ごあいさつ審査員のことば入選作品一覧
審査員のことば
今井祝雄(美術家・成安造形大学名誉教授)
不思議な絵に秀作が少なくなかった。未来的建築と聖書のひとコマから抜け出たような群像を同居させた平川恒太の超時間的異風景や、むかし見た紙芝居の絵肌を彷彿とさせるしまだそうのノスタルジックな画面には、絵そらごとを越えた謎解きの魅力に満ちている。また、じんわりと心安らぐタムラヨウイチの白い夢のような心象風景を含め、意味や答えを見出しにくい今日の社会への問いかけ、というより見る者との問答を誘う作品に惹かれた。
岩渕貞哉(「美術手帖」編集長)
グランプリの平川恒太さんは、2009年には優秀賞を受賞している。その彼が数年の時を経て再挑戦し、見事グランプリを勝ち取った。このことは、このコンペがアーティストの成長を促す場として機能していることを示しているようで嬉しい。平川さんの作品は精緻な描き込みと絵解き的な楽しさが強みである。あえて物足りないところを挙げるとすれば、その絵の前にずっとたたずんでいたくなるような、絵画鑑賞ならでは画面の奥深さや動きであろうか。この点は、今回の全体の傾向でもあるように感じた。優秀賞の福田紗也佳さんは、まだ荒削りで画面も整理されていないところはあるものの、絵画的魅力に迫ろうとする手段を追求する姿勢を評価したい。今回、残念ながらグランプリを逃した方たちもこれを糧にして、来年以降、再度チャレンジしていただきたい。
大島賛都(美術評論家)
ここ数年、学生を対象としたターナー・アワードの審査をさせていただいているが、今回初めて本コンペティションの審査に参加し、やはりアワードと比べ全体のレベルがより高いと感じた。と同時に、公募形式の現代美術のコンペが非常に少なくなった今日、大変貴重な存在であるとも思う。本コンペティションがさらに充実していくことが、日本の現代美術の活性化につながるのではないだろうか。
大賞の平川恒太の作品は、美術史的な表象の引用と近未来的なモチーフを、いずれも擬似的な様相として描くことで独自の作風を生み出そうとしているように見え、大変興味深かった。国際的な水準を視野に入れていそうな点も、期待がもてる。ただ、もっと大きな画面でも力を発揮できそうなだけに、出品作の小ぶりの画面が少し残念に感じられた。優秀賞のタムラヨウイチの作品は、北海道の大地を思わせる大きな余白のそこかしこで小さなストーリーが繰り広げられていて、それらが決してイラストの断片にならず、確かな絵画的質と詩情を帯びた画面を生み出している点が、ある意味新鮮に感じられた。
O JUN(画家、東京藝術大学准教授)
全体の印象としては、描画力、構成力にかんしてはなかなか高いレベルにある作品が多かったように思う。しかしそれらが“絵づくり”にのみ働いていて絵そのものの魅力を充分に引き出しているとはいえないものが多かった。絵の面白さや衝撃はまた別な力が必要だ。「あり得ないことを信じて疑わない」、生涯好きな絵を描いていくならこの純真を曇らせないでこの世で誰も描いたことがない絵を描いてほしい。気になった作品を2点ほど。平川さんの絵。画面全体を“異郷感”が支配している。風景や光景を繰返し想起させる気配が漂っている。田中さんの絵。なんてうすっ気味の悪い絵だろう。これは鹿を描いた絵ではないな。画家は、ピンクの斑点に親子の宿性を映している。「血」を描いた絵だ。