ごあいさつ審査員のことば入選作品一覧
審査員のことば
今井祝雄(美術家・成安造形大学教授)
これまで学生対象のアクリルアウォード(現・ターナーアウォード)から今回、一般対象の本コンペティションの審査に当たることになったのだが、前者では学生ならではのダイレクトで単純明快な表現や、ある種の傾向が見られたのに対し、幅広い世代のキャリアを問わない本コンペティションでは、さまざまな手法とともにいくつもの要素が折り重なるような作品が目についた。

たとえばゴールデン賞に輝いた中間良太の『harvest』は、抽象・具象を超えた力強い画面構成のなかに新しいようでいて何かノスタルジックな雰囲気を漂わせている。また優秀賞では、幾つもの見知った対象を描きながら全体として未知の世界を構築する大山孝の『チキュウノミナサンコンバンワサヨウナラ』や、既視感を憶えるものの一味違う異風景を提示する越田博文の『Sun doors』など、いずれも既知のイメージを巧みに編集するような表現が少なくなかった。

私の師、吉原治良は「見たことのないもの(作品)をつくれ!」が口癖だったが、はたしてどこからどこまでが「見たことのない」ものなのか、その見極めは実際のところ難しい。
岩渕貞哉(「美術手帖」編集長)
前回から審査のレギュレーションが変更され、その審査結果を受けた今回は、作品の傾向が明らかに変わった(一言でいうと現代美術としての絵画が増えた)。全体のレベルが底上げされ、審査もスムーズに進行した。今後はさらに、美術史、絵画史の流れを踏まえてそれを更新させつつ、現在を生きる作家の描く絵画として、何をメッセージとして忍び込ませるか、その主題的、技法的必然性が問われることになるだろう。その点、ゴールデン賞の中間良太《harvest》は20世紀初頭のモダニズムの方法(シュルレアリスムなど)を援用しながら、大戦期に芸術家が開発に関わったとされるカモフラージュや、近代における大衆化を推し進めた印刷メディアの網点を描くことで、絵画というメディウムと近代のメディアとの関係性を仄めかしており、絵画を読み解き、思考する愉しさがあった。ただ一つ難点があるとすれば、インターネットによる大変革期にある現代のメディア状況にまでは踏み込めていないので、次回作以降の展開に期待したい。
岡崎乾二郎(造形作家)
あえていえば今回の審査を最終的に決定したのは、作品の「切れ」である。作品の強さは、画面の大きさや絵の具の量でも多くの技法を使う器用さ、細密さでも得られない。こうした不必要な饒舌さは自信がないゆえに観客に媚びる優柔不断にしか感じられない。

作品の強さは、「あえて」この技法/形式のみを用い、このように描いた(それ以外の無駄はいっさい行わない)という潔さにこそ現れる。画面上のどこにも迷いも躊躇もない、すべてが絞り込まれた決断の結果として見えるとき、いやがおうにも見る者は説得される。淡い色彩であれ、またそこに僅かに線描が加えられているだけであっても、その配置のぶれのなさは強さに変わる。ましてその結果に別次元の空間が感じられれば一層力は増す。既成の観念、感性にただ歩みよれば曖昧な解釈や感情が入るだけで弱さとなる。俳句では、そうした曖昧さが入り込む余地を切り捨てることを「切れ」と呼ぶ。絵画でも同じことが言えるだろう。

あえて繊細な色調を用いていても、その使い方にいっさいの迷いがなく、技法もイメージも素材もスタイルも、

むしろ、あえてその技法や素材を用いたという
躊躇、ためらいもなく、いさぎよさ。
光田由里(美術評論家連盟会員)
応募作品は昨年度よりレベルアップし、多様でいきいきした入選作品を選ぶことができた。受賞作品に共通の傾向はない。く、個性のある七点である。

ゴールデン賞の中間さんは、黒いドットとモチーフの呼応がモダニズム絵画のコラージュのようでアピールした。優秀賞の岡田さんは、染みこませる、地を残す、線で重ねる、などペインタリー以外の工夫と、ストーリーを感じさせる内容がよく融け合っていた。ポップで元気のいい画面よりも、静的に洗練された絵画、絵画史研究を生かした態度が、とくに若い出品者に目立ったのはなぜだっただろう。

自分のスタイルを早めに固めてそれを洗練するよりも、動機と一致する描法を探すような態度が求められる。今年から賞金は100万円になった。この賞で自作をおおいにアピールし、今後の制作費を獲得して次なる大作に挑戦してください。
山口裕美(アートプロデューサー)
この審査会が終わると本格的な秋、という感じがしている。今回、ゴールデン賞受賞の中間良太さんの作品は、ある意味、さまざまな過去の名作を取り込み、いわば老成している雰囲気があり、もっと他の作品を見たいと感じた。一方、65才以上のキャリアのある方の作品が若々しく、驚いた。U35よりO65があってもいいのではと思う。

また優秀賞の、変わった画面構成の大山孝さん、線と色の不思議なバランスの岡田貞子さんとは授賞式で話が出来た。私は現代アートの中でも生きているアーティストの作品により興味があるので、授賞式でアーティストに会えることも楽しみにしているのだ。アーティストに会うと作品に持っていた些細な疑問が腑に落ちる。

応募作品の中には添付写真が雑なものが少なくない。そういう応募はソンをする。もっと応募プレゼンテーションに対して丁寧さが欲しい。作品についてでは、最近の絵の具はナノテクで新製品も多く、飛躍的効果がある。そうした絵の具の特性をもっと学ぶと、下地の工夫やダイナミックな厚塗りなど表現が格段に自由になる。今回から賞金が倍額になっているので、もっと応募作品が増え、新たな才能に出会えることを期待している。