズを重ねると、パレットで混ぜ合わせたときとは全く違うオレンジ色が生まれます。一度または何度も塗り重ねた半透明の膜を通して光が透過することで、輝きが増し、色が鮮やかになったように鑑賞者の目に映るのです。そして色彩は不透明な表面に留まらないため、さまざまな新しい形で光と空間を表現することができます。

グレーズの効果を想像するには、あたかも着色した透明フィルムを通過するように、光が透明な顔料の粒子を通過し、下地にあたって再び絵具の膜を通って反射する状態、すなわち光がステンドグラスを通過する状態を思い浮かべるとよいでしょう。これはたとえ話としてはわかりやすいかもしれませんが、実際の仕組みはもっと複雑です。まず、色が透けて見える理由は、実際に粒子を通過する光よりもむしろ顔料の屈折率(表を参照)によるところが大きいのです。光の散乱が最も大きいのは屈折率が全く異なる二つの素材の境界ですので、顔料と周囲のメディウム(バインダー)の屈折率が近いほど透明度は高まります。チタニウム・ホワイトの屈折率は2.7で通常のバインダーである油絵具やアクリル絵具 (1.4)よりかなり大きいため不透明であり、最大量の光を散乱し、すぐれた隠蔽力を持つ性質があります。一方、ウルトラマリン・ブルーの屈折率は1.5でバインダーそのものと非常に近いため透明度が高くなります。したがって、グレーズに最適な色は、大抵、キナクリドンやフタロシアニンなどの有機顔料のように比較的屈折率の低い色です。粒子の大きさも影響します。顔料の粒子が小さいほど光にあたる面が大きくなるため、着色力が強まり、膜が非常に薄くなっても色彩を豊かに保つからです。4 新しい透明の酸化鉄が典型的な例で、バーント・シエナやイエロー・オーカーなど不透明度の高いアースカラーの代替色になります。

顔料とバインダーの屈折率が近い場合、より多くの光が顔料の粒子に入り込み、一部の波長は選択的に吸収され、残りの波長は鑑賞者に反射されます。粒子の不規則な表面から反射した光の散乱と乱反射による色のくすみがないため、色は深みを増し、鮮やかになり、豊かな色調に見えるのです。光は粒子を通過しようとしますが、最終的には、より明るい下地に吸収されるか反射されるかして、再び顔料の粒子と相互作用した後、鑑賞者の目に届きます。こうして絵具の膜の中で光が複雑に相互作用することで独特のきらめきと輝きが生まれ、このことがグレーズのすぐれた特質の一つになるのです。

バインダーの屈折率は光の散乱を抑える重要な役割を果たしているため、輝くような半透明のグレーズを作るには、絵具の膜の中に粒子をしっかり閉じ込めることがきわめて重要です。そのため、グレーズを施す際には多量のメディウムを使って顔料を十分に浮遊させる必要があります。バインダーと絵具との混合比率は、まず101から始めるとよいでしょう。単に絵具を水で薄めるというミスをおかしがちですが、そうすると顔料が空気に触れやすくなるだけで、光の散乱が最大になります。その絵具は、滑らかな半透明の膜ではなくむしろ粗いマットな面を作る傾向があるので、さらに光を散乱させ、洗い流したような感じの色になってしまいます。

最後に、グレーズは常に下地の色の明度を下げることを忘れないでください。グレーズ面から最終的に反射される光は多くなく、むしろ少ないため、下塗りや下地の明度は完成品として想定する状態よりも高くしておくことが大切です。そうすると絵具の膜を通して反射する光が多くなって、輝き感も高まります。

 

