審査員による座談会
アクリルガッシュ ビエンナーレに見る
アーティストのいまと未来
聞き手=山内宏泰
審査会終了後、審査員を務めた会田誠(美術家)・三潴末雄(ミヅマアートギャラリー代表)・岩渕貞哉(『美術手帖』編集長)の3 名による座談会が行われた。審査を通しての総評、アーティストやコンペティションのあり方について、彼らの考えを聞いた。
完成度が高いだけでない応募作品
─ 審査を終えて、全体的な総評をいただけますでしょうか。
岩渕 全体のレベルは高かったです。以前の「ゴールデンコンペティション」から生まれ変わって注目度が上がったことと、作品サイズの上限を100号にして大きい作品も募集した結果か、展示に耐えうる作品が集まりました。受賞のみが目的というより、この賞をステップに作家としての地歩を固めたいというような、本気の人が応募してくれたのではないでしょうか。
三潴 応募総数が400点を超えたそうですね。作品がたくさん集まったというのは、それだけで非常に喜ばしいこと。そこから第一次審査を経て残った約80点の作品は、想像していたよりずっとよく、全体的なレベルが高かった。
会田 技術面のレベルの高さには、僕も感心しました。ただ、アートとしてのコンセプトやアイデアについて見てみると、一発でこちらをギャフンと言わせるようなものはなかなか見当たらなかった。そうなると、いざ賞を選ぶときに、決定打に少し欠ける感じがしてしまう。コンセプトは、一枚の絵を見ただけではわからない部分もあるので難しいですが。
三潴 ぶっ飛んだ作品が少なかったのはたしか。きちんとまじめに美術を勉強しています、という匂いのする作品がたくさん目につきました。
岩渕 自分のスタイルをすでに確立している人が多くを占めた印象ですね。
三潴 そう、まとまってはいるんだけれど……といったところでしょうか。上位6点から大賞と優秀賞を選びましたけど、そこに大きな差があるというわけではありませんでした。
─ 大賞は屑さんの《 》となりました。評価のポイントはどこでしたか。
作家のポートフォリオを読み込む三潴氏
会田 最初に全体をざっくり見たときから、この作品がいちばん頭に残っていた。サイズ的にも描かれた内容的にも、絵画というよりもイラストの範疇に入る作品にも見えます。美術大学で習うタブローのつくり方とは違う方法をとっていますよね。方法というより態度が違うのかもしれない。インターネット上でいわゆる「絵師」と呼ばれる人たちが描くような絵。そういうタイプの描き手が、技術や精神の面で、美術大学の正統なタイプを上回るようになってきたのかもしれない。
三潴 美大タイプのほうが実力は上だろうと一般的には思われがちですが、真正面から闘ったら「絵師」のほうが勝ってしまいそうだし、可能性を感じさせます。
岩渕 応募作全体からすると、「絵師」タイプは決して多くないのですが、屑さんの作品はサイズの小ささも含めて、逆に目を引きました。
会田 大賞の作品には、ある種のメッセージ性みたいなものがありました。細かいところまで上手に絵を描きました、というだけではなくて、「地方の駅前でオレは生きてるんだ」といった叫びが明確でした。
─ そのほか、印象に残った作品はありますか?
三潴 春田美咲さんの《selfimage》は、アクリルガッシュの色合いをうまく活かしていて、好感を持ちました。
岩渕 そうですね。今はやりたいことがたくさんあって、いろいろ試みている感じが伝わってくる。今回は応募作品の1点だけで審査する形式でしたが、過去の作品など作風の変化も含めて見てみたいと思いました。
三潴 伸びしろがあるな、と感じますね。アクリルガッシュの持ち味を引き出しているという意味では、皆川奈緒子さんの《ビッグなダディ》もいい。こちらはかなり作風が完成されている雰囲気がありました。
コンペティションの活かし方
─ 傾向の異なる作品がいくつも集まり、それぞれが評価されたのですね。コンペに出品して成果を出すのに、必要なことはなんでしょうか。
会田 コンペ自体を目標にしてしまっては、あまりよくないのでは。やっぱり個展に狙いを定めて、コンペはそのための通過点であるというくらいに考えないといけない。人に見てもらう機会ができる、ということはいいのですが、賞をとるということにはそれほど意味はありません。僕らの評価に異を唱える美術関係者はいるでしょうし、そういう人の目に留まるきっかけになればいいのです。
岩渕 会田さん自身もコンペに応募したことはありますよね?
会田 《 あぜ道 》(1991)という作品を「第12回日本グラフィック展」というコンペに出しました。結果は、ただの入選でしたけどね。コンペだけでは別に何も状況は動かなかったけれど、その作品はのちに個展で見せたりして、前に進む力にはなったわけです。あの作品はコンペがあったから描いたのだし、いろんなことのきっかけには間違いなくなりました。
岩渕 今回の作品も、個展での発表作のひとつとして見たら、また違った魅力を放つ可能性はありますね。
会田 個展は確実に見え方は違ってきますよ。
岩渕 作品を出して、受賞したり展示したり、しなかったりで終わりじゃなくて、その後のアクションも含めて、コンペを活用しようという発想を持っていたほうがいいのでしょう。
三潴 会田誠だってコンペで賞をとれなかったりするのだから、コンペは結果だけ見ても本当に意味がない。今回だって審査をしていて、ああこの作家はほかにどんな作品を描くのかな、これからどうなっていくのかな、見てみたいな、と思わせてくれた人は何人かいました。コンペをきっかけとしてうまく使いながら、自分の作品を描き続けていくことが大事になるのでしょう。
─ 最後に、今後、アクリルガッシュ ビエンナーレをはじめコンペに出品しようとしている人に向けたアドバイスや、期待することをお願いします。
作品について議論を交わす審査員たち
会田 今回はたまたまイラスト的な作品が大賞となりましたが、ではそういう作品を描けば賞に近づけるのかといえば、まったくそんなことはない。アクリルガッシュ ビエンナーレは新しい賞なので傾向なんてない。仮にあったとしても、それに合わせて作品をつくっても仕方ない。そんなこと気にせず、本当につくりたいものをつくることが大事です。
岩渕 優秀賞になった寺澤伸彦さんの《Arise from silber》や岩田舞子さんの《英霊の聲》は、特徴的なコンセプトとともに通常とは少し異なる使い方でアクリルガッシュを用いていて評価が高かった。立体物に彩色している作品もあり、今後さらに多様な作品が出てきてほしいです。
三潴 今回選ばれた人の作品が正解、というわけではもちろんない。むしろ、今回の大賞や優秀賞作品を見て、自分が本当にやりたいことの原点を考え直し、それを貫いた作品を、ぜひ見せてほしいと思います。