アクリルの多用性

アクリル絵具は他の画材より広範な輝く効果を生み出すことができます。プレキシガラスなどの透明な下地に塗ればステンドグラスのように、アクリル絵具のイリデッセントカラーと使えば金箔のように、また水彩絵具のウォッシュのように使えます。きわめて用途が広いにもかかわらず、グレーズに適したメディウムといえば油絵具だと考えている画家は今でも多く、アクリル画家は油絵が生んだ偉大な伝統と技法との隔たりと感じることもしばしばあります。しかしそのような考えに反してアクリル絵具はこれらの効果をほとんど発揮し、用途ははるかに自由で、透明度と柔軟性を長期間保ちします。アクリル画家は油絵に必要な時間の何分の一かの時間で、油絵より簡単に半透明の色の複雑な移り変わりを作り出すことができます。だからといって改良の余地がないというわけではありません。通常、アクリルの速乾性は最大の障壁だと思われがちですが、Acrylic Glazing Liquidなどの製品を使用してオープン・タイム(乾燥するまでの時間)を長引かせる方法を理解すると、アクリルはきわめて繊細で複雑な移り変わりを作り出すに十分な時間の作業性を保ちます(別途資料「乾燥に関するテクニカルノート」をご参照ください)。さらに、多くの画家はアクリルが乳白状であるために完成品のグレーズの状態を正確に判断することは難しいと考えています。乾燥中に色の明暗が変化することがあるからです。しかし、この影響は通常グレーズに使われるきわめて薄い膜では無視しても差し支えなく、ほとんど見分けられない程度です。

 

アクリルの長所

アクリル絵具は用途が広いだけではなく、グレーズの塗膜としてすぐれた効果を発揮します。アクリルポリマーは、アマニ油が黄ばみ始めもろくなるくらいの年月が過ぎてもまだ透明度と柔軟性を保ちます。さらに、アマニ油は年月とともに屈折率が増すため、多くの色は透明度を増し、重ね塗りした下地層が現われることがあります。絵の完成後しばらくしてからペンティメント(消したり変更したりした跡)が現れたり、明暗のある下地に油絵を描くと暗く仕上がったりするのはそういう理由です。5 実際、この現象によりどうしようもないくらい暗くなってしまった名作もたくさんあります。6 油絵の場合は、ひび割れを防ぐために、薄塗りの上に厚塗り、油分が少ない絵具の上に多い絵具、速乾性の絵具の上に遅乾性の絵具というルールを厳守しなければなりませんが、アクリルの場合はこのような制約もありません。このような油絵のルールは、油絵画家が自然発生的な制作過程の一環としてグレーズを使うことを制限し、使用可能な色の選択幅も狭めます。一方、アクリル画家はどんな色でも何度でも重ね塗りし、比較的短期間に信じられないほど複雑な面を作ることができます。そして最後に、粘度が低く水に近いAirbrush Mediumから最も粘度の高いゲルまで、粘度は用途に応じてさまざまです。

 

新たな分野と効果

アクリルはグレーズを薄く保つ必要性がないため、最も粘度の高いゲルに少量の絵具を加えれば、ほぼどのような厚さでも立体的なグレーズを作り出すことができます。ゴールデン社のClear Granular GelAcrylic Ground for Pastelsを使用すると、あるいはゲルに半透明の素材を混入すると、テクスチュア感のあるグレーズを作ることができます。ゴールデン社のインターフェアランスカラーに使用されているような最新の特別な効果のある顔料は、ゲルやグレーズ用メディウムに加えて半透明の膜で塗布すると刹那的で幻想的な効果を作り出すことができます。他の分野では、アクリルのグレーズは、油の酸化が保存に悪影響を及ぼす現代の印刷や写真分野だけではなく、ジークレーやインクジェットプリンタなどの重要な最新メディアにおける役割も高まっています。もちろんアクリルのグレーズは、多様な表面や材料を扱う必要のあるマルチメディアという新分野の作業においても、あるいは耐久性という点において絵画の比ではない彫刻においても重要な役割を果たすことができます。最後に、過去から学ぶことでアクリル画を描くことも確かにできますが、アクリルの長所はグレーズとその輝きの効果を新たな表現分野や新規メディアに広げることができるのです。

 

1 Marcia B. Hall, Color and Meaning, Practice and Theory in Renaissance Painting, Cambridge University Press, 1992, pp.57-58
2 Philip Ball, Bright Earth, Art and the Invention of Color, University of Chicago Press, 2001, pp113-14
3 W. Stanley Taft Jr., James W. Mayer, The Science of Paintings, Springer-Verlag, New York, 2000, pp.66-74, 107-117
4 Brock, Groteklaes, Mischke, European Coatings Handbook, Hannover, Germany, 2000, pp 112-116
5 Mayer, Ralph. The Painter
s Craft. An Introduction to Artists Methods and Materials. Revised and updated by Steven Sheehan, Director of the Ralph Mayer Center, Yale University School of Art. 1948, 1991, pp 115-116
6 Sir C.J.Holmes, Director of the National Gallery London, Notes On The Science Of Picture Making, Chatto & Windus, London, 1927, Chapter XV

 

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